第34話 久々の冒険。


 プレセアの顔を丸焼きにできる程度の炎魔法が使えるナンシーだが、本人は戦う気が一切ないらしい。小さな手に収まる短い魔法の杖は、森の中に入っても腰に刺さったままだ。  


 そんなんだったら、わざわざ危険を冒してついてこなくていいのに、とも思うが、それではルスランからの評価に繋がらないんだろう。


 今、ルスランはパーティランクの上昇を目標に掲げているらしい。


 パーティランクとは、そのパーティでクリアしたクエストに付与された点数の合計値を、高い順に並べた際につけられる指標。

  ランク”C”はパーティポイント150〜400位のパーティのことを指す。あの御殿に見合うほどのランクではないだろう。


 だからこそバルムングは、「顔は知っているがどんな兜を被っているか知らない」と揶揄されているわけだ。


 顔からプライドの高さが滲み出ているルスランには、その正当な批判が許し難いらしい。


 そこで、タレント冒険者パーティから、本格的な冒険者パーティになる方向へと舵きりをし始めたわけだ。


 今回は、ゴブリンの上位種であるオークを討伐するクエストを選んだ。マイヤー大森林の中腹に生息し、初級者はもちろん、中級者でも苦戦するほどの魔物。

 そのくせ繁殖力に優れうじゃうじゃいるので、なんなら一番冒険者を殺した魔物じゃないだろうか。


 そんなやつらを大量虐殺すれば、ポイントはざっくざっくと儲かるが、俺とチェック三人衆では、一匹も倒せずに全員殺されるだろう。せめて地道にゴブリンから......というのは、今の所、余計な心配だったようだ。


「あっ、こらっ、待ってっ、やめなさいよっ」


「......よかったな、スライムには好かれてるみたいで」


 森に入って十分もしないうちに、プレセアが五匹のスライムに襲われたせいで、俺たちは足止めを食らっていた。


 相変わらずスルスル見事にスライムに絡まれにいき、下着姿に剥かれたプレセアが、涙目でナンシーを睨みつける。


「ナンシー! 私のこと好きなんでしょ! 早く助けなさいよ!」


 スライムに襲われるプレセアを、どこか熱っぽい目で見ていたナンシーは、人差し指を唇に当て、可愛らしく小首をかしげる、


「うーん、魔法を使ったらヨユーで倒せるけどぉ、私ぃ、好きな人のこと、燃やしたりできないからぁ。ごめんねっ?」


「よくも言えたわね!」


 プレセアがふしゃーっと威嚇するが、ナンシーはどこ吹く風だ。この女、もしかしたらプレセアよりもよほど性悪かもしれない。


「......おふっ」


「......おふっ」


「......おふっ」


 チェック鎧三人衆はというと、もともと戦力になりそうもなかったのに、プレセアの痴態に釘付けで、完全に前かがみだ。重装備だし、当たってかなり痛いだろう。


 ......早速、チャンスが巡ってきたな。


 チェック鎧三人衆は、エロの暴力の前に完全に屈している。プレセアもこのザマだ。俺を繋ぐ鎖も離してしまっている。


 ナンシーのステータスを見たわけじゃないが、小人族は走力も持久力も基本低めなはずだ。追いかけっこだったら確実に勝てる。

 当然火の魔法は危険だけど、詠唱の間に距離が取れたら、障害の多いこの森で逃げることは十分可能だ。


 問題があるとすれば、俺は俺で、やはりフル抜刀しているということだろうか。果たして、全速力で走れるかどうか......。


 そう思案していると、プレセアと目があった。プレセアの視線が一旦下にさがり、俺のフル抜刀を見ると、瞳孔をキュッと絞ってふしゃーと威嚇した。


「あんたまた勃○してんじゃない!! 今後一生女を孕ませることもないくせになんで勃○するわけ!? 今すぐ不能になりなさい!! それがあんたみたいな弱者男性が私たち女性にできる最初で最後の貢献よ!!」


「チッ」


 クソみたいな罵倒に思わず舌打ちすると、プレセアは「奴隷のくせに何よその態度!!!」と激昂し、怒り任せにジタバタジタバタ暴れた。


 ぷちんっ。


「......へっ」

 

 そんな抵抗が、ものの見事に身を結んだ。


 プレセアの胸を抑えていた下着のフロントホックが、ものすごい勢いで吹き飛んだのだ。


 結果、プレセアの巨大な乳は、ぶるんと音を立てて露わになった。少し遅れて、プレセアがヒステリックな悲鳴をあげた。


 ......デッッッッッ。いろんな意味で、デッッッッッッ。


「「「うっ」」」


 見ると、チェック鎧三人衆が、びくんびくんと体を震わせている。あまりに強烈なエロの暴力に、触れてもいないのに発射してしまったんだろう。


「やだっ、もう、なんなのよぉ! 見るなぁ!」


 スライムに腕を拘束されているせいで、おっぱい丸出しのまま、羞恥に半泣きのプレセア。


 そんなプレセアを見ていると、俺の胸の中で、ポッと熱く灯るものがあった。


 ......間違いない。『ざまぁ(笑)』の兆しである。


 ......せっかくの逃げるチャンス、だからこそ、ステータスアップしてから逃げたほうがいいんじゃないか。そうだ、そうに違いない。


 しかし、『ざまぁ(笑)』まで、あと一歩足りない。ただおっぱいを公衆の面前に晒して羞恥に悶えているだけでは、今までこいつが俺にやってきたことと釣り合いが合わない。


「おい童貞!! 見てないでとっとと助けろよ!!......ま、まさかっ」


 プレセアは、おっぱいをぶるぶる震わせ顔を真っ青にする。


「あんた、私を襲うつもりじゃないでしょうね! や、やめてよ! あんたみたいな男に性欲を向けられるってだけで死ぬほど不快なのに! あんたに襲われるくらいだったらまだオークの方がマシ!」


「............」


 イラっときて、一瞬マジで襲ってやろうかと思った。

 しかし、それで泣き叫ぶこいつを見たら、流石にざまぁよりも先に罪悪感が来てしまう。


『あんたみたいな弱者男性にエロい目で見られんのが一番嫌なのよ!!』


 ......そういや、こいつ、そんなこと言ってやがったな。

 それなら最高にエッロい目で見てやれば、ざまぁできるんじゃないか......いや、ただそれだけじゃあ物足りないか。


「......あっ」


 名案を思いついた。俺の思考力、ちょっと過小評価されてないか?


 そして俺は、勢いよくズボンを脱ぎ捨てた。

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スキル【ざまぁしたらステータスアップ】でざまぁしながら最強になって、俺を裏切ったあいつらにざまぁと言いたい。 蓮池タロウ @hasu_iketarou

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