第5話 お出掛け②
「こんにちは、悠木さん」
「こんなところで安田くんに会うとはびっくりしました。ランチですか?」
お皿に乗っているベーグルを見て尋ねてきた。
「ランチと言いますか、小腹が空いたので寄ったんです。悠木さんも今日はお出掛けですか?」
「えぇ。色々と見て回ってたところよ。そのベーグル美味しそうね。私も少しお腹空いたし、良かったら隣の席いいかしら?」
「はい、どうぞ」
僕の隣の席にバックを置いてから悠木さんは注文をしに向かった。
スタッフからメニュー表を受け取って何を注文するか考えているようだ。その考えている仕草、一挙一動に店にいる客やたまたま通りかかった通行人が悠木さんに目を向ける。
口々に小声で
「綺麗」
「話しかけてみたい」
とか色々言っているのが聞こえるが、こんなに注目されていて聞こえていないはずはないと思う。僕だったらこんなに注目されるのは遠慮したいが、悠木さんは大丈夫なのだろうか……
注文した商品を受け取って僕の隣の席までやってきた。
ドリップコーヒーとベーグル(ブルーベリー)を注文したみたいだ。
一口食べてからコーヒーを飲んで落ち着いたのか、一息ついた後僕に話しかけてきた。
「やっぱりスタンドは良いわね。どのメニューもハズレはないし。安田くんはよく来るの?」
「週に3回ぐらいは来てます。頼むものは大体決まっていますが、新作が出たときは発売初日に行くほど好きですね」
「ふふっ、そうなのね。まぁ私も出勤前に寄ってよくコーヒーを買ったりしているし、頻度も同じくらいだから似ているわね」
ふふっと笑ってベーグルを一口食べ、コーヒーを飲む。
一つ一つの所作が綺麗だなと思った。
悠木さんは何故か僕に凄く良い笑顔で話しかけてくる。今まで話したのって今日を含めると、たしか3回ぐらいで、一言二言話したぐらいであまり接点は無いはずなんだけど……正直どうしてこうなっているのか分からない。
それに周りの男達から嫉妬の目線や声が聞こえる。そういった表現をする小説はいくつか読んだことはあるが、実際に体験するとあまり気持ちの良いものではないな。遠慮したいなと思った矢先にこれだし、まぁ、気にしすぎても仕方ないか。顔には出さないようにしよう。
僕もカフェラテを飲んで一息ついた。
************
「安田くんはこの後どうするんですか?」
お互いに食べ終えて一緒にスタンドを出た後に悠木さんが聞いてきた。
「1階のスーパーで買い出しです。食材があまり無かったので行こうかなと」
「お料理するんですね。お料理ができる男性はカッコいいと思いますよ」
「……ありがとうございます」
カッコいいと言われた……
料理するだけでそう言われるとは思ってなかったから顔がにやけそうになってしまった。僕って単純すぎる。
だからにやけを我慢するのに時間を要してしまった。
「私もスーパーに用がありましたので、宜しければご一緒してもいいですか?」
少し歩いてスーパーに到着したので悠木さんとはそろそろお別れかなと思ったところで一緒に買い物をしないかと聞いてきた。特に断る理由も無かったので了承してスーパーに入った。
お互いに必要なものをカゴに入れつつ会話をする。仕事のことやプライベートなことなど色々と話をした。お会計に向かおうとしている時に悠木さんが小声で「デートしてるみたい……」と言っているのが聞こえたときは平静を装って聞こえなかったフリをして顔に出さないようにした。難聴系主人公ではないからな。悠木さん顔が赤くなっているし……うん、見なかったことにしよう。
無事に買い物が終わり、ネオンモールを出る。
僕は徒歩で家に帰れるが、悠木さんは電車みたいなので駅まで送ることにした。
少し遠回りだけど大した距離じゃないから問題ない。
駅に着くまでの間、気になったことがあったので聞いてみることにした。
「悠木さん、一つ聞いてもいいでしょうか」
「どうかしましたか?」
「えぇっと、悠木さんをスタンドで見かけたときから今に至るまでですが、結構な人の視線が悠木さんに集まっているのを感じて、そういうの疲れたりしませんか?」
「まぁ、そうですね。多少疲れはしますけど気にしないようにはしていますよ。自分で言うのもあれですが、見た目は良い方だとは思っています。好きな服を着て、オシャレしてお出掛けするのが好きですし、見るのならお好きにどうぞという感じですね。中には下心を持ってナンパしてくる人もいますが、そういう人達は私の中で害悪認定ですので、徹底的に無視しています。あまりにもしつこかったら交番に行って突き出してますよ」
「そうだったんですね。あまり気にしていなかったのでしたら、良かった?でいいんですかね」
「えぇ。心配してくれてありがとうね安田くん」
駅に着いたので挨拶をし、悠木さんと別れた。
偶然の出会いではあったが、会社では見られない一面が見れて、こうしてお話ができたのは楽しかった。
気分が良かったからか、夕日に照らされた家までの道のりを歩きながら、普段はしない鼻歌を歌っていた。
強気な先輩は僕の前では何故か弱気です。 アイスエイジ @iceage
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