『演じる』側面から描かれたVtuber

 ある種のロールを演じるVtuberですが、その中でも継続的に背景ストーリーを更新するタイプの人達がいます。
 本作における『ストーリー勢』がそれですが、単なるコラボ配信、案件などでは垣間見られない側面でもあります。それなりに腰を据えて見なければ、Vtuberの存在を知っていたとしても知らない場合が多いのではないでしょうか。

 無論、この先の展開に期待を胸膨らませてしまう物語運びもそうですが、やはりなにより、背景の地固めの堅実さゆえに、Vtuber小説に馴染みがない方にもオススメできる作品だと思いました。
 既に他にレビューされている方が触れていますが、気配りはVtuberならではの用語のみならず行われています。知らない方には聞き慣れないゲームジャンルや、待機画面、ハッシュタグを決める文化も補記されているのは舌を巻きました。決してストーリー勢を見たいVtuberファンに限らない、間口の広さもオススメできる一因です。

 またVtuberを描いた小説は数あれど、ストーリー勢をモデルにしている珍しさが目を惹きますが、翻ってそれは舞台装置への注力に他ならないと感じました。
 バーチャルと更なるバーチャルを下敷きにした、ゲーム転生ものの亜種……あるいは作中で語られる前世(非公開の活動前歴)と現在のような入れ子仕掛けの構造は、そっくりそのままバーチャルとリアルの対立関係にも似ています。

 しかしながら、人気商売のVtuberに『悪』のイメージはご法度。果たしてどんな活動で『悪』を魅せてくれるのか、今から楽しみです。