Causò-∞:諸行無常∞有為転変ゆえ(あるいは、断章主義に至れ/コリドイォインフィニト)

「か、カハッ……!! なぜキミが? どれだけ速く駆けようが、軍麒の脚ではここまでの荒れ道を走破することなど不可能……」


 周囲を巡る壁にしたたかに身体を打ち付けられた亜麻色髪が、ここに来て初めての動揺を見せるけど。あれ、結構自分の優位が崩れると一気に脆い性質?


「『不可能』とか……さなる言葉が出るようでは貴様もまだまだ色氣の境地に至るまでには程遠いというところか……やれやれ、『同族』と一瞬思って嫌悪したりしていたが……どうやら違ったようで今は哀れみの念しか禁じえぬわ……」


 兄は騎上にてそうのたまうけど。こちらは優位に立った瞬間に尊大さが振り切れる類いの性質だ。同族というよりも、ふたりに分かたれた元はひとつの存在だったんじゃない? くらいに私の目には映ってるよ、うぅん……でもどうしてここまで短時間で来れたのかってのは確かに謎。と、


「……この軍麒みずから、増幅されし色氣を操り、天を駆けた……端的に言うとそういうことになる……」


 兄の溜め気味の言葉は一聴ではへえそうかぁと納得するに足るものではあったものの。その裏に潜みし真実に気付いた瞬間、私の身体は突然震えを覚えるわけで。壁に寄り掛かったままの姿勢の亜麻色も、それが伝播したかのように身体全体を激しく震え上がらせるのだけれど。


「お、お前……び、軍麒をヤッたのか……ッ!?」

「そうだ」

「駆けさせたまま、騎乗した騎上にて、さらに、さらにの騎乗をしたというのかァァァ……ッ!?」

「そうだ」


 ヒギィィィ……というような声が亜麻色と私から同調するかのように漏れ出てくるのだけれど。


「ふ、フハハハハッ!! とんでもないことをするかと思いきや、だがその頼みの軍麒も最早息も絶え絶えではないかッ!! それにキミひとりの力などで、もう仕上がったボクの『柱』は止めようが無いんじゃあないかい? まあいい……仲間、身内と共にここで打ち上がるがいいよ、クフフフフ……」


 一瞬で持ち直した、その精神の強さは尊敬に値する。するけれども。


「……ミルセラ、例のモノの準備は良いか」

「えっと」


 兄はヤる気だ。「柱」……この強大なる力に立ち向かう気だ。とってもとっても途轍もなく、いやな予感しかしないけれども。


「今さら何をしようという気だい? キミの妹たちは既に『孔』を穿たれた憐れな『柱』なのさぁ。そしてもうその起動も始まりかけている……仲良くこの場で打ち上がる他は無いよぉ? 数万の人間をも道連れに……それをボクは見物させてもらおうって寸法さぁ……ボクには色氣衝撃は届かない。すべて『孔』を通して受け流すことが出来るからねぇ」


 そうなのか。こいつを道連れにしてやろうとか思ってたのも、所詮は見切られていたってわけだ。うん……私と、私が抱き上げているジセレカの身体に、色氣のうねりが高まっていく。いやな……いやな予感しかやっぱりしないぃぃぃ……でも、


「透し、漉し、再び入れ、癒し、そして放つ。端的に言えばそういうことになる……」


 端的に言おうとして言えてない時の兄の言葉ほど戦慄を誘うものも無いわけで。でもどう転んでも混沌であれば。混沌しか無いのであれば。


 ……みんなで迎える、混沌がいいよね。


「……」


 諦めの境地は、私に問答無用の力を与えてくれるようで。胸に開いた「孔」も、そこで蠢く光も最早気にはならない。力無く滑らせた両手が触れた、金属の脚を緩やかにばらすと、それらは三本の棒状のものに再びまとまっていく。


「最大術式……四つ巴、と、端的に言えばそういうことになる」「何だい? 先程からワケの分からぬことばかり」「四人を繋ぐ三つの架け橋、それこそがこの『神剣フルボ=キ=サミンマ=レイン』」「え? いかちぃ太さの棒が三本、己が意識を、意思を持っているかのようにユフの字型に曲がりくねるが」「これをまず貴殿の79に直結するで候」「なぜ改まった? そしてそ、そんなものは絶対に入らないけどぉ?」「色氣力を込めることで最適な形状へと変化することに成功した、それこそが『神剣』と呼ばれるが所以」「え聞いてねえし、聞いてねえことばかり説明してくるハゴォッ!?」「次にこちら側をジセレカの69へ繋ぐ」「こ、このコは気を失っているみたいだけどいいのかい? って聞くのも無駄な気もしてきたけどホングァァッ!?」「さらにジセレカの79からミルセラの69へ橋を架ける」「うん、あっ……お、おにいちゃんもっとゆっくりって言ったじゃん……そう、そうだよ……そのまま……続けて?」「え、こっちのコはもう洗脳済みなの? こ、こんな操り方ボクにも無理なのだけれどッ」「そして貴殿の69に繋ぎし最大級の剣にて、それがしの79を突き貫くで候……その瞬間、それがしの69がミルセラの79に連鎖的に繋がり、そして、成る……ッ!!」「え死ぬのでは」「逆で候……くると、我ら同時に生くると、そう見出したり……貴殿が透かした莫大なるこの二人の色氣を、それがしが漉し取る。その上で治癒の光に変換した上で二人に戻していく……つまり端的に言うと、『永久機関:スピオ=ルトレ=スピマット』ということになる……」「分っかんねえ。とんでもない混沌であるということしか分っかんねえェ……」


 誰が起点となったかは分からない。分からないけれど、私たち四人の身体はゆっくりと押されるようにして、ぐるぐると回り始めるのであった……そして、


「や、やめろぁぁぁああああッ!! こんなことは人智を遥かに超えているゥゥゥッ!! や、やめ」


「いいぞ、最適な角度だ。来いッ、そして行くぞッ!! 全てを、超える境地へェェェァァァッ!! いざッ!! 推してッ!! 参るェァァアアアアッ!!」


 絶対的な何かに貫かれて、私は身体も意識もその境目さえ分からなくなって、そして白銀のような光みたいなものと化して、漆黒の空へ打ち上がっていくのであって。


――


 あ、さてもさても。


 知る限りの話ばさせていただきましたりゃーも。流石に呆けていらっしゃいますなあ、うぅむ、ま、無理も無きことかと。はじゃがば、のちの顛末? さぁあ、そいつばっかりは何ともかんとも。ただ一つ言えますことぁ、あん男の意志はすんごりと受け継がれているというわけでございまするな。そう、ぁにがも勿論、


 ……貴方様にも。


 はっは。今宵は本当ほんくらに良き酒がじゃ呑みかわせそうですじゃはぁ。ささ、この色氣を込めて作りましたる地酒をもう一献。ははぁ……貴方様のそれは白銀色とは、これはまた。


 美しき色でございまするなぁ。


(了)

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