第48話 両性具有の奴隷
「そう……なの? ちょっと信じられないんだけど」
「私も信じられません。裏宇宙からの侵攻をここで防衛しているとばかり思っていました。もちろん管理者から、今、香月さんがおっしゃったアロストタリスからそのように聞かされていました」
俺は悪役面やニルヴァーナから聞いた事を包み隠さずに話した。二人は俺の話を聞き頷いていた。
「話をまとめると、超人類ってのは数億年も進んでいる先進文明の生き残りで、この宇宙の支配者階級。そして私たちのような先進文明においては文明を進化させたり戦争を起こして人口を調節したりしている」
「そうだ」
「そしてこのアルスでは、侵略や防衛という名目で戦わせているが、実際はゲーム感覚で興味本位。はっきり言えば遊んでいる」
「そういう事になるな」
「これは由々しき問題ね。カミラ、あんたそんな連中に奴隷のように扱われて平気だったの?」
「平気でした。猜疑心や反抗心というものは、恐らく事前に排除されていたのだと思います。マリカさんの健気な心に感銘した私は自分の環境に疑問を持つようになり、理不尽で非人道的な待遇であると気づきました。管理者に一矢報いてやりたいという気持ちを押さえられず、その為にはマリカさんを支援する事が近道だと悟りました。こんな理由で、私もこのアルスへと来たのです」
「そうだったな」
そうだったのか。突然、俺の給仕をすると申し出て来たカミラには戸惑ってしまったのだが、今なら彼の気持ちがよくわかる。
「ああ、カミラ。ちょっと聞きたいのだが、それなら何故マリカの給仕をしなかった? 俺に付くよりは彼女についていた方が目的に合致するのではないか?」
「それは……」
カミラは言い難そうに俯き、そして頬を赤く染める。その様をマリカが厳しい目線で睨みつける。
「カミラ。お前、本当は女なのか? 見た目では判別できないのだが」
カミラは首を横に振り、更に俯く。そしてボソリと呟いた。
「私は両性具有なのです。私たちはクローン技術により作られた存在なのですが、素体となった生物は人間に近い形状と知能を備えていました。それにいくつかの生物の遺伝子を組み合わせ、今の私たちのような形状へとデザインされたのです。性に関しては未分化の状態のまま成長します。本来は胎児の段階でどちらかの性へと成長するはずなのですが、それをしないように調整してあります。なので、性ホルモンを投与する事で男性か女性へと体が二次成長します」
「え? マジ??」
「そんな目で見ないで下さい。失礼だと思います」
カミラが上目遣いにマリカを睨む。マリカはバツが悪いと言った風に頭をボリボリと掻いた。
「ああ、悪かった。すまない」
マリカも頭を下げた。
「一つ聞きたいんだが、いいか?」
「はいどうぞ。香月さま」
「カミラ。君は将来男になりたいのか? それとも女になりたいのか? それは希望すれば叶えられるのか」
「理論上可能だという話なのです。私たちの中で、実際に二次成長して男性か女性となった例を知りません。私たちは性欲も無く生殖とも無縁です。本来はそうして生命を後世へと受け継いでいくものだと思います。しかし、私たちはその道さえ閉ざされているのです」
「そうだな。俺の質問の答えは?」
「失礼しました。私は女性の体となって男性に愛されてみたい。そして生命を受け継いで繋いでいく存在になりたいのです」
「わかったよ。先の事はわからないが、君がそうなれるように協力しよう」
俺の言葉に対してカミラは頬を染めて見つめてくるし、マリカは露骨に睨みつけて来た。こんな女にもなっていないカミラに嫉妬しているのか。いや、日頃からライバル視しているし何かと競い合っている。コレは同姓として意識しているって事になるのだろう。しかし、ニルヴァーナの「彼で良い」はいい加減な指摘だったと思う。
その後、カミラとマリカを部屋から追い出してから、ひと眠りした。滑走路からは航空機が飛び立つ爆音がひっきりなしに聞こえてくるが、そんな音で俺の睡眠欲を妨げる事は出来ない。今はティターニアの勢力とノーザンブリアの勢力が合同で、ティターニア空軍基地に進出して来た昆虫型兵器と戦っているらしい。
午後からは軽くジョギングをした。爆音が響く滑走路脇の広場を走るのだが、あの悪役面のに見つかってしまった。
「よう、元気そうじゃねえか」
「当たり前だ。明朝の作戦に参加するから体をほぐしているところだよ」
「生身は大変だよな」
「そうかもしれないが、お前の体はどうなんだ? 義体はメンテが大変なんじゃないか? 油をささなきゃ作動不良を起こすだろ?」
「そんなヤワじゃねえよ。本体も基本的に動かさないものだ」
義体はメンテナンスフリーで、本体の水晶人形もじっとしていても体が固まる事は無いらしい。
「ところで、ニルヴァーナ司令の事は知っていたのか?」
「当然だが、何か?」
「同郷の者が敵味方に分かれて戦うのだから、何か忌避的な感情があるのかと思っていた」
「そんなものはない」
あっけらかんとしている。
「それはニルヴァーナも同じだろうよ。鉱物系は基本的に死なない。だから、ゲーム感覚で楽しんでいるって事さ。俺は一PCとして、ニルヴァーナは司令官としてな」
「死なないなんて、不公平じゃないか」
「ははは。俺は不公平とは思わないぞ。俺たちには転生輪廻がない。つまり、惑星が滅びるまでこのまんまって事さ。だからお前たちのように輪廻する種族が羨ましいとさえ思う。エキサイティングじゃないか」
死なない種族が輪廻を羨ましい……だと?
「まあまあ、複雑な事を考えるな。要は隣の芝が青いって事さ」
「そういう言い方もあるかな」
「ある。明日は一緒に飛ぶからな。楽しい飛行になりそうだぜ」
死なない水晶人形が明日の作戦を心待ちにしている。どんな作戦なのか。誰と、どの陣営と戦うのか。それとなく尋ねてもはぐらかされた。この悪役面は、ニルヴァーナ司令の作戦を事前に知っているとしか思えなかった。
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