料理ヘタクソ日記

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

第1話   とあるお料理初心者の心情

 きゅうりを切るとき、包丁にくっつくのが、すごく気になる


 一枚一枚、剥がしながら切る


 野菜が均等に切れていないとき、自分を責める


 炊けたご飯が、固いような気がする


 味噌汁って、こんな薄さじゃなかった気がする



 カレーがしゃばしゃばになる



 シチューの具材の、にんじんが固い



 生魚の冷たさにビビる


 魚の内臓を取りのぞくとき、けっこうな量が出てきてビビる


 血の海になる


 臓物でいっぱいの三角コーナーに、不気味さを感じる


 想像していたよりも魚が生臭くて、調理中はしっかりと火を通す


 焼きすぎて固くなる



 お料理動画を見て、ある日揚げ物に挑戦しようと思い立つ


 揚げ物のパン粉やら卵液やら、下準備だけで一時間かかる


 もうお店で買ったほうがいいような気がする


 鍋にどっぷり注いだ油を、高温になるまで熱するのが怖い


 どのタイミングで油に入れたら美味しく揚がるのか、全くわからない


 サクッとならない


 かじったら、中身が生



 圧力なべの重たさにビビる


 部品がばらばらの状態で届くので、おろおろしながら組み立てる


 説明書が手放せない


 怖いので「強」ではなく「弱」に設定しがち


 加圧ピンが上がるまで、めっちゃ怖い


 中身が見えないので、具材が今どうなっているのか想像もできない


 今までのどんな料理よりも、怖くてそばを離れられない


 今までのどんなホラー映画よりも、怖い


 爆発して天井に穴が開く想像しがち


 火傷が怖い


 シューッて音にビクつく


 手に汗にぎって、説明書も湿る


 タイマーできっっっっちり時間を計る


 放置時間も怖くて離れられない


 ずっと緊張しっぱなしで、めちゃくちゃ疲れる


 完成した料理が固くて、次は「強」に設定しようと自分に誓う



 一生懸命に作ったのに家族が文句をぶぅぶぅ言う


 上手に味付けできた料理に、醤油をたっぷりかけられて傷つく


 家族の味の好みがばらばらなのを、初めて知る


 「濃すぎ」「薄い」の苦情多発で、こめかみに青筋が浮かぶ


 料理するたびに文句を言われ続けて、料理が楽しくなくなる



 百均で見かける便利グッズに目がいきがち


 便利グッズを買っても、あんまり使わないまま棚にしまいがち


 料理とは時間との戦いであることを、ある日悟る




 ある日突然、作った料理が家族に褒められる


 「これ美味しい! また作ってね」と、リクエストをもらう


 家族の好物を作れるようになる


 特別な日は、特別な料理を作ろうと思い立つ


 料理動画で学んだ知識を、自分好みにアレンジし始める


 忘れた頃に、家族から味の文句を言われる



 テレビのニュースを観ているうちに、

 家族そろってご飯が食べられることは、奇跡なのだと、悟る


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