糸川律の日記

染井雪乃

糸川律の日記

三月二十五日金曜日

 凪さんが一人暮らしを始めた。行けなくはないけれど、それなりに遠いから、今までよりは会えなくなる。凪さんのいない生活が始まる。


 本当はすごくいやだ。行かないでほしい。凪さんのいない毎日なんて、つまらないに決まってる。だけど、おれもいつかは凪さんがいなくても立てるようにならなきゃいけない。それは、わかってる。


 そうだ、高校。凪さんの家から近いところにして、凪さんと住むのはどうだろう。



三月二十八日月曜日

 春休みでおれがいることが嬉しいのか何か知らないけど、弟が構ってほしくて抱きついてくる。正直、弟のことは、別に嫌いじゃない。でも、新しいお父さんの子どもなんだと思うと、ちょっと無理。


 そんなの、四歳にわかるわけないのも、わかってる。だから、家にいたくなくて、図書館に行った。帰ってきたら、母さんが、「律は凪とそっくりね」って微妙な顔で言った。凪さんとそっくりなのか。嬉しい以外の感想がない。母さんが悲しそうでも、凪さんに似てることが嬉しくて、これ書いてる今も、ちょっと嬉しい。



三月三十日水曜日

 風邪ひいたっぽい。看病とかそんな子どもじゃないし薬飲んで寝てるよって言ったんだけど、母さんは結局あれこれ気を回してくれていた。


 何か知らないけど、おれと公園行きたかったらしい弟が部屋の外でぐずって、母さんに言い聞かせられてた。ほとんど寝てたけど、それだけ聞こえた。



四月二日土曜日

 「律君にわがまま言わない」って叱られた弟がずっと泣いてて、おれは何とも言えなくて、凪さん家に行くことにした。凪さん、土曜日休みとは限らないけど、今日は休みだったみたいで、家にいた。


 やっぱり凪さんいないの、きつい。凪さんに、「高校はここから通ってもいい?」って聞いたら、凪さん家の近所にある進学校くらいのレベルなら、母さんも納得するだろうから、そこならいいよって言ってくれた。勉強頑張ろう。凪さん家の近所の進学校、凪さんの通ってたところだっていうし。



四月七日木曜日

 中学の入学式だった。試験に合格して入学したでもない中学の入学の、何がめでたいんだか。凪さんのところ行くために、全部しっかりやりきってやる。勉強は元々得意だし。


 あの人に、「気が早いけど、行きたい高校は決まっているの?」って言われたから、「凪さんが卒業したところ」って即答した。母さんは何か変な顔してたけど、凪さんの出身校を知っているから、二人とも応援してくれるみたいだった。



(了)

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糸川律の日記 染井雪乃 @yukino_somei

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