第49話 海上の作戦

 発動機の爆音が響いている。

 数多の航空機が整列し、一斉に発動機を回し始めたからだ。滑走路に勢ぞろいしているのはティターニア空軍とノーザンブリア空軍の精鋭たちだ。


 俺の機体は当然乗り慣れている一式戦だ。昨日搭乗したビーム砲搭載型になる。俺と同じ小隊に配置されたメンバーは五名。マリカと鰐石女史、髭面の水之上、そして悪役面のヤブサカと黒人のジェフリー・グラフだった。


 悪役面は元の機体メッサーシュミットBf109だったが、機首のモーターカノンがビーム砲に換装してあるらしい。またジェフリーの機体はP47だ。この機体は元々主翼に12・7ミリを八丁搭載しているのだが、外側の四丁がビーム砲に換装してある。


「アンタと一緒に飛べるとは思わなかったぜ。今日はとてもいい日だ」


 ジェフリーが握手を求めて来たので、俺も彼の手をがっちりと握る。


「よろしくな」

「こちらこそ」


 俺は小隊のメンバーを前に、今日の作戦について説明を始めた。


「現状、ティターニア空軍基地とその周辺、及び、オベロン市街は昆虫型機動兵器に制圧されたままだ」


 一同が頷いている。


「そこで我々は、ティターニア空軍基地を攻撃するとともに、そこへ戦力を補充していると思われる海上兵力への攻撃を行う。俺たち香月小隊の任務は先導機と攻撃機の護衛だ。主に低高度から侵入する雷撃機が対象で、作戦高度は1000メートル付近になる。ヤブサカとジェフリーは大丈夫だな」

「問題ねえよ」

「大丈夫だ」


 Bf109とP47は高高度域が得意な機体だが、もちろん低高度域でも優秀だ。しかし、俺たちの乗る日本機に対する優位性は無くなる。


「俺たちの任務はもう一つある。それは、敵艦船の中に異様な大型艦が存在するという目撃証言がある。その異様な大型艦をの映像を撮影する事だ」


 さっと手を上げたのが鰐石女史だった。


「その大型艦ってどのくらいの大きさなの? 米軍の空母より大きいの?」

「米空母の10倍程度はあるだろう。推定3000メートル以上だが、正確な数値は不明だ」

「だから写真が必要なのか」

「そういう事だ」

「そんなデカいのをどうやって沈める? 爆撃や雷撃で沈められるのか?」


 これは髭面の水の上だ。


「わからん。案外、乗り込んで制圧しろと命令されるかもな」

「白兵戦は俺たちの仕事じゃねえぜ」

「もちろんそうだ。しかし、何が起こるかはわからない」

「隊長。何が言いたいんだ?」

「個人的な意見なんだが、中にいる奴の顔が見たいんだよ」


 ヒュウと水の上が口笛を吹いた。


「なるほどなるほど。ここ最近出て来た昆虫型の機動兵器はどう考えても地球のモノじゃねえ。どこかの宇宙人が乗っているに違いねえからな」

「それも本当かどうかはわからない。今のところは想像するしかない」

「だよな。はははは」


 豪快に笑っている髭面だった。


「飛ぶのは十分後。南西方面に進出する。自分はその方面へ飛んだ事は無いが、広い海洋の戦場らしい」

「味方の艦隊はいるのか?」

「合流できるのは三日後だ」

「なるほど。写真は余計に必要だな」

「そういう事だ。俺たち戦闘機は攻撃機の後から離陸する。各員搭乗して待機しろ」


 メンバー全員が自分の機体へと走っていく。俺も一式戦の翼の上に飛び乗ってからコクピットに潜り込んだ。


 四発の重爆撃機、B29とランカスター爆音を上げながら飛び立っていく。その次に機銃を増設した重武装型のB29D型が続き、護衛の戦闘機、スピットファイアとP51、Bf109が飛び立った。これは高高度爆撃隊とその護衛だろう。次に双発の中型爆撃機、B25とB26、Ju88、四式重爆、百式重爆、そしてハリケーンとP40、Fw190Aの戦闘爆撃機隊。その護衛の零戦と紫電改、四式戦が飛び立っていく。総勢120機の大編隊だ。


 次は双発の攻撃機、銀河とボーファイター、単発の攻撃機、流星とアベンジャー、単発の急降下爆撃機、ドーントレスとヘルダイバー、彗星が離陸していく。


「香月小隊。上がるぞ」


 俺たち香月小隊の6機が離陸する。その後に護衛のF6FとF4Uが続き、さらに先導機のHe219と一〇〇式司偵が上がって来た。


 He219はそのまま高度を上げていき、爆撃隊の先導をする。俺たち低高度の雷撃隊を先導するのは一〇〇式司偵だ。


『香月隊は高度1000で新司偵に続け。ヘルキャット隊は高度1500を維持。雷撃隊は双発機が先行、単発機はその後に続け』


 レーダーを搭載している先導機が敵艦隊へと俺たちを導いてくれる。高度1000メートル。低高度だ。俺たちの任務はこの先導機の護衛という事だ。俺たちの500メートル上空には旋回性に優れたヘルキャットが12機。俺たちの後ろに双発の雷撃機、銀河とボーファイター。その後に流星とアベンジャーが続く。こちらも爆撃機を含めて120機の大所帯になる。


「なあ、隊長さんよ」

「何だ」

「あの一〇〇式は美しいな」

「そうだな」


 髭面が話しかけて来た。

 そう。アレは旧陸軍の最速機だ。戦略偵察専門に設計され運用された世界でも珍しい機種になる。段差のない滑らかな機種形状とそれにつながる流線形の胴体が特徴的で、世界で最も美しい軍用機の一つとされた機体だ。髭面が乗っている無骨な印象の二式複戦とはだいぶ趣きが違う。


「見惚れてぼんやりするんじゃないぞ」

「わかってるさ。しかし、海上の作戦は初めてだな」

「緊張しているのか?」

「まあな。今日は晴れているから、海の青と空の青を勘違いしなけりゃいいんだが」

「空間識失調は誰にでも起こりうる。計器のチェックを怠るな」


 水之上が心配するのも無理はないのかもしれない。今日は良く晴れており、雲一つない晴天だからだ。俺自身も、こんな環境で旋回を続けた場合に海と空を区別できるのかどうか。勘違いをした場合にどうすればよいのか。答えは単純で、計器を読み取りそれに従う事だ。しかし、そんな知識はあっても実際に行動できるかどうかは分からない。何せ俺自身経験がないからだ。

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蒼天の覇者 暗黒星雲 @darknebula

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