さよならを忘れて

@chauchau

片道切符握りしめ


「来ちゃった」


 この世で誰よりも愛しい女性が魅力を振り回す。

 彼女の愛を享受する。それだけで世界が輝きを取り戻す。そのことが分かっていても、馬鹿な男と蔑まれても。


「僕たち、別れましたよね」


「それなんだけど」


 乱れることのない彼女の笑顔が愛おしく、狂おしい。

 聞き慣れない言語を話す黒髪乙女の乱入に、自由を愛する御国の生徒たちと言えどもざわつきを隠せなかった。


「考えて、考えて、考えた結果」


 転勤だった。

 親の仕事だ。子どもの僕たちに出来ることなどありはしない。いつ帰れるかもわからない。それも海外だ。日本のどこかへ行くなんて話じゃない。遠距離恋愛にだって程度がある。僕の都合に彼女を巻き込むわけにはいかなかった。

 だから。別れた。

 告げたんだ。さよならを。


「さよならを! 忘れることにしました!!」


「そ」


「言わせないねッ!」


 飛びつき、唇を奪ってきた彼女の行動に、一瞬で諸々を理解した同級生たちがパーティー開始を告げる雄たけびをあげた。

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