全身の約90%をサイボーグ化させた桃太郎とミュータントドッグ&キジドローン&ゲル化モンキーVS工場長マツオカ(64) 定年前の聖戦(ラグナロク) #4

 むかしむかし、それほど昔でもないお話


 巨大なバスの案内板に映る騒がしく色を放つ映像を見る桃太郎。

 手に持ったナマヤケチキンのコンソメスープの缶は当に中身は無く、すっかり冷え切っていた。

 行きかう人波、幾度も過ぎ去るバスを見送るうちに小雨が降りだしました。

 バスの後部から廃棄ガスが白いその姿を見せては薄らぎ消えてゆく。

 小雨によって出来た浅い水たまりの上を車のタイヤが通り、かすかなタイヤ跡と紙の上を撫でる筆のような音が尾を引いて過ぎて行きます。

 車が通りすぎると車に纏わりついていた湿った空気が桃太郎に移る。

 人々から聞こえるくぐもり声を耳にして、ふぅ…とため息を一つ。


「待たせたね、桃太郎や」

 声の主はおばあさんだった。黒いレザーのジャケットが湿り気を帯びて照りが見える。

「店の店主との交渉が終わったよ。桃太郎をサイボーグに改造する手術のね。」

「その手術を受ければ鬼に勝てるのですか?」

「勝てるかどうかはアンタ次第だね。」

 中途半端な返答、おばあさんからしてみれば勝利こそ望みのはず…

 桃太郎はおばあさんに促され再びハーレーに乗った。


 小雨のせいで肌を撫でる風が冷たい。

「これから向かう店はどんなところなんですか?」

「どんなところってかい、それは外見的な意味かい?それとも職業的な?」

「どちらかと言えば外見です」

「ふーむ…最後に行ったときはもう何年も前だからね…まぁ、その時は錆び付いたトレーラーハウスだったよ」

 そう聞いて桃太郎は周りを見渡した。どこもかしこも鉄とガラスの背の高い建物ばかり、そんなトレーラーハウスのようなものは見当たらないのだ。

 そんな桃太郎の事を悟ったのか、おばあさんは言いました。

「探したって無駄だよ桃太郎、その店はね、の店なんだからね」

 非合法、つまりは無免許や許可の得ていない違法営業の店である。

「そんなところの手術で本当に大丈夫なのですか?」

 桃太郎は当然、不安を覚えました。

「安心しな、その店は確かに違法だが腕は確かさ。ルール守ってやってる奴らがイモに見えるくらいね」

「ではその…こんなこと聞くのもなんですが、その腕もそこで?」

 ハンドルを握るおばあさんの両手、もといバイオアームについて桃太郎は質問しました。

「そうさ、これもその店さ。でも、が違うね」

「店主が違う?これから向かう店はそこなんですよね?」

 桃太郎は疑問を抱きました。

「あー…電話で交渉したんだが…"声"が違ったんだよ。女だったのさ。」

「女?では、おばあさんの腕を手術したのは男だったということですか?」

「そうなるね」

「店主が変わったということですか?」

「どうもそうらしい。聞けばアタシの腕をやった店主は急用で旅に出てるそうだ。」

「では、その女性が私の手術を担当するということですか?」

「だね、でも安心しな、の弟子なら腕はピカイチだよ」

 これから改造される自分の体は本当に戦えるものになるのか、そう不安を残しつつも桃太郎はおばあさんと一緒に店へと向かいました。


 十数分ほどハーレーを走らせると一軒の店に辿り着きました。

 小雨で濡れたヘルメットを取り、おばあさんが言いました。

「ここが桃太郎をサイボーグ手術してくれる店、その名も『中華料理店 意大利猫イダリマオさ』」

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サイバーパンク桃太郎 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

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