新たな仲間


華月がケビンに裁きを与えてから、2日が経過していた。警視庁捜査一課の寺田と竹内は、O駅近くのファミレスで昼飯を食べていた。

「またjudgement nightか...。」寺田は独り言の様に言う。

「何者なんですかね?」竹内は寺田に聞く。

O駅近くの雑居ビルの管理人から、屋上に不審者がいると通報があった。S県警の署員が駆けつけたところ、屋上で錯乱状態のケビン・ワーグナーを発見。その傍に1枚のカードが置かれていた。カードには例の如く、パソコンでこう書かれていた。

(アメリカ ミイラ 日本 ミイラ 一連のミイラ事件が今後起きる事はない judgement night)

「わからん。事件の最重要人物に話を聞こうにもアレではな...。」寺田はケビンの状態を思い出していた。

「東と同じ様な状態でしたね。」竹内は言う。

「あぁ。何かに怯えている様な...錯乱状態とはあの様な事を言うのだろうな。」寺田は言う。

「東も病院で様々な治療を試みている様ですが、一向に回復しないとか。」竹内は言う。

「judgement nightか、何者なんだ?」寺田は考え込む。

「2年前に精神科医が売春に関わっていた事件で、やはり同じ様にカードが置かれていた事がある様です。」竹内は言う。

「どこでだ?」寺田は竹内に聞く。

「S県S市の様です。」竹内は答える。

「S県を中心に活動しているのかも知れんな...。ちなみにその事件、詳しくわかるか?」寺田は聞く。

「はい。何でもインターネットの裏サイトで会員制の売春クラブがあった様です。そこを取り仕切っていたのが、中根という精神科医で、薬物を使い女性を売春クラブに所属させていた様です。中には中学生もいたのだとか...。」竹内は答える。

「聞いた事があるな。で、どうなった?」寺田は聞く。

「中根の悪事はjudgement nightに暴かれ、中根は精神錯乱状態で発見され、現在は入院している様です。」竹内は言う。

「またjudgement nightか。何故にコイツに関わったヤツらは精神錯乱になるのか...。余程のショックを受けない限り、あぁはならんだろう。」寺田は考える。

「例え薬物を使ったとしても、こんなにも長い間錯乱状態のままでいる事等考えられんよな?それに、病院だって鎮静剤を使ったりするだろうしな。」寺田は言う。

「はい。ですが、どの鎮静剤も効かず、ずっと錯乱状態のまま、拘束、点滴で生き長らえているのが現状の様です。」竹内は言う。

「新手のドラッグなのか?薬学に詳しいヤツはいないか?」寺田は聞く。

「知り合いの薬剤師の話では、病状はわからず、そういったドラッグはないそうです。何より持続性が現代医学の範疇を超えていて、原因不明な様です。」竹内は言う。

「薬というと大宝製薬が思い浮かぶな。」寺田は言う。

「こういったものにも研究しているんですかね?」竹内はにわかには信じ難いと言った感じで聞く。

「あくまで、可能性の1つとしてだが、これまでjudgement nightの関わる事件には今までの常識が全て通用しない気がしてならない。」寺田は言う。

「...。」竹内は黙り込む。

「judgement night...。何故こうまでも俺らの先を行き、事件に関われるのか?」寺田は呟く。

「当時の新聞には令和の義賊なんて書かれていた様です。」竹内は言う。

「義賊だろうが、ヤツの仕業だとすれば、やっている事は犯罪だ。審判を下す?冗談じゃない。俺らの仕事は何の為にあるんだか。」寺田は自分に言い聞かせる様に言う。

「そうですね...。」竹内も言う。

「いつか必ずその尻尾を掴むぞ。」寺田は言う。


華月は授業をサボり、屋上で考え事をしていた。

(あの御方が誰なのかわからなかったな。聞き出さずに裁きを下してしまったのは、早計だったか?)胸の奥の燻る炎は未だに消える事はなく、時折華月をこうして悩ませる。

(父さんと母さんを殺めた妖しは何なんだ?如月の鬼を凌駕する妖しに、俺は勝てるのか?)華月は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。ガチャリと屋上の鍵の開く音がする。マリアだ。華月の姿を確認すると、歩いて華月の隣に並ぶ。

「まだ授業中だろう?」華月はマリアに問う。

「かづきだって。」マリアはクスっと笑った。

「そう...だったな。腹は痛むか?」華月はマリアに聞くと、マリアは首を横に振る。

「ママがね、よーやく準備が終わって、今週末に日本に来るよ。またお花屋さんやるみたい。」マリアは言う。

「そうか。婆ちゃんが喜ぶよ。」華月は微笑む。

「ねぇ?かづき。」マリアは華月の顔を正面から見る。

「何だ?」華月はマリアに聞く。

「thank you」マリアはそう言うと華月の唇に自分の唇を重ねた。どれくらい時間が経過しただろう?マリアはゆっくりと唇を離すと、華月の左胸に顔を埋める。

「エミリアはアメリカの親友だったんだ...。」マリアは話す。

「...。」華月は何も言わずにただ聞いている。

「きっと天国に行けたよね?」マリアは華月に問う。

「あぁ。」華月は頷く。

「そっか。良かった。」マリアは笑う。

「また、かづきに助けられちゃった。かづきはこれからもあぁやって闘うの?」マリアは華月の胸に顔を埋めたまま聞く。

「あぁ。この世から悪が無くなる事はないだろう。善があれば悪もある。それはいつの時代でも同じ事だ。」華月はマリアに言う。

「少なくとも俺は、父さん母さんを殺めた妖しを倒すまでは、俺の闘いは続くだろうな。」華月は言う。華月のシャツをマリアはギュっと握る。

「もう大切な人が傷ついたり、いなくなっちゃうのはイヤだよ...。」マリアは顔を埋めたまま、華月に懇願する様に言う。

「案ずるな。そう簡単に死にはしない。俺には仲間もいる。」華月はそう言うとマリアの頭を撫でた。

「...沙希に聞いたよ。わたしもjudgement nightに入る。」マリアは唐突に言う。

「あ、あれは、沙希と慎司が勝手に言っているだけだ。」華月は慌てた様に言う。

「NO!わたしも入る!」マリアは屈託のない笑顔を華月に向けると、華月にキスをする。

「...。」華月はヤレヤレという表情を浮かべ、

「無理をするな。いざという時は俺の名を呼べ。」そうマリアに言った。2人の間を初夏の風が吹き抜けた。

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judgement night kazn @kaznhana

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