崩壊寸前

砂漠の使徒

その日

「加奈子、もうすぐだね」


 地球に迫る隕石が発見されたのが一年前。

 ぶつかれば確実に人類は滅亡するだろうと予測された。

 お金持ちは地球外に脱出したとも噂されるが、庶民の僕達には遠い話だ。

 ただ向かってくる隕石を眺めることしかないできない。

 でも、それでいいんだ。

 僕には愛する彼女がいるから。


「……」


 妻の加奈子は珍しく、黙っている。

 きっと怖いんだ。

 僕もそうだもの。

 でも、一人じゃないんだよ。

 この地球に住むみんなが、一緒に死ぬんだ。


 彼女を安心させるために、肩に手を……。


「触らないで!」


 突然彼女は豹変して、僕の手を払いのけた。

 その顔は、すごく険しい。


「ど、どうしたんだい?」


 なにか気に障ることを言ってしまったのかな。

 それなら謝らなきゃ。


「ご、ごめんよ……」


「あなたのことなんて、大っ嫌いよ!」


 立ち上がり、僕から離れていく彼女。

 僕はまだ状況が呑み込めずにいる。


「わからないようだから、言ってあげるわ! 前からあなたのことが嫌いだったのよ!」


「……」


「お金目当てに近づいたのに、私と結婚してすぐに会社は倒産。こっちは計画が崩れて困ってるのに、愛だのなんだとぬかしやがって!」


「……」


「おまけに地球が滅亡するときた! 今更混沌とした世界で金持ちと結婚するなんて絶望的だからここまで付き合ってあげただけよ!!」


「……そう、だったのか」


 僕はただ幻の君を愛していただけなのか。

 すごくショックだが、もうどうしようもない。


「さよなら!!」


 彼女はつかつかと、家の玄関へ向かって行く。

 僕は彼女を止めることなんてできない。


『速報です!!』


 そんなとき、テレビからニュースが流れて来た。


『アメリカのNASAが組織した特殊部隊「MDT」が隕石を破壊したとのことです! みなさん、地球滅亡の危機は去りました!』


「え……!」


 衝撃的なニュースだ。

 本当だろうか。

 僕はテレビに張り付く。


 すると、背後から足音が近づいてきた。


「ねぇ、あなた。考え直さない?」


(完)

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崩壊寸前 砂漠の使徒 @461kuma

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