植物によってつくられた世界で、人間と魔獣はなぜ争うのか

現在更新分の第43話まで拝読いたしました。
植物、厳密には樹がキーワードとなるこちらの作品は、かなり独特な世界観が確立された異世界ファンタジーです。

樹に成っている果物なのに、かじるとお肉の味がしたり、現代にあるような料理の味がしたり。食用オンリーかと思いきや、加工された建築材がゴロゴロとれたり、日用品の代用になったり……と、いい意味でなんでもありですね。

用途が多彩にも関わらず描写がしっかりしているので、たいへん細部まで設定を作り込まれている印象でした。意図して栽培しているようなシーンはなかったように思うので、この世界の植物の生命力はとてつもないですね。

第一章は、不思議な植物からとれるもので試行錯誤するサバイバル生活が見どころですね。そのうちに、やばいところを樹に保護されて……と擬人化までやってのけちゃいました。樹と契約をする……気になることがたくさんありますが、多くは明かされません。

不思議な世界観で、謎が多いばかりに、明確な目的も設定できないふわふわとした状態。しかし一変、主人公のユウが瀕死の重傷を負い、転生する場面から、物語が一気に進み始めたような気がします。

現代で暮らす人間だったユウが、魔人に転生し、人間の奴隷となって壮絶なあつかいを受ける……なんとも皮肉なものです。復讐心のあまり闇堕ちしたユウが無鉄砲に闘いを繰り広げるシーンは、ハラハラしながら読み進めていました。

危なっかしいユウも、個性豊かな魔獣の仲間たちと時には衝突しながら交流を深めていくストーリーは、読むほどに深みを増して引き込まれます。人間が支配する砦を巡った闘いが一件落着し、引き取ったアカリちゃんとの生活や、勇者様の動向も気になるところ。

とはいえ、また人間サイドが何やら不穏な動きを見せていますし、ユウの転生前の恋人がなぜ失踪したのか、この謎明かしもありますから、目が離せません。

独特な世界観と、非常に繊細な描写。非現実的でありながら、人間と魔獣によるリアリティーのある闘いの行方。いずれも端正にバランスのとれた作品だと思います。

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