最終話  神様の庭

 十八歳の誕生日。いつものように満開の桜が咲く庭でパーティーを開いた。

 美味しい食事とプレゼントの山に囲まれるなか、とんでもないサプライズがあった。


「美桜ちゃん、誕生日おめでとう」

「ありがとう。朝陽兄ちゃん」

「今年のプレゼントは特別なものにしたんだ。受け取ってくれると嬉しいんだけど……」

「えー、なんだろう」

 

 もちろん、朝陽兄ちゃんがくれる物なら何でも嬉しい。

 そうして差し出されたのは――キラキラと眩しい輝きを放つ指輪。


「えっ?」

 ええっ??? ダイヤの指輪? いや、まさか……。


「あの、朝陽兄ちゃん、これって前にくれたキュービックジルコニア、かな?」

 わたしはおそるおそる訊いた。


「違うよ。これは本物のダイヤモンド……美桜ちゃん、俺と結婚してくれないか?」


「ええ!? け、結婚って、本気で言ってるの?」


「もちろん本気だよ。奏多さんと美月さんには、プロポーズすることは了承してもらってる」


 ずいぶん時間かかったけどねとぼそりと呟く。

 見ると、父はちょっと不貞腐れたような顔をして、母は笑顔で親指を立てている。

 

「色んなことをすっ飛ばして、いきなりプロポーズなんかしてごめんね。長いあいだ一緒にいて、いつのまにか好きになってたから、今さらお付き合いしてくださいって言うのも違うかなって思ったんだ。俺は美桜ちゃんとこれからもずっと一緒にいたいし、本当の家族になりたい。どうか俺と結婚してください」


 ほんと、すっ飛ばし過ぎだよ。

 嬉しい。嬉しすぎて言葉が出ない。

 涙だけが溢れてくる。


「美桜、返事しなよ」

 翼の声がする。

「ほら、朝陽さん待ってるよ」

 今度は胡桃の声。

 うん。

 わたしも覚悟を決めた。


「はい。喜んでお受けします」

「ありがとう、美桜ちゃん」

 

 朝陽兄ちゃんが指輪を左手の薬指につけてくれる。

 もちろん、サイズはぴったりだ。

「おめでとう!」と歓声が上がり、みんなが駆け寄ってくる。

 もみくちゃにされながら、朝陽兄ちゃんと手を繋いだ。


「一生、大事にします」と耳元で囁かれる。

「嘘だったら光くんにおしおきしてもらうからね」

「それは怖そうだな」

 クスクスと笑いあう。


 そのとき、どこからか声が響いた。


『おめでとう、美桜』


「今、聞こえた?」

「うん、聞こえた」

 

 朝陽兄ちゃんと顔を見合わせ、祠に目をやると、中から眩しい光が溢れ出ている。

 もしかしたら――そう思ったとき、彼が姿を現した。


 何度も、何度も、何度も想像した。

 長い銀色の髪、真っ白な肌、深い緑色の瞳。

 絹のような白い着物をまとった、美しい人。


「光くん!」


 わたしは彼に向かって走りだした。

 そのまま腕を伸ばすとしっかりと抱きとめてくれた。


『遅くなってごめんね、美桜』


「うわーん、やっと、やっと会えたあ!」

 光くんにしがみついて泣きじゃくっていると、朝陽兄ちゃんが追いかけてきた。


「光くん……ていうか、光さんって感じ? あ、うちの奥さん、そろそろ離してもらっていい?」


『ヤキモチ焼きだなあ、朝陽は。まあ、奏多もそうだったけど』


 振り返ると、皆がポカンとしてこっちを見ていた。


「もしかして今、全員に見えてる?」

「まだ力加減が難しくて。美桜、おめでとう。幸せになってね」

「ありがとう、今日は最高の誕生日になった!」


 父と母が来て、みんなでハグをした。


「よかったね、美桜」


「うん。ありがとう、お母さん」


「こんなに早く嫁にいくとは思わなかったよ」


「すみません、奏多さん」


「まあ、しょうがない。娘の長い片思いが実ったんだ。反対したら口きいてもらえなくなっちゃうからな」


「お父さん! 変なこと言わないで!」


「光、もう戻ってこられるの?」


『うん。修行は終わったからね』


「おかえり、光くん。白狐も!」


『ただいまぁ』


『いったん姿を消すね。パーティーを続けて』

 

 光くんが姿を消すと、呆然としていた人たちが我に返った。

 特に女性陣は大騒ぎだ。


「超絶イケメンな神様きたー!」

「カッコ良すぎて辛い」

「絶対、夢に出てくる」


 そうでしょうとも。うちの自慢の神様ですから。


「ほんと、綺麗だったなあ」 

「さっそく浮気か?」

「ふふ、わたしがどんなに一途か、これから思い知らせてあげる」


 そんな応酬も楽しいのだった。

 

   ◇


 そんな二人を嬉しそうに見ている翼に、胡桃が言った。


「よかったの?」


「なにが?」


「だって……あんただって美桜のこと好きだったんじゃないの? なのに、仲を取り持つようなことしちゃって」


「好きだよ。でも、なにがなんでも自分のものにしたいとかじゃないんだ。美桜は、狭くて暗い世界からぼくを引っ張り出してくれた人だから、誰よりも幸せになって欲しい」


「やだ。ケナゲ」


「それに、親友ならずうっと一緒にいられるでしょ」

 翼がにやりと笑う。


「やだ。コワイ!」


「ほら、乾杯しようよ。美桜の幸せに!」


「素敵な神様にも!」



 二人がグラスを合わせると、つられたようにあちこちで乾杯の声があがる。

 

 沈丁花や薔薇が風に揺れて、甘い香りが庭中に広がり、空には二人を祝福するように大きな虹がかかった。


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【完結済】神様の庭 〜うちの神様は小さな男の子でした〜 陽咲乃 @hiro10pi

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