【ボイスドラマ台本】月光

長船 改

月光


・ジャックの家。ジャック、レベッカ、シンシア、幼馴染のマークがテーブルを囲ん

 でいる。



ジャック :シンシア、14歳の誕生日……


3人   :おめでとう~!!


シンシア :ありがとう、みんな。


ジャック :シンシア、これは私たちからだよ。


シンシア :ありがとうおじさまおばさま!開けてもいい?


レベッカ :いいわよ。きっと気に入ってもらえると思うわ。


シンシア :なんだろう……。わぁ……なんて綺麗なドレス……!!

     (体に当ててみたりしている)


ジャック :おお、とっても似合っているよシンシア。


シンシア :どう?マーク。


マーク  :すごい綺麗だよ……まるでいつものシンシアじゃないみたいだ。


シンシア :あら?それってどういう意味かしら?


マーク  :あ~!ぼ、僕もプレゼントがあるんだった!は、はいこれ!

      開けていいよ!(小さな箱を渡す)


シンシア :もうマークったら……!なんだろうなぁ……。わぁ!かわいいピアス!


マーク  :早速つけてごらんよ。


シンシア :ええ!……んっと。どう?


レベッカ :あら!すごくかわいいわシンシア!


マーク  :よかった~!絶対似合うと思ったんだよ!


シンシア :本当?ふふふ、ありがとうマーク!大切にするわ!


ジャック :さてと!プレゼントも渡し終わった事だし、そろそろ食事といこうか!


レベッカ :あら。私ったら自分のカップを忘れちゃったわ。

      ちょっと待っててちょうだいね。

      私のカップ私のカップ……キャアッ!(カップの割れる音)


ジャック :レベッカ!?


シンシア :おばさま!大丈夫!?


レベッカ :え、えぇ……大丈夫よ、大丈夫。


マーク  :びっくりさせないでよ~ここはホラーハウスじゃないんだからさ~。


ジャック :怪我はないかい?ここは私がやるから。

      さ、このカップを持って座っていなさい。


レベッカ :ええ。ありがとうジャック……。(替えのカップを手に席に戻る)


マーク  :なんだか不吉だよなぁこういうのって……。


シンシア :ちょっとマーク!せっかくの誕生日なのに変なこと言わないでよ……!


マーク  :え?あ、あぁ……。ごめん。


ジャック :(割れたカップの始末を終えて戻ってきながら)

      そうだぞマーク、滅多な事を言うもんじゃあない。

      さ。それじゃあ気を取り直して、食事をする前に神様にお祈りを

      しよう。

      「不吉」なことが起こらないよう、念入りにな。


シンシア :おじさま~!


一同   :(笑う)



ナレ   :そう。この時はまさかあんな事が起こるなんて、予想もできなかったん   

      です……。




・ゲイルの研究室。ゲイルの机の上にはジュリアの写真が入った写真立てが置かれて  

 いる。


ゲイル  :もうちょっとだ……。もうちょっとで私の研究は完成する……。

      だが……何かが足りない。決定的な何かが……。

      なんだ……一体なにが足りないんだ……?

      ああ……ジュリア。もう少しだけ待っていておくれ。

      ぜったいに君を生き返らせてみせる……愛するジュリア……。



・ジャックの家の屋根。仰向けでくつろいでいるシンシアと屋根に上がってくるマー

 ク。


マーク  :あ、やっぱり屋根の上だった。また空を見てるのかい、シンシア?

      よいしょっと。(仰向けになる)


シンシア :……ええ、ここから眺める空は大好き。特に夜空は最高ね。

      今夜はお月様が隠れてしまっているから、ちょっと残念だけど。

      でも今日は本当に素敵な日だったわ。

      おじさまとおばさまに感謝しなきゃ。ついでに、マークにもね!


マーク  :僕はおまけかい?ひどいなぁ。

      でも……君がこの家に来てもう10年か……。

      なんだかあっという間だったね。


シンシア :本当ね……。小さい頃のマークはいたずらが好きでよくいじめられた

      わ。


マーク  :あははは。今じゃあ立場が逆転してるけどね。

      …………なあ、シンシア。


シンシア :なあにマーク?


マーク  :ゲイルおじさんには……その……会わなくていいのかい……?


シンシア :……。


マーク  :あ、いや!その、深い意味はないんだ……!

      ただ……ただ、10年だろ?

      ゲイルおじさんも寂しがってるんじゃないかなぁって思って……。


シンシア :……パパには……それは会いたいとは思っているわ……。

      でも……ママが死んでから……パパは変わってしまったから……。

      

マーク  :シンシア……。

      そうだ!今度ちょっと覗きに行ってみないか?


シンシア :え?


マーク  :庭とかからさ、覗いてみるんだよ!そうしてゲイルさんの様子を見て、     

      それから会う会わないを決めてもいいんじゃないか?

      な?そうしようよ!


シンシア :そうね……それくらいなら……。


マーク  :よし決まりだ!じゃあ……今度の日曜日にでも行ってみようか!

      

シンシア :ええ、わかったわ。


マーク  :車パパに貸してもらえるかなぁ。日曜日までに聞いておかないと。

      それじゃあ、僕は先に寝るよ。おやすみシンシア。

      ううう……さすがに夜は寒いなぁ。

      いつまでもそこにいると、風邪ひいちゃうぞ~!


シンシア :ふふっ。わかったわ!おやすみなさいマーク!




・深夜。シンシア眠っている。そして夢の中。

 ※名前を()で括っているのは回想シーンだからです。(シンシア)は3~4歳です。


シンシア :すぅ……すぅ……。


・回想シーン。動物園の中。


(シンシア):パパ~!ママ~!キリンさんだよおっきいよ~!


(ゲイル) :はっはっは!シンシア!そんなに走ると転んでしまうぞ!


(シンシア):いたっ!


(ゲイル) :シンシア!


(シンシア):痛いよ~~!え~ん!


(ゲイル) :ああああ。えっと、えーっと……!(おろおろしている)


(ジュリア):あらあらシンシア……!

      ちょっと待っててね、今バンソウコウ貼ってあげるから。

      はい、これでもう大丈夫!


(シンシア):痛くない……。痛くない!ありがとうママ!愛してる!


(ゲイル) :ガーン!パパは……?


(シンシア):パパも愛してる~!


(ジュリア):もう、ゲイルったら……!



・回想シーン。ゲイルの研究室の中。シンシアとジュリアが研究室に入ってくる。


(シンシア):ねぇパパ。なにしてるの?


(ゲイル) :ん?あぁ……シンシアか。パパはね、遺伝子の研究をしているんだ。


(シンシア):イデンシのケンキュー?


(ゲイル) :ああ、そうだ。


(シンシア):イデンシのケンキューをすると、どうなるの?


(ゲイル) :うーんそうだなぁ。例えば……今のお医者さんじゃ治せないような病気    

      でも治せるようになる!とかかな?


(シンシア):すご~い!


(ゲイル) :それに……もしかしたら、死んだ人を生き返らせる事ができるように

      なるかもしれないぞ~?


(シンシア):それって……ゾンビ……?こわ~い!こわいよ~!(泣き始める)


(ゲイル) :あっ……!


(ジュリア):ゲイル。シンシアを怖がらせちゃ駄目じゃない。

      いい、シンシア?

      死んだ人は生き返らないわ。それが自然な事なの。だから、死んだ人が

      ゾンビになってシンシアを怖がらせることもないのよ。


(シンシア):本当……?


(ゲイル) :すまんシンシア……。ちょっと調子に乗りすぎてしまって……すごく

      反省してる。


(ジュリア):パパもこうやって反省してるから、許してあげて?


(シンシア):うん!


(ジュリア):いい子ねシンシア……!




・回想シーン。病院の中。慌てて病室に入ってくるゲイルとシンシア

      

(ゲイル) :ジュリアッ!せ、先生!ジュリアは……!


(先生)  :ご主人ですか。お気の毒です……。

      出来うる限りの事をしたのですが……。


(ゲイル) :そんな……。ジュリア……。……うおおおおおお~~~!!!

      ジュリア~~~~~~!!!!(泣き叫ぶゲイル。)


(シンシア):ママ……?ねえなんでママ寝てるの?まだお昼だよ?

      なんでパパは泣いてるの?


(先生)  :……お嬢ちゃん。ママはね、もうお嬢ちゃんには……会えないんだ

      よ……。パパにも……。だからパパは泣いてるんだよ……。

                 

(シンシア):え……?だってここでママ寝てるよ……?どういう事……?

      もしかして……「死んだ」ってこと……?

      

(先生)  :………。ごめんね、お嬢ちゃん……。


(シンシア):やだ……!やだ~~!!ママ、死んじゃやだ~~~~!!!!

      うわああああ~~~!!ママ~~~!!!


(ゲイル) :シンシア…………!!(シンシアを抱き寄せる)


(シンシア):そうだ……!パパ!イデンシのケンキュー!

      死んだ人が生き返るって!!

      ママを助けようよ!!


(ゲイル) :!!……それは無理だ……無理なんだよシンシア……!


(シンシア):なんで!?なんでなの!?わたしママがいなくなるのいやだよ~~!!


(先生)  :これはいかん……。君、この子に鎮静剤を……。


(看護士) :はい。さあ、お嬢ちゃん……こっちにおいで。


(シンシア):いや!ママのそばにいるの~!


(看護士) :お嬢ちゃん……いい子だから……ね?

     (シンシアを強引に連れて出て行く看護士)


(シンシア):ママ!ママ~~~!!!



・寝ているシンシア。現代です。


シンシア :う……ううん……パパ……ママ……!(うなされている)



・回想シーン。ゲイルの研究室。


(シンシア):パパ……


(ゲイル) :ふぅ……ふぅ……ふぅ……!(一心不乱に研究をしている)


(シンシア):パパ……ねえ……パパ……。


(ゲイル) :くそ!こうじゃない!こうじゃないんだ!!

      (シンシアには目もくれない)


(シンシア):……パパ……。


(ゲイル) :ちくしょう……あの論文が間違っているんじゃないのか……?!

      だからうまくいかないんだ、ふざけやがって……!



・回想シーン。シンシアが、ジャックとレベッカに引き取られる日。


(ジャック):ゲイル……研究がひと段落したら、必ずシンシアを迎えに来るんだ

      ぞ……。私たちはいつまでも待っている。

      それまではこの子は大切に預かるからな。


(ゲイル) :こうじゃない……これとこれを合わせて……。

      違う、そうじゃない……そうじゃない……。

      ああ……こいつの濃度を薄めるんだ……ちっ、あの資料はどこに

      いった……くそう……どこだ……。


(レベッカ):ゲイル……!(泣く)

      あなた……早く行きましょう。ゲイルのこんな姿をいつまでもこの子に

      見せるわけにはいかないわ……!


(シンシア):パパぁ……。(泣いている)


(ジャック):そうだな……。さあシンシア。ちょっとだけパパとお別れだ。

      でもそのうちまた会えるからね。あぁ、泣かないでシンシア。

      そうだ!今日の夕飯はシンシアの好きなものにしよう!なんでも好きな

      ものをリクエストしておくれ。


(レベッカ):それがいいわ!シンシアは何が好きかしら?シチューかしら。

      それともあま~いケーキかしら?(泣きながら)


(シンシア):ひっ……ひっ……(泣いている)


(ジャック):さあ行こうシンシア……。

      ゲイル……体を労われよ……。


(ゲイル) :ああ……どうしてうまくいかないんだ…………くそったれ……。



・現代。うなされながら泣いているシンシア。その傍でレベッカが心配そうにしてい 

 る。


シンシア :うぅ…………!うーん……!…………はっ!!

      ハア……ハア……。ゆ、め……?


レベッカ :シンシア……!……だいじょうぶ?だいぶ、うなされていたわ。


シンシア :おばさま……ずっと……ここに……? 

      ……。

      うっ……うっ……。(涙が溢れる)


レベッカ :あぁ、よしよし……怖かったねぇ……。


ジャック :シンシア……あったかいミルクだ。飲みなさい……。


シンシア :ありがとうおじさま……。

      (ミルクを飲む) あたたかい……。

      あのね、おばさま……昔の夢を見たの……。


レベッカ :昔のって、ゲイルやジュリアの?


シンシア :ええ……。


レベッカ :そう……。ジュリアが事故に遭ってさえいなければ……ゲイルもあんな

      風にはならなかったろうに……。

      

シンシア :違うわ。私がママを生き返らせて、なんてパパに言ったから……。

      私のせいだわ……。


ジャック :ゲイルにとっては、家族……シンシアとジュリアが一番大事なんだ。

      シンシアがお願いしなくても、あいつはたぶん研究を始めたはず……。

      そういうやつなんだ。

      だから決して「自分のせいだ」なんて思ってはいけないよ。

      ゲイルも……死んだジュリアも悲しむ……。


シンシア :ごめんなさい……。

      ねえ……パパはまだ研究を続けているのかしら……。


ジャック :……ああ。たまに様子を見に行ってはいるんだが……。

      もう10年も経ってるんだ……。

      あいつもいい加減、気持ちに区切りをつけないといけないというのは

      わかってるだろうに……。


シンシア :そう……。


ジャック :シンシア……。


シンシア :おじさま。実は……今度の日曜日に私、マークと一緒にパパの研究室に

      行くつもりなの。


レベッカ :……!

      駄目よ……そんな……!さてはマークね?マークが言い出したのね?


シンシア :ええ……。でも、いつかは行こうと思ってたの。

      それに会って話をするわけじゃないわ。外から覗きこむだけ。

      だから、大丈夫……。


レベッカ :本当ね?ちょっとでも不安を感じたらすぐ引き返してくるのよ。

      いいわね……?


シンシア :ええ、わかったわ……。(ミルクを飲む)

      おじさま。ミルクありがとう……体があたたまったわ……。

      おばさま……私が眠るまで手を繋いでもらっていて……いい……?


レベッカ :もちろんよ、シンシア。今度はいい夢が見れますように……。


シンシア :ありがとう……おやすみ……おばさま……おじさま……。


レベッカ :おやすみ……


ジャック :おやすみシンシア……。


シンシア :すぅ……すぅ……(寝息を立て始める)


レベッカ :かわいそうなシンシア……。


ジャック :たとえ時間が解決するとしても……酷な話だ……。

      シンシアにとっても……ゲイルにとっても……。


レベッカ :そうね……。

      ねえジャック……。


ジャック :うん?


レベッカ :ゲイルの事はあるけれど、いつの日かこの子が……私たちの事も

      パパママって呼んでくれたら、私、とても嬉しいわ。            

      

ジャック :そうだな……。いつかそんな日が来ると……いいな……。



・同じ頃、ゲイルの研究室。


ゲイル  :できた……!できたぞ……!はは……ははは……!ははははははははは

      ははは!!!!!

      あとは……あれがあれば……私の研究は完成だ……!!ククク

      ク……!!!

      ああ……愛しいジュリア……。あとほんのちょっとの辛抱だ……。

      あれがあれば……君を生き返らせられる……。

      そうしたら昔のように……また幸せに暮らせるんだ……ふふ……

      あははは……。



・日曜日。車でゲイルの研究室に向かうシンシアとマーク。


マーク  :もうそろそろ着くはずだよ。だけど、なんだか……雲行き怪しいなあ。

      一雨来るかもしれない。


シンシア :パパ……。


マーク  :シンシア、ごめん。強引に誘ったりしなければ良かったよね。

      ……引き返す?


シンシア :ありがとう。でも大丈夫よ。


マーク  :それならいいんだけど……。んっ、あ、あれ。あの家じゃないかな。


シンシア :……っ!

      見覚えある……あの家。あれが、私の住んでいた家……!


マーク  :あんまり近くで停めると、車の音でバレちゃうかもしれないな。

      この辺で停めて、歩いていこう。


シンシア :私……緊張してきたわ……。


マーク  :駄目だったら言ってくれよ。ママにもきつーく言われてるしね。


シンシア :ええ。

      あ、あそこ。あそこの窓から中を見れないかしら。


マーク  :そうだね。よし行こう。



・庭にあった2つのドラム缶を窓の下に置き、それに乗って中の様子を覗く二人。奥の方には研究室らしき部屋が見える。


マーク  :降ってきちゃったな……。どこにいるんだろうゲイルおじさん……。


シンシア :パパ……。


マーク  :あ、見て、奥の方。誰かいる……!

      もしかして、あの人がゲイルおじさんかい……?


シンシア :……え?あ、あぁ……パパだわ……!

      痩せちゃったように見えるけど……あれはたしかにパパよ……!


マーク  :そうか、よかった……。とりあえずは元気そうだね……。

      でも……なんか言ってるように見えるんだけど……なんて言ってるんだ

      ろう……?


シンシア :マーク……!そんなに身を乗り出したら……!


マーク  :あ、そうだね……ごめんシンシア……。

      っと……とっとっと……って、うわぁ!

     (ドラム缶から落ちるマーク。その際にドラム缶が倒れてけたたましい音 

      が鳴ってしまう、)


シンシア :マーク……!大丈夫……!?


マーク  :いっててて。だ、だいじょうぶ……!


ゲイル  :……!! 

      誰だ!!!


マーク  :まずい!気づかれた!


ゲイル  :外に誰かいるのか!まさか……私の研究の成果を盗みに来たのか!?

      ハハハハハハハハ!!!!

      そんなことをさせてたまるものかあああ!!!!


マーク  :やばっ!に、逃げようシンシア!うぐっ……!!


シンシア :マーク!?


マーク  :だ、大丈夫……ちょっと足をくじいただけさ……さ、早く……!


シンシア :ほら、肩につかまって……!


マーク  :あ、ありがと……!いてて……!

            

シンシア :すぐに門が見えるわ!がんばって……!


マーク  :あぁ……!ん……?あれは……。


ゲイル  :逃がしてなるものか……お前たち……!(医療用のメスを数本携えてい

      る。)

      ひひっ……ヒヒヒハハハハハハ!!!


マーク  :う、うわあああああああ!!!

      

ゲイル  :私の、私の!研究成果を盗もうとするやつがどうなるかあ……クフフ

      フ……身を持って教えてあげ、あげようおう……クヒヒヒ……!


マーク  :やばい……!ま、まともじゃないぞあの人……!


シンシア :パパ!!(マークをかばうように前に出る)


マーク  :シンシア!よせ!


シンシア :パパ!私よ……シンシアよ……!パパの娘のシンシアよ……!

      覚えてるでしょう……!?


マーク  :シンシア!!


ゲイル  :シン……シア……?シンシ……シン……ア……。

      …………シンシア……?


シンシア :パパ!思い出して!パパ!!


ゲイル  :シンシア……シンシア……。おお……おおおおおお……シンシア!

      私の娘……!

      ジュリアの……私の愛しいジュリアの……娘……!


シンシア :あぁ……!パパ……!!(ゲイルに近づこうとするシンシア)


マーク  :ま、待ってシンシア!なにかヤバい気がする!近づいたらダメだ!!


シンシア :で、でも……。

      きゃあっ!(シンシア、ゲイルに捕まる)


ゲイル  :シンシア…………クヒッ……クヒヒヒ……!ジュリアの……娘……!

      私の愛するジュリアの……!ジュリアの……!


シンシア :パ……パパ……?


ゲイル  :シンシア……。

      とうとうパパの研究は完成したんだよぉ……あはは……。


シンシア :研究……!?


ゲイル  :そうだ……!ジュリアを……この世で最も愛する私の妻を生き返らせる

      研究だ!!!!

      た、た……ただ、あと……あと……ひとつだけ……どうしても手に入ら

      なかった材料があるんだ……。

      それがなんだかぁ…………ヒャヒャヒャ……わかるかい……?

      イヒヒヒ。


マーク  :な、なに言ってんだ……あの人……!?


ゲイル  :それはぁ……私の愛するジュリアの遺伝子を受け継ぐ、脳……!


シンシア :の、脳……!?


ゲイル  :そうだ!!シンシア!!お前の脳みそダァァァァァ!!!!!


シンシア :キ、キャアアアアアアアア!!!!!


ゲイル  :よこせ!お前の脳みそを!そうすればジュリアは生き返るのだ!

      ジュリアが!私の愛しいジュリアが生き返るんだァァァァ!


シンシア :いや!いやあああああああ!!!


マーク  :く、くそ……っ!ええええーい!!

      (ゲイルに体当たりをするマーク。)


ゲイル  :あひやあ!!

      ああ……痛い……、い……た……い……いいヒヒヒフフハハハ……!

      (ゲイルが突き飛ばされた事でシンシアが解放される)


マーク  :シンシア!大丈夫かい!?


シンシア :ええ、ありがとうマーク……!でも……その足……!


マーク  :痛いけど……ちょっとくらいなら平気さ……!

      さあ、車まで急ぐんだ……!(ふたり、逃げ出す。)


ゲイル  :にぃ……逃がすかぁ……。

      あぁそうだ……すぐに脳を摘出してもいいように……保存容器を持って

      いこう……そうしよう……ああはははは……


マーク  :いってててて……!やっぱり、さっきので悪くしちゃったかも……!


シンシア :あと少しよ、がんばって……!


マーク  :ぐ……!

      やっと車まで来た……。キーを……えっと、キー……。


シンシア :マーク、早く……!


マーク  :キー……あれ!?どこだ!?キー!あれ!?


シンシア :どうしたのよ!?


マーク  :どこかで、落としちゃったみたいだ……!


シンシア :なんですって……!?


ゲイル  :(遠くの方から)

      キー。キイ。車のキイ。キイイイイ!!!

      探し物はここですか……?どこですか?

      あ、私の手の中だぁぁぁはははははは。


マーク  :なんてこった……!体当たりした時か……!?

      …………しょうがない。

      シンシア。ここは僕が食い止めるから、シンシアは街まで走って

      警察を呼んできてくれ。


シンシア :え!?駄目よ!マークを置いてはいけないわ!


マーク  :そんな事言ってる場合じゃないだろう……!?


シンシア :それでも駄目なの!離れたら……ここで離れたら……!!もう二度と

      会えないかもしれないじゃない……!!

      そんなの私ぜったいにイヤ!!!


マーク  :シンシア……。わかったよ……なんとかがんばって二人で街まで

      行こう……!

      たぶん、この足でも15分もあれば街までたどり着けるさ。


シンシア :ええ!


マーク  :よし、行こう!まったく……傘持ってくるんだった……!


ゲイル  :うひひっひひ……もう少しだ……ジュリア……。

      もう少しでジュリアにぃ……会えるぅ……。



・街中。いろんな人がいる繁華街。


街の人A :だいぶ降ってきたなぁ!傘持ってきといてラッキーだったぜ!


街の人B :私の日頃の行いがいいからね。

      ほら見てよ、あの二人。びしょ濡れになっちゃってる。


街の人A :本当だ。雨宿りすりゃあいいのに、あんな必死になってどこに行くんだ

      ろうなぁ?

      いてっ!(誰かにぶつかる)

      おい!どこ見て歩いてやがるんだ!


ゲイル  :あーーーーー?


街の人A :な、なんだ……こいつ……?


ゲイル  :い、いたい……。い、た、い。ああっ。(メスでAを切りつける)


街の人A :え……?……!……う……うわああああああ!!!!(倒れる)


街の人B :き、きゃああああああ!!!!!


街の人C :お、おい!あれ!ひ、人が切られたぞーーー!!


街の人B :ひ、人殺し~~~~!!!!


ゲイル  :そうだ……シンシア……。シン……ジュリア……ああ……

      ジュリア……。(立ち去っていくゲイル)


街の人B :ね、ねぇ!大丈夫!?


街の人A :いてぇ……!いてぇよぉ……れ、レスキュー……!(泣いてる)




・街の中。警察署の近くまで来るシンシアとマーク。


シンシア :マーク……!もうすぐそこよ、頑張って!


マーク  :あ、あぁ……!っく……!

      今更なんだけどさ……たぶん……折れてると思うんだ、この足……。


シンシア :うそ!気づいてなかったの……!?呆れた……!


マーク  :えー……。あのさ……気づいてたなら言ってくれよぉ……!

      あ……やばい……。折れてるって認識したら……なんだか

      めまいが……。(倒れるマーク)


シンシア :マーク!しっかりして!マーク!!

      ……っ!(ゲイルが近づいた事に気付く)


ゲイル  :見つけたぁ……。ジュリアは……昔っからかくれんぼが好きだった

      なぁ。あは、あはははは。


シンシア :パパ……。


ゲイル  :大丈夫だよ……ジュリア……。

      この脳が……ジュリアの脳があればぁ……ジュリアは生き返る……。

      

シンシア :パパ!私はシンシアよ……パパ……!


ゲイル  :あはははそうだ、そうだったねお前はジュリアだ……ジュリア……。


シンシア :パパ…………!(泣く)


ゲイル  :さあ……おとなしくジュリアの脳を渡すんだぁ……おまえの脳は

      ジュリアの脳なんだ……ぁぁ。


シンシア :パパ…………!!


ゲイル  :さぁ脳を……ジュリアの脳を…………返セエエエエエエエ!!!!!


シンシア :パパ~~~~~~!!!!



・ダーン!!!という銃声。倒れるゲイル。シンシアとマークの後方に警察官の姿。


警察官  :だ、大丈夫か!君たち!!


シンシア :あ、あああああああ………………。

      (腰の力が抜けて座り込んでしまう)


マーク  :っく……今のは……銃声……?……あ、いっででで……。

      シンシア……!


シンシア :マーク……。


警察官  :何があったんだ?

      それにそこの男は何者なんだ?……あれ!?


シンシア :え?……あっ!!パパが……いない……?



・路地裏を抜けて隣のストリートに出るゲイル。ふらふらして今にも倒れそう。


ゲイル  :あ、あああああ……。いたい……いたい……ジュリア……ジュリ……

      うぁっ!(倒れるゲイル)

      ジュリア……ジュリア……私の……ジュリア……ジュリアアアア 

      ア…………。


・そこにジュリア(幻)が現れる。


ジュリア :ゲイル……。


ゲイル  :……あ……?あ……あぁ……声だ……ジュリアの声だ……!


ジュリア :ゲイル……。


ゲイル  :どこだ……どこから聞こえるんだろう……。

      どこにいるんだい……ジュリア……!またかくれんぼかい?


ジュリア :ゲイル……!


ゲイル  :……!

      ジュリア……!(ジュリアを見つける)

      ああ……!ああああああ……!!ジュリア……!!!


ジュリア :ゲイル……。ごめんなさい……あなたをこんな風にしてしまったのは

      私の責任……。私があの時もっと注意を払っておけば……事故にさえ

      遭わなければ……。


ゲイル  :違う!君は悪くない!悪くないんだ……!

      それに……!

      君はもうすぐ生き返る!私の研究は完成したんだ!完成したんだよ……

      ああああ……!


ジュリア :かわいそうなゲイル……。

      いい、ゲイル?死んだ人は生き返らないわ。それが自然な事なの。

      だから、私を生き返らせようとしないで。私を生き返らせるために……

      愛するシンシアを……私たちのシンシアを怖がらせないで……。


ゲイル  :シン……シア……?


ジュリア :そうよ……私と……あなたの娘……。


ゲイル  :娘……?シン、シア……。……シンシア!?

      ジュリアの……私の……っ!

      私たちふたりの……愛する娘……シンシア……!!(涙があふれる)


ジュリア :ね?

      あの子を……親である私たちが怖がらせちゃ駄目じゃない……。


ゲイル  :シンシア……!私は……なんという事を……!!

      私は自分の手で……娘を!私たちの娘を殺めるところだった……!!


ジュリア :いいのよ……。きっとシンシアも……許してくれるわ……。


ゲイル  :うあああ……!!(嗚咽)


ジュリア :さあ……ゲイル。行きましょう……。


ゲイル  :……!

      ジュリア……?どこに行くっていうんだい……?


ジュリア :空へ……。


ゲイル  :空?


ジュリア :そう……。そしてシンシアをずっとずっと見守るの。さぁ……。


ゲイル  :シンシアを……。そうか……わかったよジュリア……行こう……。

      ジュリ……ア……。(息を引き取るゲイル)



・雑踏の中、倒れているゲイルに近づいてくる警察官


警察官  :ここですね?情報、ありがとうございました。

      あれか。……ふむ、たしかに先ほどの男だ。脈は……動いていない。

      午後4時21分、死亡確認。

      しかし、仕方なかったとは言え……ふぅ……。

      ……それにしてもこの男、さっきとはまるで別人のようだな。

      こんなに安らかな笑顔を浮かべているとは。

      一体なにがあったんだろうか?

      



ナレ   :そのあと……。私は警察で事情聴取を受け、マークは病院に入院した。

      連絡を受けたおじさまとおばさまはすぐに駆けつけてくれた……。

      おじさまは、パパの事を聞いて呆然としていた。おばさまは、私を抱き

      しめてそれはもうすごい勢いで泣いていたわ。

      死んだパパの顔を見たけど、涙は出なかった。

      でも……パパのその表情は、記憶の中に微かに残るあの頃の優しいパパ

      そっくりで……それがとても印象的だった。

      それから入院しているマークの所に行って、そこで私はやっと少しだけ

      泣くことができた……。

      

      そして、半年後……。



・ジャックの家の屋根。仰向けになって物思いに耽っているシンシアと、屋根に上がってくるマーク。

      

マーク  :あ、いたいた。やっぱりここだった。……よいしょっと。

      へへへ、足の筋肉もだいぶ元に戻ったよ。

      いや~、今夜は雲が少ないから月がきれいに見えるなぁ。

     (仰向けになる)


シンシア :マーク……。


ナレ   :あれから私は、前にも増してここで夜空を見上げるようになった。

      あのお月様が、私の心の傷を覆ってくれる……そんな気がしているから

      かもしれない。


マーク  :ところで、さっきのパパとママの顔を見た?

      口をぽかーんと開けちゃってさ、顎でも外れちゃったのかと思ったよ。

      それに今なんて二人してワンワン泣いてるんだぜ!

      それだけ嬉しかったって事なんだろうけどさ!


ナレ   :夕飯の時、二人のことを『パパ、ママ』って初めて呼んだの。

      言われてみれば、たしかに下から騒ぎ声が聞こえるような……。      

      

マーク  :でもどうして?今朝まではおじさま、おばさまだったじゃないか。

      それにジュリアおばさんや……ゲイルおじさんの事だって。


シンシア :もちろん、本当のママのことは愛しているわ……。

      パパだって……あれから半年も経つのにいまだにすごく辛いし、悲しい

      し……。

      思い出したくないのにふと、あの時の恐ろしい思い出が浮かんできてし

      まう……でも……心のどこかでやっぱり愛しているんだと思う……。

      でもね……?おじさまとおばさまの事も、同じくらい愛しているの。

      

マーク  :……うん。


シンシア :それにね?今のままじゃいけない、ずっと引きずっていちゃいけないっ

      て、そう思ったの。

      だから二人の事を『パパ、ママ』って呼んだのは、これからの私のため

      の第一歩でもあるの。


マーク  :第一歩。第一歩……か。


シンシア :でもそうしたら、私とマークは兄妹になっちゃうわね。


マーク  :そうかぁ兄妹かぁ……兄妹?


シンシア :あら?マークは私と兄妹になるのは……いや?


マーク  :え?い、いやっていうわけじゃないさ。ただ……。


シンシア :ただ?


マーク  :えっと……わ、笑わないで、聞いてくれよ?


シンシア :??


マーク  :(咳払い)ぼ、僕は、シンシアの事は……『兄』として守るよりも、

      『ひとりの男』として守りたい。


シンシア :……え?

      マーク、それって……?


マーク  :え、えっと!えーっと!!あ、あはっ!あはははっ!

      ち、違うんだよ!あ~、いや、違うんじゃない……!

      そうだ!う、うん!そうなんだよ!

      そ、それくらい大切に思ってるってことさ!あははは!

      さぁ~もう寝ようかな!風邪ひいちゃ、いけないもんな~!

      おやすみシンシア!(屋根から降りていくマーク)

      ……よっ、と……。ぉ、と、と、と、おわわっ!うわああああああ!! 

      いってぇ!(途中で足を滑らせて地面に尻餅をつく)

      お、おやすみ~!


シンシア :マーク!もう……、最後の最後で格好つかないんだから……(微笑む)

      ふぅ……、そろそろ私も寝ようかな……。

      それじゃあ、パパ、ママ。おやすみなさい……(呟く)


ナレ   :夜空を見上げてそう呟くと、やわらかな月の光は、薄雲に遮られてぼん

      やりと滲んでいった……。  

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【ボイスドラマ台本】月光 長船 改 @kai_osafune

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