ぬくぬく
福守りん
ぬくぬく
居間のこたつでぬくぬくしていると、ばーばがやってきた。
小さな手に、日記帳を持っている。
「ばーばも、こたつ?」
「真奈ちゃん」
「うん?」
「これ、買える?」
「日記帳?」
「そう」
立ったままのばーばから、日記帳を渡された。
うしろの方を見たら、のこりが数ページしかなかった。あと少しで、使いおわっちゃうから、新しいものがほしいってことみたい。
ばーばは、日記を書いている。
前にちらっと見せてもらった時は、縦書きだってことにびっくりした。
それと、漢字が少なくて、ひらがなばっかりなことにもびっくりした。
ばーばが、あたしの正面に腰を下ろした。こたつの中に、ばーばの足が入ってくる。あたしの足にばーばの足があたって、くすぐったいような感じになった。
「あったかいね」
「そうだね。同じのがいいの?」
「いいね」
「わかった」
「たのむね」
日記帳の裏表紙にあるバーコードを、スマホで撮った。
「うん。これは、もういいよ」
ばーばに返して、通販サイトをのぞいた。近くの文房具屋さんでは、この日記帳は取りあつかいがない。前に二人で買いに行ったことがあって、それはわかっていた。
縦書きの日記帳はいくつかあったけど、ばーばは、なるべく同じものを使いたいと言って、買わなかった。
「あるかね」
「あるみたい」
「二冊ね」
「いいよー」
「お金は、あとでね」
「えっと、パパが買うことになるから。だいじょうぶだよ」
「そうかね」
「うん。パパが帰ってきたら、見てもらって、注文してもらうね」
「ありがたいね」
「三日くらいで届くんだって。間にあう?」
「うん。毎日は、書かないからね」
「そうなんだ。どんな時に、日記を書くの?」
「心が動いた時にね。もう、めったにないけどね」
「そうなの?」
「八十八だからね」
ちょっと自慢げだった。
「そっかあ……」
八十八年も生きてきたのか、と思った。すごいな……。
あたしは、春に十六になる。ばーばは、あたしのこれまでの人生の……えーと、五回分も生きてるってことだ。
「まだまだ、長生きしないとだね」
「そうだね。まあ、ほどほどにね」
ぬくぬく 福守りん @fuku_rin
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