第74話 ジョージ
「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
「あぁ。とりあえず、村を襲った騎士たちは全員大人しくなったらしい。怪我人を探そう」
「うんっ! ……って、大人しくなったらしいって、どういう事?」
ソフィアが不思議そうに尋ねてくるものの、聞こえなかった事にして、怪我人の救護にあたる事にした。
俺にしがみ付くウルと、ソフィアに騎士が全員殺されたという話はしない方が良い気がするから。
それから、村の中を走り回り、怪我人を治療して、燃えている建物を消化したりしていると、
「だ、誰かっ! ウチの子を助けてくださいっ!」
助けを求める声が聞こえてきた。
大慌てで声がした場所へ向かうと、横たわる二人の子供の前で、酷いケガを負ったお母さんと思わしき女性が号泣している。
だが二人の子供のうち、女の子は息があるが、もう一人は……首から上が存在しない。
「……って、ジョージのお母さん!?」
「あ……治癒師様! ウチの子を……どうか、助けてください」
「……≪スロウ・ヒール≫」
ウルをソフィアに預け、こちらを見ないように言って、コズエの力を借りた治癒魔法を使用する。
「ん……おかーさん!」
「あぁ、ロレッタ! 良かった」
母親が、ロレッタと呼ばれた女の子を抱きしめる。
そのまま、続けて母親にも治癒魔法を掛けてケガを治すと、母親がロレッタを抱きしめたまま、もう一人を見せないようにして、俺に声を掛けてくる。
「あの。ジョージは……」
「すみませんが、俺の力では無理です……」
「うぅ……いえ。ロレッタだけでも、本当にありがとうございます」
やはりもう一人の子供はジョージだったか。
いくらコズエの力を使っても、亡くなってしまった者を蘇らせる事は出来ない。
それこそ、あの黒い杖を使って仮初の……って、待った。
確か、あの騎士たちは黒い杖を持っている少年を探していたよな。
まさか、黒い騎士が探していたのは、ジョージの事なのか!?
「あの、こんな事を聞くべきではないと思うのですが、ジョージは……」
「はい。何処からか、拳大の黄金を持って来たんですけど、それが突然動き出して、ジョージの頭を……」
あぁ……結局ジョージは俺の忠告を聞かずに、金に変えた石を隠し持っていたんだ。
騎士たちに斬られる前に、魔物化した石に殺されてしまったのか。
「その動き出した石は?」
「村へやって来た騎士たちが倒しましたが、黒い杖は何処だってよく分からない事を叫んでいて……」
「そう……ですか」
俺にはもうどうする事も出来ないので、地面に穴を掘ってジョージを埋葬すると、ソフィアたちに声を掛けてその場を離れる事にした。
結果としては、ジョージが俺の忠告を聞かなかったのだが、そもそもの原因はあの黒い杖だ。
ソフィアもそうだが、あの杖を手にした事によって性格が変わってしまったようにも思える。
幸い、ソフィアは黒い杖を使っていた時間が短かったからか、元に戻る事が出来たが……クソッ!
あの杖は一体何なんだ!? ソフィアに杖を渡したという者は何をしようとしているんだ!?
何もわからないまま、村の人たちの治療を続けていると、遠くから再び馬が走るような音が聞こえて来た。
そして、村に別の騎士たちがやって来る。
「……これは酷いな」
「そうですね。とりあえず、応援を依頼しましょう。我々だけでは、手が足りません」
「一先ずジェーンの報告通り、ラングトン側の騎士は全員戦闘不能……というか、死亡しているようだな」
どうやら、あの騎士たちはジェーンが言っていた依頼主とやらのようだが……その騎士たちと共にやってきた馬車には、見覚えのある紋章――ハイランド家の紋章が描かれていた。
八百万の神様ありがとう! 神から一つしかスキルを貰えない世界で、俺だけスキルが八百万個。どんどん増えるスキルを活用して、女神様たちに溺愛されながらスローライフ始めました。 向原 行人 @parato
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