前日譚
宮廷の庭園で、若い魔術師の男が膝を突き、まだあどけなさの残る少年の前に頭を垂れている。
「この度は、殿下に何とお礼を申し上げたらよろしいか……! このアフ・アカブ、殿下に危機が迫ったときは命を懸けてでも、必ずお力になって見せます。返し切れない御恩ではありますが、それでどうか、なにとぞ……!」
「そんなことを言うのはよせ。俺はただ友人のために侍医を向かわせただけだ。それ以上の意味はない。いいな? ほら、立て」
「ですが……」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「いいえ、そんなことは――」
思わず顔を上げて否定しようとしたアフ・アカブに、バラフ・ワク・ヨパート王子は微笑みかけた。
「そうだ。それでいい。お前の花嫁が待っている。彼女も病み上がりで心細いだろう。迎えにいってやれ」
ありがとうございます――。一礼して、アフ・アカブは走り去っていく。が、角を曲がって王宮の外に出る直前、再びこちらを向いて、震える声で叫んだ。
「チチュを、私の最愛の人を、助けてくださったこと、必ずこの御恩は返して見せます。私にとってはそれくらい、大きな、かけがえのないことだったのですから――」
王子は、しょうがないな、という風に笑って、答えた。
「そうか! なら楽しみにしているぞ! 立派な魔術師になって恩返しに来い!」
愚直で、手のかかる友人の背を見送ってから、王子は杯を持ち上げた。願わくば、彼とその愛する人の幸せが、いつまでも続きますように。そして、二人の幸せを最後まで見届けられますように――。飲み込んだ
銀の眼鏡と魔術師の碑 藤田桜 @24ta-sakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます