普通なら参考にならないお手本 ※乙喜実視点

『リリアンを前に出したら眼鏡を外して五歩下がれ』

「…………」

 インターフォンを押そうと思ったところで狙ったようにメッセってどういう芸当です?

 まぁ言うとおりにしますけど……。


 ――ピンポーン


 と、押したところで眼鏡を外しつつ待つこと数十秒。

 ……ちょっと長いな。手間取ってるのかな?

 あ、開いた。くんくん……なんだかフローラルなかほり……。これは……桃?

「……はいはい。どちらさ――」

「貴様ァ!」

「うお!?」

 リリンさんが出てくると思ったら天良寺先輩!? なんか顔……っていうか顎の先テカってません?

 って、そんなことよりなんで飛びかかるんですかリリアンさん!?

「……っ」

「んぬ!? くぅぁ……っ」

 あ、でも天良寺先輩すごい。反射的なのかな? リリアンさんの頭にこっからでも酔いそうなくらい濃いマナ打ち込んでる。

 打撃的にはそこまでだけど、マナが……変。頭を通り過ぎるんじゃなくて滞留してる感じ。だから頭は吹き飛んでないどころか体のどこも弾けてないのにリリアンさんが怯んでる。マナに過敏だから、他人のマナが脳に留まってる時間が長ければ長いほど……ってことか。

 ふぅ〜む……なるほど……。あ〜すれば部屋を汚さず逃げれるんだ……。あんな量のマナをあんな緻密に動かすのは私には難しすぎるけども。

「こ、ここkこここkk……こcここkこ……cこここkこcこ、この……ののっ。き、kきさmまァ!!!」

「チッ」

「んguあっ!?」

 よれよれフラフラしながらも果敢に襲いかかろうとするなんて、とんでも執念……。そんなに天良寺先輩に恨みがあるんですね……。まぁ存じてますけど。

 天良寺先輩も天良寺先輩でお気持ち把握してるんですね。その上で容赦も躊躇いもないなんてさすがッス。

 私なんて殺される! ……って思わなきゃあんな風にできなかったですもん。なのに先輩は周りへ被害も汚れも出ないように最低限の規模に濃縮したマナを頭部に打ち込んで滞留させ続けながらそれを重ねるなんてヤバババですわ。危機感もなしにできる仕打ちじゃないッス。

 いや、一応リリアンさんからすれば殺意バリバリのバッシバシだからある意味適切どころか慈悲深い?

「ぁ……k……かか……」

 計十四回かな? 頭にマナをピンポイントショット決め込んだのは。しかもリリアンさんの変身? 変態? 変形? 変質? どれが適切かわかんないけど。天良寺先輩、全部予兆中断って感じに封殺しちゃった。すげぇ。

 ……リリンさんも未来予知なのか気配察知かわかんないけどこっちの動きの把握の仕方やばいけど、先輩も十分やばい。先輩とリリンさんのやばいとこはいくらでも動画で見れるっちゃ見れるけど、なんかもうひと回りふた回り成長してません? 気の所為?

「おいリリン。いい加減お前の妹止めろよ。てかなんで俺襲われてんの? 今回別にお前になんもしてねぇぞ」

 あ、先輩が呼びかけたら裏からリリンさんが! ちょっと安心感。でももっと早く来て止めてくれても良かったんですよ?

「反射的にだろ。ほら、眼前に羽虫がいたら叩きたくなろう?」

 たしかにぃ〜。蚊が腕についてたら必ず叩きます。あ。

「あ、お、おはようございます……。あ、挨拶が遅れまして……えぇ、大変恐縮です……」

「え、あぁ。おはよう。えっと……リリンの友達の?」

「あ、えっと、友達かはわからないですけど……えぇはい……逸見です……。あ、下は乙喜実って言います……。はは。変な名前ですみません……」

「あぁ、うん。よろしく。俺は天良寺才って言います。こちらこそ変な名前で」

 単体だったらそうでもないけど、合わせるとあからさまですもんね。でもまだ良いと思います。こっちはもう音がおかしいんで。

「これ、君の?」

「あ、はい。そうなります」

「………………………………大変だな。頑張れ」

「は、はい。すみません。ありがとうございます」

  昨日の今日で大暴れですもんね……。先行き不安ッスうっす。

「まぁでも、お前が手本を見せてやったんだ。これからはどうにかなるだろう?」

「……参考にはなりましたけど、私には難しいですよ」

 マナを一方向に飛ばすだけなら私もできるけど、渦みたいにして滞留……しかも頭が動いたら回しながら追って追ってをしてたんですよ? リリンさん私の制御力知ってるくせにいじわるです。

「なぁに。愚妹こいつに触れて、色々、マナも思い切り使ったなら開くだろうよ」

「…………」

 才能がってことですか? 私の優秀なとこなんて血筋くらいですが?

「ま、近い内にリリアンくらいならどうにかできるだろ。どうせ月末にはお披露目もあるしな」

「……お披露目?」

「あぁ〜。一年の初試合な。今年からちょっと変わるんだっけ?」

「そのあたりの話も――」

「ご飯やよ〜。おしゃべり後にしてぇ〜」

「食事をしながらとしよう」

「は、はい」

 奥から女性の声……。しかも朝ご飯作ってる?

 天良寺先輩にはリリンさんとあと二人契約者がいたはずだけど……。あんなたおやかそうな雰囲気の声したヒトっていたっけ?

 もしかして誰か連れ込んでたり……?

「おい愚妹きさまも早く来い。ナメクジか」

 あ、本当に地べたに這いつくばってる。でもヒクヒクしててナメクジかって言われると微妙かも。

 とりあえずリリアンさん、まだ回復しなさそうだから抱えましてと。

「お、おじゃましまぁ〜す……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る