見たくねぇ面 ※才視点

「ん。来たか」

 なにが? って端末いじってるってことは。


 ――ピンポーン


「なるほど……」

 さっき言ってたやつね。

「おい。出ろ」

「俺が出んのかよ」

「あぁ」

「……まぁいいけど」

 にべもなく言いやがって。断りづれぇじゃねぇかそこまでハッキリしてっと。まったく。

「おらコロナ。一旦降りろ」

「やら」

「良いから降りろ――って強い強い強い強い強い」

「ふむぅ〜」

 顎に吸い付くんじゃねぇ。ぶらぶらすんじゃねぇ。行儀悪いぞこの野郎。

「はぁ……ほらほら。困らせてやるな」

「ん〜! じゅぽん!」

 いってぇ……。ロッテのお陰で助かったけどいってぇ……。あ〜あ〜ベッタベタだちくしょう。朝から二回もお前のヨダレまみれになるとは思わなかったぞ。あとでひっぱたいてやろうか。

 っと、客を待たせるわけには行かない。早く開けないと。誰が来るか知らんけど。

「……はいはい。どちらさ――」

「貴様ァ!」

「うお!?」

 急になんだ……ってリリアンかよ! なんでここにいんだよテメェ!?

 って、んなことよりもまずは。

「……っ」

「んぬ!? くぅぁ……っ」

 単純にして単調に突っ込んでくるならド頭に重たいのぶちこんでやるよ。

 リリンでも効くんだ。お前にはもっとだろ?

 ついでにそこに留めてやれば脳からの信号はめちゃくちゃ。体を人型から変化させるには一度脳を経由しなくちゃいけないのはわかってるからな。これでまともには動けねぇだろ?

「こ、ここkこここkk……こcここkこ……cこここkこcこ、この……ののっ。き、kきさmまァ!!!」

「チッ」

 舌はグチャってもまだ動きやがるかこの珍獣。なんでそんなに殺気立ってんだよ。俺今回なにもしてねぇはずだぞ。くそったれ。そっちがその気ならこっちだって遠慮なんて施設にしかしねぇからな。

「んguあっ!?」

 ん? リリアンのせいで今気づく羽目になっちまったけど、リリンの友達の子がいるな。……なるほど。この子がリリアンを喚んだのか。同情…………する前にまずは――。

「ぁ……k……かか……」

 全部で十四発頭にぶちこんでやったぞ。どうだよ。こうなったらさすがに動けねぇだろ?

 ……でも一応動き出したら困るから。

「おいリリン。いい加減お前の妹止めろよ。てかなんで俺襲われてんの? 今回別にお前になんもしてねぇぞ」

 あ、ちゃんと来るんだ。半ば諦めてたけど意外。

 おーらテメェ。ちゃんとしてもらうぞ。お前の妹の不始末の理由をよ。

「反射的にだろ。ほら、眼前に羽虫がいたら叩きたくなろう?」

「…………」

 つまり俺は蚊かなにかってことかよ。俺も似たようなもんだから否定しづれぇなぁもう。

「あ、お、おはようございます……。あ、挨拶が遅れまして……えぇ、大変恐縮です……」

「え、あぁ。おはよう。えっと……リリンの友達の?」

 間違えてたら困るから一応確認。確認大事。俺もさっきドア開ける前にちゃんとカメラ見ときゃよかったって後悔してんもん。

「あ、えっと、友達かはわからないですけど……えぇはい……逸見です……。あ、下は乙喜実って言います……。はは。変な名前ですみません……」

「あぁ、うん。よろしく。俺は天良寺才って言います。こちらこそ変な名前で」

 最初と最後で『天才』だからな。アホらし。こっちの子は漢字知らないけど音的に『お月見』だもんね。うん。ちょっと可哀想かもしれない名前だわ。

 で、もう一個一応の確認。

「これ、君の?」

「あ、はい。そうなります」

「………………………………大変だな。頑張れ」

 いや本当に。俺の最初のも大変だったけど比じゃないよ絶対。なんだかんだリリンは本当に俺の嫌がることはしないし。そいつの場合絶対そんな気遣いしない。断言できる。だって今しがた反射的に襲われてんだもん。本能のままやらかすだろ絶対。

「は、はい。すみません。ありがとうございます」

 あ〜。この感じもしかしなくてもすでにやってんなぁ? いったいなにした? 調べたらわかんかな?

「まぁでも、お前が手本を見せてやったんだ。これからはどうにかなるだろう?」

「……参考にはなりましたけど、私には難しいですよ」

 え、なに? もしかしてこの子に今のをやらせようとしたのかよ。てかそれならお前が手本を……って襲われるの俺だけだろうから無理か。そうか。適任なんだ。クソ。

「なぁに。愚妹こいつに触れて、色々、マナも思い切り使ったなら開くだろうよ」

「…………」

 へぇ〜。こっちは黙っちゃってるけど本当に評価してんのなリリン。

「ま、近い内にリリアンくらいならどうにかできるだろ。どうせ月末にはお披露目もあるしな」

「……お披露目?」

「あぁ〜。一年の初試合な。今年からちょっと変わるんだっけ?」

 詳しくは知らんけど。

「そのあたりの話も――」

「ご飯やよ〜。おしゃべり後にしてぇ〜」

「食事をしながらとしよう」

「は、はい」

 ……冷静に考えてこれ変なふうに思われないよな? 奥から女の声。中に入れば契約者じゃない制服来た女がいて飯作ってるとか。

 まぁ……うん。今更か俺の評価なんて。

「おい愚妹きさまも早く来い。ナメクジか」

 あ、本当に地べたに這いつくばってる。でもナメクジってかセミとかカナブンじゃね?

「お、おじゃましまぁ〜す……」

 は〜いどうぞってな。

 早速抱えさせるとか本当お前って……。

 まぁ半分は俺のせいだけど。

 やれやれ。見たくねぇ面をこれから頻繁に見ることになりそうだなぁ。

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