【KAC202211】交換日記と幼馴染とアレコレ

朝霧 陽月

本文

「カイくんカイくん、交換日記しよーよ」


「……また急にどうした」


「ほら、私ちょうど交換日記するのに丁度良さそうな日記帳を買ったんだよ。だからしようよ」


「いや、勝手に一人で日記を付けておけよ……」


「えー、絶対それより二人で交換日記する方が面白いって、ねーねー」


「あっ、こら揺さぶるなって…………仕方ねぇ分かったよ、付き合ってやるよ交換日記」


「やったー!! あ、ちなみに毎日交換するのは大変だから、二日分の日記を付けてから三日に一回の交換ね!!」


「どういう理論だよ、それ……大変だと思うならそもそもやめろよ」


「それはダーメ! それじゃあ日記は渡しておくから最初はカイくんからね」


「は? いや、そういうのは最初言い出した方からやるものだろ……!?」


「それじゃあ、三日後に取りに来るからよろしくね!! バイバイー」


「あーもう、アイツ!! 言うことだけ言ったら、日記だけ押し付けていなくなりやがって……しかし、引き受けたからにはちゃんとやらないとな。はぁー」



 ▼△▼△



《三日後》

「はいはーい、カイくん交換日記はちゃんと書いてくれたかなー?」


「……一応書いたぞ」


「わぁーい、それじゃあ早速見せてみてー」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


[x月xx日]


 ▼午前中

 起床

 朝食

 出勤

 所属隊員の点呼

 夜間警備の隊からの引継ぎ

 王都警備通常業務及び見回り


 昼休憩時間及び昼食


 ▼午後

 午後の警備担当部隊への引継ぎ

 室内訓練場での自主訓練及び、隊員への指導

 各種必要書類の処理

 退勤

 夕食

 就寝


 特筆事項、大きな問題点はナシ



[x月xx日]


 起床

 朝食

 出勤

 所属隊員の~

(以下略)


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「……何これ、業務報告書?」


「日記だ」


「二日目の内容もほぼ同じ感じなんだけど……」


「大体勤務内容だったからな」


「今、ハッキリ勤務内容って言ったね!? やっぱりこれ業務報告書じゃん!! しかも相当内容が薄いっていう」


「こういうのを無駄に長く書いても、あとで確認する上役が苦労するだけだから、最低限必要な情報量に抑えてあるんだよ」


「その考え方は、根本的に間違っているんだけど!? ねぇ私は交換日記がしたいって言ったのだけど覚えてる?業務報告書が見たいって言ったわけじゃないんだよ??」


「…………」


「おーい、カイくーん? こっち向いてー」


「っ…………こういう日記の書き方なんて分かんなかったんだよ、悪いか!?」


「わー、逆ギレだぁー。あー、うん、でも私が書き方を説明して無かったからなぁ。それは悪かったよ、ゴメンねー」


「……いや、俺もちゃんとしたものを書けなくて悪かった」


「よし、それじゃあ次はカイくんにも分かるように、私がお手本を見せてあげよう!!」


「それなら最初から、そうして欲しかったんだが」


「楽しみにしててね!!」



 ▼△▼△



《そのまた三日後》


「やっほー、カイくん!! 日記書いてきたから、見てみてー」

「ああ、分かったよ……どれ」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


[x月xx日]


 今日、私は魔術用の素材採掘のため一人で、北東部に位置する○○山脈まで一人でやってきました。

 この山を含めた地域一帯は、危険であるため一般人の立ち入りは禁止されてるけど、そこは素材のため!! 辺りに生息する危険生物をバンバン蹴散らして、目的地へと向かいますー!!


 あ、そうそう、ここに生息する生き物の中には、その体の部位が貴重な素材になるものもいるので、その辺りは必要に応じて剝ぎ取ったりもしております。

 もし見たかったら、カイくんにも後で見せてあげるね~


 それで今回の一番目当ての、素材なんだけど——

(ほぼ同じノリの文章が二日目まで続く)


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「なんというか、お前の頭の中ってこうなってるのかって思える文章だな……」


「ん、それって褒めてくれてるのかな?」


「お前の奇行が分かりやすく明文化されてて、とってもいいと思うぞ」


「ねぇ、それやっぱり褒めてるように見せかけて貶してるでしょ?」


「いやいや、そんなことはないぞ。とっても読みやすくて楽しい良い日記だと思った」


「ふーん、それなら別にいいけど…………じゃ、次からはカイくんも、こんな感じでよろしくね!」


「いや、これと同じノリはたぶん難しいかと……」


「いやいやー、カイくんなら出来るって頑張ってよ!!」




「そうだな、カイアスなら優秀だし大抵のことは出来るんじゃないか?」


「うんうん、やっぱりそう思う……って、誰?」


「なんて薄情な娘だ、父親のことも分からないとは……」


「えっ、お父様……?」


「そうだ、可愛い娘に忘れられてなかったようで安心したよ」


「いや、もちろんお父様のこと忘れるはずないじゃないですか!! ……でも、それはそれとして、ここにいる理由が気になるのですが」


「そうそう、そこのカイアスから、面白い話を聞いて様子を見に来たんだ」


「あの、面白い話って……」


「交換日記、俺にもぜひ見せてくれよ」


「……」


「ダメか?」


「それがですね、とてもとてもお父様にお見せできるような内容ではありませんので……」


「それは俺が見て判断する、貸せ」


「分かりました、そこまで仰るのであれば…………今ここで、燃やして処分します!!」


「させるかっ!! 毎日どこぞでふらついたり、とんでもないことをしてる、素行不良娘がわざわざ馬鹿正直に、自分の行動を書き起こした日記なんだろう!? 手に入れてハッキリしたやらかし分、説教だ!!」


「そんなものは存在しませんよ、そしてその日記も今から存在しなくなります!!」


「はっ、お前程度が本気で俺を出し抜けると思うのか!?」


(…………確かに日記のことをうっかり教えたのは俺だけど、親子喧嘩なら他所でやってくれねぇかな。モノが壊れたりしたら嫌なんだが)



 そうして数分後。

 最終的に日記および、それを書いた本人の身柄は大きな被害もなく無事確保されることとなり、俺の部屋には平穏が戻ったのだった。


「でも、一回くらいは俺からもちゃんとした日記を返してもよかったかもな……」


 静かになった部屋で、俺が何の気なしに呟いた言葉は、やけに大きく部屋に響いたような気がした。

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【KAC202211】交換日記と幼馴染とアレコレ 朝霧 陽月 @asagiri-tuyu

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