「昨日助けていただいた銀縁眼鏡です」
ええ、そうでしょうそうでしょう。もちろん、私も目が点になりましたとも。
しかし、考えてみてほしいのです。この銀縁眼鏡くんの律儀さを。恩返しをするために、元々の主の姿を借りてお礼に来てくれる健気さを。
惑わされずに、きちんと礼を尽くすこと。その大切さを教えてくれるのです。嫌味なほど整った顔立ちで、時折しゅんとしながら。その罪深いほどの素直さを軽やかに綴った物語。
主人公の心情を適切にわかりやすく書き出している手腕はいつも驚かされます。
人と人との関わりや先入観に囚われがちな自身を振りかえる、まさに大人の絵本の頁をめくりませんか。
「昨日助けていただいた銀縁眼鏡です」
……という、かっとんだ台詞から始まる本作。
そこから、人の世の常識に疎い人間化銀縁眼鏡さんと、主人公小此木くんとの奇妙な日常が始まる……のですが。
最初は銀縁眼鏡さんの常識外れな言動に笑わされつつ、次第に物語は、眼鏡の持ち主である剣城さんとの微妙な距離感を描き出し始めます。
笑いは徐々に距離感の機微へと置き換わり、柔らかくも複雑な余韻を残しつつ、物語は終幕へ向かっていきます。
しかし、そのまましんみりでは終わらせてくれないのが本作……。
最後の最後では思わず吹き出しました。ここで吹き出すのが正解だったのかは、若干自信がないのですが。
シュールな笑いと微妙に揺れる感情との間で、感情曲線を激しく混線させてくる一作なのは間違いないと思います(全力の褒め言葉のつもりです!)
タイトルそのまんまで、眼鏡が恩返しに来てくれるという話なんですけど、一言では説明しきれない面白さがありました。
助ける→恩返しの図式は古来からよくありますし、「あの時助けていただいた亀です」「ツルです」「タニシです」などの動物をはじめ、お地蔵さんも来てくれたりする中、物に魂が宿る思想の日本において「あの時助けていただいた眼鏡です」が存在してもおかしくはないでしょう。
恩返しに来てくれた眼鏡との絶妙なやり取りの中、眼鏡の持ち主とのかかわり合いや距離感の問題もストーリーに大きく絡むという、短編でありながらこの奥深さ。
一見コメディのようでありながら、人との関わりも描き出す深みのあるストーリーは一読の価値あり。タヌキに化かされたと思って読んでみて欲しいです。