第5話 作戦会議
鳥のさえずりが響き渡る清々しい目覚め
「おはよう、精霊のおっさんが二人を呼んでいるぞ」
「おはよう。うん分かった。広を起こして一緒に行くよ」
「広とか言うやつは、もう起きて朝飯食ってるぞ」
「え、早いな。分かった。ありがとうね」
広、そういえば意外と朝には強いんだった。というか僕が弱いんだ。。
「おっ、やっくん起きたか!こっちだ、朝飯うまいぞ。芋虫料理はほぼ無いから安心しろよ」
「うん、今行く」
「なんか精霊が僕たちを呼んでるってさ」
「そうか、でもその前に腹ごしらえだ。どうせ話は長くなって、気づけば飯抜きで出発てことにもなりかねない。先に食っとけ」
「ははは、そうだね」
「ところで、あのジェイってやつ、いいやつだな。」
「あ、もう喋ったんだね」
「おう、良い友を持ったなって今朝言われてさ。俺も出発前に紹介したい奴が2人いるんだが、楽しみにしとけよ」
「広は、友達ができるの早いな〜」
「まあね〜」
「お二人さん、そろそろ精霊のところへ」
「あ、わかりました。今向かいます」
朝食当番のアリさんに催促された。
「よし、行くかやっくん」
「うん、行こう」
野営地の奥まったところに精霊はいた。
「やっと来たか、二人とも。食うもの食えたか?」
「おう!元気もりもりだ」
「そうか、なによりだ。お前たち、これを受け取れ。」
精霊は水色のビー玉のような玉を1個ずつ僕たちに手渡した。
「なんですか、これ?」
「これはな、ソードスプラッシュと言って、息を吹きかけるとたちまち剣に変化するのじゃ。変化というより元の形に戻ると言った方が適切かの」
「おっちゃん、そんなことまでできるんだね。ていうか、そんな魔法使えるなら、ザリガニも一瞬で倒せそうだけど」
「ザリガニに魔法は、通用せぬ。彼らは、生まれながらにして魔法に耐性があるのじゃよ」
「そ、そうなんだ。物理攻撃しか効かないってことな」
「話は以上じゃ、作戦などは追って担当の者から聞かされるじゃろ」
「わかりました。因みにですが、精霊さんは戦いに参加されるのでしょうか?」
「私は、後方から可能な限り君たちをサポートする。君たちは魔法の耐性がないから、君たちを助ける魔法には、大いに意味があるからの」
「そりゃ、心強い限りだ!」
「さあ、川に行って目を覚まし、最後の支度をしてきなさい」
「はい、失礼しました」
「なんか、まだ実感湧かないね」
「そうだな〜、戦争だなんて歴史の中のお話としてしか知らないもんな」
川に着いた。
「お、やっくんに広、精霊さんのお話はもう終わったのかい?」
出発前の準備中のジェイがいた。
「ジェイ、ここにいたんだ。そうなんだ、思ったよりあっさり終わったんだ。」
「そうか、であればここで支度を整えながら心を落ち着かせるといい」
「うん分かった」
「おっ!広じゃないか」
「おっ、ほんとだ、広!」
「サスケにダイヤじゃないか!お前らも出発前の準備をここでしてるのか?」
「おうよ、ここの川のせせらぎは、心を穏やかにしてくれるからな。村の家族を思い、必ず生きて帰る。そう考える時間をくれるんだ。そしたら力が漲るっていうかさ」
「ダイヤは相変わらず家族思いの清々しい奴だよな」
「サスケだって同じだろ」
「まあな、ここにいるみんな、生きて家族のもとに帰る。そう思ってないやつなんていない」
「あ、紹介するよ、こちらやっくん。俺の親友だ」
「はじめまして、やっくん。俺はサスケ。こっちは、遠い親戚の奴で、ダイヤっていうんだ。良家の生まれだから、ほら、見てよこの身なり。」
「やめてよそんな紹介、見た目だけのボンボンみたいじゃないか」
「ははは、ごめんごめん」
「よろしくね、やっくん。ダイヤと言います。」
「あははは、よろしくお願いします。サスケさんにダイヤさん」
「さん付けいらないよ。サスケ、ダイヤ。呼び捨てでいこう。その方が戦場でも声をかけやすいさ」
「そうですね」
「さあさあ、ボチボチ準備しないと遅れるぞ」
「ジェイはサスケとダイヤを知ってるの?
「知ってるもなにも、こいつらに戦い方を教えたのは、俺だからな」
「えっ、ジェイは教官なの?」
「まあ、そんなとこだな。因みにサスケは、この隊で一番剣のセンスがあるぞ」
「やめてくださいよ、そんな」
「こりゃ頼もしいなやっくん」
「うん!とっても!」
「支度が終わったらなるべく早く野営地に戻ってこいよ。出陣前の戦略会議が行われる。そこで自分たちの配置や役割を確認するんだ」
「わかりました!」
「じゃあな、広、やっくん」
サスケは爽やかだ。
「また後でね〜」
ダイヤは本当に育ちが良さげな青年だ。
「俺たち、本当に生きて帰ってこれるんかな」
「広が消極的なこと言うなんて珍しいね」
「だってさ、クマ倒したのなんてあれは、隙をつけたからであって、実力で正々堂々勝てた訳じゃない。それに、サスケやダイヤみたいに剣術を学んできた訳じゃない。」
「確かに言われてみれば、戦いに勝てる根拠なんてなにもないよね」
「でもまあ、俺らしく言うなら、なんとかなるってもんよ。第一、この戦いに参加しなきゃ、元の世界に変えることすらできないんだ。やるしかないいてことよ」
「うん。背水の陣だ。がんばろう!」
「おう!」
(作戦会議)
「諸君、これから作戦会議を始める。精霊の話をしっかりと記憶するように。それでは、よろしくお願いします。」
「うむ。まずは、皆に感謝をする。この地域一帯の平和のために、命をかけてこの戦いに参加した200名に心からの尊敬を贈る。さて、戦についてだ。相手は総勢20体のザリガニファミリー。この時間帯は、奴らは寝ている。そこの不意をつき、一網打尽にする。ザリガニ1体の戦闘能力は、おおよそアリ10体分。寝床を襲うことで、戦いに勝つ可能性を大幅に上げる。だが100%寝ているところを倒せるほど甘くはないだろう。何体かは、反撃にでるだろう。そしておそらくザクロも反撃するだろう。」
「ダイヤ、ザクロってなんだ?」
広が横でダイヤに質問している。
「ザクロは、ザリガニの中でも腕利きの奴だよ。みんな赤黒い肌をしてるんだけど、あいつだけなぜか深い青色をしているんだ」
「そりゃ、恐ろしいな。誰が戦うことになるんだ」
「そこ、話し声が邪魔だぞ」
広が、厳しそうなアリに注意された。
「そこでだ、寝首を搔くことが初めから難しいザクロには、実力で確実に挑むことになる。そこで専門部隊を結成した。ジェイを班長に据え、補佐にアルフォート。サスケにダイヤ。人間二人。そして、私自らも入る。この専門部隊は、初めから最後まで完全に独立した部隊となる。目的は一つ。ザクロを確実に倒す。それだけと言っていい。他の部隊は10体で1組となり、1体のザリガニを相手とすることが原則となる。2隊以上では、勝ち目は薄くなり、3体以上なら、5分と持たずにその班は、全滅するだろう。それ故に、戦いの中にあっても、常に周りを意識し、相手との人数比率におかしなところがあれば、率先して人数調整を行うように。この他の各班ごとの細かな動きについては、各班長と確認するように。1時間後に出陣だ。それでは、健闘を祈る」
「そこの人間、班会議だ。こっちに来い」
さっき、広とダイヤを注意したアリだ。気難しそうな顔だ。もしかして、このアリがアルフォート?
「アルフォート、全員揃ったか?」
ジェイを見るとなんだか気持ちが落ち着くな。
「いや、まだ精霊が他の班長と話してる」
アルフォートは、あまり表情が変化しない。
「そうか、まあ精霊は大丈夫だ。精霊からの伝達と言ってもいい内容だからな。始めるぞ。先程の話にもあったように、俺たちは完全に独立した部隊だ。他の班がザリガニの寝首を襲ってる合間、戦っている間、俺たちはザクロを探す。見つけ次第すぐに交戦が始まるだろう。ただ、ザクロの場合、油断できないし、そもそも寝首を取れるなんて思ってない。そこでだ、目を覚ましたザクロを前に、広とやっくんが守りに徹しながら奴の攻撃を引きつける。その間にできる隙を狙って、私とアルフォート、サスケで一斉に攻撃をかける。」
「ちょっと待って、僕たちなんの武術も知らないんだよ、気を惹きつけるなんて、自分の身を守ることすらできないかも、、」
「あんずるな、やっくん。君たちが精霊から渡された剣には、精霊の加護がある。相手の動きに反応して、守りの構えを取らせてくれる代物だ。たとえ武術を心得ていなくとも、自分の身を守ることだけを考えていれば、殺されることはない。さらに広もいる。二人で身を守ることだけ考える。それをしてるだけで、十分に奴の気を引き付けられる。」
「あのさ、だったら剣じゃなくて盾の方がより安心じゃないか?」
広がジェイに質問する。
「確かに、盾だけ持ってた方が君らには安心感があるだろう。だがどうだ、ザクロからしてみれば、君たちがおとりにしか見えないだろう。よっぽど剣だけもって挑んでくれば、捨身できてると錯覚させることができる。」
「だったら、剣と盾の両方持てばいいんじゃないか?」
「そこが君たちの知識の弱さだ。想像以上に剣や盾は重い。物凄い力と速さで敵は襲ってくる。そんな力にぶつかっては、訓練なしでは、武具を吹き飛ばされてしまう。だから剣だけ両手で握りしめてもらわなくちゃいけない。この会議後に君たちの両手は、剣が離れ離れにならない様に、包帯でグルグルに巻きつかせてもらう。」
「そっか、分かったよ。加護を信じるよ」
「すまないが、そうしてくれ。先程の話に戻る。広たちが注意を引き、その隙を見てちょくちょく私たち3人が相手に攻撃をかける。これで完全にやつは手一杯の状態だ。この二段構えの間を縫うようにして奴に一撃必殺を喰らわすのこそ、ダイヤの出番だ。」
「えっ、俺ですか?」
「そうだ、ダイヤ、君の出番だ」
「でも、俺攻撃や守備が誰かよりも優れてる訳じゃないのに」
「考え方を変えるんだ、ダイヤ。確かに君の主観は、間違ってない。私から見てもそうだ。だが、何かに特化してるやつは、時として何かに弱い。一撃必殺の瞬間は、ザクロがどんな動きをしてくるか全くわからない。そんな時、君自身が咄嗟に判断して攻撃を交わしたりしてくれた方が、希望が消えない。君は、とてもバランスがいいんだ」
「で、でも」
「大丈夫だ。君の後ろには、精霊がカバーに入る」
「えっ、精霊が!」
「そうだ。おっ、噂をすればだ」
「またせたの、どこまで説明は進んだか?」
「ダイヤの重要責務の説明が始まったところです」
「そうか。ならば、ここからは私が話そう」
「お願いします」
「ダイヤ、君こそがこの班の、この戦の、ひいてはこの地域の平和を左右する運命の鍵を握っているんじゃ。そしてそれを全力でカバーするのが、私の責務だ」
「そんな、俺にそんな責務、、」
「ダイヤ、精霊のバックアップを侮るなよ。しかも、私はこう見えても4大精霊の端くれだ。並の霊力ではないわい。」
「そ、そうなんですか。それは失礼しました!」
「私の直接的な加護を後方から常に浴びることにより、君は実質透明になる。つまり相手の視界から完全に消えるということだ」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能だとも。だが、防御機能ではない。そこは勘違いするなよ。何かをきっかけにザクロに気付かれ、捕まれば、たちまち殺されることになる。だからこそ、君の柔軟さを活かし、今だと言う瞬間に奴の懐に飛び込み、この短剣を突き刺すのじゃ」
「こ、これは!」
あの表情の変わらないアルフォートが驚いている。
「龍牙、ですか?」
サスケが言う。
「そうじゃ、竜の牙から精製された短剣。これでこそ、ザクロの硬い皮膚を貫ける」
「これで、俺が奴を、倒す。。。」
「大丈夫、みながおる。一致団結して挑み、最後まで冷静にいけば、十分な勝算はある」
初めて会ったときとは、精霊の話し方や雰囲気が全然違う。味方で本当によかった。そう思ってしまう程だ。
「はい、俺、頑張ります。ここにいるみんなと、その家族のためにも」
「いい心構えだ。それではそろそろ、ワシは他の班を回る。最後の身支度に取り掛かれ」
はい!
皆が同時に答えた。
「ここで身支度を。鎧の付け方などは、近くにいる専門員に助けてもらえ、俺は少し別様がある。30分後にさっきの会議場所に来るんだ」
そう言うとアルフォートは、立ち去った。
「なあ、いよいよ、だな」
「うん、未だに実感がわかないよ」
「まあ、小学1年生からのコンビネーションが俺たちにはある。んでもっておっさんの加護もある。ひたすら剣を離さず身を守ることだけを考えればいい。気づけば戦いは終わってるさ」
「そうだね、それくらいの気持ちでいないと、心が持たないや、ははは」
「お、いい感じじゃん、その鎧」
「広のは、こう、毒々しい色合いの鎧だね」
「いやいや、やっくんも負けてないぞ、その警戒色、ははは」
「なんか囮ですって言わんばかりだね」
「そうい言うことだな」
「二人とも、着替えは終わったかい?そろそろ会議室に戻ろうか」
「おう、ダイヤ。一緒に戻ろうか」
こうして3人で会議室へと向かうことになった。
ダイヤの鎧は、鎧と言うにはあまりにも薄く、色合いも極めて薄かった。ダイヤという名前に相応しくないような、そんな鎧だった。多分、身動きを最大限によくする為なのだろう。
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