愛してあげたのに、愛さなかったね

館林歩

第1話

24インチの144HZモニターはゲームに適したモニターだ。遅延がなくリアルタイムで反映される。しかし今モニターに映し出されているのは5分前の世界だ。

部屋の中は人工的な水色の光で眩しいほどに照らされている。ガラスケースの中には水色に光る冷却ファン、マウスやキーボードからも水色の光が放たれる。机やモニターの背面からも水色の光が溢れ出ており、モニターの少し上の壁には水色に光るパネルが貼られている。そこには水色のゲーミングチェアに座る女が一人。その女もまた水色の服を着ている。グレーの髪に水色のハイライトを入れた髪。ここには水色が入っていない物は存在してはいけないようだった。異様とも言える。


女は食い入るようにモニターを見つめていた。

女の名は田崎めぐ、画面に映っているのはFPSゲームの大会だった。田崎はイライラした様子で水色のキラキラした爪を噛んだ。

「邪魔するなゴミが。」

そう吐き捨てる田崎の顔は本来ならば整っているだろうに醜く歪んでいる。大きな目は吊り上がり、眉間にシワも寄っている。

田崎めぐはオタクだ。それも重度のオタク。オタクと言ってもアニメを見たり、漫画を読んだりするタイプのオタクではない。彼女はプロゲーマーの追っかけで、本人はただの追っかけなのに田崎のファンまで存在する。


ばん、と大きな音が部屋に響き渡る。二度目。三度目。真っ白な拳が振り上げられる度に水色の光で照らされては机に向かって一直線に落とされる。机の上にある物が全て少しずつ動くほどの勢いだった。

「めぐのゆうくんの邪魔しないで。」

そう言うと田崎はスマートフォンを使い、長い爪にお構いなく器用に沢山の文字を打っていく。死ね死ね死ね死ね。雑魚共が邪魔するな。死ね死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。お前達は主人公じゃない。その言葉は田崎の怒りをストレートに表した暴言だった。そしてそれを誰にも見られないようにしたSNSに投稿しためぐはまたパソコンの画面に目を向ける。


めぐがファンとして有名になってから「U-Kun選手の事が好きなMeGuちゃんが大好きです」というようなコメントがSNSで目立つようになった。今ではU-Kun選手のファンでMeGuというチームカラーの水色に身を染めた彼女を知らない人はいないだろう。U-Kun選手のファンではなくても知っているかもしれない。それ程までに田崎めぐは有名になった。

U-Kun選手はグレーの髪をトレードマークにしたFPSゲームのプロゲーマーだ。3年程前に作られたSNSのアカウントにはゲームの事だけでなく日常的な投稿も一日1回はある。それら全てにMeGuからのコメントが付いている。


「あー、つまんね。」

その声には何の感情も伴わない。酷く冷たい声だった。

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愛してあげたのに、愛さなかったね 館林歩 @aym_tat

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