【KAC202210 】隙間
ぞい
第1話 隙間から覗くもの
真夜中の真っ暗な闇の中、僕はふと目を覚ました。
目を凝らしてもそこに何があるのかさえ分からない本当の闇。手を伸ばして辺りを探ってみるが、電気のスイッチもスマホも何処にあるのかさっぱり分からない。
どうしてこんなに暗いのだろう。昨日の夜は普通に自分の部屋で寝たはずだ。そうであれば、窓から入って来る外の街灯やら信号機やらの光でこんなに真っ暗になることは無いはずなのに。
もしかして誘拐? そんなはずはない。僕ももう来年から大学生だ。そんな奴を誘拐するのは手間がかかるし、抵抗されたら面倒だと考えるはずだ。子供じゃない分身代金とか取りにくいだろうし。
とにかくここでボーっと考えていても仕方がない。この真っ暗な中でも必死に目を凝らせば、そのうち慣れて色々見えてくるはずだ。そう思ってゆっくりと当たりを見て回る。すると、ふとそこにさっきまで無かった一筋の光が縦にスーッと伸びているのが見えた。
これは何だろう。扉? いや襖かな? 淵に手を掛けて見ると、おばあちゃんの家で見かけた和室の襖の縁取りに似た感覚があるのが分かった。
この襖を開ければ外に出られるかもしれない。そう思って手を掛けた淵を左に引いてみる。だけどどうしたことだろう。襖は少しカタカタと鳴るだけで、中々開こうとしなかった。地震とかで建付けが悪くなって開きにくくなってしまっているのだろうか?
「ううっ」
でももう少し。もう少しで本の隙間ぐらいなら開きそうだぞ。そこまで開けば一気に力で開けてしまうことも出来るかもしれない。
出来る限りの力で一生懸命襖を開こうとすると、ほんの少しだけ隙間が出来た。まだ3センチぐらいの隙間しかないが、これで外の様子を見ることは出来そうだ。
そう思って、薄暗い明りが差し込んで来る隙間を僕はのぞき込んだ。
するとそこには、思った通り和室の部屋が見えた。真ん中には布団が敷いてあり、こんもりしていることから誰かが寝ているらしい。でも待って、どう考えてもおかしい。どうしてこの隙間から和室の部屋が見えるんだ? もしかして本当に誘拐? それとも超常現象?
そんなことを考えながらじっと布団を見ていたら、ふと布団が膨れて人影が上半身を起き上がらせた。もし誘拐犯なら絶対に顔を拝んでやるぞ。そう意気込んでいた僕だったが、次の瞬間顔面を蒼白にして固まることになる。なぜならそこには、ぼさぼさの髪をした青白い顔の女の顔が浮かび上がっていたからだ。
お、怨霊? とにかくものすごく怖い。まるで生気が無いその顔と、ぎょろりとした白めの多い目。しばらく恐怖で固まっていたが、そのせいか襖に手を掛けていた手にふと力を込めてしまった。
カタリ
そう言う感じの音が静かな部屋に響きわたり、女の顔がこちらを向く。その目と言ったら、ものすごく血走っていて大昔にあったジャパニーズホラー映画の井戸から出てくる女を思い出した。ヒィ! 怖すぎる!
女と僕はしばらく見つめ合っていた。お互いに全く顔を逸らすことなく、ただただ視線をぶつけ続ける。恐怖で漏らしてしまいそうだ。
どれだけそうしていただろうか、女の顔が心なしかさっきよりずっと青白く不気味になっている気がする。すると突然、女が動き出した。ゆっくりと布団を出てこちらに這うように近づいて来る。
右、左、右、左、畳を叩く手の音が妙にリアルで恐怖心は一層高まって行った。
そして遂に女の顔が僕が覗いている場所の目の前に来た。でも僕は何故か顔を背けることも離すことも出来ない。
このままこの襖をあけられたら僕は……。
襖に手を掛けられた。そして。
「ぎゃああああああああああああ!!!」
「きゃぁぁああああああああああ!!!」
僕らは同時に叫んだ。パニックパニックパニック! 怖すぎる怨霊は慌てて後ずさると、何か奇妙な踊りをしながら部屋中をドタドタと暴れまわっている。
僕はその見た目の恐怖と意味の分からない踊りにさらに恐怖感を募らせて叫んだ。
ふと、パッとすごく眩しい明りが目に入った。どうやら誰かが部屋の電気を付けたようだ。
「どうした洋子!」
「お。お父さん! 幽霊が! 幽霊が!」
「幽霊だって?」
「うん。ほらそこの押し入れの所の隙間。ずっとこっちを覗いてたの」
幽霊? 幽霊だって? そうか、思い出した。僕はずっと昔にもう死んでしまって幽霊になっていたんだった。だから知らない暗い所で目が覚めたのか。なーんだ、そういう事だったのか。
それにしても。
「あの女の子、めちゃくちゃ怖かったなぁ」
【KAC202210 】隙間 ぞい @yosui403
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます