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  • 春川晴人🌞です。よろしくお願いします。

    🌞 🌞 🌞

    知らない番号からスマホに電話がかかってきた。

    「もしもし?」

    とりあえず出た。彼女かもしれないから。ゴンがおれの脇腹に頭を擦り寄せてくる。

    『もっしー? あたし!』

    アスカだっ!!!

    「おまっ、どこ行って!?」
    『今、きみんちの玄関前なんだけど、開けてくれないかな?』

    はっ? もつれた頭で玄関を開けると、大荷物の彼女が笑っていた。

    「この前、賞味期限切れそうだからカニ缶使ったじゃない? そうしたら本物のカニ食べたくなっちゃって。ちょっと採ってきた」
    「は? じゃあ、スマホは?」
    「あれは、支払い用紙が来てたの忘れてて。てへっ」

    よかった。

    「もしかして、心配してくれてたの?」
    「ったりめぇだ。よし、買い出し行くぞ」
    「なになに?」
    「お祝いにちらし寿司作ってやる。そのカニも使ってな」
    「わーおっ! ゴンには悪いけど、お留守番ね」

    そうして商店街をてくてく歩く。もう、あんな思いしたくない。食材を吟味しながら、おれはアスカと手を繋いだ。一瞬のためらいの後、繋ぎ返される強い力にようやく安堵する。

    さてさて。ちらし寿司と言えば新鮮な卵。今日は高いやつ。彼女がいなくなってから、地道に克服したにんじん、ピーマン、レンコン、サヤエンドウ、それからエビな。シンプルだけど、たくさんのカニを使った豪華なちらし寿司が作れるぜぃ。

    帰ってきてまず、彼女がカニをゆでる。その横でおれは味付けしてない錦糸卵を作る。ゴンのドライフードの上に、しっかり火の通った錦糸卵をパラパラとちらし、その上にカニの足を少しだけちらした。

    「よしっ」

    おれのかけ声でゴンの特性晩御飯をがっついている。

    ご飯が炊けるまでの間に、具材の下処理をしながらカニをつまみ食い。

    「なぁ、さっきカニ採ってきたって言ってなかった?」
    「言ったよ。漁船に乗せてもらったもん。お手伝いしたもん」

    食に対する彼女の気持ちを見習わなくては。母親が出て行ったくらいで食べ物を嫌いになるなんて、馬鹿馬鹿しい。うん、今はそう思えるから。

    炊けたご飯を切るようにお酢をまぶす。アスカが隣でうちわを仰ぐ。

    「なぁ、おれたち、結婚しない? ってか、結婚を前提におつきあいしてください」
    「順番が逆だよぉ」

    そう言った彼女は涙目で酢飯を口に運んだ。

    「おっけ。お酢はこのくらいと、あと、結婚を前提におつきあいしてもいいかな?」

    やたっ!!

    そうして、この日食べたちらし寿司の味を、おれたちはいつまでも覚えていることだろう。

    つづく、かな?

  • 🐤小烏つむぎです🐤

    今回のモデルは、江戸末期「四大道場」に数えられた伊庭家「錬武館」の兄妹です。
    今回も前半に加筆していますので、前半からお読みいただけると嬉しいです。

    🐤後半チラ見せ

     兄様《あにさま》との外出も久方ぶりです。
    今日のお召し物は紺地に薄青の立涌柄の単《ひとえ》に袴姿。月代も青々と剃りあげて涼しげなお姿です。いつもはサッサと大股で歩かれるのに、今日は私《わたくし》に合わせて歩幅も小さくゆっくりと歩いてくださっています。
    そういえば兄様が元服なさる前から、連れだって歩くことはもうなかったと思い出しました。それが今日は、兄様の後ろをついて歩けるのです。すっかり逞しくなられた後ろ姿に、あぁ男の方だと改めて思いました。


    🐤前半RLがこちらです。

    https://kakuyomu.jp/my/works/16816927862577875744/episodes/16816927863275251988


  • 編集済

    「ほほう。ここでいつも買い物をしているんですか」
    「はい、まあ。ここが場所も値段も手ごろなので」

     隣を歩く青年は何故か感心したように呟いた。わたしたちは近隣にある大型スーパーマーケットにきたところだ。
     この一見すると上品な雰囲気の若者は実は大黒様の化身である。数か月前にあるきっかけで彼と出会ったわたしはなんとかそのご利益を得ようと居ついてもらうように食事をご馳走してはさりげなく願いを叶えてもらおうと企んでいたもののその目論見は今のところ失敗している。

     ただし最近は私から声をかけてもいないのについてきたり、家の前で待っていて上がり込んで一日、二日滞在しては去っていくという、さながら「お腹がすいたときだけ餌をもらいにくる野良猫」のような有様だ。
     今日の彼は渋めの黒の着流しを纏っていた。さらに腰には紺色の帯を締めて、足には足袋と雪駄を履いている。和風の気分ということなのだろうか。ちらし寿司なんて和食のメニューを注文してきたのもそういえば初めてだ。

     彼のリクエストに合わせて食材を買いに来たものの、わたしは作り慣れない苦手なメニューに少々悩んでいた。

    「どうかしました?」
     福の神の化身である青年はカートに買い物かごを乗せながら眉をしかめているわたしを不審そうに見る。

    「いや、その。……実はちらし寿司って苦手なんですよ。子供の頃にひな祭りで親に作ってもらったんですが。あの『酢飯』を松茸御飯やタケノコご飯と同じ感覚で食べるのが慣れなくて。美味しく食べられなかったんです」

     結局残してしまい、母親に嫌な顔をされた思い出だ。海老やレンコン、まめといった具材も子供の時分は美味しく思えなかったというのもある。大人になった今では普通に食べられるが進んで食べようと思うほど好きではないのだった。

    「そういうことなら、自分でも食べたいと思うように目先を変えてみたらどうでしょう。」
    「変えると言っても、具材を変えたら『ちらし寿司』ではなくなってしまうんじゃ……」

     いや、待てよ。既に存在するものに新しい要素を加えるのは新しいメニューを作るときの基本ではないか。

     そもそも「ちらし寿司」とは何か?

     元々は中世以前にお祝いの時に食べられていた「なれずし」が江戸時代に匂いが少ない「ばら寿司」に変わり、それが見た目が華やかな「ちらし寿司」になったはずだ。

     それでは海老にレンコン、まめといった具材は必須なのか?

     確か「海老」は背中が丸くなるまで生きる、レンコンは「先を見通す」、まめは「健康でまめに働ける」という縁起を担いだものだ。
     つまり、めでたくて何かを御飯の上に散らしていれば「ちらし寿司」と言ってもいいのではないだろうか。私は考え込みながらも参考になる意見が聞きたくて彼に尋ねる。

    「何か好きな食べ物はありますか?」
    「え? 急に言われても。……おや、あれは何ですか」

     彼の目線の先には黒くてつやつやした丸い果実が積まれていた。


     家に戻ってきたわたしはキッチンに立って調理を始める。彼はいつものように食卓の席に座って待っていた。

    「それじゃあ、初めて作るのでどんなものが出来上がっても文句は言わないでくださいね」
    「ただで食べさせてもらって文句は言いませんとも」

     カレーの時に牛肉に文句言っていたじゃねえか。そもそも既にただ食いのつもりなのか。
     心の中で呟きながらもわたしは料理に取り掛かる。


     
     まず卵を白身と黄身にわけて二色の炒り卵を作る。

     そして豚肉の薄切りを玉ねぎ少量とソテーして調味料で味付けし、食べやすいようにある程度細かく包丁で切る。さらにアボカドの皮をむいてこちらは小さく角切りにする。
     
     そして昆布だしを少量入れた御飯に刻んだ豚肉を混ぜて、アボカドと卵を上から散らせば出来上がりである。

     豚はたくさん子供を産む生き物ということで西洋では子孫繁栄の象徴だ。
     二色の卵は「錦」、高級な織物にちなんでおめでたいものとされている。
     アボカドは本人の希望だから取り入れたものだが、水分と土地の栄養分を大量に消費して生育し、しかも栄養価も高いということで大地の実りの象徴として縁起物扱いしてもいいのではないだろうか。

    「できました。どうぞ」
    「これは……、洋風ちらし寿司ですね。それでは早速」
     彼はふむ、と頷いてから箸で色鮮やかなアレンジちらし寿司をつまんで口に入れた。わたしも食卓に着いて黄色と白の炒り卵と豚肉が混ぜられたご飯を口に運ぶ。

     豚肉はオリーブオイルで炒め、赤ワインや日本酒、トマトピューレにコンソメで味付けしてある。その調味料が豚肉のうまみと絡み合ってお米をさらに食べたくさせる。

     味付けは若干濃いめにしたが、砂糖で味付けしたそぼろ状の卵焼きがふんわりと口の中で広がるので辛すぎるということはない。またアクセントとして加えたアボカドは口の中で爽やかにとろけて食べていて飽きない。

     料理としての完成度で見ると改善の余地はあるが、家庭料理としては及第点だろう。目の前の青年もかすかに笑みを浮かべて口を開く。

    「エスニックで和食なのに洋風らしさもあって面白い味です」
    「それはどうも」
    「それに豚肉もどこかフルーティーな酸味があって生臭くない」
     すしなのに「酢」を使わないのはどうかな、と思ってバルサミコ酢を隠し味に少々入れたのだが気が付いたのだろうか。大したものだ。

     ほぼ食べ終わったところでわたしは「こほん」と咳払いをしてさりげない様子を装って話しかける。

    「縁起物として豚肉を使ってみました。豚という生き物が多産なのもありますが、豚自体が西洋では金運の象徴なんですよ。貯金箱のデザインにも使われているでしょう」
    「ああ、確かに」
    「『金運』、そう。『金運』の象徴なんです。『金運』」とわたしは念を押すように重ねてから、さらに続ける。
    「二色の卵はおめでたい錦とかけてみました。めでたい時には錦の旗を揚げるものですから。そう。錦の旗を『揚げて』。『揚げて』お祝いするものなんです。『あげて』ね」
    「……そ、そうですか」
    「アボカドはそれ自体は謂れはないですが中央アメリカ原産の食べ物で、現在でもメキシコ産のものが輸入されているそうです。実に『長大な』距離を渡って日本にきているわけですね。『長大な』。『長大な』。実に『ちょうだいな』」

     わたしはまだ彼のご利益にあやかることを諦めてはいなかった。そこで今度こそ彼に金運を上げてもらうべく無意識下に呼びかけて頼みやすい空気を作ることにしたのだ。

    『金運』『あげて』『ちょうだいな』
     このフレーズをサブリミナル効果のごとく繰り返し聞かせて刷り込めば、いかに鈍感な福の神と言えど「金運を上げて儲けさせてあげようかな」という気持ちになってくるのではないか。だが、わたしの内心とは裏腹に彼は興味が薄そうだった。

     しょうがない。もう一度、豚の話からこの話題を繰り返すか。わたしがそう考えたとき「ところで」と彼が急に話を切り出してきた。
    「……何ですか」
    「前に店を再起させるための資本金を貯めていると聞きましたが、どれくらい貯まっているんです?」
    「えっ」
     自分から話しかけようとしたときに逆に話題を振られてわたしは戸惑う。
    「……そ、そうですね。地方都市の駅前あたりで土地を借りて店を経営するにしても建物の工事と一年間の人件費、光熱水量と食材などの費用を概算して八百万は必要ですが」
     だが今のわたしの収入では月に十万貯めるのでも精いっぱいだ。
    「今の時点では二百万しか貯金できていないので、……あと五年はかかりますね」

     急に現実を突きつけられて暗澹たる気持ちになる。五年かけて料理人として再起できたとして、それから店が軌道に乗るのにどれくらいかかるだろう。一流の店と呼ばれるようになってわたしを見捨てて行った従業員や馬鹿にした商売仇たちを見返してやりたいとも思っていたがそれは叶うのだろうか。

    「元気を出してください。あなたの料理の味は私が保証しますから」
    「はあ。どうも」
    「今日は珍しいものが食べられて満足です。また、遊びに来ますよ」
    「え、……ちょっと。待って」

     はっとしたわたしは呼び止めようとしたが、気が付くと彼はまたも姿を消している。

     わたしは内心で臍を噛む。金運を上げてもらう話をするつもりだったのに、つい気を散らされて忘れてしまった。あれ? いや待てよ?

    「……そもそも向こうからお店の資本金の話を振ってきてくれたんだから、そこで素直にお願いすればよかったじゃないか」

     後悔しても、時すでにおすし。心の中で呟きながら目の前に残ったちらし寿司を見て私は肩を落とした。

    ❄️ ❄️ ❄️

    ❄️雪世明良です。よろしくお願いします。

  • ☆☆☆愛宕☆☆☆

     そんなわけで、俺は関川くんと一緒に『角上魚類』へ来ている。
     都内でも人気のお魚専門店、もはや魚市場と言っても過言ではない。新潟の寺泊を本拠とし、そこから鮮度抜群な魚が日々送られてくるこの店は、平日も休日も関係無く、多くのお客さんが新鮮な魚を求めてやってくる。そんな活気ある店内に、俺の魚群探知機にもスイッチが入った。

    「ほら、見てみなよ。サザエが大きいなぁ」
    「こっちはカニかぁ。まだ、泡吹いてる」
    「この豆アジ、一盛りでこの値段!? 安いなぁ」

     まずお目にかかったのは、捌く前の魚介類が並ぶエリアだった。壁際では魚が一匹丸ごとの状態で売られていて、頼めば奥に控える板さんが三枚におろしてくれる。今日はメバルと太刀魚がオススメのようだ。
     関川くんは、元料理人の雰囲気など微塵も無く、ズラリと並ぶ魚介類を前にあれやこれやと悩んでいた。俺が「ちらし寿司」と、食べたいものを紙に書いてしまったからだろうか。具材をどうするか、大いに悩んでいる様子だった。

     ちらし寿司っていうのは、その時に食べたい魚をメインに、ちゃちゃっと散らせばいいんだよ。悩む必要なんかはない、関川くんの作る料理は抜群なんだから、考えるまでもなく感じたままに作ってくれればいいのだが……今回ばかりは、そうもいかない雰囲気だぞ。


     いかん、魚ばかり見ていたら……腹が……減ってきた。


     よし、ここは俺が決めるとしよう。
     魚一匹まるごとコーナーで悩む関川くんを置いて、俺は寿司や刺身が並ぶエリアへと急いだ。俺の行動に気付いた関川くんが「あ、はぐれちゃダメだよ」と背中越しに叫んでいる。構うものか、俺の食いたいちらし寿司は、そこには無いんだよ。

     マグロ、ハマチ、アジ、イカ、どれも綺麗に処理されて美味そうじゃないか。それぞれを買ってぶつ切りにして、好きなだけ寿司桶に放り込むのも悪くない。ウニやイクラも魅力的だけど、ここは単品コーナーをスルー。寿司となって販売されているところが本命だ。

    「勝手に走り回っちゃ迷子になっちゃうよ。ん? これ?」

     俺は無言で頷いて、手にした丼状のパックを関川くんへ突き出した。それは『角上魚類』オリジナルの、ここでしか買えない「特製ばらちらし」だった。
     マグロ、タイ、ハマチ、イカ、サーモン、数の子、イクラなどなど、旬の素材がご飯を隠すほどに埋め尽くされた、極上のちらし寿司だ。これを食べずして、『角上魚類』は語れない。

    「これでいいのかい? 僕がちゃんとしたものを作ってあげようと思ったのになぁ」

     俺は強い眼差しで頷き、関川くんのやる気を散らした。俺が喋れるなら、彼にはこう言ってあげたい。


     ――こういうので、いいんだよ。


     五郎さんも、きっとこう言うだろう。気取らず飾らず、あるがままの素材で好きなように盛り付けたものが、本当に可愛らしい「ちらし寿司」なのだ――。

  • 🍷出っぱなしです。

    よろしくお願いします。

    🍷🍷🍷

    「ウニャー!」



     タマは、物思いにふけっていたわたしを見上げて毛を逆立たせる。

     一緒に買い物に行こうと言っておきながら、相手にされていなくて拗ねてしまったようだ。



    「ああ、すまない、タマ。お詫びにジュースも買おう」

    「ニャン!」



     わたしがタマの頭の上にポンと手を置くと、ニャンとも良い笑顔が帰ってきた。



     さて、文明が崩壊したとはいえ、人々は意外と逞しい。

     変態の館内では文明の利器が生きているし、周辺も城下町のようにそれなりに機能している。

     これから買い物に向かうのは、近所のスーパー、というよりも闇市のような露店だ。



     理想通りではなかったが、それなりに食材を揃えることができた。

     背伸びしたいタマは甘酒、わたしはお手軽白ワインも手に入れた。



     館に戻り、早速調理開始だ。

     タマは興味津々に目を輝かせて、わたしの料理を見ている。



     買い物に行く前に炊いておいた米をボウルに入れ、すし酢を加えたら、しゃもじで切るようにかき混ぜる。

     

     次に、漬けマグロを仕込む。



     柵取りされた赤身の直方体を熱湯にサッと通す。

     表面の色が変わったらすぐに取り出し、氷水にブチ込む。

     この作業を霜降りといい、素材の臭みをとって、旨みを逃がさないようにするための下ごしらえのことだ。



     キッチンペーパーで水気を切ったら、刺し身サイズにそぎ切りにし、しょうゆと白ワインをブレンドしたタレの中に漬け込む。

     本来は酒だが、ワインの方が酸味が強いのでスッキリした味わいになると思う。

    🍷🍷🍷


    続きはこちらです。

    『飯テロリスト関川様、ネコ耳を拾う』

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862486888667/episodes/16816927863275513761

  • こんばんは。
    お気づきかもしれませんが、そして些細なことですが、毎度視点が変わります。
    さて、今回は『誰』の視点でしょうね。


    🍏🍏🍏
     朝起きて『おはよう』のあいさつをするのは、いつものことだ。どんな風にあいさつしているか?
     それは想像に任せる。

     朝ごはんを作ってもらうのも「今日の晩御飯はなに?」なんて聞くのも、もはや日課と言えるけれど、「なにが食べたい?」と聞かれたのは初めてだ。
     迷いはしなかった。

    『ちらし寿司』

     「なかなか渋いリクエストだね」とフルクは怯んでいるようだったが、寿司よりはハードルが低いだろ。いや、むしろ高いか? どの程度本格的に作るかにもよる。そもそもこの山に囲まれた土地では、新鮮な海鮮魚介は手に入らない。
     まあ、どうせアイツのことだ。限られた食材で、なんとかして作るのだろう。

    ……

    🍏🍏🍏

    ふう。続きはこちらで。

    https://kakuyomu.jp/works/16816410413893461604/episodes/16816927862961124736


  • 編集済

    🌸悠木柚です。


    朝起きてキスをするのが習慣だった。朝食の席で『今日の夕飯はなに?』なんて聞かれたり、『なにが食べたい?』なんてことを聞き返しながら。二人の食卓にはいつも笑顔が溢れていた。

    『ちらし寿司かな』

    これは彼女の好物であり、僕の得意料理でもある。そしてこのリクエストが出たときは『一緒に出かけよう!』の合図。映画館や百貨店、何なら白昼堂々ラブホテルでも良い。彼女と一緒なら場所に関係なく楽しめる。

    それはそうと。また、この季節が巡ってきたのか――

    「よし、今日はちらし寿司にしよう!」

    家から歩いて五分の商店街。寂れた映画館に入り、ローマの休日を二人でじっくり鑑賞する。その後は、魚介類が安くて有名なスーパーマーケットに直行。入口に積み重ねてある買い物カゴを取って海鮮売り場へ進む。作るのは僕だが材料を選ぶのはいつも彼女の役割だった。小エビ、アサリ、イカ、ハマチ、サーモン、イクラ。砂糖と塩、そして米酢は家にある。

    ハマチとサーモンは醤油と日本酒、みりんで漬けておく。硬めに炊きあがった御飯を寿司桶に移し、うちわで扇ぎながら手早く調味料を馴染ませるのが美味しい酢飯になる秘訣。そこにアサリを混ぜて香りをつけ、酢飯が冷めてきたら他の具材を散らすようにまぶす。もちろん、後乗せできるよう具材の予備も忘れない。

    『山の幸は山の幸で。海の幸は海の幸でまとめるのが良いと思わない?』

    僕的にはシイタケや錦糸卵も入れたかったけど、彼女の意見を優先してしまう。だって『海の味がして美味しい!』と、すごく良い笑顔をするんだもん。

    スーパーの袋いっぱいに購入した具材を持って家に到着。ダイニングテーブルに荷物を置き、ジーパンの後ろポケットから取り出した写真をその隣に添える。できるまでの間、わざと僕の邪魔をするように戯れてくる彼女が愛おしかった。無意識に頬を伝った涙の雫が、微笑みの上に落ちる。

    『もう一度、貴方のちらし寿司を食べたかったなぁ……』

    病院のベッドで彼女が弱々しく呟いた言葉。毎年この時期になると思い出すのは、僕の心が弱いせいだろうか。



    fin

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    🎐風鈴

     リアルが忙しくて、遅くなりました。
     今回は、涼月さんのお祝いの意味を込めて、丹念に書きました!
     ご賞味いただければ幸いです。
     尚、このお話についての一切の質問、疑問等、お答えしかねますので予め申し添えておきます。
     尚、またしても長くなって申し訳ありません、ぺこりん。

     ☆

    「なんでこのオレがお前なんかと?!」

     カランコローン!!
     その時、ドアベルが鳴った。
    「こんにちわんこ!こちらは関川亭でおよろしいでしょうか?」

     関川氏とエプロンを着けさせられた男が彼女に目線を向けた。

    「ま、まぶしいいい!!」
     男は、それでも彼女から目線を外せないようだった。
    「これはこれは、涼月先生!いつも、眩いばかりのお美しさですね!」
     関川氏は、やはり二人だけでは不安なので、助っ人を呼んだのだった。

     彼女は、超のつく美人だった!
     彼女から放たれる気品のある神々しいオーラは辺りを浄化し、もし仮に暗殺集団がここに居ようものなら、即座に今までの犯した罪を悔い改め、彼女に許しを請うであろう!

    「も、申し訳ない!オ、オレは!」
     ま、まさか、この男、暗殺者、しかも凄腕のアサシンなのだろうか?

    「およろしくってよ、そんなカタイご挨拶など」
     機先を制して彼女はそう言うと、女神の微笑みを浮かべた。

    「本当に申し訳ないです。こんな所までお越しいただき、そしてあろうことか庶民の料理にお付き合い頂いて」(関川氏)
    「ひとつ、およろしいですか?料理に貴賤など存在しませんことよろ!」

    「はい、申し訳ありませんこう花火!」(関川氏)

     こうして、庶民、もとい、みんな大好きな餃子を、お美しい涼月先生と共に作ることになった!

     皮は、市販の皮が各種用意してあるので、餡作りからだ。
    「餃子は、餡が全てだと言っても過言ではございません。ですから、今から作る餡は、ちゃあ~んとしましょうね?」
    「はい!!勿論であり魔王!」(男)
     涼月先生と関川氏は、一瞬、動きが止まった。
     まるで、時間が止まったかのように!
     この男、外したなと関川氏は思った。
     その時、男と涼月先生との目が合った。

    「うふふふふ、面白い方ですね!」
    「ええ、ホントに、コイツはちょっと変なところがありまして、ハハハハハ!」

     仏頂面だった男の顔が赤くなり、唇の端が上がっていた。

     餡、餃子は餡に始まって餡に終わる、こう言った人が昔居た。
     涼月先生直伝の餡作りが始まり、終わった。
     ここでその詳細を発表出来ないのが残念である。
     私(作者)には、彼女の知的所有権を侵害するなどの愚行をする勇気がないので。
     でも、他の所で、お優しい涼月先生は、レシピを公開されておられます。そこを熟読して頂きたい!
     下にリンクを!
     https://kakuyomu.jp/works/16816927862602812315/episodes/16816927863198492570

     さて、これから餡を皮に包み込むという、誠に繊細な仕事に入る。
     皮包み、餃子はこの皮包みに始まって皮包みに終わる、こう言った人が昔居た。

    「餃子は、この包む作業が全てと言っても過言ではございませんのよろぴく」(涼月)

    「先生、その手つき、流石です!」(男)
    「うふふふふ、ちょっと、やってみてください」
    「こうですか、先生・・えっ?」
    「こうするのですよ」
     涼月先生の白く、ビロードのような肌触りの指が、そして手が男の手を包み込む。

    「はふん!」
     男は思わず、声が出てしまった。
    「どうされましたか?」
    「いえ、その、ここはこうでしょうか?」
    「ええ、とてもお上手に指先が動けるようになりましたね!」
    「ありがとうございます、指先遊びは、得意ですから」
    「うふふふふ、面白い、お・か・た!」

     関川氏は、男の頑なな心が和み、顔も血の気が通ったように生き生きとしたモノになってるのを見て、料理を一緒にして良かったと思った。

     そして、ついに餃子が見事に焼きあがる。
     外はパリッと、中は熱々のジューシーな肉汁が咬むと溢れて、口内を喜ばす。
     タレは、酢醤油のシンプルテースト!

    「はい、あ~~ん!」
    「あ~~ん!あつつつつ!」
     いつの間にか仲良しになった男と涼月先生は、お互いの口にお互いの箸で餃子を入れっこしていた。
     そう、この餃子は、一口サイズの餃子で、まさに、イチャイチャするにはもってこいの餃子なのだった。
     なぜこのチョイスを先生はしたのだろう?

    「じゃあ、行こうか、姫」
    「はい、マオウ様」
    「はい??あの~、いったいどういう事なんでしょうか?」
    「あれ?わかんなかった?まあ、君は人間だからな。オレは土星の若き王マオウ、彼女はこの地球の月の姫ルナ。さっき、ダジャレを言った時に、スベッタのかとテレパシーを飛ばしてわかった。お互い、幼馴染だが、この地球では変装してるからわからなかったのだ」
    「うふふふ、私、なまじっか有名になったモノだから、月に帰れなくて」
    「だが、これで二人とも踏ん切りがついたよ。関川、感謝する」
    「関川さん、またいつかとり線香!」

     こうして二人は、満月のその夜に、月からの迎えの船に乗り、帰って行った。
     たくさんのお土産(餃子)を抱えて。

     翌日の夜、関川氏は月を見上げて、呟いた。
    「今晩は月のウサギが餃子に見えるんだよな?」
     彼は、昨晩の突っ込みどころ満載の出来事の記憶が無くなっていたのだった。

     めでたし!


  • 編集済

    第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    💎玖珂李奈

    全文はこちら
    『午前0時の食卓』
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862450734712
    今回のエピソードはこちら
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862450734712/episodes/16816927863014168395
    今回は全三話、計八千字弱になってしまいましたごめんなさいいぃぃぃ。
    下手なくせに長いとか本当に本当にスライディング土下座でごめんなさいですm(__)m

    主人公:烈(れつ)
    ごはんを食べる少女:紅子(べにこ)
    主人公の元カノ:美奈(みな)


    🥟一部抜粋🥟

    餃子を大鍋で茹でる。ぐらぐらと沸く湯の中に、餃子が我先にと飛び込んでいく。

     底の方でじっとしていたかと思うと、ゆらりゆらりと踊りだし、一つまた一つと浮かび上がる。

     皿に移すと、餃子たちは湯上りの艶やかな肌から湯気を立てて、心地よさそうにしている。

     味はしっかりめにつけたつもりだが、たれも作っておいた。醤油や酢、ラー油に、みじん切りの長ネギを混ぜただけなのだが、主張の強い香りが混然一体となって、どうだ旨そうだろうと煽ってくる。

    「ここ、これは……っ!」

     香りと初めて見るビジュアルに圧倒されたのか、漫画のようなリアクションを取っている。わたしはドヤ顔を押し殺し、余裕の笑みを向けた。

    「召し上がれ、冷めないうちに」

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    みなさま、GWお疲れ様でした!
    やっと書き込みできた〜♪ みなさまのところへは、今からお邪魔いたします〜

     🍻

     ホットプレートの一角では、既に餃子がジリジリと音を立てている。包んだ餃子に蓋をして蒸し焼きしている脇で、キクさん考案の平べったい「挟み餃子」が香ばしく焼けていた。皮からチーズがはみ出してパリパリになっていて、これはこれで美味しそうじゃないか。

     両面をこんがり焼き上げたら、取り皿へ。さあ、食べてみよう。

    「おーいし〜い!」
    「うん、ジャンクな味でビールが進むな」

     たしかに。子供は大好きな味だし、大人もつまみとして充分イケる。パリパリとした食感も楽しめるし、黒胡椒を少し挽いてみたらさらに美味い。

     お次はテンの作った「お野菜餃子」。小さく切った野菜を色々詰め込んであり、皮がパンパンに膨らんでいる。さて、お味は……

    「……あじがない」
    「うん、野菜の味だけだな」

     見た目でわかってましたけど、師匠。そんなハッキリ言わなくても。ちょっとテンががっかりしてるじゃないですか。
     皮の中から、茹でたブロッコリーとアスパラの欠片、ミニトマトやコーンがポロポロとこぼれ落ちた。

    「何か、ソースを作ってみようか」

     餃子の味変用に作っておいた酢味噌ダレに、マヨネーズを混ぜ合わせてソースを作成。これでよし。

    「……おいしくなった!」
    「野菜の味だけでも美味しかったけどな」

     師匠、それはテンへのフォローのつもりですか。そう言いながらソースべったりつけてるじゃないですか……ま、テンも嬉しそうに食べてるからいいんだけど。

     と、蒸し焼きにしている餃子の音が変わってきた。

    「そろそろ焼けたみたいだね」

     蓋を取ってみると、ふわりと湯気が立ち上り香ばしい餃子の香りに包まれた。この匂いだけで美味しさを確信できる。フライ返しで上下を返してみれば、こんがり狐色の焼き目が美しい。

    「「おおおお」」


     感嘆の呻きをBGMに、各種餃子をそれぞれの取り皿へ……

     🍻

    全文はこちらになります↓
    第四膳回答『餃子と共同作業』https://kakuyomu.jp/works/16816452220246177194/episodes/16816927863152048452
    よろしくお願いいたします。

    餃子と共同作業って、なんだか早口言葉みたいですね。3回言えなかった……

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    🐹黒須友香です。餃子回アップしました!
    GW中はバタバタでしたー。ゆっくりではありますが、これから皆様の回答を読みに伺います。
    よろしくお願いします♬

    🐹

    突然だが、「ひとり猛烈反省会」の真っ最中である。

     前回までは、どんな料理も喜んで食べてくれた。
     自分が手ひまかけた自信作なら、今回も間違いないだろうと思い込んでいた。

     だが、間違っていた。ただの思い上がりだった。

    🐹↓続きはこちら!
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862423037971

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    🐤小烏つむぎです。

    今回も前半から加筆しています。
    前半から読んでいただけると嬉しいです。
    なかなか飯テロにならなくて、みなさんの作品を読んでよだれを飲み込んでおります。

    🐤🐤🐤
    後半のチラ見せです。


    「ソレナラ明日、準備シテクル。
    コノ料理場デイイノカ?」 
    リーは、細い目をもっと細くして笑いやがった。コイツ、こんな笑顔も出来たんだな。
    「ソレカラ、『餃子チャオズ』チガウ。『餃子バンシー』ダ。
    『チャオズ』ハ漢人ノ食物。」
    なんて釘も刺して行きやがった。


    🐤🐤🐤

    前半のURLです↓


    https://kakuyomu.jp/works/16816927862577875744/episodes/16816927863045834508#end

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    💐涼月💐です

     餃子回、リクエストを取り上げてくださりありがとうございます!
     今回もよろしくお願いします。

     💐 💐 💐

     「キャベツとニラとニンニク、ショウガと豚肉。餃子の中身は色々だけれど、今日はこれで作っていこうと思っているんだ。苦手なものあるかな?」
     俺の問いにジーっと食材たちを見つめた色音。不思議そうな顔のまま俺に視線を戻した。

     以下↓
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862602812315/episodes/16816927863198492570

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    今回は餃子なのですね🥟。
    春川晴人🌞です。よろしくお願いします。

    🌞 🌞 🌞

    「実は昨日のカニ缶少し余っちゃっていて」

    おお、豪勢な餃子が出来上がりそうだ。

    彼女にはたくさん叱られてしまった。雨の日に老犬を拾ってきたのにお茶漬けを食べさせてしまったこと。犬には塩分が多すぎるから、と。

    そうしてたくさんの料理を教わった。偏食の理由も話した。母が男にだらしのない人で、母が出て行く時に食べていたものを苦手になったとか。そんなのただの言い訳だよ、って諭してくれた。栄養はたくさんとらなくちゃねって。

    うまく包み込めなくて、不恰好な餃子を作ってしまったこと。餡が余って冷凍保存の仕方を教わったこと。犬のゴン(という名前をつけた)へのご飯のあげ方。

    全部が嘘みたいに消えて無くなるなんて、この時は思ってもいなかった。

    『おかけになった電話番号は、現在使われておりません……』

    数日後、会社を休んだまま退職したらしい彼女の消息がぱったり途絶えた。

    つづく

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    こんにちは📞
    盛況ですね。凄腕の競演で、今度はどんな物語が生まれるんだろうと毎回たのしみにしています。
    今回もさわりだけ、ここに。今回のお客さんは孤児の男の子です。

    ――また来てしまった。
    このまえはみっともないとこを見せてしまったから、なるべくなら顔を合わせたくなかったのに。
    それはあちらもおんなじなのかな。かれは腫れものにでも触るみたいにぼくをそおっと見ている。

    もうぼくは、毒を盛られたなんて思っちゃいない。すこし考えればわかることなのに、あのときどうしてそんなふうに疑ってしまったのだか、でも口じゅうしびれてめまいはするし、尋常じゃない量の汗がだくだく出るし、もうおしまいだ、ってそう思いこんじゃったんだ。
    ・・・・・・・

    📞つづきはコチラ📞
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862534372546


  • 編集済

    第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    🌸悠木柚です。一生懸命書きました!(子供かw)



    そう。二人でたくさん話そうよ。何が好きとか嫌いとか。
    どうしたいとか、したくないとか、なんでもいい。

    「……今日は二人で究極の餃子をつくろうよ!」



    彼女と一緒に作りたい、彼女と一緒に美味しい物を食べたい。とにかく彼女を傍に感じたい。僕の真摯な想いに彼女も微笑みを返してくれ、そして――

    「究極の餃子を、アンタと?」
    「う、うん……」
    「ねぇ、フタヒロ。私が誰だか言ってみて」
    「涼子……だよね?」
    「違うでしょ。【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト】でカクヨム賞を受賞した、涼月涼子『先生』でしょ?」
    「う……っく」

    そうだった。僕の彼女、涼月涼子は【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト】でカクヨム賞を受賞した小説家。そして創作料理を毎日ブログに上げ続けてきた努力の料理人でもある。その道を頓挫して料理から逃げた僕とは違うんだった。

    「ごめん……餃子は諦めるよ」

    これが賢明な判断だ。一流と三流、そんな凸凹コンビが並んで作っても、究極とは程遠いものになるだろう。

    「諦めるの?」
    「だってもう、君には敵わないと思うし」
    「どうしてそう簡単に諦めるのよ! アンタはいつもそう。日本料理店を辞めたときだって『働きながらじゃ【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテストのカクヨム賞】に入選できるような物は書けない』みたいな理由だったじゃない!」
    「――っ」
    「ねぇフタヒロ、私を見て! 今の私を見てよ! アンタが働かなくなっても私はずっと働いてきたわ。小説を書きながら、料理の研究をしながら、アンタと出会ったあの《大きな赤ちゃん倶楽部》でずっと!」
    「そ、それは本当に偉いと思う……」
    「偉くなんてない、当たり前のことなのよ! 何かを理由にして逃げなかっただけ。【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテストのカクヨム賞】はそれに応えてくれただけ!」
    「僕だって、僕だって――」
    「言いたいことがあるのなら言ってみなさいよ、この負け犬!」
    「僕だって色んなコンテストに応募してきたんだ! それこそ魂を削って書きまくって! でも、僕の筆力じゃ……」

    そう。僕の筆力じゃ届かないんだ。考えてみれば当然のことだ。【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテストのカクヨム賞】に限らず、コンテストに入賞するような人間は中学・高校と文芸部に所属して、そこから文系の大学に進んで本格的に文章の勉強をした猛者たちばかり。寝ても覚めても小説のことしか頭にないようなガチ中のガチ。年季が違う、思い入れが違う。何より才能が違――――!

    刹那、温かさに覆われた。

    「そうじゃないでしょ? アンタの才能は私が一番よく知ってるわ。アンタが本気を出せば私なんて敵わない。だから、ね、もう逃げないで」

    彼女に背中から抱きしめられ、その優しさが沁み込んでゆく。

    「フタヒロ、アンタは具。凄く美味しくて凄く刺激的で、でも凄く脆くて壊れやすい未知の具なの」

    僕が、未知の具……

    「未知だから取り扱いも難しいし、下手したらダメになっちゃう。でも今の私ならアンタを包める。【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト】でカクヨム賞を受賞した私なら。【料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト】でカクヨム賞を受賞した私なら!」
    「なんで二回言ったの?」
    「アンタは私が包み続けてあげる。アンタが賞を取るまでずっとずっと。だからそのときがきたらアンタが私を――」
    「涼子……」
    「究極の餃子、作るんでしょ? ふたりで」
    「ああ、ああ! 作るよ、作るとも! 僕はいつか絶対に君を――」

    迷い込んだ一片の桜が、足元でくるりと舞い始めた。



    fin

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    🍁空草 うつを です!
    以下回答部分になります。

    ◆◆◆

     弥生ちゃんのことだから、アノマロカリスかウミサソリのアップリケでもついているエプロンなのかと勝手に思っていたけれど。
     可愛らしい苺柄のエプロンだった。
     弥生ちゃんはやる気満々のようだ。同じ苺柄のバンダナをきゅっと結び、意気揚々と俺の隣に立った。

    「まず何をすれば良いですか?」
    「材料を切る所から始めようか」

     だがこの指示が間違いだったことに、俺はすぐ気付かされる。キャベツを切る弥生ちゃんの手つきが、今にも自分の手を切ってしまいそうで危なっかしくて。見ていられなかった。

    「……切るのは俺がやるから、弥生ちゃんはひき肉をボウルに入れてくれるかな?」
    「分かりました!」

     危うく流血騒ぎになる所だった。こういうのは役割分担が大事。
     キャベツを微塵切りにし、軽く塩を振って揉む。しっかりと水気を切ってから、弥生ちゃんが用意してくれた挽肉の入ったボウルへ入れた。
     挽肉とキャベツ、調味料はシンプルに塩胡椒と醤油、風味づけにごま油を少々加えた。

    「流石、手際が良いですね!」

     褒められると気恥ずかしい。昔はもっとキャベツとか切るの早かったから。

    「そんなことないよ」

     なんて言って誤魔化した。
     定番の餡の材料を混ぜ終えたら、ここからは弥生ちゃんスペシャルだ。

    「よし。好きなものを包もうか」

     キッチンに並べられたのは、弥生ちゃんが好きだと言っていた具材と、俺がチョイスしたそれらに合う食材。

    「はい! じゃあ遠慮なく……」

     弥生ちゃんがまず最初に手をつけたのは、キムチとチーズ。それを餃子の皮に豪快に乗せていた。わんぱくかってほど、溢れるくらいに乗せたせいで包むことができずに手こずっている。

    「そういう時は、必殺。二枚綴じ」

     二枚綴じ、とは俺なりの呼び方。ただ二枚の餃子の皮で餡をサンドするだけなんだけど。弥生ちゃんは「すごい!」って拍手なんてしてくれた。
     あとは端っこをフォークで潰せば完成なのだが、何を思ったか弥生ちゃんは端っこだけでなく真ん中辺りにもフォークを押しつけ、模様をつけ始めた。

    「見てください! 三葉虫餃子です!」

    ……つづく。

    ◆◆◆

     続き、並びにお題部分を加筆(大筋は変わりませんが大規模加筆しています、すみません関川様)したものは連載中の『嗚呼、愛しの絶滅種!』にて更新します。


  • 編集済

    第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    「……なかなか難しいですね」

     彼はわたしより大きな手で四苦八苦しながら餃子の皮であんを包んでいた。一見すると端正な容貌の青年だが、その正体は大黒様の化身なのだ。住んでいた社を追われ、みすぼらしい姿で行き倒れていたところを私が見つけてここ数週間で何度か料理をご馳走していた。
     
     料理というお供えをし続けたわたしの信仰心の効果なのか、今日の彼はカジュアルながら上品な白い長そでシャツに高級な布地のパンツという欧米のブルジョワジーのような格好だ。

     わたしは一度つぶしてしまった料理店を再起させるべく、彼のご利益でもって繁盛させてもらうつもりだった。しかしこの間は料理人として成功したいという願いがちゃんと伝わらなかったので目的を達することができなかったのだ。

     数日の間、失意にとらわれていたわたしは「こういうときには無心で手を動かす作業に限る」と夕飯のために餃子の材料を買いに行こうとしたところで幸運にも街中で彼を見かけたので、声をかけて連れてきたのだった。

     豚のひき肉に、ニラとゆでた白菜のみじん切り。ニンニクとしょうがのすりおろしを加えて、さらにゼラチンとごま油も入れてジューシーさを増す。味付けは醤油と日本酒に黒コショウを少々。これを一生懸命にこねてから、大判の餃子の皮に包むのだ。

     包む際には皮の端っこを水で少し湿らせながら指で密着させてくっつける。ひだを綺麗に整えるように左右にくっつけていけば上手く包めるのである。
     だが彼はなかなか上手くできないようで、綺麗な三日月型になったわたしの餃子といびつな自分の餃子を不思議そうに見比べていた。

    「……どうしたらそんな風にできるのでしょう。何かコツがあるんですか」
    「『相手に美味しく食べてほしい』という思いやり。その気持ちも一緒に包み込むんですよ」

     もっともらしいことを言ってしまったが要は食べやすい大きさと食感を損なわない分量でバランスをとって、あんを皮に乗せていくことが大事ということだ。
     それが美味しく食べてもらえることに繋がっている。餃子は精神的な気遣いが美味しいものを作る技術に関わっているわけだ。
     食べてくれる相手に対する思いやり。相手の立場を配慮する心遣い。あなたにご馳走するうちに教わったことだと感謝するつもりで言いかけたが、ただ飯ばかり食われているのも事実なので黙っておくことにした。

    「さて、包みあがったところで焼くとしましょう。後はわたしがやるのであなたは手を洗って待っていてください」
    「……はい」

     彼は洗面所から戻ってくると大人しく食卓の椅子に座っている。まるで餌が出るのを待ってお座りをしている犬のようだと思いながら、フライパンに大目に油をしいた。
     餃子を並べて、中火で焼き色をつける。パチパチと音を立てながら香ばしい匂いがキッチンに広がっていく。まんべんなく餃子の底がきつね色になったところで水をいれて蓋をしてから蒸し上げるのだ。
     最後にパリッと焼き上げるためにごま油を垂らし、水分が飛んだら完成である。
     フライパンに皿をかぶせて、そのままひっくり返しフライパンを取れば、皿の上に餃子が美しく並ぶ形になる。
     
    「さあ、いただきましょう」
    「……はい!」

     彼は待ちきれないとばかりに箸で餃子をつまんで、タレにつけていく。タレのほうはポン酢しょうゆにラー油、ナンプラーとしょうゆ、柚子胡椒と四パターンほど用意した。
     
     パリパリの皮を噛めば、中からはジュワっとした肉汁がはみ出してくる。ニンニクとニラの香りが食欲をそそり、ラー油や柚子胡椒などの辛みが白いご飯をさらに美味しく食べさせてくれる。彼の方も「美味しい、美味しい」と夢中になって頬張っていた。

     やがて皿の上の餃子が残り少なくなってきたところで、わたしは今度こそ彼を引き留めてご利益にあやからなくてはと思考を巡らせる。
     だが待てよ。わたしはすでに相手の立場を考えることの大事さを学んだところだ。
     例えばここで「実はあなたの力でわたしの商売を大成功させてほしいんですよ。そりゃもう客がジャンジャン入ってきてガッポガッポ儲かって、ウハウハな暮らしができるくらいに! たのんますわあ! デヘヘヘ!」などとニンニク臭い息を発しながら迫ったら流石に嫌な顔をして帰ってしまうのではなかろうか。

     そう。ここは餃子のように「生臭い本音」を「白く美しい大義名分という皮」で包みこんで伝えるべきだろう。目の前にある餃子のように、だ。
     私は「オッホン」と咳払いをして口を開く。

    「お、美味しかったですか」
    「はい。とても」と彼は満足そうに腹をなでていた。
    「そうですか。そんなに喜んでくれたのなら料理人を目指す身として冥利に尽きます。……是非また、ご馳走したいですね」
    「本当に! それは嬉しい」
     
     目を細める彼に対してわたしは大げさに嘆くように頭を抱えてみせた。
    「ああ、しかし!」
    「どうしました?」
    「最近は物価も上がって、つぶれた店を再起させるための資本金を貯めながら生活している身としてはなかなかそれも苦しいかもしれません」
    「そんな!」

     悲しそうな顔をする彼にわたしはたたみかける。
    「豚肉も野菜も最近は高くなって。お金がなければなんともならないんです。……ああ、誰か何とかしてくれないかなー。どこかの優しい神様が助けてくれないかなー」

     言葉の最後でちらりと彼の様子を窺うと、美青年の姿をした大黒様は「わかりました。そういうことならこのわたしの神通力でなんとかしましょう」と胸を叩いて見せた。

     心の中で「やったね。チョロいぜ、大黒」と心の中でほくそ笑んでいると彼は目を閉じて何やら念じ始める。やがて彼の体から神々しい光が放たれ、数十秒後にそれは静かに消えた。

    「これで大丈夫です」
    「おお!」

     金運が上がって宝くじでもあたるのかな、それとも商売を始めるにあたってお金を融資してくれるスポンサーでも現れるのかなと思っていたら「ピンポーン」とインターフォンが鳴る音がする。

     何だろうと思って玄関先に出ると「お届け物です」と宅配業者が立っていた。受け取りのサインをして彼の持ってきた冷蔵宅配便の箱を開けると中には「大量の豚肉と野菜」が入っていた。

     そこで唐突にポケットの携帯電話が鳴ったので、通話ボタンを押すと実家の母からである。話を聞けば「ふるさと納税でお肉と野菜がたくさん手に入ったのでおすそ分けするわ」とのことだ。

     大黒様はニコニコと「これで餃子をたくさん作れますね!」と笑ってから「ご馳走様。それでは今日はこれで」といそいそと去っていった。

     そういうことじゃあねえんだわ、と心の中で呟きながらその場に崩れ落ちる。

     いっそ自分の欲望に正直に願えばよかった。つい格好つけてしまった自分の見栄が憎い。肉料理の話なだけに。
     心の中で悔やむわたしであった。

    ❄️ ❄️ ❄️

    ❄️雪世明良です。よろしくお願いします。

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    ☆☆☆ 愛宕 ☆☆☆

     おいおいおいおい。
     どうして俺までエプロンしなきゃいけないんだよ。餃子作りを手伝ってくれって、無しだろう。
     でも、無し寄りの有り。関川くんの作るものなら、近くで手順を見ておくのも悪くない。元の体に戻れたら、俺も家で作ってみようと思う。やっぱり、餃子は一から作るのが一番美味いんだよ。

     そういえば、巡礼した店の中で面白いメニューを出すところがあったよなぁ。店の名前は『みゆき食堂』って言ったっけ。昔ながらの食堂って雰囲気で、壁に貼られたメニューの黄色い短冊が圧巻だった。その中の一枚に「ジャンボ餃子ハーフ」って書かれていたものがあったのを思い出した。
     ジャンボな餃子でハーフ? ハーフ&ハーフ? 現物を見るまでは意味も分からなかったが、何のことは無い。大きめの餃子が皿に三個乗っているだけだった。きっと本来は、六個で一人前だったんだろう。手作りの懐かしさを感じさせる、ギュッと餡が詰まったジャンボ餃子……関川くんの用意した餡は、どことなくソレに似ている。

    「包む手際が上手いじゃないか。家でも手伝ってたりしたのかい?」
    「この餡は、キャベツと白菜を一緒に入れてるんだ。普通はどっちかなんだけどね」
    「じゃあ、そろそろ僕は焼きの方に入るから。もし飽きちゃったら、途中で終わらせてもいいからね」

     一つ一つ語り掛ける関川くんの言葉は、とても温かみがあった。何も答えなかった俺に苛立つこともなく、淡々としたペースで餡を皮で包んでいき、三個ほど包み終えたら新たな話題を振ってくる……ずっと無言放置で申し訳ない思いだが、そんなのは関係無いと言わんばかりの無邪気さで話し続けていた。
     きっと関川くんは、こんな俺みたいな黙りん坊でも、誰かと一緒に料理を作るっていう行為が好きなんだろう。

    「さぁ、第一弾ができたよ。食べよう、食べよう!」

     大皿に見事な焼き色の餃子が大輪の花を咲かせている。パリッとした薄い羽根まで付いているじゃないか。
     関川くんは、取り皿のほかに醤油と酢と辣油を持ってきてくれた。黄金比率は「五(醤油)・四(酢)・一(辣油)」と言われているが、俺の好みはちょっと違う。勝手ながら申し訳ないが、俺は席を立って調味料のある棚から必要なものを取り出し、それを両手で掲げて「使わせていただきます」とお辞儀した。

    「胡椒を使うのかい? 珍しいね」

     俺の師である五郎さんは、餃子を酢と胡椒だけで食べていた。番組が終わった後、すぐに冷凍の餃子をチンして試したものだよ。それ以来、俺は餃子と言ったらこの組み合わせで食べることにしている。酢を皿にたっぷり入れたら、胡椒をドバドバ。これが俺の黄金比率……いや、絶対比率なのだ。

    「美味しいの? 僕もやってみるとしよう」

     そう言って、関川くんは新しい小皿を持ってきて、同じように酢と胡椒だけのツケだれを作り始めた。慣れないと、最初は胡椒の粉末で咽せてしまうよ。

    「おっ! 美味いね、こ……ゲッホっ! ゲホゴホっ!」

     ほぅらね。
     でも、気に入ってくれたようだ。なんとなくだけど、今までのご馳走に対し、少しだけお礼ができたような気がする。今日の関川くんは、いつもより楽しそうだ。
     こうやって、コミュニケーションをとりながら、人との距離感を縮めようとするのは、何年振りだろうか。そう言えば、この酢ゴショウ餃子を気に入ってくれた涼子ちゃんは、今頃どこで何をしているだろう――。

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    🍷出っぱなし

    番外編で溶けていた脳みそを元に戻して本編の回答です(笑)
    涼月さん(20)からのリクエストということですが、登場人物とご本人とは関係ありません。(笑)

    🍷🍷🍷


    「まずは皮から作ろう」


     わたしは薄力粉、強力粉の小袋をテーブルの上にドンと置く。
     それぞれ適量ずつ量り、ボールに入れて塩を少々振りかける。


    「さて、これを混ぜてくれないか?」


     わたしはタマに菜箸を渡し、タマは緊張しているのかぎこちなく頷く。


    「フニャン!?」


     タマは料理が初めてなのだろうか、何がどうなったのか、粉が自分にかかって白猫のようになっている。

     わたしはお湯が沸いたので火を止め、笑いながら手本を見せてあげる。


    「ハハハ。貸してごらん? こうやってサッとやるんだ」

    ………

     わたしは辛口のロゼ、タマはハチミツでほんのり甘みをつけた菊花茶で飲茶を楽しもう。

     お腹がグーと鳴る音が『いただきます』の代わりだった…… 

    🍷🍷🍷


    全文はこちらです。

    出っぱなし
    『飯テロリスト関川様、ネコ耳を拾う』

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862486888667/episodes/16816927863140950069

  • 第四膳『餃子と共同作業』への応援コメント

    お、いっち番乗りかな?
    お題をねじ曲げ、天の邪鬼に答えていくことで、お仕置き部屋行きにならないかヒヤヒヤしています。

    では。
    🍏🍏🍏

     自分が好きだからと言って、相手も好きとは限らない。

     そう。恋の話であり、人間関係の話でもある。まあ、食べ物の話もそうだ。
     自分が美味しいと思ったものをあの人に食べさせたい。自分が作った料理で感動させたい。

    ……

    🍏🍏🍏
    サブタイトル、ふんわり回収回
    『俺とオマエのお膳立て』
    https://kakuyomu.jp/works/16816410413893461604/episodes/16816927862816201838

  • こんばんわ。
    ♪一帆です。どのシチューもおいしそうです。


    椎茸しいたけ、榎茸えのきだけ、王茸しめじ、平茸ひらたけ、木耳きくらげ、銀耳しろきくらげ……。いろんな食感。それぞれのうま味。茸好きにはたまらない蒸煮肉シチュー。森の中に住んでいるからこそ、食べられる春の味覚!! 



     ―― うん。おいしい。


    続きはこちらで。
    『妖術士見習いは愛を学びたい』
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862494687766

  • こんばんは。
    🍁空草 うつを です。

    ◆◆◆

     俺は牛乳の後味が嫌だっだ。
     いつまでも口に残る甘ったるいような独特の匂いと風味だけでなく、体に良いからと給食に必ずついてくる無理矢理感も牛乳嫌いに拍車をかけた。
     牛乳を飲めば背が伸びるだの親にしつこく言われて正直うんざりした。牛乳飲まなくても、それなりに身長は大きくなったし。

     だが、料理人を目指すにあたって牛乳を使う料理を作ることも増えてくるだろうと思って。夢のために一番身近なシチューを使って、試行錯誤を繰り返した。
     牛乳の甘ったるい後味をあっさりとしたものにできないものかと。

     たどり着いたのは、魚介を白ワインで煮込んだスープとホワイトソースを合わせるというもの。
     使う白ワインはキリッと引き締まった辛口のシャルドネ。魚介の風味を損なわずにお互いの味を引き立ててくれるし、牛乳の後味も緩和してくれる。
     そして極め付けは、味のアクセントにもなるペッパーミルで挽いたホワイトペッパー。
     甘ったるくない大人のシチュー、俺自身もこれで克服できたようなものだし、牛乳嫌いの人達に好評だった。

     だから自信があった。弥生ちゃんもきっと、このシチューなら食べられる。

     弥生ちゃんは銀色のスプーンの先についた白いシチューと、俺の顔とに交互に視線を送ってくる。
     覚悟を決めたのか、大きく深呼吸をして「いきます」と宣言した。
     恐る恐る、スプーンの先を口に近づけていく。
     まるで猫のように舌をちろっと出して、シチューを舐めた。

     フリーズして数秒。弥生ちゃんは、スプーンを置いてしまった。罰が悪そうに俯いて、深々と頭を下げてしまった。

    ◆◆◆

    続きは連載中の『嗚呼、愛しの絶滅種!』にて公開しています。

  • 遅くなりましたー! 早速、美味しいところだけ貼らせていただきます。

    🍻

     そして今日、相変わらずの破れ堂で、テンは恐る恐るホワイトシチューにスプーンの先を浸していた。
     スプーンの先にちょっとだけシチューを掬い、クンクンと匂いを嗅いでシュンと耳を伏せる。

    「熱いミルク、飲んだことない……こわい……」

     これは盲点だった。ミルクだから馴染みのある味だろうと思い込んでいたのだが、幼き頃にテンが味わった母狐のミルクは、たしかに生ぬるい温度だっただろう。その味を知っているからこそ、「熱いミルク」に警戒してしまうのかもしれなかった。

    「そうか。無理しなくていいよ。冷めてから食べたっていい。どっちも美味しいからね」

     ローズマリーと白ワインで香り付けして焼いた鳥もも肉、大ぶりのじゃがいもとにんじん、玉ねぎの他に、ホワイトマッシュルームとエリンギも加える。小麦粉を振り入れてバターで炒め合わせ、少量の水とローリエで蒸し煮。火が通ったら牛乳を加えてさっと煮込む。仕上げにたっぷりの生クリームを。
     ありきたりの材料で作ったごくシンプルなホワイトシチューだけれど、ハーブのおかげで苦手なミルク臭が軽減され、なおかつ野菜の旨味が引き立っている。我ながら会心の出来だった。
     だからこそ正直、熱々の状態で食べて欲しかった。だが、それは料理人のエゴだ。食べる方にだって、事情はあるのだ。


    「ごめんなさい……」
     そう呟いて、テンはしょんぼりと項垂れた。
     そんな顔されると俄然、申し訳なさがこみ上げてくるじゃないか……

    「謝ることないんだよ、テン。ほら、こっちを先に食べようか。まだほかほかだよ」

     紙ナプキンとアルミホイルで包んだバゲットは、まだ充分に温かい。切り込みに挟んだガーリックバター、がいい具合にとろけて染み込んでいる。
     付け合わせにと用意した、帆立とブロッコリー、コーンのバター醤油炒めのタッパーも開けた。もちろん、焼いた油揚げも添えてある。

    🍻
    全文はこちらで ↓ お願いします!
    回答『シチューと苦手料理』
    https://kakuyomu.jp/works/16816452220246177194/episodes/16816927862811583016

  • おはようございます♬
    先ほど投下しました。よろしくお願いします〜。

    🐹黒須友香

    突然だが、バトルである。

     といっても戦闘行為ではなく、さながら親が子を𠮟りつけているような場面なのだが。

    「なんやワレェ……ワイの料理が食えんのかぁ?」

     訂正。さながら「その筋」のモンが脅しをかけているようである。

     小さなローテーブルの上には、ほかほかと湯気を上げているホワイトシチューの皿。
     皿を挟んで睨み合うは、ひとりの金髪ヤンキー青年と、一匹のちっさいおっさんハムスター。

    🐹↓続きはこちら!
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862423037971

  • こんにちは📞
    新キャラ登場です。こんなことしちゃって、回収できるかどうかは最後までわかりません。。
    皆さんに倣って、「つづきはコチラ」で行きたいと思います。

    📞 📞 📞
    この男、思慮の足りぬ子をあやすような言葉づかいは相変わらずよ喃。ぢゃが吾の見た目が童女である故むりからぬこと。おおめにみてやってよかろ。

    どこをどう勘違いしたのだか吾をツレなどと見なしておる節があるが、よくぞ思い上がれたものよの。なんと人とは浅はかなモノであるかな。まあ百年と生きられぬ身なればむりもあるまい。

    吾をツレという割には、うわ気ごころもあるようぢゃ。吾の居ぬ間にほかの者をこの舎に招じ入れたとはわかっておる。ではあるがいちいち咎めはすまい。
    おおかた打ち捨てられた犬猫のようにふるえる子供を放っておけなかったのであろ。そのこころ根、愛でたき哉。
    やはりこの男が福をさずけるに値するモノと観じた見立ては外れてはおらなんだようぢゃ。

    📞つづきはコチラ📞
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862534372546

  • 💐☆涼月☆です

     よろしくお願いいたします。前半も改稿しております。後半部分をチラ見せ(笑)

    💐 💐 💐

     突然、目の前の光景に既視感を感じた。
     
     そういえば。前にもこんなことがあった。
     心の奥底に封印していた記憶が顔を出す。

     ……桜子。

     続きは
      ↓
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862602812315/episodes/16816927862759776394

  • 春川晴人🌞です。よろしくお願いします。

    🌞 🌞 🌞

    「ごめん、やっぱりダメだ」

    彼は降参とばかりにスプーンを置いてしまった。きょうのために、にんじんもペースト状にしてバレないように作ったのだけれど、牛乳が苦手ということまでは考えていなかった。

    そう、前回のカレーの時は、牛乳使っていたのに食べてくれていたからだ。

    が、ちょっと待った。牛乳と生クリームは少量なら食べられるのだとしたら、問題はやっぱり?

    「においがダメなのかな?」

    彼は涙目になって頷いた。うん、わかった。じゃあなんとかしてみよう。

    レッツ・クッキング!!

    「玉ねぎは食べられるのかな?」

    うんと頷く。すでに玉ねぎ嫌いを前提として、玉ねぎもペースト状にして溶けこませてはいた。

    玉ねぎオッケー。次!!

    「牛肉と豚肉と鶏肉、どれが一番好き? あと、にんにく食べられる?」

    もうこうなったら意地になってくる。彼は、鶏肉と答えてからにんにく大丈夫だと教えてくれた。

    よし、牛乳のにおい消し作戦、スタート!!

    まずは別の鍋で大量にみじん切りした玉ねぎを飴色になるまで炒める。そこからスライスしたにんにくをわりと多目に炒める。いい色になった頃合いで鶏肉を炒める。すでにはがしていた鳥の皮の部分も炒めて、こうばしさをアピール。まぁ、これでビールでもありかもしれないけど。

    塩胡椒で味を整え、シチューの鍋にゆっくり投入。今回も、おいしくなーれ!! の魔法をかけた。

    「あれ? なんか牛乳のにおいがあまりしなくなった?」

    気がついたら彼が後ろにいた。

    「ちょっと味見してみる?」

    スプーンで一口分すくって、彼の口は運ぶ。その時、フーフーと息をかけ、冷ましてあげることも忘れない。

    「どうかな? 少しは食べられるようになったかな?」

    彼は目を輝かせておいしーっ!! と叫んだ。

    なにしろカレーの具材って余るのよ。そこにきてやっぱりシチューなのよ。

    彼が食べられそうなことを確認して、お皿に盛って渡すと、ここからまた味変のために、冷凍庫からエビを取り出す。そして今回は特別に!! カニ缶開けちゃうよっ!!

    そうしてエビとカニ缶もにんにくで炒めて、なかなか食の進まない彼のシチュー皿に投入。

    「うわっ。なんだかさっきよりもおいしくなった!!」

    そうでしょうよ、カニ缶使ったんだから。でも、彼のこの笑顔は買えない。

    「じゃ、食べようか?」

    あたしも席に座って、若干高級感にあふれるシチューを口にした。

    これは、完食の予感。

    おしまい

  • 🐤小烏 つむぎです。
    なかなか飯テロまでいけなくて、みなさんすごいです!

    今回も前半にも加筆しています。
    前半から読んでいただけると嬉しいです。↓

    ****************

    「旦那様。今日の『メニュー』は『白いシチュー』だよ!懐かしいだろう。」
    と彼女は私の座る椅子の脇に立って、胸を張り腰に手を当てた。

      日本の婦人はいや日本人は皆、キモノの襟元をゆったりと着ているので、そうやって胸を張ると、その、角度によると、目の置き所に困る時がある。本国イギリスの婦人方の襟元の詰まった服を見慣れている身としては、日本人のおおらかさは時として戸惑うことがある。

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862577875744/episodes/16816927862742799986

  • ☆☆☆ 愛宕 ☆☆☆

     目の前にシチューが出された。
     シチューは苦手なんだよなぁ。子供の頃に食べたシチューに、美味しかった思い出が無いんだよ。友達はみんな「大好き」みたいなこと言ってたけど、俺には良さが全く分からなかった。
     しかし、今の俺は体が子供になっている。この体で関川くんの作ったシチューを食べたら、もしかしたらシチューの概念が変わるかもしれない。実は美味かった、なんてことになったらどうしよう?

     ところで俺は、ずっとこのままなのだろうか?

     誰かに刺されたわけでもなく、トラックに轢かれたわけでもない。目が覚めたら、何故か見知らぬ子供の体と同化していたのだ。こんな状況になって、いったい誰が得をするというのだ?
     無断欠勤をしている勤め先のことも気になる。俺の代わりを誰かがやってくれているとは思えない。とはいえ、ここがどこなのかも正確には分かっていない。分かっているのは、ここが日本の何処かだということくらいだ。

    「やっぱり食べれないかな? 昨日のモツ煮で良ければ残ってるから、そっちに変えてあげようか?」

     おっと、考え事をしていたら勘違いをされてしまった。モツ煮の方が好きだけど、今日はシチューにシーチュー(集中)いたします。
     とはいえ、苦手なものを口に入れるのは、どうしても躊躇してしまうものだ。一口分のシチューが盛られたスプーンの上には、程良いサイズの人参と大きめに刻まれた玉葱が乗っている。俺は目を閉じて、一気にパクッと放り込んだ。

     口にスプーンを入れたまま、俺は固まってしまった。
     そうきたか! これはいい。いいぞ!
     チーズの塩味が牛乳をかき消している。飲み込む直前でニンニクが口の中にガツンと広がるから、次も躊躇無く食べたくなってしまう。シチューのようで、シチューにあらず。これは、シュクメルリ(ジョージアという国の郷土料理)だ。

     関川くんの曇っていた表情が晴れやかになった。俺は最大の笑顔を作って、このシュクメルリが美味いことを無言で伝えた。
     ニンニクとチーズが主張してても、人参独特の土っぽい匂いや、ジャガイモのホクホクとした食感は死んでいない。この絶妙な味と匂いのバランスは、彼にしか引き出せない技と言えよう。

     俺は今、自然豊かなジョージアを旅している。
     北にロシア、東にアジア、西にヨーロッパ、南に中東という位置にあり、様々な地方の特性を含んだ料理が多いこの国は、日本人の口に合うものも多い。特にシュクメルリは、身も心も疲れた時に食べたいエナジーフードだ。これなら俺だって何杯でも食える。

     ――ごちそうさまでした。

     今日も言葉には出さず、両手を合わせてお辞儀した。
     どうなることかと思っていたが、予想以上のシチューを食べさせてもらったよ。関川くんの作るものなら、なんだって苦手な食材を克服できそうだ――。


  • 編集済

     🎐風鈴
     諸注意です! 
     えっと、この話、吹っ切れてます!w
     また、シャレのつもりで書いてますが、それも吹っ切れてますw
     苦手な方は、棄権してください!w
     

     ***
    「うん、美味しいよ、これ!」
    「そ、そうか!良かった!」

     しかし、よく見ると食べるのが遅い。
     っていうか、スプーンで掬うのが遅い。

    「おまえ、スプーンの使い方がヘタクソなのか?」
    「えっ、違うよ!だって、このシチューに浮かんでる青いの、パセリでしょ?」
    「正解だ!よくわかったな!」
    「いや、そんなのふつう、わかるでしょ?」

    「で、パセリがどうした?」
    「ぼくちん、苦手なんだよね、パセリ!」
    「なんだって!早く言えよ!じゃあ、それこっちに返せ。で、これ、パセリ無しな!」
    「ありがとう!なんか、ごめんなさい」

    「良いって事よ!オレもパセリ苦手だしさぁ」
    「えっ!!ズルイじゃん!自分だけパセリ無しって!」
    「いや、一応、これを散らすと見た目が綺麗じゃん。ちょっとオシャレだし!」

    「なんだよそれ!ぼくちんは、他にも、セロリでしょ、グリーンピースでしょ、ゴーヤでしょ、パクチーでしょ、まあ、そう言ったちょっとクセのあるのがダメなんだ」
    「おまえ、オレと似てるな。しかし、パクチーってのは最近の流行らしいが、オレは食べたことが無いんだよね」

    「パクチーってさあ、パクッと食べたら、鼻ちー(鼻血)が出たって事でパクチーって言うんだって!ぼくちんの、かーのじょ(彼女)が言ってた」
     ―――――こいつの彼女、いや、かーのじょ、上級者だ!シャレの上手い、オシャレな子かもしれん!

    「おまえ、なんで連れて来なかったんだ、その彼女、いや、かーのじょ!」
    「えっ??一緒に食べに来ても良いの?」
    「もちろんもっこりくんだ!」

     *
     こうして、数日後、彼女を伴い、ぼくちんがやって来た。

    「はいよ!本日はビーフシチューだ、このヤロメ!」
    「ラッキ~マウス~!良かったね、ぼくち~ん!」
    「うん、かーのじょ、ホント、今日はミッキーだね!」

     ――――かーのじょ、いきなりのラッキーマウスをかまして来よった!やりおるな!しかし、ぼくちん、ミッキーだねって、ちょっとヘタクソか!

    「おほん!ビーフシチューと掛けて!」
    「「ビーフシチューと掛けて?」」
    「本マグロの特上ニギリと解く!」
    「「そのココロは?」」

     ――――さあ、食らいやがれ!オレの会心のなぞかけだ!!

    「どちらも、トロットロ!…………」
    「「………………」」

     ――――外したっ?くっ!!この程度では、ニヤリともしねーのか?!

    「さ、さあ、食べてみて、良く煮込んであるから、トロットロだよ!」
    「わあ、美味しい!!」
    「ホント、美味しいね!!」

     ――――ああ、これは良い肉を使ってるし、煮込むこと半日!もう、噛まなくて良いからな、その肉は!しかし、今日はそこじゃねー!

    「ビーフシチューって何でそう言うのか、知ってるかい?」
    「なんで、なんで~~?」
     ――――おっ、食いついて来たな、かーのじょ!

    「それはな」
    「あの~~、美味しくて愛おしくて、ぎゅーとぎゅーとしちゃってからのチュー((*´з`))とか、モ~モ~、やだー、しあわせのチュー((*´з`))とか、まさかそんなのじゃないですよね~~」

     ――――バカやろー、コノヤロー!!それだよ、それ!

    「え、えっと、そだな、も、もちろんだ、えっと、お、美味しくて、うっしっしのチュー((*´з`))?」

    「……チューと半端、かな?ね?」
    「ね?でも、これ、ホントに美味しいよね!」

     ――――チューと半端、頂きました!!

    「はふーー!!美味しかったです~~!お腹がいっぱい、ムネおっぱい!」
    「ホント、ご馳走サマ乃介!」
    「……ああ、よろしゅうお上がりやすだけん!」

    「「ありがとうございました!また来ます!」」

    「モー、エエわ!!」

     チン(沈)!!

     *
     撃沈しましたw
     彼等は、何者なんでしょうか?
     いや、続きとか無いハズw

     了

  • 💎玖珂李奈

    全文はこちら
    『午前0時の食卓』
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862450734712
    今回のエピソードはこちら
    (また長くなっちゃいましたごめんなさいぃぃぃ༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽)
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862450734712/episodes/16816927862798978501

    なお、近況ノートに、今回のエピソードで出てきた「元カノのSNS」「それを読んで浮気相手が送ったLINE」を載せてみました。(ただのネタで本文の世界とは別物なので、見なくていいですよー)


    主人公:烈(れつ)
    ごはんを食べる少女:紅子(べにこ)
    主人公の元カノ:美奈(みな)


    【一部抜粋】

     紅子がシチューを口にする姿を凝視する。こんな風に見られていると食べにくいかもしれないけれど。
     すう、とシチューが彼女の口の中へ入っていく。
     白い喉が微かに動く。
     すると彼女はきょとんとした表情でスプーンを見つめた。

    「あらっ、牛乳のにおいはするのですけれども、においがしない、です」

  • 第一膳で登場した粗野な口調の方が再び……
    🍏🍏🍏

    ホワイトペッパーのほのかな辛みと、白い皿から立ち上るナツメグの甘い香気はミルクによく合っている。恐らく溶かし込まれたチーズが濃厚さに磨きをかけていて、コレはコレで美味い。
     が、私にはどこか物足りない。
     ああ、と六科が何処からともなく取り出した小さな竹筒を、テーブルの上にコンと置いた。青竹に彫り込まれた竜の文様が見事である。
    「なんだ、コレ。密書が入っているとか? ま、まさか……秘伝のレシピ!!」

    🍏🍏🍏

    いつもよりちょっと長めになっちゃったので、こちらには短めに。
    (どんな論理?)

  • クッ!
    一歩で遅れてしまったか!
    回答です。

    🍷🍷🍷

     タマはそれから慎重に、おっかなびっくり、スプーンの先をシチューにひたした……

     わたしは苦手料理を克服した若かりし頃の修行時代を思い出す。


    🍷🍷🍷


    「あらあら? もう果てたのかしら、関川くん?」

     わたしは師匠・逢生蒼(あおいあおい)に激しくシゴかれ、精も根も尽き果てていた。

     青息吐息で床に膝をつく。

    「も、もうこれ以上、できません」

    「ふぅん? 始めはイキりたった荒々しい雄だったのに、この程度でフニャフニャでヤワな役立たずになってしまったようね? この白濁液も薄くて美味しくないわ」


     逢生蒼(あおいあおい)は口元をハンカチで拭い、粗末なモノを見るような冷たさで鼻で笑うと部屋を後にしていった。

     わたしは羞恥心に身を震わせ、ひとり静かに嗚咽を漏らした。

     白濁液、わたしが丹精込めて作ったシチューを小馬鹿にされてしまうなんて!

     この夜、悔しさのあまり一睡もできずに枕を濡らした。

    🍷🍷🍷

    🍷出っぱなし

    続きはこちらです。

    『飯テロリスト関川様、ネコ耳を拾う』

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862486888667/episodes/16816927862787751698


  • 編集済

    彼はそのまま白いご飯とクリームスープを口に運ぶ。

    「これは……クリームがご飯に合いますね」
    「そうでしょう」

     この一見すると、物静かな青年はひょんなことから知り合った大黒様の化身である。彼のご利益にあやかって料理店を始めて儲かりたいと考えているわたしは何とか家に居ついてもらおうと、先日から何度か食事をご馳走していた。

     今日の彼は緩めのカーゴパンツに白いコットンシャツを着て、その上に民族衣装風のカーディガンというエスニックな若者ファッションのような出で立ちだ。

     そして目の前の食卓に並んでいるのは、今度こそは気に入ってもらおうと私が腕によりをかけて作ったホワイトシチューである。

     市販のルーには頼らずミルクをたっぷり使い、ジャガイモと人参、玉ねぎに加えしめじと一緒にコンソメブイヨンでしっかり煮込んである。
      前回は牛肉を使って失敗したので、今回は鶏のもも肉を一口大に切って調理した。更に隠し味として卵黄とゴーダチーズ、ブラックペッパーを入れてあるのだ。

     わたし自身もシチューを口に入れる。
     とろりとしたクリームが具材に絡みつき、ジャガイモやニンジンを噛みしめれば柔らかく口の中でほどけていく。
     またチーズや卵黄でまろやかになっているのが鶏肉に実に合う。それでいて黒コショウが味をさらに引き立てる。

     今度こそは満足してもらえるだろう、と彼の様子を窺うと満足そうに目を細めて腹をなでていた。
    「これは本当に美味しかった。実に満足です」
    「そうでしょう。ところで、お願いがありまして。……あなたのお力でわたしを料理人として成功させてほしいのですが……」

     彼はわたしの言葉に快く頷いてくれる。
     
    「わかりました。私は台所の神様でもありますから……ふんっ!」

     目の前の青年が何かを念じるように目を閉じて力を込めるような声を上げると光が走り、わたしに何か力が宿ったような気がする。

    「おお。何だか感覚が冴えわたって優れたような感じが……?」
    「これであなたは料理の分量を絶対に間違えたりしません。火加減、味付けについても一度作ったものなら必ず再現できます」
    「あれ? 商売が上手くいくとか、料理の腕が上がるとかそういうのではなくて?」
    「は? だって料理が成功するようになりたいのでしょう? これであなたは作ろうとした料理が失敗することは今後ありませんよ?」

     それは大事なことかもしれないが、そもそも料理を客に出す前提として分量は仕込みの段階で間違えないようにしているのでほぼ失敗することは今までもなかったのだが。

    「それじゃあ、用は済んだようなのでこれで」
    「ああっ! 待って!」

     わたしはまたも目的を果たすことができなかったようだ。


    ❄️ ❄️ ❄️

    ❄️雪世明良です。よろしくお願いします。

  • 🌸悠木柚です。友達募集中!(子供かw)

     ・
     ・
     ・
    「いただきます」

    それから彼女は慎重に、スプーンの先をシチューにひたした……


     ◇


    拙い、この遅い動作は想定外だ。ああ、もう、ほら、銀のスプーンが黒く変色し始めた。

    「こ、これってまさか……」

    気付かれたか!

    依頼を受けて三ヶ月。そろそろ気を許してくれた頃だと思って仕掛けたが、時期尚早だったようだ。これまで仕事に失敗したことのない俺だが、その伝説も今日で終わる。

    「着色料使ってるの? しかも黒。これじゃホワイトシチューが台無しよ」

     彼女が思いのほかアホだった!

    「しかもこの色味、ウィルトンのアイシングブラックでしょ。炭末色素 10.0%、グリセリン 25%、寒天 0.5%、クエン酸 0.1%、クエン酸三ナトリウム0.1%、ソルビン酸カリウム 0.1%の。どうせなら国産の食用色素で、植物炭末色素 100%のものを使って欲しかったわ」

    アホだけどインテリだった!

    「ごめん、次からは気を付けるよ」

    次なんて無いけどな。

    「そうするべきね。ところでアナタ、どれくらい私のことを愛してるのか10文字以内で言ってごらんなさい」

    高飛車だけど、ことあるごとに自分への好意を確かめずにはいられない性格。自信満々に見えて実は誰よりも心配性。そんなところ、嫌いじゃなかったぜ。

    「狂おしいほどに」

    そして、殺したいほどに。



     fin


  • 編集済

    おはようございます! 奥森です。ぎりぎりの投稿すみませぬーー(*´Д`)💦
    今回のメニューはエビカレーです!

                 🐛 🐛 🐛
     豪快に腹の鳴った彼女を放っておくことはできない。ずいぶん空腹なようだ。
     目が合うと彼女は恥ずかしそうに腹をさすり、てへへと笑顔を浮かべている。そう、あの大音量を聞けば99パーセントの男はひく。
     だが僕自身は絞り捨てたはずの料理人の血が騒いだのか、不覚にも可愛いと思ってしまった。

     ジェスチャーを交えながらご馳走するよと伝え、キッチンのテーブルに着席してもらい彼女の前にご飯のみを乗せたカレー皿を置く。片手鍋を左手に持ち、彼女の前でまるでシェフのように振る舞った。

     鍋から瀑布のように流れるスパイシーなカレーを見て彼女の笑顔が綻んだ。
     ぽとりと皿に乗った大きな海老の神々しさに心惹かれているようだ。そして、北海道産のジャガイモと玉ねぎ、愛知県産のブロッコリーと続く。
     立ち登る香りに自身の胃袋もまた刺激された。息を吸い込むと脳髄まで海老の香りが満たす……

    続きはこちら。
    『飯テロ開始します! 〜傷ついた訳あり彼女に一膳の飯を〜』

  • こんばんは!
    🍁空草うつを です。

    回答は以下の通りです!

    ◆◆◆

     キッチンに立っている間、弥生ちゃんは昨日座っていた位置に腰掛けていた。隣の席にアノマロカリスのぬいぐるみを置いて、何やら話しかけている。
     これは、見なかったことにするのが正解か?

     カレーをたっぷりかけた皿を弥生ちゃんの前に置くと、ごくっと生唾を飲む音がした。

    「食べようか」

     両手を胸の前に合わせて、ふたりで「いただきます」と声を合わせた。独り身が長いから、誰かと食卓を囲むことはほぼない。過去に付き合った恋人と夕食を共にすることはあったが、それもだいぶご無沙汰だ。実家に帰ることも年に一度あるかないかだから、久しぶりすぎて少し照れる。

     弥生ちゃんは一口分のカレーとご飯をスプーンの上にのせ、ふーふーと息を吐いて冷ましていた。
     カレーライスを口に含んだ瞬間、弥生ちゃんは頬を赤らめてふにゃふにゃに蕩けていった。

    「どうかした?」
    「……おいひぃです……角切の牛肉がお口の中に入れた途端にほろほろと解けていって、辛味と玉ねぎの甘みが絶妙で……こんなカレー初めて食べました。どうやって作ったんです?」

     目を輝かせて聞いてくるから、軽く作り方を教えてあげた。

     ポイントは玉ねぎを飴色になるまで炒めること。焦げないように混ぜた所に、カレー粉を入れれば既にキッチンも部屋もカレーの匂いに包まれていく。
     角切の牛肉を焼き、赤ワインを投入する。肉料理には赤ワイン、とよく言うが——。

     ぐぅー、と腹の虫が鳴った弥生ちゃんは、恥ずかしそうに俯いてしまった。食べる手を止めて一生懸命聞いていたし、なおかつ目の前に湯立つカレーが鎮座していれば仕方ないことだ。

    「食べて良いよ」
    「すみません……」

     申し訳なさそうにスプーンに手を伸ばし、弥生ちゃんは再びカレーを頬張り始めた。

     作り方の続きは以下の通り。
     香りや味の強い赤ワインは、淡白なものよりも脂が乗り肉の味がしっかりついている牛肉との方が相性が良い。
     互いに強いもの同士、赤ワインと牛肉が長所を高め合ってより深い味わいを生み出してくれる。
     アルコールを飛ばし、カレー粉で風味づけした飴色玉ねぎと混ぜて弱火でぐつぐつ根気強く煮る。
     最後に風味を調整する為にバターを入れたら出来上がりだ。

    「んー、美味しかったです!」

     名残惜しそうにほっぺをすりすりして「ご馳走様でした」って蕩けた顔のままで言われたら、作った甲斐がある。

    「ああ、満腹満腹……お店で出てくるカレーみたいでした」

     お店で、ね。元はプロの料理人だったから厨房で作ってたよ、昔は。
     過去の苦い思い出と共に言葉が口から溢れ落ちる前に、弥生ちゃんがぽん、と手を打ち鳴らした。

    「カレーが美味しすぎて忘れてました! これ、昨日のお礼です。心ばかりの品ですが」

     紙袋には『地球史博物館』の文字が見えたような。博物館のお土産屋さんの中に売っているものだろうか。
     もしかしたら、アノマロカリスの形をしたお饅頭とか?
     それともカンブリア紀の生物を模したお菓子のアソート?
     ……まさかな。

    ◆◆◆
    加筆した前半部分と合わせて公開していますのでよろしければ……
    『嗚呼、私の絶滅種!』
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862794085100/episodes/16816927862795162156

  • こんにちわ
    ♪ 一帆です。私は、あまり辛くないおこちゃまカレーが好きです。最近はタ、ク、コの香辛料は常備するようになりました。

    第二膳の回答をやっと書き上げました。
    よろしくお願いします。
    (前半もかなり加筆してます。おまけに挿入話まである(笑))

    ♪♪♪♪♪

    自分のおなの虫に負けた天蓬さんは、しばらくの間うずくまってふるふると震えていた。その様子が外見から想像もできないくらい可愛らしくて、思わず笑いそうになったけれど、ぐっと我慢して、薄焼餅を作るための準備を始める。

     ―― そりゃ、あんな爆音鳴らしたらね……(笑)。

    突然、気持ちを切り替えたのか、天蓬テンポウさんがすくっと立ち上がった。

    「ならば、俺が鳥をさばこう!!」

    ♪♪♪♪

    続きは、「妖術士見習いは愛を学びたい」 で。
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862494687766

  • おはようございます!
    🐹黒須友香です。
    さきほど自作品に投稿いたしました。よろしくお願いいたします。

    ↓🐹

    突然だが、家の前で生ゴミを踏みそうになった。

    「生ゴミちゃいます! ハムスターです!」

     今日も生ゴミ、もといハムスターが喋った。

    ↓🐹続きはこちら!
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862423037971

  • 🎐風鈴

    短くしたかったんだけどw
    プレイも書きたかったんだけど。
    華麗に書きたかったんだけど・・えっ?


    ***

    「お土産って、これかよ!お前、どんだけオレが食いしん坊だと思ってるんだよ!って、ありがとな!独り身には一番有難い」
    「えへへへ、それ美味しいところのだから。有名なんだよ、並んで買ってきたんだからね」

    「おお、そうか!それは大変だったな。で、丁度二人分なんだがな」
    「えへへへ、あれ、そうだっけ?テヘペロ」

    「はいよ、カツカレーだ!カレーで良かったよ。カレーとかじゃなかったら、何を希望してた?」
    「かつ丼!でも、カツカレーも大好きだから。いただきまーす!うんぐうんぐ、えっ?なにこの味?複雑な味。甘いようでいて、辛みもあり、コクもあって、まろやかで。本格的な感じもするけど、スパイシー過ぎないから、どんどん食べれちゃう!本格的お子ちゃまカレー?」

    「おまえ、それ、ナニゲにディスってないか?悪かったな、お子ちゃまで!あんまり辛いのは苦手だからな」
    「えへへへ、わたしも!」
    「なんだよ、お前もお子ちゃまじゃねーか!」
    「えへへへ!」

     オレのカレーは、市販のルーの甘口と中辛の2種類を使っている。
     そして、今回の隠し味だが、①砂糖②インスタントコーヒー③日本酒④すりおろしたニンニク⑤酢⑥すりおろしたりんごを、3人前で①②⑤は小さじ1~2程度、③④⑥は適当に混ぜている。なにせ計って作ってないから、目分量とその時の気分で変わる。
     他には、ミルクチョコレートとか、乾燥桜エビの砕いたモノとか、ビールとか、ガラムマサラとか、ヨーグルトとか、牛乳とか、醤油とか、味噌とか、気分とその時の持ち合わせで変化する。

     隠し味は、とにかく、少しだけで良い。
     主役にしてはダメなんだ。

    「お代わり、ある?」
    「はいよ!カツはもうねーけどな」

    「うんぐうんぐ、うえっ!!なにこれ?」
    「それかーー、あははは、それは当たりだ!それは、ローリエだよ。月桂樹って知らねーか?」
    「えっと、日本酒の種類?」
    「おまえ、ホントにスゲーな」
     ――――月桂カンって言う酒と間違うのかよ!でも、半分当たってるよw

    「そんなに褒めなくても、えへへへ!」

    「あのな、それは月桂樹っていう木の葉っぱだ。でな、その月桂樹の葉っぱがついた枝で冠を作って、競技の優勝者に与えられたんだ。古代ギリシャの話だけどね」

    「そうなんだ!物知り!」

    「だから、明日はヤレルさ、きっと!」
    「うん!」

     ***

     翌日の夕方。

    「えへへへへ、これ、お礼!」
    「えっ、なんかごめんな。そんなモノを貰う義理なんかないのに」

    「だって、ずっと頑張って来れたのも、決勝まで来れたのも、全部コーチのお陰だから」
    「そんな事はないよ。僕は大したことなんかしてないから・・」

     ドンッ!
     急に抱きついてきて、オレの胸に顔を埋《うず》めて来た。
    「おうっ!ど、どうした・・」

    「えっく、えっく、ええええんんんんんん!!」
     オレは、頭を優しく撫でるしかなかった。

    「お前は、よくやったよ。背が低いハンデも持ち前のスピードでカバーしてたし。チームの最高の隠し味になってたよ。お前が出た時には、必ずチームは攻勢に出れたからな。だが、如何せん、相手が・・」

    「ねえ、早く食べないと冷めちゃうよ、カレー!」
    「うん?ああ、食べようぜ!」
     ――――この立ち直りの速さに、いつもしてヤラレルな。しかし、今日もカレーが欲しいとか、おつカレー(お疲れー)だからって、おまえなぁ~。

    「美味しいか?」
    「うん!」

     お土産を開けると、それは二つのマグカップだった。
     ひとつは、ハートに矢が刺さっており、もう一つにはキューピーちゃんが矢を引き絞っていた。
     そして、それから二つのマグカップは、オレの食卓にいつも並ぶことになったのだった。

     了

  •  はじめまして!
     ☆涼月☆様の本企画に参加されている作品を拝読していて、気軽に参加を、とのことで気になって参りました。遅くなってしまいましたが、今からでも参加大丈夫でしょうか……!

    🍁空草うつを
     以下後半部分になります。

    ◆◆◆

     干しエビをご飯と合わせて三角おにぎりに握る。
     フライパンに胡麻油を適量垂らして火を点け、胡麻油の香りが立った所でおにぎりを入れて。両面に狐色の焼き目が付いたら取り出し、その上から醤油と合わせたかつお出汁を流し入れれば、一度おにぎりにして焼くことで香ばしさが増した、干しエビ茶漬けの完成。

     スプーンを持ったまま両手を合わせて、彼女は茶漬けの入った皿に向かって深く一礼する。なんとも礼儀正しい子だ。食べることは即ち命を頂く行為、きっとご両親の教育の賜物だろう。

     ショートボブにしている髪の、顔にかかっているサイドの部分を耳にかけている。薄い耳たぶには華奢なゴールドのピアスが光っていた。日焼けとは無縁であろう、彼女の色白の肌によく映えている。

     恐る恐る、スプーンでおにぎりを割いていく。焦げ目のついた所はカリッという音を発し、そのままスプーンを割り入れるとふっくらとしたご飯に出汁が沁みていく。
     出汁と共に一口大に取ったご飯を、薄桃色の小さな口に運び入れた途端。眼鏡越しに瞳が大きく見開かれ、キラキラと輝きだした。

    「おいひぃ……今まで食べたお茶漬けの中で、ダントツでおいしいです!!」

     まだ腕は鈍っていなかったと、ほっと胸を撫で下ろす。思ったよりも緊張していたのは、久しぶりに人様相手に料理を振る舞ったから。

    「口に合って良かった」

     それからは、ぱくぱくと尋常でないスピードでお茶漬けを食べ進め、あっという間に皿は空っぽになった。

    「ご馳走様でした。あぁ、満腹満腹……」

     お腹をさすり、ご満悦の様子。緊張の糸がとれた私は無意識に止めていた息を吐き出す。皿を洗おうとのばした腕を、彼女の手が掴んできた。

    ◆◆◆
     後半部分の続きはは以下のページにて公開しました。

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862794085100/episodes/16816927862794104354

     よろしくお願い致します。

  • 💐涼月💐です

     第二膳、投稿します! よろしくお願いいたします。

    💐 💐 💐 

     とは言えど、びしょ濡れの色音をそのまま部屋に通すのは無理だ。
     まずは色音の手のひらの花びらを器に入れさせる。緑と雨の匂いがした。
    「桜だね。俺も好きな花だよ。ありがとう」
     その言葉に、色音が安心したような笑みを浮かべた。
     続きはこちらになります
        ↓
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862602812315/episodes/16816927862641981834


  • 編集済

    お邪魔します。
    よろしくお願いします。


    🐚洞貝渉

    「さあ、どうぞ。リコピンとDHAをたらふく摂取するといいよ!」
     その人はいい笑顔で言って、カレーを頬張った。
     ……リコピンと、DHA?
     私は目の前に出されたカレーを凝視する。
     カレーだ。どうということもない、普通においしそうなカレーだ。
     白米特有の優しい甘みのある匂いに、食欲をそそる独特な香りが混ざり合い、より一層腹の虫が主張をしてくる。
     でも、そういえばこのカレー、肉が入っていないような。

    「どうしたの? カレー、あんまり好きじゃなかった?」
    「あ、いえ、その、カレーは好きです、けど……」
     そう? と言ってにっこり笑いかけられた。
     何か言わないと。もしくは、食べないと。
     でないと失礼だとは思うものの、スプーンを持つ気にはなかなかなれない。
     この微妙な胸のモヤモヤをどう伝えたものかと思案していると、その人はおもむろに言った。
    「いやー、やってみるものだよね。万能缶詰の鯖缶には感謝感謝!」
    「さば、かん……?」
    「そ、トマト缶と鯖缶。リコピンとDHA。給料日前のストック消費食材としては、上等でしょ?」
    「はあ……」

     目の前にはほわりと香り立つ、胃袋を刺激する出来立てのカレー。
     その人はハフハフと言いながら、とてもおいしそうにカレーを口に運び続ける。
     実際、おいしいのだろう。たぶん。
     でも、私はなかなかスプーンを持つことが出来ない。
    「おいしいのですか?」
    「うん。おいしいおいしい」
     あれ、このやりとりデジャヴなのだけれど。

     私はため息を吐いた。
     生臭さは特にないし、さっきからグウグウとお腹の主張が激しい。
     ここは、覚悟を決めるべきなのだろう。
     私はスプーンを持つ。

     カレーを軽く白米に絡め、スプーンにのせる。
     その熱々の一口をほおばると、思考がグンと味覚に乗っ取らた。
     汗が噴き出る。ほのかな酸味と、脳に直接訴えかけてくる濃いカレーの味。もはや、カレーを食べること以外には考えることが出来ない。すぐに崩れるこれは、鯖だろうか。牛や豚、鳥のような食感もうま味もないけれど、どことなく不思議な深みがあるような気がする。

    「お粗末様?」
     その人の一言で、自分の食事が終わっていることに気が付く。
     完食するまで、あっという間だった。
     私は空っぽになった皿に、スプーンを置いて、その人を見る。
    「ごちそうさまでした、その……」
     その人はお皿を下げながら、んー? とどこか間の抜けた声で言う。
    「おいしかったです、とっても」

     私の言葉に、その人は一瞬きょとんとする。
     それから、いたずらっ子のようにニヤリと笑った。

  • 春川晴人🌞です。よろしくお願いします。

    🌞 🌞 🌞

    「あのー、さ」

    彼は心底申し訳なさそうにスプーンを置いた。

    「ごめん、実は食べられないんだ」

    その視線の先にはニンジン。子供かっ。心の中で突っ込むけど、苦笑いを返すことしかできない。

    「だったら、よけちゃっていいよ? それとも他に、嫌いなもの入ってる?」

    昨日、ご近所さんにしいたけ狩りに行ったからと、おすそ分けにもらったしいたけが入ってる。きのこは、嫌いな人はとことん苦手だもんね。

    「いや、しいたけは平気なんだけど……」

    もしや?

    「辛いのが苦手? だったっけ?」

    記憶の断片から引き抜いた言葉に申し訳なさそうに頷く彼。

    「わかった。中辛だったけど、それなら工夫してみるね」

    あたしはもう一度鍋の前に立ち、それから冷蔵庫を開けて牛乳と生クリームと板チョコを取り出した。

    「あのっ。本当に気を使わなくていいから」
    「そうはいかないよ。目の前で空腹の人がいるってのに、放っておけませんよ」

    そう言うと、ボールの中に牛乳を入れて温める。少し多めに生クリームを溶かして、その間に刻んでおいた板チョコを混ぜ込む。

    鍋の中に、それらをくるりと円を描くように流し込むと、丁寧にかき混ぜた。おいしくなーれ!!

    スパイスの香りに混ざって、甘い香りが漂ってくる。よしっ。

    リベンジ、とばかりにニンジン抜きの甘口カレーを彼の前に置いた。ダジャレではない。

    「ありがとう。ここまでしてくれるなんて」
    「どういたしまして。ね? 今度は食べられるかな?」
    「いただきます!!」

    彼はおそるおそるスプーンを口に運んだ。瞬間のとろけそうな笑顔に安堵する。

    「おいしい!! おいしいよ、これなら食べられる。ありがとう!!」
    「よかった」

    あたしはまた立ち上がり、中辛カレーの上に甘口カレーをかけて、ミックスにして食べ始める。

    「ねぇ、カレーってさ。作りすぎちゃうのがネックなんだよね」
    「それって?」

    うふふっとあたしは笑う。よかったらまた食べに来てよね。近いうちに。


    おしまい

  • 🐤小烏つむぎです。

    今回も前半に(かなり)手を入れています。
    出来れば前半から読んでいただけると嬉しいです。
    以下は後半の冒頭です。
    よろしくお願いします!

    ********
     
    「うまいか?」
    子どもはコクコクと大きく頷いた。
    さもありなん!
    指南書によると、これは遠国《とつくに》でこぞって食べられる「カリイ」という料理ぞ。

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862577875744/episodes/16816927862645252365

  • こんにちは。オーソドックスな日本のカレー、ちょっと辛口です。

    📞📞📞
    とびらが開いたとたんにふしぎな匂いがぶわっとあふれてぼくをつつんだんだ。とおい異国の、熱気をはらんだ風が吹いたような気がした。
    その風にまじっていた匂いがいま、ぼくのまえに置かれたまっしろな皿からぷうんと鼻をつついている。
    魔法がかかっていそうな、魔訶ふしぎな匂い。
    おもわず顔をあげると、むかいに座った男のひとと目が合った。
    おんなじしろい皿と、かたわらにはぼくが持ってきた古ぼけたワインのボトル。たまたま拾ったボトルで、いつもの店に持ちこんでなにか食べものと交換してもらおうと思ってたんだけど、いいんだ。どうせ店のおじさんはいつもみたいに足もと見て、たいしたものをくれやしない。このひとに飲んでもらったほうがよほどいい。

    男のひとの皿にもやっぱりおなじごはんが盛ってある。ぼくがいつまでも食べないでいると、手本を見せるようにスプーンでひとさじすくって食べた。
    それでぼくも意を決してスプーンをにぎったけども、やっぱりあやしい匂いなんだ。ぼくたち孤児は、野生のけものの勘で、本能的にきけんを嗅ぎとる。ほとんど黒にちかいこげ茶のシチューがとびきりきけんな信号を発して、いけない、とぼくをとめるんだ。
    なのに男のひとは平気でぱくぱく食べて、ときどきぼくのようすをぬすみ見ている。
    あやしいシチューに副えられたお米はほくほく湯気をたてている。ひとつぶひとつぶがつやつやひかって、悪魔じみた魅力でぼくを誘う。それにシチューのなかにごろごろ転がっているのは、まぎれもないお肉。これを食べないなんて法はない。そうだよ、このひとがぼくにわるい魔法かけたり毒を盛ったりするわけないし。この家にいると、ぼくのきけん察知の本能はどこか遠くへ飛んで行ってしまうみたいだ。

    こわごわひとくち口にいれると、いくつものスパイスが喉から鼻へととおった。ひさしぶりのお肉がやわらかくて美味しくて、言葉にならない。お米はなんてあまいんだろう。シチューは舌にぴりりと来たけど、そんなこと気にせずばくばく食べて、おかわりまでしてもらった。
    ところがおかわりを待つあいだ、急にぼくは口から舌から喉から、そこらじゅうがひりひり焼けるような痛みがやってきて、おもわずとび上がってしまった。あわててコップの水を飲みほしたけど、そんなものじゃ効きやしない。全身から汗がごんごん流れ出て、洟みずなんかもずびずば垂れてきた。からだがへんだ。全身がかっかして、視界がかすむ。
    目から涙がにじむのに気づいて、はっとした。涙なんかもうずっと流したことがなくって、ぼくのからだに涙は一滴もはいってないんだって思っていたのに、まだのこってたんだ。悲しくても悔しくても出なかった涙が、からだの調子がおかしいからって出てくるなんて、ふしぎだな。

    にじんだ視界のむこうで男のひとはあわてる様子もない。毒でも入れた? なんのために? 信じてたのに。
    とじた目から涙がこぼれるのがわかった。やっぱりおとななんて信じるもんじゃないやってつめたく笑おうとしたけど、でも信じてたいんだよってどこかから声がしてうまく笑えなかった。
    汗と涙と洟みずをぼろぼろ流して、ぼくはもう目をあけるもんかと思った。

  • 一体みんなどんなカレーで攻めてくるんだろう。もちろん私は今回も飯チラで。
    🍏🍏🍏

    その時グーと鳴る地響きのような音が……もちろん僕の腹の悲鳴だ。カレーの誘惑に勝てる者はそうそういない。
     僕は諦めてさっさとキッチンに戻った。
    『一人で食べるより二人で食べる方が美味しいと思う』
     この言葉をあの人に手向けるために、僕も料理をするようになった。なんでもしてもらうばかりではいけない。願わくば一緒に……
     そんな幸せな妄想を繰り広げていると、不意に両脇に気配を感じた。
    「オムカレーがいいなあ」
    「おい、卵はあるだろうな」
     幼子二人がグイグイと詰め寄ってくる。僕は大人しく卵を取り出して手早く溶いた。どうも言いなりになってしまう。
     とはいえ溜息を料理に込めるようではいけない。
     皿に盛った炊きたての古代米を愛情を込めて卵で包み、その周りにこっくりとしたカレールウを回しかけた。

     そして食卓を三人で囲う。

     墨黒の皿の真ん中に黄色い丘。そのてっぺんはルッコラと赤いパプリカで彩りを添えておいた。彼らは意外にも待てができる性分のようで、どちらかというと時間をかけてもいいから美味いものを食わせろというスタンスのようだ。だからあれこれと付け合わせを乗せた白い豆皿を並べる間も、物珍しそうに眺めていた。
    「フルク! これは何だ!」
    「なんなの、コレ!」
     双子のようにそっくりな容姿の彼らは息がぴったりだ。
    「えーっと、左から順に……

    🍏🍏🍏
    さて、話の全貌は『異都奈良の琥珀食堂・俺とオマエのお膳立て』にて
    https://kakuyomu.jp/works/16816410413893461604/episodes/16816927862533591729


  • 編集済

    「誤解のないように言っておきますが、一応この間のお礼に立ち寄っただけで決してあなたの料理が目当てというわけではないですから」

     目の前の青年はそう言いながらも香ばしい匂いを漂わせるスパイススープを口の中に運ぶことをやめようとはしない。

     彼はこう見えても大黒様の化身なのだ。祀られていた社が壊されてしまい、行き場を無くしたのだそうである。力を失いみすぼらしい人間の姿で彷徨っていたところを、先日私が見かねて料理をごちそうしたのが縁だった。私がお茶漬けを「お供え」して多少は神様としての力を取り戻したせいなのか今日は以前よりも身なりも良く、厚手のシャツの上に古風な外套を纏った気難しい書生のような風情だった。

     大黒様もとい大黒天と言えば、商売繁盛の神様であり米俵に乗っている姿が有名であるように食物の神様でもある。料理店を営むのが夢であったが上手くいかずに失敗した私としては、枯れかけた夢を咲かせるために是非とも、彼に居てほしかったのだが先日は機嫌を損ねて帰られてしまった。

     そこで今度こそは彼の胃袋を掴んでそのご利益に預からせてもらおうという腹積もりである。

    「それにしても、このカレーライスは本当に酸味と辛みのバランスが絶妙ですね。それに……コクがある」
    「肉を炒めてからそれとは別に玉ねぎを飴色になるまで炒めて、そこにトマトとヨーグルトも足してある。ジャガイモは味がぼやけるから揚げてから最後に加えたんだ」
    「道理で。御飯がいくらでも進んでしまいます」

     彼につられて、わたしもスプーンでカレーを忙しくすくい続ける。
     どろりとしたスープを口に含めば、スパイスがきいた肉の味わいが口の中に広がる。それでいてヨーグルトのおかげで臭みはない。
     トマトの酸味が味をさらに引き立てて、隠し味の唐辛子とマスタードが食欲をそそる。
     またホクホクの揚げたジャガイモが口の中でほどけて、カレーのスパイスの味とブレンドして舌に更なる満足感を与えてくれるのだ。

     我ながら、会心の出来だ。これならば大黒様も満足だろう。
     そう考えているうちに彼と私の皿の中は空になっていた。
    「ごちそうさまでした。……ところでこのお肉って何の肉ですか?」
    「ああ。牛肉ですよ」

     その言葉に場の空気が凍り付く。
     彼はわなわなと身を振るわせてこちらを睨んでいた。

    「あなた。わたしが何なのかわかっています?」
    「何って大黒様。……あっ」

     大黒様のルーツはインド神話のマハーカーラ神であり、サンスクリット語のマハーが「大きい」カーラが「黒」という意味であることから来ている。そしてそのマハーカーラはヒンズー教の破壊神シヴァの別名なのだ。

     シヴァ神が乗り物にしている牛は神様の使いであり、ヒンズー教徒が多いインドでは牛は神聖な生き物で、食べるなどもっての外なのである。

    「このわたしによりにもよって牛肉を出すなど。……料理を食べさせる相手への配慮がなっていないから店がつぶれたんじゃないですか」
     心の傷口をえぐられるようなことを言われてしまった。だがショックを受けている場合ではない。機嫌を損ねた彼はまたも帰ろうとしているではないか。

     ここは何とか理由をつけて引き留めないと。

    「ま、待ってください」
    「……何ですか?」

     彼はまさに破壊神さながらの憤怒の表情で振り返る。ここでくだらないことを言われたらすぐ帰ると言わんばかりに。

    「カレーライスという料理はあなたがいて初めて完成するんです。ですからあなたにはここにいてもらわないと」
    「その心は?」

     彼は意味が解らず首を傾げた。

    「カレーと言えば福神漬けがつきものです。福神、つまり福の神であるあなたがつきもの。なんちゃって」
    「……帰ります」

     わたしの渾身のジョークも虚しく彼はまたも背を向けてしまったのだった。

    ❄️ ❄️ ❄️

    ❄️雪世明良です。
    連作ということで、話につながりを持たせてみました。

  • 🍻カレーとビールの組み合わせは最高ですね! お話の中では、ビールの代わりに麦茶ですが。というわけで以下、お食事場面のみ抜粋です ↓ ↓ ↓


    「グゥぅ〜、ぐギュルルる」

     凄まじい音がして、わたしは思考の中断を余儀なくされた。
     空になったサラダボウルを前に、カレースプーンを握りしめて今にもよだれを垂らしそうな少年がこちらを見つめ、椅子の下では足がバッテンの形でソワソワと揺れている。
     無理もない。程よく温まったカレーが、えも言われぬ芳香を撒き散らしているのだ。今この部屋は、旨味の王国、スパイスの楽園。

     オリーブオイルとバターで飴色に炒めた玉ねぎ、小さめに切ったにんじんとあえて大きさを不揃いにしたじゃがいもが、数種類のスパイスを効かせたスープに程よく煮溶け甘い香りを放つ。
     カレー粉で下味をつけてカリッと焼いた大ぶりの牛スネ肉が豪快にフランベされ、赤ワインをたっぷり纏ってゴロゴロと投入。鍋の中で野菜エキスと絡み合い芳醇な味わいを醸し出している。
     各種スパイスと二種類のカレールウの黄金比率でそれらをまとめ上げた、究極のカレーシチュー。

     セロリ、にんじん、ハーブソーセージを甘めにマリネした、福神漬けがわりの小皿を添えて、固めに炊き上げた押麦ご飯とカレーをよそう。
     野の花を活けたグラスを挟んで向かい合わせに座り手を合わせると、テンも「あっ」という顔をして急いで手を合わせた。

     声を揃えて、「いただきます」。

     ちゃんと自分でスプーンを握り、ふーふーして、ぱくり。
     その瞬間、ふわふわの明るい髪の下からもふもふの耳がピョコンと立ち、ダブダブハーフパンツの裾から太い尻尾がボムっと現れた。

    「なにこれ美味しーい!」

     大きく掬って、もう一口。

    「あっふ! あれ、あっ、からぁい!」

     旨味の後から辛さが来たらしい。普段より辛さをだいぶ抑えて作ったけれど、やはり初めてのカレーは刺激が強かったみたいだ。尻尾がブワッと膨らんでいる。
     花のグラスに手を伸ばすのでその手を止め、急いで麦茶を持ってきてやる。ごくごくと麦茶を飲んで、また一口。目を潤ませながらも美味しそうに、ふーふーもりもり食べている。

     うんうん。スパイスは効いてるけど、辛味はマイルド。舌の上でとろける野菜の甘み。よく煮込まれた牛スネ肉の筋肉繊維が口の中でほろりと崩れ、スジの部分はプリプリとろりと蕩け、力強い味わいだ。固形ルウを極力減らし、足りないとろみは溶けたじゃがいもで程よく補われている。旨味とコクは濃厚だが油分が少ないため、いくらでも食べられそうだ。
     カレーは飲み物、なんて言葉が一時期流行ったけれど、ほんとにそんな感じ。口直しのマリネに手をつけるまでもなく、あっという間に一皿平らげてしまった。
     テンは自分でもびっくりしたみたいに、不思議そうに空の器を眺めている。
     なんで「あれ? なくなっちゃったよ?」みたいな顔してるんだよ。君が食べたんだよ、それ。

     空になったカレー皿をそーっとこっちへ押して寄越す姿が微笑ましい。

    「テン、美味かったか」
    「うん!」
    「おかわり、いる?」
    「うんっ!」

    🍻
    小狐くんの正体がちょびっとだけ明かされました。続きはこちらでお願いいたします↓
    『ハーフ&ハーフ企画 参加作品集』https://kakuyomu.jp/works/16816452220246177194/episodes/16816927862610822785

  • ☆☆☆ 愛宕 ☆☆☆

     目の前にカレーが出された。
     サラッとしたカレーの海に、皿の幅を逸脱するほどの魚が横たわっている。俗に言うフィッシュカレーというやつだ。この手のカレーは滅多に見かけないが、俺は何度か合間見えたことがある。魚がゴロっと出されたタイプは、あの名店「カマルプール」のスタイルに近い。我が師、五郎先生も唸った絶品の鯖カレーに近い。もちろん俺も巡礼を済ませている。

     しかし、頭から尻尾まで姿焼きされた魚が乗っているのは初めてだ。俺は何の魚か教えてもらうために、頭を上げ、無言で関川くんを見つめた。

    「これは、鯵だよ。骨まで丸ごと食べれるよう、高温高圧調理というやつで焼いたものなんだ。見た目以上に柔らかいよ」

     そういえば関川くん、前はプロの料理人だって言ってたなぁ。最新の調理方法まで取り入れてるだなんて、これは家で作るレベルじゃないぞ。まぁ、それを食わせてもらえる俺としては、ありがたいの一言だ。

     まずは、箸で鯵の頭と身を分けてみる。
     これは凄い! 骨はどこだ? 力を入れるタイミングが全く無かった。せっかくなので、頭から口に入れてみた。こんなホロホロの食感、味わったことがないよ。いいじゃないか、いいじゃないか。高温高圧調理、いいじゃないか。
     しっかりと鯵にもカレーのスパイスが染み込んでいる。鯵にも味が……なんて、全く味な事をしてくれる関川くんだ。サラッとしたスープ状のカレーも味わい深い。少し酸っぱい感じがまた、俺の食欲を促してくれる。

     スープの下で埋もれているお宝は、ジャスミンの香りが高い白飯だ。前に関川くんが出してくれたお茶漬けのようにサラサラとしている。あの時と同じく、噛む必要など無い。カレーは飲み物とは、こういうことを言うのだろう。

     ――ごちそうさまでした。

     言葉には出さず、両手を合わせてお辞儀した。本当なら声を大にして美味さを伝えたかったが、俺が少年になった理由、そして自分の声が子供のものなのか大人のものなのか、どちらも分からない内は静かにしていたい。今日もこれで勘弁してくれ。

     鯵の姿焼きカレー(高温高圧調理)。
     さすがにこれは、関川くんの手にかからないと食べれるものではない。今日の手土産は「うまい棒」だったが、次はもっと良いものを持参することにしよう――。

  • 💎玖珂李奈

    長編にしましたので、一つのお話としてまとめました。
    公開するのが凄く恥ずかしいです。ほんとごめんなさいです……。
    『午前0時の食卓』
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862450734712
    今回のエピソードはこちら
    (合計三千字くらいになっちゃいましたごめんなさいぃぃぃ)
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862450734712/episodes/16816927862608618129
    主人公:烈(れつ)
    ごはんを食べる少女:紅子(べにこ)
    主人公の元カノ:美奈(みな)

    *第一膳の描写で一部変更あります。
    「制服」→「セーラー服」

    🍛一部抜粋🍛

     紅子が来た時にカレーを振舞おう、というのは、割と早くに決めていた。だがどんなカレーにしようかで少し悩んだ。

     彼女は「JK」という雰囲気ではない。「女子高生」でも微妙な感じだ。敢えて言うなら「女学生」といった感じ。
     で、「女学生」なら懐かしい雰囲気のカレーがいいかな、という失礼な偏見により、牛すじカレーにすることにした。

     使い込んだ大鍋で、長い時間をかけてじっくり、じっくり牛すじを煮込む。
     硬い牛すじがほろほろに柔らかくなっていく。
     人参と金茶色に炒めた玉ねぎと一緒に赤ワインで更に煮込む。
     懐かしい雰囲気にしたくて入れてみたジャガイモと共にカレーになる頃には、牛すじは輪郭が曖昧になるほどにとろけていた。

  •  🌸悠木柚です。キーマカレーが好きです。


    (やっぱり懐かれちゃったか……)

     俺の人柄というよりは、料理のせいなんだろう。男の子は先日のお礼(※1)にと、わざわざ訪ねてきてくれた。

    「まぁ、上がりなよ」

     そういうと嬉しそうに靴を脱いで部屋の中に入ってくる。それから少し鼻をひくひくとさせ、何とも言えない笑顔を浮かべる。

    「今日はカレーを作ったんだ。また食べてくかい?」

     ちょっとびっくりしたような表情。それから内面で葛藤しているのか、やたらと足元と天井で視線を往復させている。その間に俺はカレーの配膳を始めた。

    「実は多めに作ってしまってね。それに、一人で食べるより二人で食べる方がおいしいと思うんだ」

     お腹がグーと鳴る音が『いただきます』の代わりだった……(※2)


     ◇


    「おいしい、おいしいよ!」
    「まだまだあるからな、ぎょうさん食えよ」
    「わーい!」
    「ところで相談があるんやけど」
    「いいよ、何でも言って!」
    「実はな、君の容姿を画面の向こうにいる読者に伝えなあかんねん」
    「画面の向こうって何?」
    「子供がそんなこと疑問に思うたらあかん」
    「そうなの?」
    「ああ。君みたいなショタに求められるんは『素直で可愛らしい』とか『やんちゃだけど憎めない』くらいや。変にあれこれ質問したら、自分の子供とダブって急に読者が正気に戻るから気を付けるんやで」
    「分かった! 気を付けるよ」
    「うんうん。じゃあさっきの続きやけど、君は獣人ってことでエエかな」
    「ボクは人間だよ?」
    「そんなもん黙っとれば解らんのじゃボケ! お前が今、バラしたからもう獣人属性を付けれんようになったやないか。画面の向こうにいる読者が、どんだけ獣人キャラの登場を待ってると思ってんねん! 内閣が増税案出しても暴動は起こらんけど、物語に獣人キャラ出さんかったら戦争が起こるんじゃ!」
    「ご、ごめんなさい。じゃあボク、獣人でいいよ。人間だと思ってたけど実は獣人だったみたい」
    「いや、そう言ってくれると助かるわ」
    「ううん、大丈夫だよ。それよりこのカレー、美味しいね!」
    「…………なんやて?」
    「(ビクッ)」
    「思い出したようにカレーの話とか混ぜてくんなや! ケモミミとか尻尾とかモフモフの説明させたれやコラ! 世の中は需要と供給なんじゃ。カレーの話を放置しても怒る奴はおらんけど、ケモミミ登場回で脱線したら核飛んでくるからな!」
    「核飛んでくるの?」
    「今ちょうどロシアが戦争しとるやろ。プーチンとかムーミン谷にいそうな名前しとるから、ほぼほぼ獣人やんけ。ヘソ曲げて、ウクライナのついでに日本もいてもたれ! みたいな感じで絶対飛ばしてくるわ」
    「獣人の扱いって繊細なんだね」
    「それだけ重要な立ち位置なんや」

     某月某所。ひょんなことで獣人の男子と中年の男性が交流を持った。ふたりはこの後もカレーの話をスルーして色々と語り合う。そこにはカレー回だからカレーを絡めた話にしようという真面目さなんて微塵もなかった。あったのはただ、話が弾んだときに食べていたのがカレーだったという事実だけ。



     fin



     ---------------------

     ※1 連作形式にしていないので何のお礼なのかさっぱり分からない。『じゃあ勝手に問題文を作り替えれば?』という至極当然な疑問を投げかけてくる輩よ。お前はまだ、キレた時のフタヒロを知らない。

     ※2 きっと10回全てを、このフレーズで締めたいと考えている。

  • 関川さん、予定通りの更新ありがとうございます!
    では、早速

    🍷🍷🍷

     わたしは、程よくとろみがついていることを確認し、煮込んでいた鍋の火を止めた。
     本日の料理は、タンドリーチキンカレーだ。

     先日、行き倒れていた少女を連れ帰ってきた日のこと、わたしはあの日以来誰かのために料理を振る舞った。
     わたしの中で凍っていた時が溶けたかのように動き出し、料理を作る喜びを思い出したかのようだった。

     この1週間というもの、少女がいつ戻ってきても良いように毎日二人分作っていた。

     今日までの作りすぎてしまった料理は、わたしが居候させてもらっているココ、『変態の館』の館長カノーさんにおすそ分けしていた。
     毎食のことで困ったように苦笑いをしていたが、わたしの中で何かが変わったことに気づいたのか、口端が嬉しそうに上がっていた。
     カノーさんは、天を貫かんばかりにそそりたつ摩天楼『変態の館』の主として最上階にあるペントハウスに住み、この界隈では絶大な影響力を持ちながらも慕われている。
     一部の者たちの間では、ウンバチのように畏怖されているそうだが真偽の程は定かではない。

     さて、今日は食事を楽しむ相手が目の前にいる。
     これだけで伸びる食指が押さえられない。
     少女も同様に目を輝かせながらすでにスプーンを握っている。

    「いただきます」

    🍷🍷🍷

    続きはこちらです。

    出っぱなし

    『飯テロリスト関川様、ネコ耳を拾う』

    https://kakuyomu.jp/my/works/16816927862486888667/episodes/16816927862567863268

  • 参加者のご紹介への応援コメント

    関川 二尋様

     ご丁寧な紹介文をありがとうございました。
     そして、お勧めにタキモクを上げてくださって嬉しいです(*´▽`*)
     いつも温かいお言葉ありがとうございます。


  • 編集済

    ご無沙汰してます!
    ご連絡ありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)

    1の残りも書く気満々なんです!

    🌱🌱🌱

    「はぁーーー食ったー!うまかったー!」

    彼は私が出したお茶漬けを米粒ひとつ残さず、いや、出汁一滴残さず食べきり叫んだ。

    「生き返ったー!死ぬかと思ったー!」

    さっきまでは確かに正座していたと思うのだけど、今は堂々と、そりゃあ堂々と、センターテーブルから両足を投げ出している。

    ……あれ?
    さっきまで小さく小っさーく見えていた男はどこにいった?
    捨てられた犬みたいな、借りてきた猫みたいな、庇護欲を掻き立てられるような雰囲気はどこにいった?

    視線に気付いたのか、彼はニョキっと立ち上がる。ニョキって言葉がピッタリなくらい高身長。
    おかしいな、アパート横の植え込み前にしゃがんでいた時も、部屋に引き連れてきた時もデカいと思わなかったのに。

    「お茶漬けって言うから、料理出来ない人かと思ったけど、汁がとにかくうまかった」

    しる……。出汁な!
    いや、それよりも。
    ニョキっと立った彼は、手にお茶碗とレンゲを持ってシンクに……あ、洗う?
    あ、洗った!ほーー洗い物できるのか。

    じゃなくて!

    私が拾ったのは犬でも猫でもない。宇宙人でもない。洗い物もちゃんと出来る成人男性だったようだ。

    しかも、さっきまで全く注目していなかったけど、見事なモデル体型。
    脚長っ。顔ちっさ。
    その割には背中にも腕にもバランスの良い筋肉が上手いことついている、ように見える。
    ボサボサかと思った長めの髪もパーマだ。
    オシャレなボサボサか。

    暗闇で見えなかったとは言え、空腹の人を保護するのに夢中だったとは言え、こんな夜に洗い物の出来る見目麗しい成人男性を連れ込んで、ご飯食べさせて、食べ終わって、今……もしかしなくても二人きり?

    男性を部屋に入れるなんて、3年前に水漏れで大家さん(65)を入れたの以来じゃないか!

    「助けてくれたお礼に、なんでも言うこと聞くよ」

    黙りこくったまま視線をぶつける私が、何かやらしいことでも考えていると思ったのか、じりじりと近付きニコッと笑う。

    ち、違う!断じて違う!

    捨て犬やら猫やらを無視なんて出来ない、ただの成人女性(恋愛からはしばらく遠ざかってます☆一人がラクチン37才)なんだー!!

    🌱🌱🌱


  • 編集済

     皆さまこんにちは! 奥森 蛍です🐛(←マークこれです)
     遅ればせながらこっそり参加します。
     ハーフ&ハーフは以前何作か拝読しましたが、参加するのは初めてでして。どきどきしつつ、飯テロ。メニュー考えるの楽しいですね! 
     関川さん運営お疲れさまです(=^ェ^=)
     
           🐛 🐛 🐛

     彼女の指先がそっと漆塗りの箸へとのびる。空気を振るわす緊張感に生唾を飲みこんだ。

     彼女は冷たい箸を胸元にかかげ、まるで祈るようにそっと瞳を閉じる。

     美しすぎる横顔は凪いだ海を思わせる、そこへ一滴の神の雫のごとき麗しい雨粒がつうっと垂れた。


    ――彼女の涙だった。


     腹を空かせて傷ついた彼女は今一膳の飯に感動している。長い間料理人をやってきたが、これほどに感動してくれる人は珍しい。それだけ飢えていたのだろう。

    「食べてよ」

    「ハイ」

     彼女は涙をふいて箸を左手に不器用に持ち、右手の白魚のような指をそろえて椀の側面に添えた。
     茶碗八分目によそった麦飯のくぼみで全卵が煌々と光っている……


    後半の続きは自作品で。
    『ー飯テロ革命、傷ついた訳あり彼女に一膳の飯をー』

  • お邪魔します。
    とても楽しそうな企画で、実は前々から気になっていたんです。
    今からでも飛び込み参加って可能でしょうか?
    よろしくお願いします!

    🐚洞貝渉

     渋い香りと甘ったるい香りが、絶妙に混ざることなく、かといって喧嘩するでもなく。
    「お茶、漬け?」
    「そう、お茶漬け」
     にっこりと笑うその人は、なんの躊躇もなく“お茶漬け”に箸をつける。
     割れた饅頭から、ことさら甘いあんこの香りがした。

    「おいしいですか?」
    「うん、おいしいおいしい」
     心底幸せそうな顔でその人は“お茶漬け”をさらさらとかっ込んだ。
     嘘偽りなく、本当においしいらしい。
    「ラーメンにチャーハン、焼きそばにお好み焼き、そして白米には饅頭、だよね?」
    「はあ……」
    「んー、まさに背徳の味、炭水化物爆弾バンザーイ!」
     なぜか楽しそうに、その人は笑う。

     私の腹はさっきから鳴りっぱなしだ。しかし、どうも箸を持つ気にはなれない。
     目の前には、冷や飯に饅頭を乗せ、ほうじ茶をぶっかけた“お茶漬け”が鎮座している。
    「お茶、漬け……」
    「そう、お茶漬け」
    「おいしいのですか?」
    「うん。おいしいおいしい」
     このやり取りは何回目だろうか。
     結局のところ、空腹なのだ、私は。
     そして、目の前にはもてなしの食事がある。
     いい加減、覚悟を決めるしかない。
     
     私は決死の覚悟で箸を持つ。
     白米の上に乗った、ふやけた饅頭を二つに割って、そっと、白米と一緒に口に含む。
     あんこの甘みのすぐ後にほうじ茶の香りが鼻を抜け、饅頭の皮のふにゃりとした食感と米特有のもちもちした食感が仲良く口の中を占拠した。
    「……?」
     初めての食べ合わせのはずなのに、どこか懐かしくて。
     その懐かしさの根源を見つけるべく、私は“お茶漬け”をさらさらとかっ込む。

    「お粗末様?」
     気づけば、その人が私を優しい眼差しで見つめている。
     いつの間にやら、私の茶碗は空っぽになっていた。
    「ごちそうさまでし……あっ!」

     そうだ、この味、あれだ!
    「おはぎ……」
    「ん? おかわり、いる?」
    「あ、いえ、大丈夫です」
    「そう? 案外悪くなかったでしょ? ま、次はもっと栄養あるものたらふく食べさせてやるからさ。遠慮なくいつでもおいで?」

     その人はいたずらっ子のようにニヤリと笑った。


  • 編集済

    はじめまして。初参加の
    🐤小烏 つむぎです。

    右往左往して、先輩方のアドバイスでやっと参りました。
    前半も加筆していますので、最後にリンクを貼らせてもらいます。

    以下は、後半です。

    **********

     「ちょっとは腹が落ち着いたかい。」 

    アタシは、コトリと茶碗を置いたその子に声をかけた。

    今は薄汚れたナリだけど、箸の使い方は綺麗だ。どっかいいとこの坊っちゃんだったに違いない。

    “イチ”はこちらを見て、キチンと頭を下げた。



    「お前さん、どっから来たんだい?」

    「…箱館。」 

    「箱館かぃ!」

    こりゃ驚いた。そりゃずいぶんと遠い海の向こうじゃないか。

    蝦夷では春になってまたぞろ戦いくさが起こってるともっぱらの噂だ。

    どうせ答えちゃくれないだろうから、詳しいことなんざ聞きゃしないけどさ。おおかた戦を避けて逃げて来たクチだろう。



    「で?この先どうするかアテはあるのかい?」

    膳を下げながらの問いに、子どもは何か答えたが良くは聞き取れなかった。

    深くうつむく姿にアテはなさそうだとアタリをつける。

    まぁ、頼られたところで場末のヨタカに何かしてやれることなんざないけどさ。



    「“イチ”。着替える気はあるかい?」

    そのとたん“イチ”はぎゅと薄汚れた着物の襟をぎゅっと握り込んだから、

    「あ、嫌ならいいんだ。昔の男の着物があるからさ。

    持ってきなよ。そのまんまじゃ怪しいことこの上ないよ。」



    「かたじけない。」

    “イチ”はそう言って頭を下げた。

    ああ、この子はしっかりした子だよ。

    この後のことがアタシは心配になってきた。



    「これはさ、独り言だからさ。聞き流しとくれ。

    『客』から聞いたんだけど、川越ってとこ、知ってるかい?

    いや、聞いてんじゃないよ。川越ってとこが、ここから、そうさな二里ほど先だろうか。川越ってとこがあるんだけどさ。

    今人手が足りなくて、人足を探してるんだってさ。」



    “イチ”が少し顔を上げたから、アタシは慌てて言いつのった。

    「ただの噂じゃないよ。

    そこのまとめ役がそう言ってんだから。

    本当のことさ。」

    “イチ”がじっとこちらを見た。

    「大きな町だし、子どもが一人混じったって誰も気がつがきゃしないよ。」



    「かたじけない。」

    掠れた声で“イチ”が言った。



    その夜“イチ”は壁に寄りかかって眠った。

    何かあった時にすぐ逃げられるように。

    アタシはやるといった昔の男の着物をその肩にかけてやり、残りの冷飯で小さな握り飯をこさえて、足元に置いておいた。



    翌朝、“イチ”は消えていた。

    着物も握り飯もなくなっていた。

    つっかえ棒が外されきちんと閉められた引き戸を見て、アタシはクスっと笑った。



    ちょっとタレ目のしっかりした顔つきの子だったよ。

    *********

    加筆した前半と、後半のおまけ情報はこちらです


    https://kakuyomu.jp/works/16816927862577875744

    やっとできた!
    アドバイスくださった皆様、本当にありがとうございました!

  • ♪一帆です。
    今回も、ハーフ&ハーフ2~飯テロ編~に参加いたします。よろしくお願いします。

    個人作品で参加しまーす。
    お題もちょこちょこ変えながら回答を書いていく予定です。周回遅れにならないよう頑張りまーす。コメントも遅いですが、お許しください。


    ♪♪♪♪♪

    ―― さて、いっちょやりますか!

    私は、ふうっと大きく息を吐くと、出しっぱなしになっていた芽花椰菜を細かく刻み始めた。トントントンと包丁がまな板をたたく軽い音がして、私の気持ちも楽しくなってくる。


     「ご飯が足りないから、芽花椰菜でご飯粒マシマシ大作戦!!」



    包丁を持ち上げて、大きく宣言!!

    ♪♪♪♪♪

    続きは、「妖術士見習いは愛を学びたい」

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862494687766



  • 💐涼月💐です!
     
     遅ればせながら今年もよろしくお願いいたします。
     初めての方もたくさんいらっしゃるようで、楽しみです。
     個人の作品欄で公開されているかたには、作品応援コメントの形で感想を書かせていただきます。コメント欄のみの方には、後ほど関川さんの近況ノートの方へ一口コメントを書かせていただく予定です。
     よろしくお願いいたします。

     私は今回も個人作品として投稿します。最初の数行だけ、こちらへ載せて、続きは作品ページへとURLを張らせていただきます。


     💐💐💐

     黒耀色の美濃焼の茶椀に、味噌焼きおにぎりを載せる。
     その上に柚の皮、シソの葉と焼きのりを少々。
     ストック出汁をさっと温めて、ひたひたになるくらいかけたら出来上がり!

     焼き味噌おにぎり茶漬けの完成だ!

     続きは下記へお願いいたします(#^.^#)
     https://kakuyomu.jp/works/16816927862602812315/episodes/16816927862602837108
     

  • 遅ればせながら、参加いたします!
    みなさんのコメントはまだ読めていないのですが、とりあえず自分の分の投稿を。
    よろしくお願いいたします!
    🍻

     小ぶりの茶碗に盛られたお茶漬けを前にして、お腹は相変わらずグゥグゥ鳴っている。なのに少年は遠慮しているのか、膝の上で拳を握ったまま手を出さない。

     細かく刻んだ野沢菜にしらすの旨味と胡麻の香りを和えた常備菜。このまま食べてよし、チャーハンにしたり豚肉と炒め合わせてもよし。何より緑色が綺麗なので、食卓の彩りに役立つ。これでも元料理人、一人きりの食事でも、つい見た目を気にしてしまうのだ。
     さて、その上にカリカリに焼いて小さく切った油揚げ。そこへだし醤油をちょろっとかけたら、香ばしいほうじ茶を。
     冷蔵庫のありあわせで作った油揚げ茶漬けだけど、美味しいんだぞ。是非あったかいうちに食べてほしい。

     レンゲでひと匙掬い、ふーふーして口元へと運んでやる。

    「ほら。どうぞ」

     遠慮がちにひとくち食べた瞬間、少年の目がカッと見開かれ、爛々とした視線を向けてくる。うん、美味しかったのね。

     ふたくち目。今度は自分から身を乗り出してレンゲに食いついてきた。
     目を閉じて、いっぱしに何やら納得したような表情で頷きながら噛み締めている。思わず吹き出しそうになったが、堪えた。油揚げのサクサクと野沢菜のシャキシャキした音がこちらにまで聞こえてくる。味を想像して、こちらまで唾液が溢れそうだ。

     少年は早くもテーブルに両手をつき、口を大きく開けて待ち構えている。流石に「ンフッ」と笑ってしまったが、相手は気づいていないようだ。最後のひとくち。
     両手を頬に当て、鼻から「ふ~ん」と息を漏らし幸せそうにもぐもぐしている。


    「……美味しかった、です」

     金色の瞳をキラキラさせながら、少年は名残惜しそうに空の茶碗を眺めている。

    「それはよかった。他の味もあるよ。おかわりするかい?」
    「いいの?」
     明るいブラウンの髪の下で、少年の耳がピクッと震えた。

     キッチンへ戻って新たな油揚げを香ばしく焼きあげ、おかわりを作る。今度は角切り椎茸の甘辛煮でいってみようか。生姜風味で牡蠣醤油の旨味たっぷり常備菜。刻み海苔も載せちゃおう。

     2杯目のお茶漬けを頬張った少年は、うっとりと目を瞑り幸せそうに堪能している。ふわふわの髪から飛び出したもふもふの耳がピコピコ揺れて、ハーフパンツの裾からふさふさのしっぽまで出してブンブン振っている始末だ。



     ───やっぱり、狐には油揚げだな。


    🍻

    続きはこちらになります↓
    「ハーフ&ハーフ 参加作品集」https://kakuyomu.jp/works/16816452220246177194/episodes/16816927862567426981
    よろしくお願いいたします。

  • ☆☆☆ 愛宕 ☆☆☆

     目の前に茶漬けが出された。

     湯気から伝わる刺激的な香りに、空腹の胃袋がびっくりし過ぎて穴まで開いてしまわないだろうか。いやいや、いくら子供の体になってしまったからと言って、そこまで軟弱ではないだろう。俺は木製のスプーンを持ち直して、薄く緑色に染まったご飯を掬った。

    「珍しいだろ? グリーンカレー味だよ」

     ほう、これは面白い。グリーンカレーのお茶漬け。
     いいじゃないか、いいじゃないか。
     昔からお茶漬けとは言えば、海苔、梅、鮭など、和のイメージを持ったものばかりだったが、まさかのエスニックで勝負した商品が存在していたとは驚きだ。それを見つけた君にも驚きだ、関川くんとやら。

    「熱かったかな? それとも辛すぎたかな?」

     熱い、そして辛い。
     しかし、ここで声を出すわけにはいかない。俺は独身を謳歌するサラリーマンだったはずだ。それが今、訳ありの少年に身を宿し、関川くんとやらに拾われて飯を食わせてもらっている。どうしてこうなったのか……それを知るまでは、気軽に口を開くものではない。だから俺は、目をいっぱいに見開いて、このグリーンカレー茶漬けの凄さを表現した。関川くんも「うんうん」と満足気だ。

     それにしても、このグリーンカレー茶漬けは美味い。
     口に入れた途端に辛さが広がり、奥歯のさらに奥へと熱が伝わっていく。従来の梅や鮭などのお茶漬けでも入っているアラレがまた、茶漬けらしい存在感を出しているではないか。アラレの無いお茶漬けは、お茶漬けにあらず……来ったぞ、来たぞ、アラレちゃん。

    「もっとゆっくり食べなよ。胃に悪いぞ」
    「…………」
    「なんだか、子供とは思えない食いっぷりだなぁ」

     そう言われても……お茶漬けは流し込むものだ。
     しかし、あまり豪快にがっつくのも怪しまれる。俺はペースを落として、辛さで染み出る鼻水を抑えながら食べ続けた。

     ――ごちそうさまでした。

     言葉には出さず、両手を合わせてお辞儀した。本当なら声を大にして美味さを伝えたかったが、今はこれで勘弁してくれ。

     グリーンカレー茶漬け。
     なかなか良いアイテムを見つけた。元の体に戻れたら、家でもストックすることにしよう――。

    【第一膳 出会いとお茶漬け】

  • 関川さん、こんにちはー。春川晴人です。🌞マークを使おうと思います。

    🌞🌞🌞

    「困ったな」

    ぼくは衰弱しきったその老犬の口元に、よく冷ましたお茶漬けを運んだ。

    もう、自力で飲む力も残っていないのか? どうすればいい? たった一口でいい。どうにかして口に入れてあげたい。

    その時、昔の彼女が買い集めていた注射器型のスポイトの存在を思い出した。香水が好きな子で、たくさん持ち歩きたいから、と香水を詰め替えるために買いあさっていたのだ。

    長らく放置していた引き出しを開けると、未使用のスポイトがいくつか出てきた。

    すっかり冷めてしまったお茶漬けをすり潰して手ぬぐいでこすと、少し濁った水が出てきた。それを注意深くスポイトで吸入すると、危なくないように針の部分は取り外した。

    「はら、口を開けて?」

    ぼくはこの子に生きて欲しいと思った。子供の頃飼っていた犬を思い出したからだ。どうしてこの子がこんな姿になって行き倒れていたのか、それを思うと胸が痛くなる。

    お茶漬けは少しずつ、老犬の口の中に染み渡り、やがて、貪るように飲み干してしまった。

    固形も食べられるだろうか?

    お茶漬けの入ったお椀をその子の食べやすい高さまで持ち上げてあげると、半分自由がきかなくなった体を必死に持ち上げて食べてくれた。

    よかった。なのに、どうしてだろう? 涙が止まらなかった。

    おしまい

    ※悲しい物語になってしまってすみません。もし、あっていなかったら削除してください。

  • 参加者のご紹介への応援コメント

    ご紹介、ありがとうございます\(//∇//)\

    ハーフ&ハーフ、楽しいです♡

    北乃くんイメージのキャラをもみくちゃにするはずが、、、。

    もみくちゃにされちゃうラブストーリーになってしまった。

    はて。

  • こんにちは。初めての参加です。よろしくお願いします。
    名前マークは📞久里琳。琳→リン♪→📞です。こんな感じでよいでしょうか?
    さて、後半は以下に。
    ***
    彼がどうしてそんなにやさしくしてくれるのか、ぼくにはわからなかった。
    ぼくに与えられるのはたいていが臭い、汚い、みっともないって言葉で、そこへたまにかわいそうって言葉とともになにか食べるものが加われば、ぼくはその日を生きのびることができたのだった。

    家のなかがこんなにあたたかいなんて、いままで想像もしなかった。
    焼けこげた家の梁の下にいたって雨は容赦してくれない。爆風に軒並みなぎたおされたあと一枚っきりのこった壁も北風を押しかえすにはかよわすぎた。あんまり寒くて雪の夜にはたき火の火のなかにとびこんでしまおうかなんて思ってたのに。

    目のまえに置かれたスープはお米が入ってて、湯気といっしょにふしぎな匂いをたてている。なんだろうこれ。はじめて見る食べものだけれどとにかくごはんだ、それでおもいだした、もうふつかも食べてないんだった。いや三日だったかな、おぼえてないや。きのうっていつのことだっけ。

    皿をもちあげたらあっつあつに熱くておもわず落っことしそうになってしまった。「あっ」てみじかい叫びがあがって、声のした方を見たら、男のひとがまぢかでぼくを見てるのと目が合った。かれはおっかなびっくり笑顔をつくった。ぎごちないけど、わるい考えはその下にないんだってなぜだか思った。おとながなに言ってきたって耳をかしちゃだめだ、ってのは町の孤児たちの合言葉みたいになってて芯まで染みついてるのに、そのひとの不器用な笑顔は世界にひとり立ち向かうため不信と警戒心で築いたなけなしの防御柵をさあっと吹き散らしてしまった。

    かれの視線はぼくからスープに移って、それからまたぼくの方に戻った。視線にうながされるように、ぼくはもいちど皿をもちあげ、注意しながらスープを口にした。うす味のスープにごはんはほどよくふやけて空っぽのぼくの胃ぶくろにもやさしかった。びっくりしたのは赤い実だ。しょっぱくてすっぱくて、ひとくち齧るともうほかの味がふっ飛んでしまうほど。でもヘンなのに不快じゃない。不快どころかその味が口から去るとさびしくてすぐまた欲しくなる。それでまた齧るとこんどはスープが欲しくなる。どんどん食がすすむ。あっという間に食べきると、空の皿をぼくから取りあげて、男のひとはキッチンに向かった。せなかを見てるうちまたいい匂いがしてくる。お皿にスープがそそがれる、湯気がたつ、香ばしい匂い、それからあの赤いすっぱい匂い。ぼくの食べっぷりはかれにつつぬけだったようだ。二杯目のスープには、赤い実がみっつも入ってた。

    二杯目をたいらげると、ぼくは急にねむたくなってきて、テーブルに顔を伏せて目をとじた。おなかは満たされ、部屋はあったかい。もう死んだっていいや。ちがうな、それは今朝まで考えてたこと。このまま雪に埋もれて死ねればいいやって思ってたんだった。でもいまはちがう。こんな美味しいものがこの世にあるなんて、それがぼくの口に入るなんて。またこんなのが食べられるのだったら、まだもうすこし、生きててたいな。

  • はじめにへの応援コメント

    おはようございます!

    先にここを読むべきだった!
    とても理解しました!

    作者からの返信

    おはようございます!

    お時間あったら、ぜひ参加してみてくださいね。
    お気軽企画なので、それこそお気軽に!


  •  ぼさぼさの髪を伸ばした彼はそっとれんげに手を伸ばして、湯気が漂う琥珀色のつゆに埋もれた白米をすくいあげて頬張った。

     一口目をおそるおそる食べて目を丸くしてから、続けて何度も芳醇な魚の香りが染みたごはんを口に運ぶ。
     どうやら気に入ってくれたらしい。その様子は伸ばした髪と無精ひげも相まって、長毛種の犬が餌にぱくついているようだ。

     魚介系の出汁に鳥ガラの素を少しブレンドしたあっさりしたスープ
     脂がのった鮪の切り身に火を通して葱を刻んだ薬味を添えてみたのだが、我ながらいい出来だと思う。
     ほのかな塩味と鮪のうまみが食欲をさらにそそり、体を芯からあたためてくれる。
     お腹がふくれて人心地ついたところで、はじめて彼は言葉を発した。

    「美味しかった……です」
    「それは良かった」

     目の前の青年にどんな事情があって行き倒れていたのか知らないが、こうして人を喜ばせることができたのなら自分の料理にもまだそれだけの価値はあるのだと思える。ふと、わたしは何とはなしに身の上話を語っていた。

    「こう見えてもわたしは料理人になるのが夢だったんだ。地元の京都で店を構えたまでは良かったのだけれど……。客足はなかなか伸びてくれなくて、閉店するしかなかった。ところで、君はどうしてそんな生活をしていたのかな?」

     わたしが質問を終えるや否や、青年の体はまばゆい輝きを放ち始めた。
     驚いて言葉を失う私の前で彼の姿は狩衣を纏い、袋を背負った高貴な雰囲気を放つ美丈夫へと姿を変える。また右手には打出の小槌を持って、頭には頭巾をかぶっていた。

    「ま、まさかあなたは大黒様?」
    「……はい。といっても分霊された小さな神社の主でした。それでも願われれば健康長寿に家内安全はもちろん、三代先まで財を成すほどの商売繁盛も叶える力を持っています。しかし信仰が薄れた昨今、祀られていた祠があった土地が外国の企業に買われてつぶされたために居場所を無くしてしまったのです。それで仕方なくあの姿に身をやつしてさまよっておりました」

     なんと、福の神様だったとは。料理の話だけに美味しい展開が飛び込んできたものだ。
     「お茶漬け」が体だけでなく懐具合まで温めてくれるきっかけになってくれるわけだ。私が心の中でそんな風にほくそ笑んだところで彼はくるりと背を向けた。

    「でも歓迎されていないようなので帰ります」
    「確かに京都の人間だけどそういう意味で出したんじゃないよ!?」

    ❄️ ❄️ ❄️

    ❄️雪世明良です。
    初めての参加になります。よろしくお願いします。


  • 編集済

    🎐風鈴
    🎐これを使いますw(#^.^#)
    宜しくお願いします!
    残りのお話は、以下に ↓ ↓

    ***

    「えっ?これがお茶漬けですか?」
    「やっと喋ったか、小僧」
    「ただのお茶漬けとか、そんな事を言うからさあ」
    「ほれ、騙されたと思って、食べてみ!」
    「騙されてるけどね、もう、いただきまーす!」
    「どや?作った時間は、茹でた時間プラス30秒だからね、これ!」

    「はぐはぐはぐっ!うううむむううう!」
    「はい、お水!!」
    「うんぐうんぐうんぐ!はーーー!超絶おいしい!」
    「そうか?おまえ、良いもん食ってねーな(笑笑)。まあ、オレもだけど」

     オレが作ったのは、配給された乾燥パスタ500グラムを茹でて、それに○谷園のお茶漬けの素(梅)3袋(2袋でも可)、オリーブ油大さじ2杯半、大葉(青じその葉)10枚前後の細切りを混ぜ合わしたものだ。

    「米やお茶っ葉は、もう無いからな。それで不要になって眠っていた○谷園と庭の青じその葉っぱで、何とかお茶漬けにしたという訳だ。頭良いだろ?」
    「うん、天才だね、おじさん!大葉の香りが凄いね。僕、大葉はちょっと苦手なんだけど、大葉の味はしなくて、普通にウメ茶漬けの味がするね。梅干しは大好きだから、なんか懐かしくて、いくらでもイケちゃうよ!」

    「まあ、イクラは入っていねーけどな」
    「えへへへ、ウメだけに、うめーシャレだね!」
    「小僧、はなしがわかるじゃねーか!」

     ――――小僧は、オレの二倍も食べやがった。ウメ茶漬けの味だとか、当たり前じゃねーか、それしか味をつけてねーからな。

     こんなに喜んでくれて、オレは久しぶりに料理人の気持ちを思い出していた。
     小僧とは、その後、秘蔵の日本酒を飲み交わしながら、お互いの好きな料理の話をした。好きな料理って、結局は日本の家庭料理だけど、それはオレ等が日本人である事の証明だ。

     翌日。
    「1佐(いっさ)! 御命令通り、あの若者を国外へ避難させました!」
    「よし、それでは、我らは、本日、まるきゅーまるまる(09:00時)を以て、例の迎撃戦を開始する!オレ等の最後の意地を見せてやるんだ!そう簡単に首都を落とさせてはやらねーからな!」

     ――――オレが死んでも、あの小僧が日本の味を、日本の心を引き継いでいってくれるさ。最後の晩餐、ありがとうよ、小僧!



    ***

    世界の平和をお祈りいたします!

  • こんばんは。今回も蒼翠の🍏で。よろしくおねがいします!
    では早速、飯チラリズムを。

    🍏🍏🍏

    ……

    「おい、オマエ。アレルギーとかないだろうな」

     返事はなかった。 
     わかっている。私の口をついて出てくる言葉は乱暴だ。自他ともに認めている。初対面の相手だろうが関係ない。誰に対しても同じように接しているだけで、いつものことだ。

     少し首を横に振ったように見えたし、好きに解釈する。狙いすましたように炊きあがった白飯を茶碗に盛り、焼きたてのたらこを厚めにスライスして乗せる。その横には昆布の佃煮を添え、最後に気休め程度に白ごまを散らす。
     これで完成だ。

    「食い物を無駄にしたら、承知しないからな」

     うつむきがちな少女の前にトレーを置いて、口から出た言葉がこれだ。
     ああ、と自分でも思う。だがこれで良いのだと、その言葉を咀嚼する。

    「俺が用意したものは美味いに決まってる」

     当たり前のことは当たり前のように言うものだろう。
     茶碗と白磁の土瓶。琵琶を模した赤膚焼の箸置き、そして一口サイズに切った沢庵を二切れ添えた豆皿。それまで身動きしなかった少女がトレーに並ぶそれらを視界に入れたのを見計らって、土瓶から茶碗に出汁を注いだ。そう。だし茶漬けだ。
     途端、少女のお腹が『いただきます』を告げた。確かに聞こえた。

     それからはまあ、予想通りだ。少女は温かい出汁にほぐれた炊きたてのあつあつご飯をハフハフともどかしそうに口に運ぶ。時にたらこと共に、時に沢庵を齧り。
     私はというと一旦カウンターの内側に戻り、少しばかり冷ました湯を急須に注いでいる。中で程よく茶葉が開いているのを確認してから湯呑とともに運ぶ。少女の向かいに腰を下ろすと、不意に少女の手が止まった。

    ……

    🍏🍏🍏
    飯チラの全貌は『異都奈良の琥珀食堂』にて。
    https://kakuyomu.jp/works/16816410413893461604/episodes/16816927862375452733

  • 🐹黒須友香です、こんばんは。今回もよろしくお願いします。
    前回は🌰でしたが、今回は🐹でお願いします。

    🐹

    突然だが、五分前の自分を問い詰めたい。

    「ワイは何してくれちゃったんや?」

     おひとりさま用のちっこい折り畳みローテーブルの上に、プルプルと震えている物体がひとつ。
     まるで、カビた食パンをちぎって丸めて団子にして、さらにハエがブンブンたかっていると言っても過言ではない形態だ。

    「なしてこな生ゴミが、ワイの部屋に」

    「生ゴミちゃいます、ハムスターです……」

     ハムスターとな。しかも喋った。

    🐹

    続きは↓こちら!
    https://kakuyomu.jp/works/16816927862423037971

    今回は自分とこのオリジナルキャラでお送りします。
    よろしければのぞいてみてくださいね♡


  • 編集済

    【4月16日追記】
    登場人物に名前をつけました。
    少女→紅子
    彼女→美奈

    💎玖珂李奈

    初めて参加させていただきます。よろしくお願いいたします。

    💎

     お茶漬けを作っているひとときは実に楽しかった。
     棚に残っていたパックごはんが役に立った。一緒に暮らしていた元彼女の美奈が買い置いていたものだ。

    「あの、おそれいります」

     わたしが棚を漁っていた時、紅子と名乗った少女が背後から声を掛けてきた。

    「夜分にご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ないことでございます」
    「ああうん、気にしないで。たいしたものは作れないからさ」

     小鍋で湯を沸かし、火を止める。そこへ鰹節をたっぷり放り込んだ。
     華やかな香りがふわりと広がり、鰹節がゆらゆらと手を振りながら沈んでいく。
     こうして出汁を引くのは、あの日以来だ。

    「紅子さん、本当にご家族に連絡しなくていいの」
    「はい。お気遣いくださいまして、ありがとう存じます」

     両手をハの字にして丁寧に座礼をする紅子を見て、違和感しか覚えなかった。
     着ている制服からして、この近くにある女子高の生徒だろう。だが、彼女のように古風なお下げ髪をしてこんな喋り方をする生徒など、見たことがない。

     夜中、道端で一人震えていたからつい連れてきてしまったが、名前以外何も事情を話してくれない。
     もしかしたら、紅子は名家のお嬢様で、望まぬ政略結婚かなにかを親に強要されて逃げてきたのかな、なんて想像してみる。そういう世界が現実にあるのかは知らないが。

     美奈が使っていた茶碗にご飯を盛る。つやつやと光りながら甘い香りを漂わせる白飯は、わたしの大好物だった。
     そこに梅干。梅干を見ると、今でも頬の後ろがきゅうっとなるのがおかしくもあり、悲しくもある。醤油を垂らした山吹色の出汁を掛けると、ご飯がじんわりと緩んでいった。

    「食べてみなよ、たぶんおいしいから」

     最後に海苔とひねった胡麻を振りかけテーブルに置く。
     紅子は今までの佇まいが嘘のような勢いでお茶漬けをかき込んだ。そして暫くしてから顔を上げ、口のわきにご飯粒をつけたまま笑顔を見せた。

    「おいしゅうございますっ」

     それを聞いて、自分がドヤ顔になっているのを自覚する。そう。この言葉。これが聞きたくて料理人をやっていたのだ。
     自分の首筋にある、二つの傷跡に触れる。
     わたしは食べ物で人を笑顔にすることができる。だが、わたしが食べ物を口にすることは二度とない。
     それでも。

     あの日。吸血鬼に襲われた美奈を守ろうとして、自分が毒牙に掛かって吸血鬼となり果ててしまった事に、一片の悔いもない。彼女を守ることが出来たのだから。

     たとえその直後、美奈が他の男と逃げてしまったとしても。


  • 編集済

    🌸悠木柚です。今回も宜しくお願いします。


     俺は狭いキッチンで、今さらながら頭を抱えていた。全くもってどうかしている。見ず知らずのガキに話しかけた挙句、家にまで連れてきてしまった。これはもう、仕方がない。(※1)

     捨てられた犬や猫を、見なかったことにはできないだろう?
     少なくとも俺にはできない。

     今は事情があって違うが、これでも元はプロの料理人だ。美味しいものを食べさせたいという気持ちは、今も熾火のように残っている。まぁ……急なことなので食材も限られてはいるが――

    「アレルギーとかあるか? ≪苦手なもの≫とか?」

     返事はないが、少し首を横に振ったのは分かった。だったら、これで完成だ。

    「ほら、お茶漬けだよ。絶対おいしいから食べてみな」

     お腹のグーと鳴る音が、『いただきます』の代わりに思えた。





    「おいしい、おいしいよ!」
    「そうか……それはなにより……だ……」

     俺はそこで力尽き、魂となってゆっくり空へ登って行った。
     元料理人、今は無職。
     それが先程までの自分だ。今は魂だが……って、魂が職業とかカッコいいな。スタンド出せそう。

    「おいちゃん、どうしたのさ、おいちゃん! しっかりして!」

     何度も言うが、さっきまでの俺は無職だった。金がない。米と茶葉はあったが、それ以外には何も無かった。だが、お茶漬けには具が必要だ。俺に残されているのはこの体だけ。元料理人として妥協はしたくない。ならば使うしかない、具として。

     ガキに見えないよう、カウンターキッチンの中で右ふくらはぎの肉を柳葉包丁で削ぎ、血抜きなどの下拵えを手早く済ませ、細かく刻んだ肉を醤油とみりんで軽く炒めた。それを熱々のご飯にかけて、お湯を注げば完成。もちろん会心の出来だ。今まで人間の素材で作った料理は、全て会心の出来だった。今回だけ失敗するわけがない。

    「起きてよ、おいちゃん! ……血が、こんなに……!」

     ふくらはぎからの大量出血で、あっけなく死んだが後悔はない。このアジトが警察にバレる日もそう遠くはないだろう。俺はもう逃走に疲れたんだ。最後に、腹をすかせたガキに活力を与えてやれた。こんなに嬉しいことはない。だって俺は、元料理人なのだから。



     fin



     ---------------------

     ※1 主人公ロリコン説勃発。仕方がないどころかラノベ的には事案である。
    「俺はロリコンじゃない。人より小さな子供が好きなだけなんだ」と、自らの性癖を否定する隠れロリコンなのか、「俺はロリコンだ。文句あるか」と、正々堂々世評の荒波に立ち向かう真性ロリコンなのかは、次に続く言い訳、≪捨てられた犬や猫を、見なかったことにはできないだろう?≫からも解るように前者である。


  • 編集済

    🍷出っぱなしです。
    今回もよろしくお願います。

    あれ?
    まさかの一番乗りですか?

    では、回答はこちらです

    🍷🍷🍷

     まずはお湯を沸かし、玄米茶を用意する。
     現在は一人暮らしのわたしには、ティーバッグタイプしかないがこれも悪くはない。

     冷蔵庫に残っていた鮭の切身を魚焼きグリルで両面をしっかりと焼く。
     その間に、ハーブとともにプランターで育てている三つ葉、彩りを添える程度だけ、さっと切り取り、一口分の大きさに刻む。
     焼海苔の表面をガスコンロの火の上を軽く素通りする程度だけ炙ると香りが良い。
     茶碗を2つ出し、白米を先によそい、少し熱を冷ましてやるとより美味しくなる。

     鮭が焼けたら、白米の上に具材とともに盛り付け、以前の仕事の依頼人から頂いた干しアミ(すっかり忘れていて今日まで調味量棚の肥やしになっていた)を出汁代わりに、ひとつまみだけ散らそう。
     味付けは素材の味を活かすために、シンプルに塩だけだ。
     最後にお茶を注いで完成だ! 

    「やあ、お待たせ」

     わたしが在り合わせの具材で作ったお茶漬けをテーブルに持っていくと、彼女はまるで初めて見る不思議なものに好奇心が押さえられないかのように鼻先を近づけている。
     恐る恐るわたしを上目遣いでチラリと見上げると同時に、再びグゥっとお腹が鳴った。
     モフッとしたネコ耳をペタンと倒してわたしから目をそらしてしまった。
     遠慮しているのか、怖がっているのか。

     さて、どうしたものか?

     わたしの質問に反応していたということは、言葉が通じていないわけではないだろう。
     お茶漬けに興味を持っていたし、味覚はそれほど違わないはずだ。
     間違いなく文化圏が違うと思われる。 
     もしかしたら食べ方がわからないのかもしれない。

     それならばと、用意していた箸の代わりにスプーンをキッチン台の引き出しから取り出した。

    「では、いただきます」

     ネコ耳の少女はわたしの様子を首を傾げて見ている。
     わたしは食べ方の見本を見せるようにスプーンでお茶漬けをかき込む。

     ふむ。

     我ながら見事な出来だ。

     ある出来事から、わたしは呑んだくれて荒れた生活をしていたわけだが、程よい優しい塩味が五臓六腑に染み渡る。
     玄米茶の香ばしさに、鮭とアミの海の塩味が上手く溶け込んでいる。
     海苔の磯の香りが母なる海を彷彿させる。
     次の瞬間には、三つ葉の爽やかさが自分が陸上生物だと思い出させてくれる。
     白米という土台は、まさに海と陸を育む母なる地球だろう。
     そして、その全てを溶け込ませ調和させている玄米茶というスープがある。

     この渾然一体とした完璧な世界、それがお茶漬けなのだ!

     少女は、わたしが美味しそうに食べている姿を見て、遠慮も恐怖も上回った食欲でお茶漬けを勢いよくかき込み出した。
     その食べっぷりは見事なものだった。
     それほどまでに飢えていたのだろうか、小さな身体にあっという間に吸い込まれてしまった。

    ☆☆☆

    「……はぁ、どうしたものだろうか?」

     わたしは、ベランダの手摺りに身体を預けながら、シャンパングラスを手にため息をつく。
     中身は、本来は今晩一人で食前酒にしようと思い、近所のスーパーで買った国産スパークリングワインだ。

     食事も終わり、少女は空腹が満たされた幸福感からかすぐに睡魔に襲われた。
     わたしが普段使っているシングルベッドに寝かせている。
     飢えと疲れがどこまで極限状態だったのかは想像するしか無い。

     本来、子供がこのような目に遭うなど異常なことだ。
     こんな世界は間違っている。
     そもそも、この少女のような人外の者がこの世に存在することすら、これまでありえないことだった。
     
     あの日、失われた古代文明が復活した日に、わたしも例外なく世界の全てが一変したのだ。
     原理も理屈も何もかも不明なまま、現在まで時は流れた。

     世界は大きく様変わりし、すべての価値観は覆った。
     すべての元凶は、今も夜空に浮かぶあの巨大な『ムー大陸』だということだけは分かっている。

     わたしは、かつて憧れた伝説の大陸を憎しみに満ちた目で睨みつけた。

    🍷🍷🍷

     以上ですが、個人のページにも公開させていただきます。

     近況ノートで料理とチラッとだけ出たワインも載せておきます。

    https://kakuyomu.jp/works/16816927862486888667