第21話 夢の結晶

「かった……」


 そう呟いて、ソフィアはうつむきに倒れた。

 土下寝のポーズだ。


「大丈夫!?」


 ルイエが焦ったように叫んだ。

 ソフィアは脇腹の傷を結晶でふさいでいる。

 もう血は流れていない。

 ソフィアは床に倒れたまま、


「大丈夫です。ただの貧血です」


 ぎゅるぎゅるとソフィアのお腹が鳴いた。


「お腹が減りました」


 そういえば、ろくに物を食べていなかった。

 ルイエはクスリと笑うと、ソフィアの隣に座る。


「ねぇ、ソフィアの好きな食べ物ってなに?」

「お肉です」

「……意外とワイルドね」


 以外そうにルイエは言った。


「今度、一緒に旅行に行かない? 南の島とか」

「かまいませんけど、お金がありません」

「まぁ、私もないんだけど」


 それでいい。

 いつか行こうと、未来の話ができれば。

 

 その時だった。

 ゴゴゴゴゴとウルヌイエが震えだす。


「な、なに?」

「もしかして、穴開けたから怒ったんですかね」

「まずいじゃない!」


 ルイエはソフィアを背負う。

 うっとルイエは呻きを上げた。


「お、重い」

「竜ですからね」


 だがマズイ。このままじゃろくに動けない。

 そして、ブシューと音が響いた。

 始めはウルヌイエが鳴らしている音かと思ったが、音源は動いているようだ。

 後ろを振り向くと、


「お嬢様、迎えに来た」


 それは水上バイクに乗ったほのか。

 クジラ竜を狩るときに、ソフィアが作った魔道具だ。

 陸でも動かせるように底に車輪が付いている。

 ほのかはソフィアたちの隣にバイクを止める。


「キミがルイエさん?」

「そうだけど、メイドのほのかさん?」


 ほのかはこくりとうなずくと、どや顔をした。


「そう、お嬢様のメイド兼恋人。キスもした」

「うぇ!?」


 驚いたのはルイエだ。

 いったいこのメイドは何がしたいのか、ソフィアは呆れる。


「やっぱり、メイドさんとそういう関係だったの!?」

「嘘つかないでください。ただのメイドです」

「なんだ嘘なのね。キスもしてないのね」

「……いや、キスはしたんですけど」

「うぇ!?」


 ルイエは再び驚くと、小さな声でぶつぶつと呟く。


《small》「キスまで行ってるなんて、私も少し積極的に行った方がいいのかしら」《/small》


 ソフィアには声が小さくて聞こえていなかった。

 良かったな。墓穴を掘らなくて。


「早く二人とも乗って、脱出する」


 そしてソフィアが二人に挟まれる形でバイクに乗る。


「このバイクどうしたんですか?よ

「目覚めの剣が持ってた」


 どうやらソフィアが作ったものを回収していたらしい。


「捕まってて」

 

 勢いよく水が噴き出し、バイクが走り出す。

 向かう先はソフィアが空けた壁の穴。

 しかし、ここはウルヌイエの首付近。結構な高さのはずだ。

 ルイエは焦ったように、


「待ってよ! そこから落ちたら!」

「大丈夫」


 バイクは穴から飛び出す。

 すぐ下は海だった。

 バイクは何事もなく着水すると、暗い海の上を走る。


「いつの間にか海まで出てたんですね」


 ふと空を見上げれば、そこには飛竜艇が飛んでいた。


「あれにインスミアの人たちが乗ってる」

「良かった、大丈夫だったのね」

「……ジュリアスが集めたごろつきたちはどうしたんですか?」

「さぁ? 泳いで帰るんじゃない?」


 哀れごろつきども。無事に変えれることを祈っておこう。


 クォォォォンとウルヌイエの鳴き声が響いた。

 それと共にその背中から霧が噴き出し、星空にうっすらと霧がかかっていく。

 いったい何が起こるのか、星空をぼかすように広がった霧をソフィア達は見つめる。

 そして、その霧から星が落ちた。

 オーロラのような。虹色に輝く煙が落ちていく。

 それはウルヌイエの水槽に落ちると、あの黒い塔へと吸い込まれる。


 一つ、二つ。どんどんとその数を増していき、やがて流星群のように星の光が降り注ぐ。


「すごい」

「良い眺め」


 だが目の前の景色以上に、ソフィアには気になることがあった。

 何のためにあんなことをやっているのか。

 そして考えた結論は。


「夜空の石を作っているんでしょうね」

「夜空の石を?」

「龍素は星と密接な関りがあると言われています。私たちが暮らしている地球にも龍素の流れ、龍脈があります。そして空にかがやく星々の光にも龍素が含まれています」


 だから星の光を集めている。


「たしか、ウルヌイエは特定の周期、星の並びによって現れると言う話でしたよね。その辺も関係しているのかもしれません」


 ルイエから聞いた伝承によれば『星辰が揃うとき』にウルヌイエが現れるとあった。

 その意味は星の並びが正しいとき。

 夜空に輝く星。ソフィアから見ればいつもの夜空だが、ウルヌイエにとっては特別な意味があるのだろう。


「夜空の石って、本当に夜空の光を集めた物だったのね」


 ウルヌイエは夜空の石を作るための施設だったのだろう。

 はたして、古代で夜空の石がどのように使われたのか。

 人々の生活を支えるためのエネルギー源。

 もしくは人を殺すための兵器に使われたのか。

 それは分からない。

 だが、目の前の景色は美しかった。


「知ってるかしら。流れ星に願い事をすると叶うのよ。これだけあれば、いくらでも願えるわね」

「それは良いことを聞いた。お嬢様とデートしたい、お嬢様とキスがしたい――」

「欲望をたれ流さないでください」

「じゃあ、一つだけにする」


 ほのかは流星群を眺めた。

 とても真剣な瞳で。


「お嬢様とずっと一緒にいたい」


 真面目にそう言われると、ソフィアはむずがゆい。

 だが悪い気はしない。

 次に願ったのはルイエだ。


「私は国を復興させるわ。私含めて不幸な人を生まずにね」


 必ず叶えなければならない。

 ソフィアが依頼を受けたのだ。

 そして最後に、


「私は沢山の人を幸せにできる、夢を叶える魔導師になります」


 少女たちは星に願う。

 夜空にかける流れ星。

 それは人が作り出した流星群。



 古龍。

 それは古代の遺産。

 天才たちの遺品。

 世界の支配者。

 そして、


 ――夢の結晶だ。 

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貧乏魔道具店の店主は古龍の宝を探すそうです こがれ @kogare771

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