第6話 帰郷

 追われるのは馴れている。

 誰かを助ければ、何かを成せば、自ずとこの力を察知される。


 何故、オレにこんな力がある?


 それを知るための旅の道中でも何度もそう思った。


 『神の塔』『原始の寺院』『星屑の丘』『海底の都』『天空の城』。


 世界の知識に接続出来るこの力は何のためにあるのか。それを突き止める為に立ち入る事さえも困難な秘境へと訪れた。

 しかし、何も解らなかった。


 だからもう諦めた。

 追われるのも疲れたし、この星は調べ尽くした。

 後は星の外――しかし、そこまでする気概はなく、目的は穏やかな生活だった。






「起きたみたいだヨ」

「だな」

「ききき貴様ァ!!」


 インガードはヴァンに掴みかかってくる。

 ヴァンはひょいっ、とかわして彼女に足を引っかけると盛大に転んだ。


「たっは!?」

「騒ぐなっての。ったく」

「チビと……」

「ん?」


 わなわなと震えながらインガードは立ち上がる。


「妾をチビと言うでないわ!!」

「いや、実際チビだろ」

「現実を見ろヨ」


 同じ様に煽るヴァンの親友――ベネットにもインガードは怒りを宿す。


「がぁぁ! お前もコロス!」

「まぁ落ち着けや」


 と、ヴァンは赤い粉末をインガードの顔に当てた。


「うぶ!? なんじゃ??」

「激辛野菜の粉末」

「ぎゃぁぁぁ!!」


 悶えるインガード。その悲鳴は第三者の呼び寄せた。


「兄さん! なんの悲鳴!?」

「テトか。メスガキが目覚めたようだヨ」


 現れたのはベネット実妹であるテト。ヴァンが帰ってきたと聞いて様子を見に来たのだ。


「火野菜の粉末を人に投げたの!?」


 テトは苦しむインガードに慌てて駆け寄ると水で濡れたタオルでインガードの顔を拭いて上げた。


「もう! 女の子に酷い事を!」

「うおおおう……」


 涙と鼻水でまともに話せないインガードはテトにすがって泣いた。






「ぐず……」

「大丈夫?」


 インガードは赤くなった鼻や眼を拭きながら泣き止んでいた。


「それでヴァン。このメスどうするヨ」

「放り出すのも問題があってな」

「ん~!!」


 まだ鼻と口が機能しないインガードは精一杯の怒りでヴァンを指差す。


「そもそもこの魔族の子は誰なんですか?」

「『人大陸』を暇潰しで滅ぼしに来た魔王様だ。オレが首を落とした」

「ふーン。面白いメスだネ」


 ベネットは信じていない。

 ヴァンは雪見茶を四人分用意する。


「代わりにオレは片腕を持っていかれた」

「……え?」

「マジかヨ」


 ベネットとテトは改めてヴァンを注視すると、彼は片腕を失っていた。

 彼らはヴァンが傷を負う所を今まで見たことが無かった故に驚愕する。


「認識を狂わせるなヨ」

「ほんとだ……」


 ベネットとテトはヴァンの魔法によって両腕が揃っている様に錯覚させられていたのだ。


「まあ、日常生活には問題ないからな。気にすんな」


 魔法を使えば腕の代わりは出来る。さすがに精密な事までは不可能だが、物を持つ程度なら問題ない。


「気にするわよっ! もぅ!」

「それで、このメスガキはそんなにヤベー奴なのかヨ」


 激辛の粉末一つで苦しむインガードは、ヴァンの腕を落とせる程の実力者には見えなかった。


「おい、チビ。お前から説明しろよ」

「チビって……言うな! 妾は『破壊大帝』インガード・チベルク・ビルドじゃ! チビではないわ!!」

「チビじゃん」

「チビだヨ」

「うがああ!」


 その二人の煽りに怒り狂うインガード。ヴァンは再び大人しくさせる為に激辛粉末を再度、顔に当てて黙らせた。


「うっ!? うぇぇぇ!?」

「ちょっと! ヴァンさん! それ止めてあげて!」

「こっちも心苦しいんだぜ? この寒冷地帯で貴重な辛味調味料をそのチビに使ってやってんだ」

「代金を請求しても良いくらいだヨ」

「うっぐっ! うぇっぐっ! ぞ、ぞれ……投げるな!!」

「インガードさん! 今は喋らず早く拭いて! 眼に入ると失明するよ!」


 なんやかんやで、インガードはテトに懐いた。






「インガードさんの事情は私が聞くから!」


 テトは話が進まない様子に、ヴァンの事情聴取は兄に任せてインガードと共に席を外す。


「それで、何があったんだヨ」

「あのチビが『人大陸』をマジで滅ぼそうとしやがったんでな、本気で殺した」


 ヴァンがわざわざ“本気”と告げる程に、インガードの実力は相当であると悟る。


「でも、生きてるネ」

「あのチビを殺った所までは良かったんだがな。直前に姫様連合に裏切られてな一回死んだ」


 間違いなく殺されたと思う。心臓を破壊されたワケだし、生物的には一度死を迎えているだろう。


「生きてんじゃン」


 ヴァンは雪見茶を啜りながら、


「魂操魔法『クロスソウル』を使った」

「また、ワケわかんねぇ魔法が出て来たナ」

「ちゃんと理論はあるんだぜ? じゃなきゃ、発動さえもしないからよ」

「それで『クロスソウル』を使って何が起こったんダ?」

「『クロスソウル』は欠損した魂を融合させる魔法だ。オレとあのチビは今、一つの魂を共有してる」

「それって何かリスクがあるのかヨ?」

「わからん」


 ベネットはヴァンが初めて、解らない、と言う言葉を口にした事に驚いた。


「あいつと魂が混ざったからか『世界の知識アカシックレコード』への接続が不明瞭なんだ。なんかノイズが走る感じでな」


 とにもかくにも、今は色々なリスクを検討するべきだとヴァンは考えていた。

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Xソウル~勇者で魔王~ 古朗伍 @furukawa

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