第20話 実質魔王が降臨する話

 前回までのあらすじ。久々に再会した友人が前世と変わらずキモかった件。


「意味わかんないんだけど」


「そのまんまの意味だぜ」


イリー。私の身体を利用して転生したとか言ってるけど、意味がわからん。


「教えろよ」


「エニーっちの身体のとある部分に触れて念じると転生できるんだぜ。それはXXXだぜ」


ほ、放送禁止用語!!!

てかなんじゃそりゃ!?

恥ずかしいってか意味不明過ぎる!!!


「そ、それはともかく転生するとどうなるのか教えろ!」


「それは言わないぜ。あとこれ以上話すこともないざ」


「はぁ? 何で?」


急な手のひら返し。今まで語っておいてそれはないぞイリー!


「久々に再会した友人だから、話を少しボーナスとして教えてやっただけだぜ」


ぐぬぬ、嫌な奴ぅ!


「カーマイン、あいつを殺さない程度に懲らしめてやって!」


「いいの!?」


「縛られてるし、普通やり返すっしょ。もう情報くれないみたいだし」


「わかったわ!」


ご存じの通り私はイリーの束縛術で手足が拘束されているので、カーマインに懲らしめてもらう事にした。


「エニーの友達だからって容赦しないわよ! クロスファイアー!!!」


ばつ印の炎がエニーからイリー相手に放たれる。ちょっとどころか、だいぶやりすぎに見えるけど......。


「ヘルプだぜ」


イリーがぼそっとつぶやくと、急に視界の外から何者かが現れた。


「はいな!!!」


その者は魔法の結界を展開する。十字の炎は結界にぶつかるとあっけなく消滅した。いやしかし、結界はロック君しか使えないはずでは!?


「ふっふっふっ」


「なっ!?」


結界を張った主は小柄の少女だ。ダークブラウンでウェーブのかかった髪型に、リスの髪留めをしている。あと絶壁。服装は......リスのパジャマみたいなやつ。可愛いけどこれで普通に外を歩くのは変人確定。


「僕の名前はマーマル・ベッカ。人は僕のことを推しと呼ぶ」


この口調でロリボ。また随分と癖の強い人物だけど、この人はもしかして......。


「と、尊すぎて死にそうだぜ」


やっぱり、イリーの推しだったか!


「あのーそれで何様でして?」


「エニーちゃん、イリーから聞いたんだけど君って得意な性質を持っている様だね」


マーマルが私に問いかける。


「そ、そうみたいですけど......」


「そうだ、まずは僕について紹介しておこう」


「はあ」


「僕は魔王様の代弁者。手も口も無い魔王様の代わりに宇宙の縮小を実行している」


こいつがイリーが言っていた魔王の使者か。簡単には信じられないけど。


「にわかに信じがたいのですが証拠みたいなのはありますか?」


「僕は"コンソール"という魔法が使える。大抵の事はできるんだ。さっきの結界みたいにね」


マーマルは手を正面にかざすと、パソコンのウィンドウの用なものが表示された。恐らくこれがコンソールだろう。


「砂糖入りミルクをっと」


マーマルが謎の文字列をコンソールに書き込むと、何の前触れもなく砂糖入りミルクが入ったマグカップがマーマルの手に出現した。


「こんな感じに」


不敵な笑みを浮かべる実質魔王。確かに本物のようだ。ミルクを飲んでいるだけなのにここまで不気味な人は普通いない。


「驚かなくてもエニーちゃんは似たようなことできるでしょ?」


え?


「炎の鍵を構成する要素のひとつ、確率操作をエニーちゃんは持っている。あとはnull領域に封印されている炎の鍵の残りの要素を持って帰れば良いんだけど、そこについて僕は詳しくない」


「はあ」


「知らないけど、宇宙の縮小を実行する者としてエニーちゃんには消えてもらいたい」


「え!?」


「マーマル様!? 宇宙を支配できて魅力を届けるという話と乖離してませんか!?」


な、なんだ? イリーと仲間割れか?


「それもやるよ。実際この中世みたいな世界に近代的な概念を少しづつ浸透させてるじゃない」


「それはそうだな......」


「何それ?」


「ああ、エニーっちはいい歳して頭悪いからわからないかもしれないけど......」


「はぁ? うっざ」


「突然だがここで問題、共和国とはなんでしょう?」


「し、知らない......」


「24歳でそれはやばいぞ」


「うるさい!」


確かに私は頭良くないけど、イリーに言われると腹立つな。


「答えは、君主を置かない共和制の国のことだぜ」


「そ......それで何が言いたいの?」


図星なので私から話を逸らす。


「イーグル国は10年前に共和国になったんだぜ、国名は知ってるだろ?」


「イーグル共和国は知ってるけど......」


「アイドルという概念を普及させるのにはある程度の文明的発展が必要だぜ。つまり、そうゆうことだぜ」


「でもそれって宇宙の縮小と逆を行っていない?」


「それは逆に文明の進みすぎてる国を潰すことでバランスを取るらしいぜ」


「私的な欲求でそんなことを......」


やはり魔王じゃん、マーマル。


「でも確かにエニーっちが殺されるのは嫌だぜ」


「どしたん?」


「わっ、推しが急に!?」


すっとマーマルがイリーに接近する。


「推しのマーマル様には悪いけど、友人を殺されるのは勘弁なのですが......」


推しの前だとかしこまるイリー。なんか見てて面白いな。会話内容は面白くないけど。


「うーん。じゃあ監禁するくらいにしておこうかなぁ......」


「あ、ありがとうございます!」


「おいそれで妥協するなよ」


ひでぇ友人だ。これだったらマルチの勧誘の方がまだマシだった。


「じゃあ、いくよ」


マーマルがニヤリとした表情でこちらを見てる。


「カーマイン、エミリー、ロック君、あとエックスさんとそこの2人(名前忘れた)も頼みます!」


「わかってるわよ!」


「任せてください、必ず助けます!」


「あたちに任せな」


みんな頼もしい!

私に代わってイリーとマーマルを懲らしめてやってほしい。


「戦闘モードっと」


マーマルはコンソールに文字を書くと、マーマルの衣装が変なやつからアイドル衣装っぽいものに変化する。僅か0.08秒ぐらいで。


「どう?」


リス耳のコスチュームが可愛い。アイドルを自称しているだけはある。しかし、見た目に騙されてはいけない。奴は実質的な魔王なのだ。


「どうもこうも縛られているもので」


「エニーちゃんなら隕石を落とすことくらい容易いでしょ?」


「よくご存知で。しかしそれではみんなを巻き込んじゃいますよ」


「ふーん......」


じっとりとした顔でこちらを見るマーマル。確かに私は確率操作を駆使して奴を転ばしたり、不整脈を起こすことも出来るはず。ただし通用しなかった時が怖い。タイミングを見計らう必要がある。


なんて考えている間にマーマルはコンソールに文字を書き始めた。


「召喚コマンド......出てくるがいい、ニャダル2よ!」


文字を書き終わるとコンソールが輝き出し、側の空間が裂ける。そしてそこから何者かが登場しようとしている。

てゆうかニャダルのようだけど。

よりにもよってニャダル。しかも2ってなんだよ......。

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異世界転生したら確率を操作できるSランク能力者に目覚めたので可愛い現地人の男の子と結ばれるように祈ります! 響木ウルフ @hibikiurf

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