4 見る

 六角靖が電話をして連れてきたのは彼の職場の同僚の片岡ひなかたおかひなという女性だった。

 富田の彼女の印象はとてもおしとやかな和風美人という感じだった。羽谷は

「あの人めっちゃ美人じゃないっすか?」なんていうのでもう一回肘打ちをしておいた。


「えー、片岡さんでしたっけ。どうしてこの人がアリバイを証明できるんですか?」


「実は死体が発見されたその日、六角さんとずっと一緒に勤務していたんですよ。」


「それではアリバイの証明にはなりませんが?」


「いや私、見ました。仕事に出発する前に六角さんの奥さんを」


「ほう、要するに出勤前に六角美誠さんを見て、その後死体が発見されるまでずっと六角靖さんと勤務していたということですね?」


「はい、そうです」


「では、質問です。あなたは美誠さんをどのよに見たんですか?」


「あの日、私は六角さんの家に荷物を取りに行っていたんです。そして六角さんに『二階に荷物があるから、荷物を取ってきてくれ』と言われて取りに行ったんです。そうしたら二階の椅子に美誠さんが座っていて、『そっちにあるわよ。』と言われて取りに行ってそのまま一階に降りたんです。」


「それは見間違いとかではありませんでしたか?」


「はい。この目で見ましたし、あの声は美誠さんのものでした」


「それならアリバイを証明できますね。他になにか変わったこととかはありませんでしたか?」


「はい。あ、でも強いて言うなら暗かったですね。」


「暗かった?」


「はい、一階に比べれば照明が暗かった気がします。」


六角が「あー、その時は二階の照明が壊れていたんですよ。今は直ってますよ。」


「わかりました。それでは今日はこの辺でお暇したいのですが、六角さんの勤務先の病院に行ってもいいですかね。」


「はい、かまいませんよ。では私が車で送りますね。」


「ありがとうございます。」

こうして、俺と羽谷は六角邸を後にした。


                 ◇◇◇


 六角は病院の院長だった。彼の専門は心臓外科で、院長になったとはいえどまだまだ現役だった。大きな古時計、ふかふかのソファ、大きなデスク、すべてが豪華なつくりになっている院長室の中で一際目を引くものがあった。


「これはなんですか?」私はある機械を手に取り、六角に聞いた。


「あー、それは3Dホログラムですよ。心臓などがどうなっているか正確に見ることができるんですよ。実際に見てみますか?」


「それではお言葉に甘えて。」


六角は部屋の電気を消し、ホログラムのスイッチをつけた。


「これめっちゃリアルじゃないっすか。やばいっすね!」


「確かにすごいリアルだな。これは自分が映したい画像や映像を映せるんですか?」


「まぁ基本的にはそうですね。限度はありますが。」


「そうですか。今日は長い間付き合っていただいてありがとうございました。」


「いえ、とんでもないです。捜査のためなら協力しますよ。」


 警視庁に帰ると22時からの捜査会議が始まろうとしていた。

俺が席について程なくしてから捜査会議が始まった。


「各員、捜査結果の報告を」


皆が次々に捜査結果を報告していく、あまり有益そうな情報はなさそうだ。俺の番が回ってきた。


「六角靖のアリバイを再確認しました。片岡ひなという六角靖の同僚の女性が出勤前に荷物を取りに六角邸を訪れたところ、そこで六角美誠を目撃し、その後は片岡と六角は死体が見つかるまで一緒に勤務していたそうです。」


「そうか、富田ご苦労だったな。」


「ありがとうございます。」


こうして捜査会議が難なく終わると思っていた。六角靖が不倫をしていた、という事実が出てくるまでは。


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Tsuji @Tsuji_53

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