第6話 終わりもいつも突然に

「それでは、出陣する。みな、健闘を祈る」

精霊の号令と共に、全軍がザリガニファミリーの根城へ進軍を始めた。

緑輝く森は、時間と共に青白くなっていく。

色が変わっていくと、やがて肌寒さを感じる。

「やっくん、だいぶ周りの雰囲気が、変わってきたぜ。なんかこう、陰湿な感じ。」

広が辺りを見回しながら僕に話しかけてきた。

「うん、もうだいぶ空気感が違うよね。ザリガニファミリーのアジトって感じ。」

「そうじゃ、もうすぐでザリガニファミリーのテリトリーじゃ。」

精霊がこれまで以上に深い声で言う。

「ザリガニたちは、どうして周りの人たちに迷惑をかけるのさ。」

ダイヤが呟いた。

「迷惑なんて優しいものじゃない。あいつらは、俺たちの仲間をもう何十人て殺めてきてるんだ。この世は、因果応報。最後にはこうしてやり返されるんだ。」

アルフォートが怒りに満ちた表情で言った。

「彼らは、私たちとは、物事の考え方が根本的に違うんだ。自分たちの利益のためには、手段を選ばない。その生まれ持ったパワーをここぞとばかりに発揮する。」

ジェイは、悲しい目をしてそう言った。

「考え方は誰もが違う。ただどうして、別の命を奪うことが許されるんだ。手段の尺度は、いつどうやって決まってしまうのだろう。」

僕は呟いた。

「環境じゃないかな。結局、育った場所、育てた親、知り合った近所の仲間。連鎖していく。」

サスケが僕に返事した。

「それって、本当に難しい。そして、難しいって言うだけで、言っておしまい。何も解決しない。それは、今この瞬間もそう。本当に僕たちは、この手段しかないのだろうか。戦いが始まれば、この作戦がうまくいこうがアリの命は幾ばくか失われる。そして、ザリガニたちも全滅。彼らには、種族を超えて家族がいて、みんなに大切にしてる母親や父親がいて、お兄さんがいて、お姉さんがいて、弟や妹、友達がいる。」

僕は、サスケにそう答えた。

「お前の気持ちも少しくらいは、わかる。だがもう今この瞬間までに、あいつらは我々の仲間の命を理不尽に奪ったんだ。」

アルフォートが睨みつけるように僕に言った。

そこで僕は、何故だか言い返した。

「理不尽、、でもそれって本当に理不尽だったのかな?」

「なんだと、何が言いたい?」

「その時なぜザリガニがアリさんを手にかけたか、しっかりとその時の状況や理由を確認したの?ってことさ。」

「どんな理由があっても殺すことは許されるわけないだろう!」

「いやもちろんそうさ、でもさ、そのザリガニさんが殺してしまった理由が実はあるのかも。例えば、何か大切なものを守るためとか」

「あいつらがか!ありえない!あいつらは欲しいものを手に入れるためになんでもするやつだ。それに、ザリガニが生命の危機を感じるなんてありえないだろ。俺たちが10人で一斉にお襲いかかってやっと倒せる相手なんだぞ」

「いやだからさ、その時も一斉に、、、」

半ば口論になりかけていたときに、ジェイが言った。

「着いたぞ」

そこは夜なのに怪しげな薄明かりが漂う所だった。

「これよりすぐさま作戦通りに行動を開始する。みな、用意はいいな。作戦開始!」

精霊の掛け声とともに小隊がそれぞれ楕円形を描くように周囲に散開した。

「我々特殊部隊も行くぞ!」

ジェイが合図した。

視界の端々でアリの小隊の影が映り込む。

「偵察部隊の前情報だともうすぐだ。」

ジェイが言った。

遠くから怒号のような叫び声が聞こえた。

「これは、ザクロの寝首は襲えないな」

精霊が小声でいった。

「なんだ、お前たち」

「で、でかい」

広が目を丸くして言った。

ひろの前には、高さ2メートルの青いザリガニがいた。

そして次の瞬間、広は数メートル先まで吹き飛んだ。

「アルフォート!彼はもうダメだ!お前が彼の代わりのポジションにつけ!」

ショイが叫んだ。

「了解した!」

アルフォートがすぐ様ザクロの真前に立つ。

「おい!何してる!お前もアルフォートとザクロの攻撃を受けもて!」

アルフォートの大声が僕の頭をこだまする。

でも、足が全く動かない。

そうしてる間にもアルフォートは、ザクロの猛攻に耐え続けている。

「くそっ!サスケ、俺たちも横から攻撃するぞ。アルフォートの負荷を減らすんだ!」

「わかりました!」

必死にザクロの攻撃を受け止める3人の後ろからザクロの背後へ透明状態のダイヤが回り込もうとしている。

待て待て、広はどうなった。霧のようなモヤが立ち込めていてよく見えない。

「誰かが助けにいかなくちゃ!」

僕は叫んだが、もはや5人に声は届いていない。

僕は、震える足に喝を入れ、少しずつ広が引き飛ばされた方へと向かって行った。

「広は、広はどこだ」

もうその頃には、そこらじゅうで戦いの音や声がしていた。

広が全然見当たらない。

どれくらい歩いたかわからない。

足が重くて全然前に進めていなかったのか、それとも想像を遥かに超えて吹き飛んでいたのか。やっと、広を見つけた。

広は、大きな木下に横たわっていた。後ろの木には、しっかりとした傷跡とびっしりと血の跡があった。

「広、なあ、広」

「・・・」

ダメだ、微かな息さえも感じない。

「広、起きろよ、なあ」

「・・・」

あまりにもあっけなさすぎる。

親友の命が、目の前でこうもあっさり吹き消されるなんて、しかもこんな、意味のわからない異世界で。こんなことって、あり得るのだろうか。

「なあ、広。目を覚ましてくれよ」

「一緒に人間の世界に戻って、また学校行こうぜ。おい、こんなとこで何やってんだよ。

そのとき、後ろに気配を感じた。

恐る恐る振り返った。何やら青っぽいものがいた。が、僕の記憶はここまで。


人の世も、人でない世も、案外大して変わりはなく、その理はむしろ同じ。

因果応報。遅かれ早かれ、あのザクロもさらなる強者に殺られることだろう。

であれば、僕と広の因果応報ってなんだろう。

誰かを殺したわけでも盗みを働いた訳でもない。

ただ、戦争に安易に加担した。と言うことくらいか。

映画や本の中では、主人公が最後まで生きてる。だからこそ、その物語は、続いていける。でもこれは、ここでおしまい。なぜなら、僕はあのとき一瞬で命を失い、今どこか知らない新たな場所でこうして、ただ過去を思い返しながら、何が、どの行動選択が誤りであったかを考え、彷徨っているのだから。


世界には、正解と言える生き方はない。

正解と言える生き方があるなら、みんなその生き方をして、

楽して生きてるはずだ。

でもその模範解答がないから、みな悩み苦しむ。

自由とは、必ず責任を伴う。

その責任は、最後、自分に降りかかるもの、それのこと。


どうかみんなには、今生きていることを幸せに思って欲しい。

これからしようとしてる行動がどんな責任を持つか、よく考えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金のカブトムシと銀のクワガタ カンツェラー @Chancellor

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ