オルレアブルクの聖女

 帝国軍と魔王軍が長きに渡って睨み合いを続けているオルレアブルクは今、陥落の危機にあった。

 堅固な城塞都市であるオルレアブルクは、族長オルビオ率いるオーク族の本格的な侵攻を受けているのだ。


「東門が突破された!」


「後退だ! 後退しろ!」


 オルレアブルクの内外を繋ぐ四つの門の内、東門がオーク族の手によって破壊された。

 城の外を埋め尽くすオーク族は、そこから一気に城内へと雪崩れ込む。


 オルレアブルクを守る兵士達は、後退して戦線を立て直そうとするも、追撃を仕掛けてくるオーク族に一人、また一人と殺されていく。


 そんな時だった。


「でやあああッ!」


 白銀の鎧に身を包んだ金髪碧眼の女騎士がオークの先兵を一太刀で切り捨てる。


「じゃ、ジャンヌ様!」


「聖女様!」


「ここは私が引き受けます。あなた方はジル将軍の下まで後退して下さい」


「は、はい。分かりました!」


 後退する兵士達に代わって敵前にただ一人残った女騎士。

 彼女の前でオーク達は一度足を止める。


「こいつ、聖女だ。聖女ジャンヌだ!」


聖使徒アポストルを倒せば、一兵卒でも将軍に出世させてくれるって話だ!」


「俺達は運が良いぜ!」


「あら。私を倒して、貰えるご褒美はたったそれだけなのですか? 聖使徒アポストルも随分と軽く見られたものですね」


 ジャンヌ、そして聖女と呼ばれたこの女騎士は、名を“ジャンヌ・ダルク”という。

 このオルレアブルクを守る聖使徒アポストルである。


 オーク達は一斉にジャンヌに襲い掛かる。

 大振りの剣を振り回し、彼女の身体を斬り刻もうとする。


 しかし、ジャンヌは迫り来る無数の刃を、的確に、そして華麗に避けていく。

 そして、返す刀で両手に握る剣でオークを次から次へと斬り捨てていった。


 その戦いぶりは、聖女というよりは鬼神のようであり、たった一人で軍勢の進撃を止めるほどの力を見せた。


「くう。こ、小娘の癖に……」


 流石のオーク達もジャンヌの圧倒的な強さに臆して進撃の足を止めてしまう。


「どうします? まだやりますか?」


「……退け! 退け!」


 オーク達は戦意を喪失して撤退を始めた。

 ちょうどそのタイミングで、ジル将軍の部隊が応援に駆け付け、オーク達を追撃。多大な損害を与える事に成功した。


 しかし、だからと言って手放しに喜べる状況では無い。


「東門は奪還できたが、こちらに戦力を振り向けた分、他への負担が増している。油断はできない」

 ジャンヌと同じ白銀の鎧に身を包んだ帝国軍中将ジル将軍は、長きに渡って魔王軍の攻勢を退けてきた優秀な指揮官だった。

 しかし、日に日に勢いを増す魔王軍の武力の前に、オルレアブルクからの撤退も考えざるを得ない状況に追い込まれつつあった。


「直に帝都からの増援も到着します。それまで頑張りましょう!」

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精霊賢者は魔王と戦うために転生するが、魔王に恋をしてしまう ケントゥリオン @zork1945

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