雪に遭い、春来たる

有明 十

雪に遭い、春来たる

 雪が降っていた。二月になっても、一向に寒いままの日々が続いていた。


 ユキと出遭ったのは、そういう日だった。


 スーパーでのアルバイトを終えたのは、二十時を過ぎたあたりだった。売れ残った惣菜や刺身を両手にぶら下げて、俺はアパートに帰ってきた。


 彼女は、俺の部屋の前で、寒さから耐えるようにうずくまっていた。


 放っておけば、明日には凍死しているんじゃないか。彼女の小さな体で、この寒夜は越えられない。


 俺はポケットから取り出した鍵で、扉を解錠した。


 ──まあ、一日だけなら


 そのままにしておいて、こいつが死んでしまったら、俺の中には、嫌な気分だけが残るだろう。


 一晩、部屋に入れてあげるくらい、許されるはずだ。


 頭を覆っていた雪を払う。俺は彼女を抱えて、部屋に入った。


 彼女の身体は、骨と皮だけのように軽かった。首には名札がかけられていた。


 このとき、この子の名前がユキであることを知った。


 それから、夕食の準備をした。


 客用の皿に適当に盛り付けて、ユキの前に置く。ユキは夢中になってそれを食べた。


 余程、お腹が空いていたのだろう。俺は自分の刺身を彼女に分けてあげた。


 夕食後はシャワーを浴びせて、身体の汚れを落とした。嫌がるかと思ったが、ユキは大人しくしていた。


 タオルで水気を取り、毛をドライヤーで乾かした。


 俺は何となく気付いていた。ユキは声が出せないのではないか、と。


 過度なストレスが原因になって、そうなることがある。そう、聞いたことがあった。ユキの身体を拭いた時、俺は彼女の首にある切り傷を見逃さなかった。


 俺はユキを憐れんだ。可哀想だと同情した。


 そんなことを思われているとは露知らず、ユキは俺の膝に乗って、胸に額を擦り付けた。そして、上目遣いに俺を見た。


 俺は彼女を優しく抱きしめた。そして頭を撫でた。



 暖かい春がやって来る。その頃には、ユキの首の傷も治っていた。


 俺はユキに伝える。

「ユキ、俺はお前のことが好きだ。これからもずっと一緒に居たい」


 けれども、ユキはそっぽを向いて、カーテンの裏に隠れてしまった。





























「にゃーん」


 返事が聞こえた。

 

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