第二章 1

蒸し暑さの残る夜だった。実果が部屋の窓を開けると、男は淵に腰を下ろして空を眺めた。


「私は丸い日が好きだ」


「月の話?私もだけど…虫が入るからどいてくれる、網戸を閉めさせて」


何かに気づいたような表情を浮かべて男は棧を降りた。


「そういえば、人は虫が嫌いらしいな。すまない」


彼が、人の姿をしながら吐く言葉は人のそれではなかった。


「あなた、本当に猫なの?」


「厳密に言うと化け猫だ。人に化ける」


「なるほど」


男は襖を開けると中を見回し、その場で踏み切り上の段に飛び乗った。気に入ったようで、中で散らばった枕やら薬箱やらを角に集めて整えている。


「化け猫さんは何を食べるの?」


「化け猫は腹が空かない」


ならなぜ飼われたいのか疑問に思う実果であった。


「化け猫さんはなんていう名前なの?」


「飼い猫の名前は飼い主がつけるものだろう」


どうやら人に飼われるのは初めてらしい。それにしては、人間の社会に詳しい様子だ。見て学んだのだろう、実果は猫の仕草を思い返して勘付いた。

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猫目線 @kusamra1995

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