6

 翌日の早朝、まだ夜が明けていない時間、川島は電話で目が覚めた。こんなに朝早くに何だろう。川島眠たい目をこすりながら受話器を取った。


「警部!」

「なんだ瀬田じゃないか? こんな朝早くから何?」


 瀬田だ。慌てているようだ。何があったんだろう。


「岡崎大輔と幹江が行方不明になりました!」

「何だと!?」


 川島は驚いた。まさか、大輔が行方不明になるとは。ひょっとして、これも池内の犯行だろうか?


「ランボルギーニもなくなったそうです!」


 まさかランボルギーニもなくなっているとは。池内が岡崎家に侵入して、ランボルギーニを奪っていったに違いない。


「まさか、池内真一の犯行か?」

「そうだろう」


 その時、川島は昨日の事を思い出した。やはり、孝和が池内だろうか? どうしてあの時捕まえなかったんだろうか? 川島は後悔した。


「あの平野孝和とすり替えた息子が池内真一だったのか?」

「きっとそうかもしれません」


 早く向かい、池内を捕まえないと。大輔と幹江も殺されてしまうだろう。川島は朝食を食べずにすぐに警察に向かった。


 川島は警察に向かって車を走らせていた。この時間帯は空いていて、渋滞がない。早く警察署に向かわねば。


 家を出て10分後、携帯電話が鳴った。瀬田だ。川島は車を停めて、電話に出た。


「警部! 佐野サービスエリアで岡崎大輔さんと岡崎幹江さんを発見しました!」


 警察がたまたま佐野サービスエリアに来ていて、そこでガムテープで手足と口を封じられた大輔と幹江を見つけたそうだ。東京の警察はすでにそっちに向かっている。


「わかった! そっちに今すぐ行く!」


 川島は佐野サービスエリアに向かった。早く大輔と幹江に会って、事件の真相を聞かなければ。そして、犯人を捕まえなければ。




 佐野サービスエリアには警察が集まっている。そして、報道陣も集まっている。有名人の誘拐という事で、これだけ集まっているようだ。


「大丈夫ですか?」


 大輔と幹江はテープを取られて、自由に動かせるようになっていた。2人はほっとしていた。このまま殺されるんじゃないかと思っていた。だが、殺される事なく、警察に発見された。


「ありがとうございます。平野孝和に誘拐されていました」


 瀬田は納得した。やはり孝和が犯人で、その正体は池内真一だ。あいつが連続殺人事件の犯人だ。


「平野孝和って、あの平野健一の息子か?」


「はい。あいつの本当の名前は池内真一。あいつらを殺したのは、池内真一なんです。あいつ、俺の車を使って連続殺人をして、俺が犯人と見せかけていました」


 友人になった時、大輔は気づいていなかった。孝和は、行方不明になった池内だとは。だが、親しくしている内に、似ていると感じていた。だが、まさか本当に池内だったとは。


「やはり池内真一が犯人か。そして、あの平野健一の息子が犯人だったとは」


 瀬田は拳を握り締めた。これ以上殺されてたまるか! 必ず捕まえてやる!


「で、あいつはどこに?」

「今さっき、サービスエリアを出て行きましたよ!」

「そ、そんな」


 あと少しの所で取り逃がすとは。早く追いかけて捕まえないと。


 川島はサービスエリアに向かっていた。すでに高速道路に入り、猛スピードでサービスエリアに向かっている。


 サービスエリアまであと10kmになった時、携帯電話が鳴った。また瀬田からだ。汗を切らしている。朝から忙しいようだ。


「警部は孝和を追ってください! あいつが池内真一なんです! 奴はサービスエリアを出て行きました!」


 やはり池内が犯人か。早く捕まえないと。これ以上殺人事件を犯してはいけない。


「やはりそうか! そっちも追うから瀬田も追え!」

「はい!」


 電話が切れた。だが、疑問に思う事がある。一体どこに行ったんだろう。それをつかまないと。


 川島は来る予定だった佐野サービスエリアを通り過ぎた。すでに警察は去っていて、大輔と幹江もそっちに向かっている。


 通り過ぎてしばらく進むと、携帯電話が鳴った。三津屋星児(みつやせいじ)という男だ。誰だろう。


「もしもし」

「川島さんですか?」


 三津屋はどこか慌てている様子だ。


「はい、そうですけど」

「わたくし、沢井インターチェンジの三津屋ですが、緑のランボルギーニが沢井インターチェンジで降りました!」


 緑のランボルギーニ・・・、きっと池内がそこで降りたんだ! 早くそっちに向かおう! そしてその事を瀬田にも伝えないと。


「そ、そうですか! ありがとうございます! そっちに向かいます!」


 電話が切れた。すると、川島はすぐに瀬田に電話をかけた。すでにサービスエリアを向かっていると思う。


 その少し先を走っている瀬田は、ランボルギーニの後を追うように高速道路を走っている。保護した大輔と幹江も乗っている。


 突然、電話が鳴った。川島からだ。瀬田は車を止め、電話をかけた。


「もしもし」

「川島です。池内の乗ったと思われるランボルギーニが沢井インターチェンジで降りたと情報がありました! そっちに向かいましょう!」


 瀬田は驚いた。ここで降りたとは。ならばそのインターチェンジから降りねば。


「そ、そうですか! ありがとう! 私もそっちに向かう!」


 瀬田は電話を切って、車に乗った。中にいる大輔と幹江は、何があったんだろうと動揺している。まさか、殺人だろうか?


「ど、どうしたんですか?」

「池内が沢井インターチェンジで降りたと連絡があった」

「どうしてあそこで・・・」


 岡崎は思った。共に過ごした沢井に何をしに行ったんだろう。まさか、また殺人を犯そうというんだろうか? 外は明るいのに。




 川島は沢井インターチェンジを降りて一般道に入った。インターチェンジは中心街から離れていて、林の中にある。中心街はまだ見えない。


 インターチェンジを出た川島はすぐ近くのコンビニに目をやった。そこには緑のランボルギーニがある。大輔の車だ。まさか、池内はここにいるんだろうか? 早く向かおう。


 川島はコンビニにやって来た。そこには瀬田もいる。大輔と幹江もいる。池内を逮捕したんだろうか?


「警部、インターチェンジ近くのコンビニで緑のランボルギーニを見つけました!」


 川島は下を向いた。捕まえられたと思ったら、逃げていたようだ。


「降りて逃走したか?」


 瀬田は息を切らしている。朝から犯人を追いかけて疲れていた。だが、捕まえなければならない。


「そうみたいだな」

「絶対逃さんぞ!」


 川島は拳を握り締めた。これ以上殺人は許せない。今すぐ逮捕しなければ。


 その頃、池内は別の車を盗んで走らせていた。その車はたまたまそこにいた同級生、山村信一郎(やまむらしんいちろう)の物だ。山村は手足を縛られて後部座席に横になっている。


「池内くん、あの時はごめんね! だから、もうやめて!」


 だが、池内はその話を聞いていないような態度だ。厳しい態度をして車を走らせている。


「うるさい! 殺してやる!」


 池内は沢井小学校に向かっている。当然そこで山村を殺すためだ。今日は休みだ。誰もいないはずだ。


 10分ほど走って、池内は沢井小学校にやって来た。外は徐々に明るくなってきた。辺りはまだ静かだ。


「さて、着いたぞ。ここがお前の墓場だ!」


 山村を引きずり下ろした池内はナイフを出した。そのナイフには血が付いている。池内はこのナイフで連続殺人をした。


「池内くん、お願い。元の池内くんに戻って。あの時の事は謝るから」

「殺すぞ!」


 それでも池内はナイフを突き立てる。もうだめだ。殺される。


 その時、女がやって来た。彼は池内の同級生で、池内を嫌っていた女の1人だ。今は過去の罪を改め、前向きに生きている。


「真一くん・・・」


 そこに、男もやって来た。彼も同級生で、池内を嫌っていた男だ。もう殺人を犯してほしくない。そして、警察に捕まってほしい。


「真ちゃん・・・」

「もうやめて・・・」


 女も願っている。だが、池内は気持ちを改めようとしない。山村を抑え込み、ナイフを首に突き付けている。


「ごめん大ちゃん、こんな事しちゃって」


 だが、ナイフを突きつけたまま、池内は桜の木の下に向かう。猪川はこの下で遺体になって発見された。


 その時、緑のランボルギーニがやって来た。運転しているのは大輔だ。助手席には幹江が乗っている。池内とその周りにいた人々は大きな排気音に気付き、そっちを向く。


 ドアが開くと、そこから大輔がやって来た。大輔は真剣な表情だ。あの時の優しい池内に戻ってほしい。もう人を殺さないでほしい。そして、罪を償ってほしい。


「真ちゃん・・・」


 大輔は優しそうな声だ。すると、池内の手から力が抜けた。友達の前では力が抜けてしまう。


「苦しかっただろう」


 大輔は池内を抱きしめた。あんなによく会っていたのに、まさか生き別れたと思った池内だったとは。池内は今までの厳しい表情が嘘のように優しい表情になった。池内は持っていたナイフを離した。


「大ちゃん、ごめんな」


 池内はいつの間にか泣いていた。こんな事をしてしまって本当にすまなかった。


「みんなごめん・・・、こんな事しちゃって・・・。俺、小学校の頃のいじめのせいで落ち込んでしまい、プロですぐ戦力外になってしまった。全部、みんなのせいだと思い、みんな殺してしまえばいいと思った」


 その時、川島と瀬田が乗ったパトカーがやって来た。池内はため息をついた。これから自分は刑務所に行って、罪を償いに行くんだ。これだけ殺人を犯したのだから、恐らく死刑になるだろう。死んだ同級生には申し訳ない。


 パトカーから川島と瀬田が出てきた。川島は手錠を持っている。これから逮捕するようだ。


「池内真一、連続殺人容疑で逮捕する!」

「ま、待ってください・・・」


 川島は池内に手錠をかけようとした。だが、大輔が止める。逮捕しようというのに、どうして止めるんだろう。


「どうしたんですか?」

「真ちゃんと最後のキャッチボールがしたいんです」


 大輔は思った。もう池内と会う事はないかもしれない。ならば、最後の思い出にキャッチボールをしよう。そして、いつまでも僕らの友情を忘れないようにしよう。


「い、いいでしょう・・・」


 川島は認めた。逮捕しようとしていたが、これは逆らえない。何も思い残すことなく刑務所に行きたいんだろう。


「ありがとうございました」


 大輔はランボルギーニの中から野球のボールを取り出した。すると、池内が構えた。見ていた彼らは、小学校時代の2人を思い出した。


 2人はキャッチボールを始めた。川島と瀬田もその様子をじっと見ている。川島はプロ野球選手だった大輔の姿を思い出した。まさか、大輔の投げる姿を生で見れるとは。


 キャッチボールをし終えると、山村が声をかけた。


「池内、みんなで卒業写真撮ろうか?」


 山村は思いついた。あの時、一緒に撮れなかった卒業写真を撮ろう。それを一生の思い出にしよう。すると、見ていたみんなもその言葉に反応した。彼らも写真を撮るようだ。


「う・・・、うん・・・。いいけど・・・」


 池内は少し戸惑っている。罪を犯したけれど、こんなことしてもいいんだろうか?


「そうしようそうしよう」


 池内は戸惑いつつ、桜の木の下に戻った。すると、みんなもそこに集まった。これからみんなで撮る事ができなかった集合写真だ。やっとみんなで撮れる。そう思うと、みんな笑顔になった。


「辛かっただろうに」


 川島は持ってきたデジタルカメラで彼らの集合写真を撮った。もう桜は散って、葉桜になってしまった。だけど、彼らの笑顔は満開だ。30年以上の時を経て、ようやく揃った。きっと殺された同級生も、天国で喜んでいるだろう。


 撮影が終わると、池内は1人1人で握手した。明日からは刑務所だ。もう会えなくなるだろう。死刑になるだろう。彼らと最後の思い出を作る事ができた。これで後悔することなく刑務所に行ける。

 だが、池内は後悔していた。自分は殺人というとんでもない事をしてしまった。もうみんな反省しているのに、どうして殺してしまったんだろう。


 川島は涙ながらに手錠をかけた。池内は下を向いて、涙を流している。池内はゆっくりと歩き、パトカーの後部座席に座った。同級生たちはその様子を見ている。


 池内を乗せたパトカーが走り出した。すると、池内は振り向いた。そこには同級生がいる。でも、もう会えない。そして、あの桜の木ももう見れない。あんなことをしなければもっと会えたのに。悔やんでももう過去は戻ってこない。


 やがて、同級生と桜の木は見えなくなった。池内は下を向き、小学校の頃を思い出した。苦しい事がいっぱいあったけど、そんな中で大輔と過ごした日々はとても楽しかった。だけど、もっとみんなと仲良くしたかったな。

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緑のスポーツカー 口羽龍 @ryo_kuchiba

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