第47話 超人類への反抗
「そうそう、そのアロストタリスに直接支配され、奴隷のように使役されている階層もあるんだ」
「本当に?」
「ああ、お前の給仕をしているカミラがそうだ」
「あの少年……いや少年かどうか、年齢も不詳で性別もわからない」
「まあ、あいつは彼で良いと思う。彼はいわゆる人造人間だ」
「人造人間? 機械には見えないが?」
「機械部品は一切使用されていない。生体パーツで構成されたサイボーグと考えたらわかりやすいかもしれない。そして彼の意識すら人工物だ」
「意識も人工物だと? まさか、人工的な魂なのか?」
「その通りだ。人工とはいうものの、無から生み出されたものではない。この宇宙には低レベルな意識が普遍的に存在している。惑星上ではそのレベルが比較的高いと言える。その比較的高いレベルの意識、簡単に言うなら植物などから集めた意識体を人間のレベルまで引き上げたものだ」
「植物にも意識があるのか?」
「私にだって知性はあるのだぞ。植物に意識があると考える方が妥当だと思うが」
言われてみればその通りだ。目の前にいる淡く輝く紅玉の人形が喋っているだけで、何でも正当化できそうな気はする。
「動物の意識を使うのは?」
「動物となると、自己保存の欲求が高くなって奴隷には向かない。意外と粗暴になり反乱を起こしたりするらしいな」
「え? まさか、動物を進化させて知的生命体を創造した例があるのか?」
「もちろんだ。全てではないが、一部の知的生命体は超人類が遺伝子操作をして人為的に進化させたものだ」
「それは本当なのか?」
「もちろんだ。まあ、猿を改造して人に仕立てている訳だから、自らを神として崇めさせていても仕方は無かろう。傍から見れば、自己満足に浸っている卑しい精神性だと思うがな」
「それでも文明としては数億年は進んでいるのか?」
「そういう事だ」
「そんな奴らに一泡吹かせたいと」
「そう。そして、この無意味な戦争を終わらせたい。実際の所、連中の遊びに付き合わされて数多くの人命が失われている」
確かにその通りだ。ここで戦っている兵士は全て、故郷を守るために見えない侵略者と戦い続けているのだ。しかも、それが茶番なのだとしたら戦っている部隊は全て反抗するはずだ。
しかし問題はある。俺たちすべてが反旗を翻したとしても、連中に勝てるかどうか。相手は数億年も先を行く文明をもつ超人類だ。
「そう。問題はそこ」
「わかっているのか」
「もちろんだ。不確定要素は多い」
「勝てるのか?」
「そんな保証はないが、やるしかない。有効だと思われる作戦は立ててある」
「どんな?」
「今は教えない」
上手くはぐらかされた格好になるが、機密の漏洩を避けるためには仕方がない。心の声を聴ける能力を持つ者が、ニルヴァーナ司令の他にいないとは限らないからだ。
「明日は飛んでもらうぞ。0600。精々生き残ってくれ」
「ああ」
明日は厳しい戦いになる、そして今日はゆっくり休めと、そういう事なのだろう。
俺は目の前の食事を片付けてから司令の執務室を後にした。律儀にも、外で待っていたのはマリカとカミラだった。
「香月さま。お食事はお済ですか? お風呂の準備は整っております」
「アンタには司令のお世話。朝食の片づけもあるでしょ?」
「え、あっ」
「さっさと動きなさいよ」
マリカがバシッとカミラの尻を叩いた。カミラはその痛みに顔を歪めながらニルヴァーナ司令の執務室へと入ろうとしていた。
ドアをノックする前に俺が彼を呼び止めた。
「カミラ。用事が済んだら俺の部屋に来い。わかったな」
「はい!」
「えええ?」
カミラは笑顔で振り向き、マリカは眉間にしわを寄せて俺を睨みつけた。
「部屋に戻る。君も来るか?」
「もちろんよ。案内しないと分からないでしょ」
「そうだったな」
マリカに手を引かれ赴いたのは、事務棟とは別棟だったが、兵舎というにはあまりにも立派な建物だった。エレベーターを使って5階に登り、奥まった所のある部屋だった。
「さあ、ここが祐の部屋。私物はティターニアから持って来てあるわよ。オートバイも」
「そうだったのか。ありがとう。落ち着いたらちょっと走りたい」
「後ろに乗せてくれる?」
「あ……」
俺の返も待たずにマリカは抱き付いて来た。豊満な胸元と腰を俺にこすり付け唇を重ねる。俺も彼女をきつく抱きしめ、直ぐに舌を絡める熱いキスをかわした。しばらく抱き合っていたのだが、彼女はかなり欲情していた。女の香りが強く漂ってきたのだが、俺はそれを無視してマリカをベッドに座らせた。
「ねえ、抱いてくれないの?」
「今はな。明日は大事な作戦があるらしい」
「聞いてないんだけど」
「0600だ。そのうち伝達がくるさ」
「そう。ところで、どうしてカミラを呼んだの? 二人でゆっくりできたのに」
「それは、二人に話しておきたい事があったからだ」
「何の事?」
「俺がノーザンブリア陣営で聞いた話だ。そして、それが事実だと先ほどニルヴァーナ司令から聞いた」
マリカにも興味があったのだろう。彼女は真剣な目つきで俺を見つめた。ちょうどその時ドアがノックされた。カミラを招き入れた俺は、二人を前に例の話を始めた。このアルスを支配している超人類に対して反抗し、この戦争を終わらせるための方法についてを。
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