明智康夫の日記『たくさんの荷物』
新しい区域を担当するようになった。いつもより少しだけ遠い場所だ。
よくわからないが、前の担当者が辞めたらしい。なんで俺が引き受けなきゃいけないんだ。
まぁ愚痴を書いても、仕方ない。明日も早いのだから、今日は寝よう。
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前の担当エリアよりも配達がスムーズに終わる気がする。
配達先がそれぞれあまり分散していないのかもしれない。
そういえば、とあるマンションの住人に凄い量の荷物を届けた。あまりの多さに、最初は苛々していたが、荷物の受取人の若い兄ちゃんはかなり気さくな奴で「すみません、重かったですよね。これでも飲んでください」と冷たいコーヒーをくれた。
今どきの若い奴にしては、気の利いた兄ちゃんだった。
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相変わらず、マンションの兄ちゃんのもとには色んな荷物が届いている。
この前気になって、「どんなもの買ってるんだ?」と尋ねると兄ちゃん恥ずかしそうに笑ってた。
「ついネットで買いすぎちゃうんですよ」
なんて言っていた。確かにちょっとオタクっぽい兄ちゃんだからな、なんかアニメのグッズとか買ってるのかもしれない。
俺が「ほどほどにな」と言うと、兄ちゃんは「気を付けます」と笑っていた。
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今日は珍しく兄ちゃんがいなかった。不在票を入れたが、連絡もないので、また明日届けることなった。
トラックの荷台に数個だけ残った兄ちゃん宛ての荷物の段ボールを見て、ため息が出た。
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今日も兄ちゃんはいなかった。それでも新しく兄ちゃんの荷物が来るもんだから、困ったもんだ。
不在票をまた入れてきたが、連絡はなかった。面倒だが、一応明日も寄る予定だ。
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担当エリアを変えてもらうことにした。
正直、あの区域にはもう近寄りたくはない。
今日も、兄ちゃんのところに寄った。相変わらず、荷物が増えるもんで、邪魔になってきていた。
今日もインターホンを押しても反応がなかったが、玄関の横の窓がほんの少しだけ開いていた。
よくはないとわかってはいたが、連日のこともあって、兄ちゃんが倒れてるかもしれないと思い、ついその隙間から中を覗いてしまった。
窓からは兄ちゃんの部屋が一通り見えた。暗い部屋で、電気もついてなかった。
兄ちゃんは倒れてなかった。いや、倒れていてもわかんないかもしれねえ。
兄ちゃんの部屋は段ボールでぎっしりと埋まっていた。それも未開封のままで。
恐怖日記 奏羽 @soubane
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