第55話 すべてが終わり、また始まる
「おい、それはどう言うことだ?」
「まあまあそんな怖い顔しないで。別にそうしたくてしてるわけじゃ無いから」
「そうなのか……?」
「うん。正確には、このまま君たちを地上に戻すとまた新たな魔王が生まれてしまうからだね」
確かに元はと言えば魔王と勇者が本来の役割を遂行出来なくなった時に新たな魔王が生まれるシステムによって、新たなる魔王ディアウスが生まれたのが事の発端だ。であれば、このまま地上に戻ればまた新たな魔王が生まれてしまうというのは理解できる。そうなったらまた同じような戦いをしなければならなくなる可能性がある。
ではどうすれば良いのか。このまま天界に居続けると言うわけでもあるまい。
「君たちの姿を見ていると、魔王と勇者が争う必要性について違和感が出てきてしまったよ」
「……え?」
「君たちの関係性には尊さがある。それを無理に引き離すシステムなど価値があるのだろうか」
「何を言っているんだ?」
この神、我ら側へと寝返った神の使いイータと同じような事を言い始めた。
「元々は魔王が消滅したら次の魔王が生まれるようになっていたんだ。でもどこかの時代の勇者が魔王を洗脳して世界を征服しようとしてね。その対策として作り出したシステムなんだけど、また元に戻そうと思う」
「良いのか? また似たようなことが起こるかもしれないぜ?」
「その時はその時だよ」
随分と楽観的な神だが本当に大丈夫なのだろうか。しかし我らに取って都合の良い方にシステムを変更してくれると言うのであればそれに越したことは無い。
「じゃあ僕は早速システムを変更するよ。あと、海神……アンタがその気ならまた天界に戻ってきてくれないか? 天界はどうやら深刻な人手不足になってしまったようだからね」
「なんじゃと? だがまあ、また天界に戻るのも悪くはないかの」
「今度はあまり変なことは起こさないでくれよ?」
「失礼な。以前だって許可は取っておったぞ?」
神と海神は軽く言い合いを続けながら塔の中心部へと向かって行った。それに続いて天界四天王もついていったため、この場には我とアリサ、そして国王の3人だけとなった。
「魔王ディアベルよ。我はもうそう長くはない。親としてやってやれたことは少ないが、それでもお主の事を思わなかった日は無い。どうか我を許してはくれないだろうか」
謝罪の言葉と共に深々と頭を下げる国王。
「頭を上げよ人族の王……いや、父上よ。我はこうして立派に育った。それも貴様が我が父上の先代魔王のことを大事に思っていたからこそであろう。もう悔いることは無いのだ」
「……ディアベル」
「あ、そうだ。さっきの神の言葉を聞いて思ったんだよな。魔王が役目を失ったときに新たな魔王が生まれるんだったら、ディアウスがいるってことはディアベルはどこかのタイミングで完全に私に堕ちたってことで良いんだよな?」
「そ、そうなるな……」
「なあなあ、完全に堕ちてしまった気分はどうだ? 恋はするもんじゃなくて堕ちるものって気分わかったか?」
アリサに詰め寄られると同時に、その言葉の意味を深く理解した。ディアウスの存在はそれそのものが我がアリサに堕ちていることを証明してしまっているのだ。途端に顔中が熱を持つ。恐らく今の我の顔はどんな火属性魔法よりも赤い。
「赤くなってる。やっぱりそうなんだな」
にやりと笑うアリサ。戦いが終わったことによる緊張感の喪失によるものか、普段よりも幾分かアリサが輝いて見える。
「なあ、このままキス……しても良いか?」
「奇遇だな、我もそう思っていた」
我とアリサは互いに唇を近づけキスをしようとした。
「システムの変更が終わったから地上に戻れるよ……ってうぉぉ!?」
やることを終えた神がやってきた。
「あっえっやめてしまうのかい!?」
「見られている中ではちょっとな……」
しかしこれで地上に戻ることが出来る。人族との休戦の終了や魔族領内の再建などやることは多い。少しでも早く戻ってやるべきことをしなければ。
「うっ……これでもう会うことは無いのかの。もっとイチャイチャしておけば良かったのじゃ……」
「そういうこと言っているから心配なんだよ」
「ハクとシエルも気をつけておくんだ。彼女には極力近づかない方が良い」
「わかった」
「わかったわ」
「そんなぁぁ酷いのじゃぁ」
ゼロはハクとシエルにそう注意を促した。それだけ海神は天界で目を付けられている要注意人物だったのだろう。
「これで最後になるね。僕たちは基本的に地上には干渉できない。でも今回みたいな緊急事態が起こったら、その時はまた会えるかもしれない。まあ、そんなことは無い方が良いんだけどね」
「そうだな。このようなことは無い方が良い。だが、もしまた会うことがあったらその時はまたよろしく頼む」
こうして戦いは終わり、我らは神の力によって地上へと戻ってきた。国王は直接人族の街ノカワンタへと送られたようで、魔族領付近に戻って来たのは我とアリサの2人だ。
「ま、魔王様ァァ!!」
「うおぁっアリス!?」
涙目のアリスが急に抱き着いてくるものだから体勢を崩しそうになる。が、アリサがやさしく支えてくれたため倒れずに済む。その光景を見てアリスは目に見えて嫉妬のような表情を浮かべた。
「どうせ私なんて……」
「そうむっとするな。心配してくれていたのだろう? ありがとうな」
「ぅあっぇっ!?」
感謝の言葉を述べ、アリスの頭を撫でる。今までに聞いたことの無い声と表情でアリスはふにゃふにゃと動く。正直可愛いくはある。もっとも恋愛的な意味では無く、大事な部下としてではあるが。だがまあ、これは言わない方が良いだろう。
「さて、これから忙しくなる。魔族領の復興もしないと行けない。それに共通の敵を失った今、また人族との戦いが始まる。一刻も早く元の状態に戻さないといけないな」
「わかったわ魔王様!」
「あと、盗撮の件は忘れていないから覚悟しておくのだぞ」
「あ……」
目を泳がせるアリス。きっとこのまま無かったことにしようと思っていたのだろう。今後のことも考えながら、じっくりと罰を考えることとしよう。
翌日からは多忙な日々が始まった。
神スライムや神の使い、反乱軍によって発生した被害を復旧を進めながら人族との戦いに備えて軍備の拡大も行う。人族側もこの騒動によって被害を被っていたようですぐに進行してくるわけでは無かったのが救いだ。
そして合間を見て、国王から伝えられたエレナの墓へと向かう。勇者の墓と言うこともあり立派なものであった。人の勇者の死を悲しむなど、魔王としては良くないのかもしれない。だが、共に戦った同胞であることに変わりはない。我は今後も彼女の事を忘れることは無いだろう。
「これで本当に、終わったんだな」
「神との戦いはな。でも、私たちはまだまだこれからだろ?」
「……そうだな」
魔王ディアウスとの戦いは終わった。しかし魔族と人族との戦いはまだまだ終わらないだろう。そして我とアリサの関係もまだまだこれからなのだ。
「これからも共に居てくれるか、アリサよ」
「当然だろ。むしろ……」
アリサは首に手を回し無理やり顔を近づけさせる。
「ディアベル、アンタが私についてくるんだぜ?」
凛々しい表情。長いまつ毛。ぱっちりとした目に宿る鋭い眼光。やはり何度見てもアリサは美しい。我が惚れただけのことはある。そして何より、このグイグイくる性格が良い。これまで魔王に対しそのような態度をとる者はいなかった。だからこそアリサのこの性格に、我は堕とされたのだ。
「アリサ、好きだ」
「私もだぜディアベル」
戦いの日々は終わらない。
我とアリサの禁断の関係は、これからいつまでも続いていく。
しかしそれでも、我とアリサであればどんな困難にでも向かって行けるはずだ。
二人の愛に、種族や立場の壁なんて関係無いのだから。
女魔王、攻め込んできた勇者に殺されると思いきや堕とされてしまう END
女魔王、攻め込んできた勇者に殺されると思いきや堕とされてしまう 遠野紫 @mizu_yokan
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