彼方なるハッピーエンド〜カクヨムに感謝を込めて〜

蜜柑桜

ありったけの感謝を込めて

 二〇一八年三月十一日。

 抑えられない緊張を感じつつ、あるウェブサイトの登録ボタンをタップ。


「みかんさくら」


 適当に好きな物を並べた名前で、桜色を選んで、作品をアップした。

 これがとある文章書き好きが、カクヨムたるページに踏み込んでみた最初の日。


 お試しで上げた一作目は何だっけ。童話風の短編を一つ、平安の幼い姫様の話を上げた気がするが本当に上げたかも覚えていない。

 みかんさくらが書きたかったのは、ファンタジーだった。


 二〇一八年三月十二日。

 カクヨムページの新作一覧に「時空間の旅路」のタイトルが上がったのはほんの一瞬。


 きっかけは何だっただろう。


 生活が一変する。

 引きずっていた思いに別れを告げた。

 パソコンを買い替えても常に引き継いできた書きかけのお話があった。

 スマートフォンで執筆が出来るのを知った。


 色々な条件が重なったのだろう。

 とあるサイトにお試し登録したものの馴染めず、探した中で一番合いそうだな、と思った。

 そして遂に、それこそ十年程途中のままになっていた作品が動き出した。

 時計の止まったシレア国が、その時計を止めたまま、物語の時間を動かし始めた。

 みかんさくらの中で停止していた王女が、シレア城下を走り始めた。


 二〇一八年三月十三日。


 ドキドキして投稿したサイトを開けてみたら、画面右上でベルに赤いマークがついていた。押してみたら、お星様が三つ並び、みかんさくらは目を丸くする。


「★★★これは超大作の予感。時が魅せる本格ファンタジー登場!


 圧倒的クオリティで描かれる1話が魅力満載。文庫小説のように集中して読めます。

 設定にブレが無く描画は繊細かつ豊富、街ゆく人々の営みが生き生きと描かれます。そして1話がこれだけのボリュームなのは起承転結の起をしっかりと見せる狙いでしょう。


 狂う事の無かった時間が失われた時、人々はどうやってそれを乗り越えるのか…続きが気になります。

 本格的ファンタジー好きなら必読です。」


 ゆあんさん、という方のレビューだった。レビューなんて機能があるんだ。まだ胸が高鳴るまま、ゆあんさんのページにお邪魔する。目についたのは「介護福祉士」の文字。


「ドラゴンの介護福祉士」


 介護福祉士の女性が、死後に生まれ変わってドラゴンの介護をするお話。異世界転生や転移がどんなものかも知らなかったみかんは、このカテゴリーも分からぬまま入り込み、その話の奥深さに驚いた。

 今でも思う。このお話は「よくある(らしい)転生」ではない。社会に訴え、切実な思いが詰まった極めて真面目な作品だと。介護の現場が如実に伝わる。こんな作品が書籍ではなくウェブに? 


 自分もレビューを書いてみたい、そう思って、ゆあんさんの作品ともう一つ、読みながら泣きそうになった作品にこわごわ感想を書いてみる。御伽噺のようで、でも涙が込み上げそうになる切ない美しいお話。


 わたなべりえ様「鈴鳴り姫と銀の騎士」


 初めてのレビューを書いてみたら、もっと魅力を伝えたくなる。拙い感想を入れて、タップ。

 レビューがすぐにトップ画面から流れてしまうなんて知らなかったけれど、少しでも人を惹きつけられるなら。



 初めはウェブの中での交流がちょっと怖かったみかんさくらは、ただ自分の作品を更新していた。

 幸いなことに「時空間の旅路」はそこそこ読んでいただいて、読者様のお一人、鈴草結花様から「蜜柑桜」の漢字が可愛い、とのお言葉を頂戴。

 嬉しくなってペンネームも「蜜柑桜」に変えてみた。


 とはいえまだ初心者。読んだ作品に遠慮しつつ感想を書いてみただけだった。自主企画というのも見かけたけれど、なんだか参加するのに勇気がいる。


 でも魅力的な世界を見ていると、飽き足りない、と思えてくる。


 そんな時、とある作者様からコメントをいただいた。とても整った、「清」や「静」という印象の「綺麗な文章を書く方だな」と思う書き手様。オレンジ11さん。

「みかんさくらさん、自主企画に参加されてみたらいかがですか。同題異話という企画があります」


 そうした内容でお薦めいただき早速訪ねてみる。すると、想像もしなかったたくさんの世界が開けた。

 同じ題名でいろいろな書き手が自由にお話を書く。

 なんて面白そうなんだろう!

 心惹かれて参加してみる。蜜柑桜初、同題異話。「さいわいなことり」

 童話をコンスタントに書いていたのもあって、そして何より柔らかく優しい題名に導かれて、するする話が浮かんだ。帰宅の電車で三十分ほど、見直しをしてアップ。自主企画参加にチェック。


 そうしたら企画参加の方を中心にたくさんのユーザーさんと出会った。

 蜜柑桜のカクヨム世界が広がった。こんなに素敵な物語を書く方が、実にたくさんいらっしゃる。

(蜜柑桜が読んだオレンジ11さんのお話も、すごく素敵なお話だった。思い返せばなるほど。現在は書籍化したプロ作家さん。くじょうさん画の装丁による『ミュゲ書房』は一般読者様からの評価も高い(蜜柑桜は『六重奏』が大好き))


 網の目が広がるように、同題異話から同題異話へ、同題異話を通じて別の作品へ、繋がりは終わりがないように次から次へと紡がれていった。

 そして「さいわいなことり」から約一ヶ月。ゆあんさんからの企画告知。


 二〇一八年十月九日

「筆致は物語を超えるか。明日の黒板」


 今度は同題異話ならず、同題+ざっくりしたあらすじまで同じ。でも大まかに辿っていれば可。

 なにこれものすごく面白そう!

 心高鳴ると共に用意された魅力的なあらすじが立体になってくる。二人の高校生。海外への親の転勤。卒業式。そして大好きな桜が描ける。

「企画参加は他の方の作品を読む前に書く」

 自分で決めたルールに則り「明日の黒板」を書き上げた。そして早速読みに行く。

 また輪が広がった。


 コメントが楽しい。レビューが楽しい。書くのも、読むのも。物語が刺激で、勉強になって、もっと書きたい、読みたい。


「時空間の旅路」は連載を終えた。読者のお一人だった奈月沙耶様から「兄にもっと出番を」と聞いて二作目に手をかけた。そうして書き始めた兄編。


 間も無く、ページを閉じた。


 至らない文章に厳しいご指摘。もうそれ以上、書けなかった。二〇一九年、真冬。出張中の極寒の欧州、パリの夜「下書きに戻す」を押した。それでも「自分は好きだった」「気にすることはない」という言葉に布団の中で泣きそうになった。


「時空間の旅路」も閉じた。元の小説ページは「非公開」設定のまま。フォロワーさん39人、お星様46。レビューも感想も非表示ゼロになるのは寂しかったけれど、未熟すぎるシレア国に一度、別れを告げる。全面改稿に踏み切り、「新しく小説を執筆する」を選ぶ。


 新タイトル「時の迷い路」の中で、王女は今も生き続けている。


 一喜一憂しながらカクヨム一年を過ぎた二〇一九年真夏。筆致企画や同題異話でお見かけしたお名前と、小説? というタイトルを発見。曰く「Yプロリレー」。


 開けてみたらいらしたのは5人の書き手。企画でご一緒し、爽やかな青春物語が印象に残っていたゆうすけさんと薮坂さん、兄編シレア国を閉じた時に「好きでした」といってくださった西井ゆんさん、そして初めましての古川奏さんとwazzwallasisさん。

 作品のタグはSF。仰天。ゆうすけさんと薮坂さんがSF。リレー? 順番に書くの?


 読み始めたら、止まらない。夜も眠れない。

 そしてちょっとやってみたいな、なんて思ったら、なんと入れてもらえた。

 普段はろくにプロットも書かないのにメモを取る。出張直前なのに。


 二〇一九年八月十九日午前三時十九分。

 初のSFに手を出す。ここから、リレー小説の怒涛の渦に楽しみながら巻き込まれることになる。


 二〇一九年九月十日

 出張からの帰り道、蜜柑桜は台風襲来による迂回経路で羽田に向かう途中、予定外トランジットの中国の空港で薮坂さんのラストを読みロビーで泣きそうになりつつ帰京。


 秋を迎えた。カクヨム内が俄に騒がしくなった。コンテストが近いという。

 シレア兄編は、改稿後に連載を再開していた。コンテストはお祭り。受賞目当てではなく、交流を兼ねるというお話。それなら、この楽しみに乗ってみよう。通勤時間に書き、寝る前に書き。


 コンテスト中はたくさんの好みの作品にも出会う。


 野々ちえさんの焦ったい恋愛、竹神チエさんのゾッとしてなお読みやすいホラー。翌年には宇部松清さんのラブコメにお腹が捩れる。普段読まないジャンルのはずなのに、どうしてこんなに惹かれるのか。そして。


 二〇二〇年一月六日 「天空の標」完結。


 コンテストの威力を知る。妹編を超え、欧州での出張仕事中は夜中の日本からの通知が連続。欧州で迎えた読者選考最終日、お星様が長編初の100になったよと知らされた。いつしか「兄すごい!」と言っていた兄編は従者と共にシレアを牽引し「殿下すごい」と呼ばれ、大使を迎えてファンアートを賜る。


 その描き手である如月芳美シレア国親善大使様は蜜柑桜がコンテスト中に魅了された長編の作者様。作品のジャンルは複数、レベルが高い。

 二〇二一年の作品「黴」

 コロナ禍の現状を切に考えさせる作品、販売書籍のクオリティ。


 激務の中でもリレーは続く。交流もますます広がり、コロナ渦中なのにラブコメで笑いが止まらず、シリアス小説にハラハラ。どうして書籍化しないのかと思う作品ばかりが集う。無限の世界。


 振り返れば、一つ一つ書き記した作品、レビュー、感想、どれもがカクヨムを開いてからの記録。シレアは三作目『万有の分銅』完結に至る。

 積み重なったかけがえない文字たち。文字だけなのに、文字だからこそ、色々な思いが詰まっている。


 これからどこへ向かうのか。ハッピーエンドがどこにあるのか、蜜柑桜はまだ知らない。

 でもまだハッピー「エンド」ではない。

 今すでにここで、幸せで、終わってエンドしていないもの。



 同題異話とカクヨムの皆様に感謝を込めて、今日のこの日にありがとうを記します。


 二〇二二年三月二十九日

 蜜柑桜





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