その日僕はスライムを拾った
白鷺雨月
第1話その日僕はスライムを拾った
二月一日。
今日はとても寒い日だった。
公園の水飲み機の近くでうにうにと動く透明なものをみつけた。
最初はなにかの見間違いかと思ったがよく観るとやはり動いている。
興味がわいたのでペットボトルを空にして近づけるとその透明な粘液はするすると吸い込まれるように中に入っていった。
二月二日。
その透明な粘液はペットボトルの中でゆっくりと動いていた。
ぐるぐるとペットボトルの中を蠢いている。
ためしに机の上にナイロン袋をひいて、外に出してみた。
中のものは突然、部屋の中を飛んでいたハエにまとわりついた。
液体の中にとりこまれたハエは瞬時に消えた。
二月三日。
その透明な粘液をペットボトルから水槽に移しかえた。
粘液はどこか嬉しそうにその水槽の中を動きまわった。
ある程度動きまわったあと、疲れたのだろうか小さな丸い塊になり、動かなくなった。
まるでスライムだ。
なのでスーラと名前をつけた。
二月四日。
水槽のスーラに食パンを与えてみる。
スーラは食パンをすぐに消化して、また体積をほんの少し増やした。
二月七日。
スーラを拾って一週間がすぎた。
スーラの体積はおよそ二リットルほど。
毎日食パンを与えている。
他にも夕食の残りや牛乳も与えた。
スーラはとても嬉しそうだ。
二月八日。
スーラを大きめの水筒に入れ、外に出かける。図書館に行き、絵本や写真集を見る。
水筒の蓋を開け、スーラにも絵本を見せた。
スーラは嬉しそうに水筒を揺らした。
二月十日。
スーラとの生活も十日目を迎えた。
何となくだけどスーラの性格のようなものがわかってきた。
スーラの好物は牛乳と食パン、それに煮干し。
クラシックを聞かせるときれいな丸い円になる。
ロックを聞かせるととげとげになった。
二月十一日。
この日はたいへんなことが起こった。
スーラを水筒に入れ、市内の大きな公園に行くためにバスを待っていた。
僕の前にはおばあさんが一人でバスを待っている。
バスがきた時、スーツを着た男が走ってきておばあさんをつきとばして、バスに乗ろうとする。
危ないじゃないかと声をかけたら、逆上したその男はつかみかかろうとした。
その時、水筒から飛び出たスーラが男をひとのみにして、一瞬にして溶かしてしまった。
二月十二日。
人間を一人ひとのみしにしたスーラの体積は水槽に収まりきれなくなった。
どうにかして抱えて運び、浴槽に入れた。
浴槽の中のスーラに昨日は助けてくれてありがとうと声をかけた。
スーラは嬉しそうにふるえる。
二月十四日。
世間はバレンタインデーとかなんとかで騒がしい。
浴槽からがたがたと大きな音がした。
その音はすぐにおさまる。
そうしたらリビングの扉を開け、誰かが入ってきた。
それはとびっきりの美人でとんでもなくスタイルのいい女性でしかも素っ裸だった。
私はスーラ。やっと人間の姿になれたよ。これからもあなたを守ってあげるね。
とスーラはかわいらしい声でそう言った。
その日僕はスライムを拾った 白鷺雨月 @sirasagiugethu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます