第6話 魔族

 魔族の男は自分の尻尾を引っこ抜き、槍に変えて猛然とルークに迫った。


「喜べ下等生物。我らが槍を抜くのは殺す価値があると認めたときだけだ」


 魔族。

 国家騎士が手も足も出ないほどの実力。

 今の俺が真正面から戦って勝てる相手ではない。


 考えろ。

 今、何ができる。

 俺の手札には何がある。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


~ドラゴンライダーの能力~


◆1:竜の超感覚<ドラゴンセンス>


常時発動能力(オンとオフを切り替えられる)


説明:五感が研ぎ澄まされる。

   竜の逆鱗に触れても殺されない。

   竜の背中に跨っても振り落とされない。


◆2:竜の咆哮<ドラゴンロアー>


任意発動能力


説明:出会い頭に大きな声を上げて相手を怯ませる。

   敵味方問わず効果あり。格上相手には効果が薄い。


◆3:竜の笛<ドラゴンコール>


究極奥義


説明:懐いているドラゴンを呼び寄せる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 俺は素早くルークの背に飛び乗り、鞄から魔法の巻物スクロールを3本取り出して男を見据えた。


 男はスクロールを見て鼻で笑った。


「スクロール……。魔法の発動時間を短くするために生み出した一度きりの魔道具か。そんなものでこのオレを止めようなんて、片腹痛いな」


 この魔道具の良いところは複数の魔法を同時に発動させられる点にある。

 まあ、今は使わないがな。


「破ッ!!」

「――ッ!?」


 竜の咆哮で男の体を硬直させる。


 相手は格上。

 一瞬しか止められないだろう。だけどその一瞬が大事だ。


 大声でひるんだ男は翼を広げられなくなり、その速度を維持したまま地面に激突した。

 まともに戦って勝てないのなら相手の自滅を狙うだけだ。


 あの速度で地面に激突して無事でいられるはずがない。

 ただ、油断はしない。

 この世界の生物は俺の常識から外れているからな。


「まさかあの魔族を倒したのか!?」


 血だらけになった国家騎士のお兄さんが足を引きずりながら近づいてくる。


「すごいぞ」

「いや、まだだ」

「なっ!?」


 ダンジョンの天井を突き破ってきたときと同じように男は地中から這い出てきた。

 槍は粉々に砕けて頭から大量に血を流している。


「殺してやる!!」


 血走った眼で近づいてきた。

 俺はルークの口に手を突っ込み、真っ二つになった死体を引っこ抜いた。


「二つも食っていたのか。このよくばりさんめ」


 ヴァンパイアロードの死体。


 地中深くに封印して常に監視下に置いておかなければならないほどの危険存在。

 魔族も欲しがる貴重なもの。


 この死体から溢れ出る膨大な魔力で魔法を発動させたら、一体どれほどの威力が出るのだろうか。

 もう他に手はない。 

 一か八か、これに賭けるしかない。


 一つは攻撃に使って、もう一つは町を守るために使う。


「ファイアストーム!!」


 火魔法と風魔法を合体させた中級魔法。

 それと上級土魔法スクロール――グレートウォールを同時に使う。


 スクロールの魔法は威力が通常の4分の1ほどしか出ないが、大量に魔力を注ぎ込んだお陰で上級魔法以上の大きさになった。


 巨大な火柱は建物もろとも魔族の男を飲み込んだ。

 グレートウォールで包み込んで蒸し焼きにする。


「――やっと消えた」


 地面がえぐれるほどの火力。

 死体をまるまる一つ使っていたら王都は跡形もなく灰になっていただろう。


 それはそれとして建物の弁償代、どうしたものか。

 ルークは黒焦げの魔族を丸飲みして俺から距離を取った。


「ははっ……、落ち着いて食べな」

「ちょっとキミ!? あのドラゴンに命令して魔族を吐き出させなさい!!」

「え? わ、分かりました」


 国家騎士に詰め寄られ、しぶしぶ魔族を吐き出させる。

 ルークは二度も食事の邪魔をされて不機嫌になってしまった。


「ごめんな。あとで美味しいお肉を買ってやるから今は我慢してくれ」

「――」


「レックス!! 魔族を倒しちゃうなんてすごいよ!! この国で魔族と戦える実力者って王直属の金剛騎士くらいなんだよ。Sランク冒険者でも苦戦する相手なのに」

「ルークを見殺しにするわけにはいかないからな」


 ドラゴンのこととなると周りが見えなくなるのは今も昔も変わっていない。


「急に走り出したときは尻尾が飛び出るくらいビックリしたよ。私もレックスみたいに命を張れる人になりたいな」

「俺を真似してもロクな人間にはなれないぞ」


「――お取込み中のところ失礼するよ」


 国家騎士のお兄さんが話し掛けてきた。


「先ほど国王陛下の意識がお戻りになりました。魔族を討伐し、町の被害を最小限に留めたキミに直接お礼が言いたいそうです。お城は崩れてしまったので大聖堂まで来てください」


 そう言えばお城崩れたんだったな。


「国王さまとお会いになるんだ。レックス、すごい!!」

「アーニャもついてきてくれ」

「なんで!?」


「王様に無礼を働くわけにはいかないだろ。隣で教えてほしいんだ」

「無理だよ。私、無関係だし!」

「パーティーメンバーだし、問題ないと思うけどな」


 許可が貰えたのでアーニャも連れて大聖堂に入った。

 お城とダンジョンが崩壊したとき大怪我をした人たちが治療を受けていた。


 国王陛下の両脇には金色の鎧に身を包んだ騎士がいた。

 王様の前でアーニャと同じポーズをする。


「おもてを上げよ」


 顔を上げる。


「レックス・ブレイタント。こたびの魔族討伐、実に大義であった。お城の修繕が完了したのち褒美を与えよう。何か希望はあるか?」


「今回の魔族討伐、最大の功労者は俺のドラゴンです。美味しいお肉をお腹いっぱい食べさせてあげたいので、国中から氷魔法の使い手を集めて冷凍食品を作るように命令して下さい」

「うむ。良いだろう」


 俺の願いが叶えられてフリーズドライ食品が作られた。


 ヴァンパイアロードの死体が消え、夜中にホロウモンスターは出てこなくなった。

 魔石の養殖事業は無くなったが代わりにフリーズドライ食品で国力を取り戻した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強職でセカンドライフ 焼星うお @yakiboshiuwo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ