教育姉……? ※乙喜実視点
「いらっしゃい。そこ座って」
「あ、はい。ありがとうございますぅ〜……」
う、うわ〜……。正統派黒髪美少女。割烹着可愛い。物腰も相まって大昔の新妻みたい。
……制服も着てるし、つまりそういうことなのかな?
それと。
「ほら才。コロナがお待ちかねだぞ」
「いや別にそのままお前が持ってても――」
「がう」
「……噛まないならいいぞ」
「ぅん」
おっきなお姉さんに小さくて大きい子も。この二人も映像越しなら見たことあるけど……生は凄い。マナが濃すぎるッ。特に小さい子……コロナさん? ちゃん? が特にヤバい。感じるマナのキツさだけならリリンさん以上かも……?
「…………」
「ぅ」
こ、こっち見てるぅ……っ。いや私から不躾に見つめてたわけだし? 見つめ返してくるのは道理っていうか? で、でもこんなマナ持った人に見つめられるのは怖い〜!
「ん、なんだよ。良いならそれはそれで――」
「……! ん!」
「チッ。結局かい」
「むふぅ〜♪」
あ、天良寺先輩が回収して注意が。
おおう、甘えておられる。これだけ見れば可愛いかもしれない。いや見た目は元々すこぶる可愛い。気配が恐ろしいだけで。
「ぐ……ぅぅ……」
「ふひゃあ!?」
り、リリアンさん起きた!? ちょ、首に鼻こすらせるのやめてください! ゾワゾワしますから!
「起きたか。ならこっちに座れ」
「え!? ぁはい!」
「おわ……っと」
お、おおう……。リリンさんの隣に行っちゃった。さすがお姉さん。たった一言で私の悩みを解決。きっと私が困っているであろうと思って離してくれたんですよね。そういうとこが大好きです。
「……匂うな。キミ」
「へ」
さ、さっきシャワー浴びてきたんですけど……。って、ていうかそんな急に刺してきます? 泣きますよ?
「貴様、やはり手を出したようだな。はぁ……自制心のないヤツめ」
「え、いえ、私はいただいてないですよ!? ちょっと舐めただけで……」
「それでこんなに臭くなるか。バカめ。全身隈なくここまで臭ってくるぞ」
「うっ」
「ぅ……っ!」
そ、そんな目の前で鼻つままれたらいたたまれないです……。私、すこぶる辛いです……。
うぅ〜……ちゃんと洗ったはずなのになぁ〜……。今夜はもっとちゃんと洗お。
「で、でも怪我。つけてはないですから。最初だけですよ。ちゃんと」
「嘘つけ。失神させたろ」
「でも死んでもいなければ出血もしていませんし……」
「…………」
「ご、ごめんなさい……」
睨まれただけでシュンとしておられる……。リリンさんには本当に頭あがらないんだなぁ〜。
「まぁ貴様もあの男の娘だ。溜まるものあるだろう。程々にしておけよ」
「は、はい……」
ん? なんかリリアンさんの諸々の私への行為を止める流れだったのでは?
あれ? なんかこれからも負傷以外なら何でも来んぞ的な感じになってません? あれ???
な、なんだか顔が熱く……。少し汗もかいてきた。おかしいな?
「さて、あとは食事だな。貴様は特に食うとき汚いからな。こっちでの食事はそれなりに気を遣うから慣れておけ。特に今日は和食を用意させてある。箸には絶対に慣れておけ。素手で食って良いものあるが……まぁそのあたりはキミに教われ」
「はい!」
そーゆーことですぅ〜?
リリアンさんにマナーを教えるためにこのような場を……。なんだか……とっても……お姉ちゃんって感じしますね……微笑ましいです。
「マジ? お前が? 妹に? そんな気を回す?」
「へぇ。そういうことやったんやねぇ。てっきりお友達を呼びたかっただけや思とったけどねぇ。へぇ。へぇへぇ。ええやないの」
「なにかの気まぐれだろう。リリンがそこまで深く他人に対して気遣うとは思えない」
「リリンマッマ、信頼なさすぎてウケる」
「……!?」
び、びっくりした!? え、あかちゃん? でも今流暢におしゃべりしてたよね? ってことはこの子も……契約者?
「やめてと懇願も厭わないよ。その目を私に向けないでくれると嬉しい」
「……っ」
あ、この子もヤバいヤツだ。
「ふふ。まぁ今のお姉さんじゃ無理だけれどね。私はそんなに安くない」
「そ、そうですか……ハハハ」
な、なんか話し方もクセあるな……。リリンさんほどじゃないけど……。なんでリリンさんと比較? そりゃあさっきママって――。
「え!? リリンさん子持ち!?」
「一応」
「…………」
わ、私より小さな体で……。頑張ったんですね。尊敬します。
なるほど。それで母性が目覚めて妹の世話にも目覚めた的な感じなんですね。なるほどぉ〜。
「恐らく勘違いだぞ」
「…………」
さいですか。
「ほら。おしゃべりは終わり。できたぞ」
「あ、ありがとうございます……」
うわぁ。お味噌汁に焼き魚。だし巻きに漬物。なんて典型的な日本の朝ご飯。
あ〜……お味噌汁のいい匂い……。落ち着く〜……。はぁ……。
「それじゃあいただきます」
「いただきます」
「あぁ」
「あん」
「はぁい。おあがり〜」
「後半二人挨拶して無ぇ〜」
なんだか……すごい緩い。でもそれが普通の……そう。家族みたいな? 感じで良いな。うち、ちょっとギスってるからそう感じるのかな。
まぁ今は私もその空間に入れてもらってるわけだし。ご相伴に預かろう。
「いただきます。ずずぅ……。はぁ……美味しいなぁ……」
「ふふ。おおきに」
「あ、いえいえ……その……こちらこそ。ありがとうございます」
こんなに美味しいお味噌汁初めてです。本当に。すっごく美味しい。ずっと飲んでたい。
……と、綺麗な先輩と言葉をかわしつつ。お椀で顔を隠しつつ。向かいの美人姉妹に注意を向けてみたり。
「おい。貴様。素手で食おうとするな素手で」
「で、でもこんな棒で挟めって言われても」
箸ですね。箸。……あれ? なんで割り箸? 私は一応普通の箸なんですけど。
「あぁああ! クソ! もろい!」
あ〜……。折っちゃうんですね。なら割り箸のが良いですね。あ、綺麗な先輩に新しいの充てがわれてる。先輩、できますね。
にしても。
「力加減の下手なヤツめ」
「ご、ごめんなさい……」
リリアンさん嬉しそう。ここまで近くにいて、構ってもらったことなかったからなのかな。注意されてるだけでもそんなに感動しちゃうものなんですね。
「ニヤニヤしてる暇あったらさっさと加減を覚えろ」
「が、がんばります!」
ここだけ見てると世話焼き姉というか教育姉というか。
ただの仲の良い姉妹にしか見えないなぁ。
お味噌汁の良いおかずです。ありがとうございます。ごちそうさまです。ずずぅ。
遥か高みの縁双者 黒井泳鳥 @kuroirotten
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