檸餅
えたいの知れない不吉な
私は無意識のうちに餅屋の前に立っていた。
いつの頃からか、何故だか私は餅屋の前を通りかかると必ず餅を売りつけられたのを覚えている。私はそのうち餅屋を忌避するようになった。ここはもう私にとっては重くるしい場所に過ぎなかった。
だが、平常あんなに避けていた餅屋がその時の私にはやすやすと入れるように思えた。
「今日は一つ入ってみてやろう」
そして私はずかずか入って行った。
「あ、そうだそうだ」
その時私は
「そうだ」
私はいつも通り餅屋で餅を注文した。というのはその店には
不意に第二のアイディアが起こった。その奇妙なたくらみはむしろ私をぎょっとさせた。
――檸餅を食べておいて私は、なに
私は変にくすぐったい
「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」
そして私は檸餅を食べたのに何も食べていないふうな顔をしてすたすた店を出て行った。
変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。無銭飲食をした奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの餅屋の主人が癇癪を起こして怒りを大爆発させるのだったらどんなにおもしろいだろう。
「そうしたらあの気詰まりな餅屋の主人も
そして私は餅の看板が奇体な趣きで街を彩っている京極を下って行った。
餅文学大全 もちかたりお @motikatario
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。餅文学大全の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます