この地球上に存在しつづける戦士たち
荒川馳夫
守りたいものために……
「相手は殺意がむき出しだ。生きて帰れるのか……」
はるか昔にあった、とある大国。国境防衛の任務に就いていた男がいた。
兵士として就職し、大きな戦もなく平穏に過ごしていたはずの人生に、突如として蛮族が現れた。
それまでの平和がウソのように思えてしまった。
隊長の命令で武器、防具を身に着けたうえで現場に向かう。
「アイツら、話し合いは通じそうにない。このままじゃ武力を用いて、あいつらを追い払うしかない。でも、死んでしまうかもしれない……」
「いやだ、死にたくない……」
男も同僚の兵士たちも怖気づいていた。厳しい訓練を受けていても実戦は初めてだ。
死の恐怖が容赦なく、心に襲い掛かってくる。足がガクガクと震えている者もいた。
「恐れるな!」
その様子を見た隊長が一喝し、部下の方を向いて語りかけた。
「誰だって死ぬのは怖い。私だって最初はそうだった。今でも恐怖を振りはらうことはできていないさ。それでも……、それでも、お前たちが守りたいと思うもののために戦うのだ!」
隊長が部下を励ました。自身の弱さを素直に表明しながら。
「隊長……。戦いましょう、大切なもののために!」
「うおーー!!」
部下たちは隊長に続き、蛮族へと立ち向かった。勇猛さを身にまといながら。
各々が守りたいものを思いながら、敵へと突っ込んでいった。
家族のため。隣にいる仲間のため。将来、この国で生まれてくる子どもたちのため。
守りたいものはバラバラでも、守ろうとする思いはひとつ。
「敵が逃げていく。勝った、勝ったぞ!」
隊長の言葉が部下の耳に入る。目の前の脅威に精一杯だった彼らは、ようやく戦闘の終了を知った。
先ほどまで戦場だった場所には、数多の肉体がピクリとも動かずに横たわっていた。
彼らは多くの同胞の命と引き換えに、大切なものを守ることができたのだ。
男はなんとか生きのびた。だが、常日頃から親しくしていた同僚は、その体を血の海に浸していた。
涙を流しながら、男は彼に告げた。
「お前の雄姿は歴史に残らなくても、オレは決して忘れない。お前の奥さん、子どもにもしっかりと伝えてやるからな」
人間の歴史においてひたすらに繰り返された、名も無き人たちの必死の行動。
名前を残すためではない。隣人や親族、愛する者や未来を守るために生きた人たちの姿を、どうか忘れないでほしい。
現在進行形で、彼らは生まれ、存在し続けているのだから。
この地球上に存在しつづける戦士たち 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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