日を記す、思いを紡ぐ。
佐倉伸哉
本編
15歳の誕生日。中学3年生の私に、父からのプレゼントは桜色のカバーをした日記帳だった。
4月の桜の花が咲き誇る頃に生まれた事からつけられた“
そんな私の気持ちを察したのか、父は諭すようにこう言った。
『今日一日のあった事、思った事、感じた事、短くてもいいから書いてみなさい。最初の内はちょっと面倒臭いかも知れないけれど、後々きっと君の為になるから』
やや困ったような笑顔で語り掛ける父の言葉を、半信半疑の気持ちで私は受け止めた。
それから10年。私は25歳の誕生日を迎えた。
日記をつける習慣は、10年前から続いている。父が言っていた通り、最初の内は確かに面倒臭かったけど、1ヶ月も続けていると習慣づいた。寝る前のちょっとした時間に今日一日の振り返りを文字にするだけなので、大して負担に感じなかった。むしろ、頭の整理が出来て良かった感さえあった。
日記帳は今日から使う新しい物を含めて、11冊になった。少し、昔を振り返りたい気分になった私は、一番最初に父から贈られた桜色のカバーの日記帳を
最初の頃は、一言二言の感想を
2冊目。新しい環境での生活がスタートし、高校に入ってから出来た友達のことについて書く事が比較的多かった。友達と喧嘩した時も、日記を書く頃には冷静になり、翌日に仲直りする手掛かりをそこで掴む事も何度もあった。
修学旅行やテスト勉強、学園祭など学校関連の出来事だけでなく、高校に入ってから始めたバイトの話も出てくるようになる。生まれて初めて働く心境、初めて貰ったお給料の喜び、バイト先での失敗で凹んだこと、バイト先の先輩達と行ったご飯会。学校だけでなく一般社会にも繋がりを持ち、人間関係が一気に広がったのが目に見えて分かった。
3冊目の途中から進路について葛藤する様が徐々に出るようになり、4冊目は大学受験で再び日記の内容が簡素化する事となる。しかし、1冊目ではネガティブな文言ばかりで読み返した時に恥ずかしい気持ちになったので、出来るだけ前向きに捉える文言が目立った。第一志望の大学に合格した日の日記は、過去一番に色々な色を使って書いている事から、人生で一番喜んだ当時の私の気持ちがはっきりと伝わってくる。
5冊目からは、大学生になった私。地元の大学に進学したので、バイトは継続。高校1年生から始めた飲食店のバイトは4年目になり、先輩として後輩を教える立場になって、教える事の難しさに悩む様が所々に出てくる。
大人になる階段を着実に昇っていく私。運転免許の取得、学業とバイトに勤しむ毎日、大学で出来た親友と旅行、ゼミ仲間と合宿。楽しい事も、辛い事も、悲しい事も、怒った事も、文章量の違いはあれど、克明に記録されていた。それをなぞっていくのは、なかなか楽しい。
就活が始まった7冊目からは、やや内容が荒れ気味になる。なかなか貰えない内定、周りの友人は次々と就職先を見つける中で焦る私、苦戦する様が如実に出ている。そして、苦労した末に掴んだ、内定。喜びを爆発させた私は、テンションMAXで歓喜のままに書き殴っていた。
卒論で苦闘する様子が暫く続いた8冊目、卒論発表を区切りに一気に学生生活を惜しむようにイベントラッシュが続く。ゼミ仲間との食事会、親友同士で行った卒業旅行、バイト先のみんなが開いてくれた私だけの送別会。本当に、周囲の人々に恵まれた学生生活だったと、今でも思う。
そして迎えた、新社会人1年目の9冊目。序盤は新社会人の基本を押さえる研修でクタクタになり、それから配属された先での失敗や凡ミスで凹む日々。大学時代には控えていたネガティブな文言もこの時ばかりはかなり見られた。
しかし、1年経った10冊目になると仕事の要領も分かってきて、次第にネガティブな文言は減っていき、前向きな言葉が増えてくるようになった。大学時代の友人やバイト先の仲間に愚痴を聞いてもらい、人生の先輩である方々から助言を頂いたのも大きかったように思う。
ざっと読み返してみると……日記をつけていた事で、過去に自分がどんな気持ちだったか、文字を通してすぐに思い返せた。感情だけでなく想い出や雰囲気まで伝わってくるように思えた。
10年。まとめてしまうと短いように感じるが、この10年は本当に濃密だった。良かった事も、悪かった事も、全ては想い出だ。
一日一日の積み重ねが、今日の私を形成している。日記はその証だ。
ありがとう、過去の私。そして、これからよろしくね、未来の私。
日を記す、思いを紡ぐ。 佐倉伸哉 @fourrami
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