神木の精に執着した符術師と、彼に生きる理由を与えた絡繰灯龍の物語

生きることに対して執着がなかった少年が、香神木の精に見入って執着し、ある日禁忌を犯す。

犯した禁忌により花の精を失って生きる気力を失ったアララギだったが、妖と戦って死の危機に瀕した時には花の精が現れてくれることに気付き、ひたすら強い妖を求めて戦いに明け暮れていた。

討伐隊を全滅させる絡繰灯龍が都で問題視され、アララギに白羽の矢が立つ。

基本的に無害な絡繰灯龍も人間が襲ってくるためその度に人間を返り討ちにしていたが、ある日自身の炎で倒れない唯一の人間に出会う。龍は自身の炎に倒れないアララギを面白がり、彼と対峙することに楽しみを見出す。

一方、蝶よ花よと育てられた珠姫は、自身に全く振り向いてくれない美しく強い男アララギに執着し、その報われない気持ちが肥大化して妖となり、ついにはアララギの討つべき敵になってしまう。

アララギの他、無力ながら妖を取り込み珠姫と対峙しようとした術師、珠姫を大切に想いながら何も出来なかったことを悔やみ討伐することを決める符術師、たくさんの人々がそれぞれに想いを抱えながら妖退治に臨む。

助けたい人を助けられなかった者、慕っていた人が狂っていくのをただ見ていることしかできなかった者、誰かの力になりたいと立ち上がった者。

文章は美しく、妖退治に乗り出した人々の思いと、関係性、何かに執着してしまう人間の悲しいサガに考えさせられ、ぐっとくるお話です。

なんだかんだで主人公を放っておけない龍と、生きる目的を灯龍に半ば強制的に与えられた主人公の行先、そして他の術師達の今後がとても楽しみです。