真夜中の練習

霜月かつろう

第1話

 ひんやりとした空気が温まった身体を少しずつ冷やしていく。さっきまで動き続けた結果、身体はクタクタ。汗ばんだのもあって、じんわりと冷えていくのがよくわかる。


 帰宅するために歩き始めた後ろにはドーム型の建物がズンッと建っていて、そこにはアイススケートリンクの文字が大きく書かれているのが街灯の灯りでかすかに見える。アイススケートリンクが閉じたのは同じく街灯に照らされた時計台の針が2本とも真上を指してからだ。


 貸し切りしていたスケートリンクに鳴り響くのは自分の滑る音だけだったときと違い、外に出ると急に音が増えてその情報量に頭が現実へと帰ってくる感じがする。


 今日も疲れた。しかも、そんなに成果がないと来た。ジャンプの軸は安定しないし、スピンは中心から流れるようにずれていく。こと原因はわかりきっているのだけれど。それを取り除く手段を知りはしない。


 大丈夫だと言われた膝がズキッと痛んだ気がして足を止める。


「ふぅ」


 一回ため息を着いたのは心を落ち着かせるためなのか、足の状態を確認するのが怖くて先延ばししているだけのなのかは自分でもわからなかった。


 荷物を地面へと下ろすともう一回深呼吸をするとその場で軽くジャンプする。何度か試してから膝に痛みがないことを確認すると置いておいた荷物を持った。


 大丈夫。リハビリはちゃんとやったし医者にもお墨付きをもらった。でも、どうしても身体と頭が噛み合っていない気がしてしまう。それが周りに人がいるからだと思って真夜中の練習を選んだのだけれど変わらなかった。


 こんなに集中したのは初めてだと実感をしている。


 それなのにも関わらず調子が悪い。それは全部自身の中にしか問題はなく。自身の中にしかないので自分でどうにかするしかない。


 結局、道を切り開くの自身でやるしかない。それはわかっている。わかっていてもどうにもできない。だからこうやって身体を動かし続けるしかないのもわかっている。


 真夜中みたいに真っ暗なこの心が明るくなる日がくるのだろうか。


 いや、信じて進むしかないのだ。きっとそれはこれからもずっとそうなのだ。だったら慣れるしかない。それも練習あるのみだ。


 きっと。そうなのだ。


 再び歩き始める。月明かりだけが自分を照らしてくれるみたいで、それだけが救いだった。

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真夜中の練習 霜月かつろう @shimotuki_katuro

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