第4話 デコトラの車列

 利根川のサイクリングロードは、川の堤防というか、土手の上を通っており、町から河川敷に出るためには、当然土手を越えなければならない。

 サイクリングロードを横断するように、町から河川敷に出る道が複数点在する。河川敷にはキャンプ場や、野球場、ゴルフ場などがあり、サイクリングロードを走行中にそれらの施設に向かう車がサイクリングロードを横断しようとしていたら、ペダルを踏む足を止めて車を行かせたり、逆に先に通らせてもらったりしている。その辺りは、相手が行きたそうにしているか、譲ってくれそうか、空気感で判断している。

 変わり映えのしないサイクリングロードを走り続けていると、珍しくサイクリングロードの両脇に複数の人が立っている箇所に着いた。

 人々は、決してサイクリングロードを塞ぐような位置に立ってはいないため、通行の邪魔になるようなことはなかったけど、その奥では、トラックの列が土手を超えて河川敷に走っており、車列は途切れることはない。

 私は、河川敷で鮮魚の即売会でもやるのかな、程度に思って見ていた。それにしては、車列に対してスマートフォンのカメラを向けたりしている人が多い。

 車列は途切れないので、私も仕方なくトラックが走ってくるのを見つづけていたが、数分経っても通れる気配がない。

 痺れを切らしたサイクリストが、少し間隔が空いたすきに渡ったので、私もそれに倣って一緒に車列を横切った。

「あ、こら」

 交通整理の人が、何かを言っているのが聞こえた。

 ふと、河川敷川を見ると、多くのトラックが並んでいる。

 なんとかトラック協会みたいな幟も見えた。そこで、ようやくこれがトラック野郎の集会か何かだということに気がついた。

 つまり、トラック野郎一番星の菅原文太みたいな人たちが集まって、撮影会のようなものをやるイベントのようだった。

 そうすると、もしかして私は、満を辞して入場してきたデコトラの晴れ舞台を横切ってしまったことによりケチをつけてしまったことになるのかもしれないと、激しく後悔した。

 大名行列だったら、斬り殺されたところで文句は言えない。

 ただ、どちらかというと、プロレスの入場で、ロードウォリアーズのアニマルとホークの間を、ポップコーンを持った観客が横切ってしまったみたいなイメージだった。

 それにしても、見たことがない数の、煌びやかなデコトラが会場に所狭しと並んでいる姿は壮観だった。私も、本当に小さい頃だが、トラック野郎の映画がテレビで放送されていた時に、よく親と一緒に見ていたものだった。

 子供の目からしても、菅原文太の演じる一番星桃次郎はカッコよく、幼馴染の友人(『光速スプリンター』で寺崎輪業の店主のモデルとなった男)と、トラック野郎ごっこをして遊んでいたものだった。

 うろ覚えだが、トラックを傷付けられた時の「俺の命より大事なものに何しやがる」とか、急いで運転している時に、おしっこを漏らしながら「しょんべんなんてしている暇はねえんだよ」は名言として記憶に残っている。

 ちなみに、『光速スプリンター』に出てくる郷田先輩の父親もトラック運転手をやっているが、こちらは高校自体の友人がトラック運転手をやっていて、色々と仕事の大変さとか聞いている部分を参考にさせてもらっている。


 車列を横断してしまったことに罪悪感を感じつつ、先を急ぐことにする。

 この時、お尻はかなり痛くなってしまってきていた。尿意も催してきた。もう少ししたら、サイクリングロード上にある、トイレや水道を完備した休憩所がある。追い風は変わらず、ペースも悪くない。

 デコトラの車列に遭遇して10分、この行程初のちゃんとした休憩所での休憩を取ることができた。

 利根川サイクリングロードの旅をスタートして2時間後のことだった。

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利根川サイクリングロードぶらり旅(柏〜銚子) 中原圭一郎 @m_7changer

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