笑顔、売ります。

for me

プロローグ

未来で目覚めた僕は

電子音のリズムが繰り返される部屋で目が覚めた。

隣で誰かが「ありがとう」って繰り返し言っていて、知らない人たちがどたばたと足音を立てて、部屋から出ていった。


白い部屋に俺が一人横たわっているだけで、ふかふかのベッドがとても気持ちいい。

多分ここは病室なんだな、なんてわかる。

何があったんだっけ。なんでここにいるんだろう。


藍井あおい!目が覚めてよかった。神様、ありがとうございます。」


僕の上へ覆いかぶさっている厚い布団を握って、女の人が泣いていた。

この状況がわからなくて、混乱している。


「あの…誰ですか?」


わからない人に泣かれても、どうすればいいのかわからなかった。

何で僕の病室にいるんだ、家族だっけ。


そんな風に考えていると、白衣を着た男の人が部屋に入ってきた。

いろいろ器具とバインダーをもって。


「気分はどうだい?痛いところとかはない?」

「ええ、大丈夫です。だけど、記憶があいまいで…」

「事故のショックかもしれないね、じきに治ると思うよ。」


バインダーにいろいろ書きながら、僕の質問に淡々と答えていく。

あまり僕に興味がないのか。まぁ、患者なんてそんなものだよな。


「あの、藍井の記憶は本当に治るんですか!」


隣の女性が声を荒げた。

頭に響くからやめてほしい。だけど、そんな事はっきり言えない。

すると、隣でがしゃんと花瓶が音を立てて散っていく。

中にあった、青と白の綺麗な花も床に落ちて、彼女の足で踏みつぶされた。


そして、近くにある真っ赤な石。

それが不思議でたまらなかった。


「落ち着いてください、ショックなので戻ると思われます。」

「あの、これ。なんですか。」


僕はそれを拾い上げて、白衣の人に見せた。

今話してることよりも、そっちのほうが気になったから。


白衣の人に近づければ、嫌がるように避けていく。

そして、驚いたまん丸の目をこちらへ向けてくる。


「とりあえずそれを離しなさい。あとで話しましょう。」


隣の彼女も、口元を押えていた。

そして僕と、隣の彼女は別室へ連れていかれた。



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