明智康夫の日記『たくさんの荷物』

 新しい区域を担当するようになった。いつもより少しだけ遠い場所だ。

 よくわからないが、前の担当者が辞めたらしい。なんで俺が引き受けなきゃいけないんだ。

 まぁ愚痴を書いても、仕方ない。明日も早いのだから、今日は寝よう。

――――――――――――。



 前の担当エリアよりも配達がスムーズに終わる気がする。

 配達先がそれぞれあまり分散していないのかもしれない。

 そういえば、とあるマンションの住人に凄い量の荷物を届けた。あまりの多さに、最初は苛々していたが、荷物の受取人の若い兄ちゃんはかなり気さくな奴で「すみません、重かったですよね。これでも飲んでください」と冷たいコーヒーをくれた。

 今どきの若い奴にしては、気の利いた兄ちゃんだった。

――――――――――――。



 相変わらず、マンションの兄ちゃんのもとには色んな荷物が届いている。

 この前気になって、「どんなもの買ってるんだ?」と尋ねると兄ちゃん恥ずかしそうに笑ってた。

「ついネットで買いすぎちゃうんですよ」

 なんて言っていた。確かにちょっとオタクっぽい兄ちゃんだからな、なんかアニメのグッズとか買ってるのかもしれない。

 俺が「ほどほどにな」と言うと、兄ちゃんは「気を付けます」と笑っていた。

――――――――――――。



 今日は珍しく兄ちゃんがいなかった。不在票を入れたが、連絡もないので、また明日届けることなった。

 トラックの荷台に数個だけ残った兄ちゃん宛ての荷物の段ボールを見て、ため息が出た。

――――――――――――。



 今日も兄ちゃんはいなかった。それでも新しく兄ちゃんの荷物が来るもんだから、困ったもんだ。

 不在票をまた入れてきたが、連絡はなかった。面倒だが、一応明日も寄る予定だ。

――――――――――――。



 担当エリアを変えてもらうことにした。

 正直、あの区域にはもう近寄りたくはない。

 今日も、兄ちゃんのところに寄った。相変わらず、荷物が増えるもんで、邪魔になってきていた。

 今日もインターホンを押しても反応がなかったが、玄関の横の窓がほんの少しだけ開いていた。

 よくはないとわかってはいたが、連日のこともあって、兄ちゃんが倒れてるかもしれないと思い、ついその隙間から中を覗いてしまった。

 窓からは兄ちゃんの部屋が一通り見えた。暗い部屋で、電気もついてなかった。

 兄ちゃんは倒れてなかった。いや、倒れていてもわかんないかもしれねえ。

 兄ちゃんの部屋は段ボールでぎっしりと埋まっていた。それも未開封のままで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恐怖日記 奏羽 @soubane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ