星になったお父さん。

マクスウェルの仔猫

第1話 星になったお父さん

 12月30日。


 今日は、夜空がとても、とても綺麗である。


 キンと冷えた空気の中、見惚れる程に星達がキラキラと輝いていたので、夕ご飯の準備をした後に少しだけ美月とマンションのベランダから空を見上げた。


「お母さん、お星様めちゃめちゃキレイだね」

「そうだね。お父さんの星も、スゴイよく見えるよ」

「どこどこ?」

「あそこだよ」


 私は美月にわかりやすい様に、おおいぬ座のシリウスに向かって指を指す。


「ホントだ!すっごいわかる」

「ね」


 私達は顔を見合わせて、笑った。


「今日はもしかしたら、お父さんがお返事してくれるかもしれないよ」

「ホントに?!」

「お父さん、呼んでみよっか。ほかのお家に迷惑だから、ちっちゃい声でね」

「うん!」


 実際はマンションは閑散としていて、いつもは聞こえてくる様々な足音、生活音、話し声などの細やかな音が、今日は全く無い。


 普通くらいに声を出しても平気なのかもしれないが、私達はいつもの通りに小さい声でお父さんを呼んでみる。


「じゃあ、いっせーの、せ」

 

 おとーーーーーさーーーん。


「お父さんに声、聞こえたかなあ?お母さん」

「うーん、お返事来ないね。もっかい、せえーの、せ」


 おとお、さーーーーーーん。


「お、今お父さん、美月の方向にキラリと光ったかも」

「おおお!お父さん、美月とお母さんが今日も元気なの、見ててくれてるー?」


 とても、とても澄んだ冬の夜空の麓で、私と美月はくっつき合いつつ今日も夜空を見上げている。




 と、その時。


 あ、お父さん、帰ってきた。


「たっだいまー。うう、今日もまた寒いね、雪が降りそうなくらい」

「「お父さん、おかえりなさーい!!」」


 私と美月は、お父さんにギュウッと抱きついた。


「うっわ!冷た!つっめた!何で二人ともこんなに身体冷えてるの?!」

「星になったお父さんとお話してたの!ね、お母さん!」

「ね〜」

「またなの?!お父さん生きてるよ!ちょー元気だよ!」


 お父さんは床に響かないように優しくぴょんぴょんっ!と跳ねた。


 私と美月は頭に両手の拳をつけて、ぴょんぴょん!と真似をする。


 私と美月の、お父さんへの仕返しは続くのだ。




「お父さんは、お星様になってでも香月と美月の側にずっとずっといるからね」


 などと抜かし、むかし私と美月をギャン泣きさせた仕返しで『お父さんはお星様』ごっこは、今でも二人で続けている。


 しかも、実はあの時、カッコいい台詞を言ってみたかっただけだと言う事もお父さんは白状済だ。


 そんなお父さんは恐る恐る、私達に聞いてくる。


「もしかしてまた今日の事、香月と美月は日記に書いて、お父さんに聞かせちゃうの?お父さんションボリだよ?」


「ううん、大丈夫!お父さんがかわいそうだから、日記に書くのはやめて、お話としてクラスのみんなに聞かせてあげるの!」

「私は、カクヨムに『星になったお父さん』で日記投稿するから大丈夫だよ?」

「二人とも、何が大丈夫なのか教えて下さい…」


 私と美月は、顔を見合わせてニヒヒ、と笑った。


 そして、両側からお父さんに引っ付いて、リビングに連れて行く。



 もうずっとやっている『ごっこ遊び』だが、私とお父さんが気がついた副産物。美月が、表現力豊かだった事だ。


 時には、休日の雨の日なども、お父さんをギュッと間に挟んでお話が進むのだが、美月が楽しそうに演じるので、最近は「天の声」その他としてお父さんも参加する事も増えた。


 美月の将来はもちろん美月の物だが、『星になったお父さん』を舞台とかで演じる美月もステキだよね、見てみたいかも、とお父さんに言うと、そうだね、そんな美月も見てみたいね、と頷いていた。少しだけ顔を引き攣らせながら。



 大きくなった美月を見る前に、私より先に死んだら、ホントにホントにカクヨムに日記、投稿するからね?


 私達の大好きな、お父さん。




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